俺の着任先の艦娘が何か違う件について   作:くりむぞー

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一発ネタ。

艦これ世界に来てしまった挙句に、提督に無理矢理されてしまい、いざ建造したら大変なことになった話です。


俺の着任先の艦娘が何か違う件について

 ――輪廻転生、という言葉がある。

 

 つまるところ、死んだ後にはまた新たな人生が待っている的なことだそうだが、実際のところ死後の世界なんて誰も見たことがないわけで、仮にあったとしても第三者に対してその事実を発信し共有しようなど不可能であった。

 俺こと吾妻官九郎の場合は、神様的な存在と出会うことはなく気がついたら赤ん坊として生まれ変わっており、虫や自然にいる動物など人でない存在として生まれることがなくてよかったと新たな両親に隠れて一人静かに安堵していた。

 んでもって、こうして語れている通り何故か前世の記憶を今世に持ち越してしまっているのであるが、別にかつて何かに特化していたわけでもなかった為、何か問題を与えられても「あっここ前世で覚えたところだっ!」というように感じ取るだけに留まった。というか、根本的に自分の知る情報と噛み合わない部分が今世にはあり、それを理解するのにかなりの時間を要した。

 

 具体的に言うと、今世では第二次世界大戦は発生しておらず、生まれた地である日本は――否、日本のみならず各国はシーレーンをことごとく破壊され、貿易もままならずほぼ自国だけで資源やら何やら賄わなければならない状況に追い込まれていた。……原因は、白人よりも肌色が白く、まるで死体のように生気を感じさせない深き海より来る異形の群れ――そう、深海棲艦という存在にあった。

 

 厄介なことに、俺の生前の知識の中には深海棲艦に関する知識があり、あろうことかゲームを通じてその存在を見知っていた。だから、一度や二度の作戦じゃ根絶することは叶わないのは誰よりも理解しており、酷い時には本土で生活することすら危ういということを悟っていた。

 しかし、そうとはいえども、何処かの主人公よろしく自ら軍に志願して、居るはずであろう艦娘を指揮するなんて勇気は俺にはない。精々少ない物資を鎮守府に供給する一人として振る舞うのがいいところだろう。そうと決まれば、将来の方向性は決まったも同然で俺は確実に軍から一線引いた立場に収まるために資格やら何やら準備を整えるに至った。

 

 

 ――で、結論から申し上げると軍の魔の手からは逃げることは出来なかった。

 

 

 何と事もあろうに、人手不足という問題から適性検査というやつを無差別に実施し見事に引っかかった者へ知識を叩き込み、各所での指揮を一任するという体制を海軍は敷いてきたのだ。やはりと言うべきか、選ばれた人間に拒否権はなく、待遇だの何だの理由をつけて彼等はこちらを囲い込みに来た。……両親も両親で、息子の意見をガン無視して軍隊行きを押し進め、気づいた時には親戚一同にも行く前提で祝われてしまった。

 その後、嫌々ながらも指揮官としての知識や現状でわかっている深海棲艦に関する情報を吸収した俺は、既に横須賀鎮守府や呉鎮守府を中心として攻略作戦が進められていることを知り、艦娘が作戦成功のための要として存在していることを改めて認識した。

 基本的に彼女らは、どうやら一個体だけしかいないようで、例えば横須賀に赤城がいても別の鎮守府には赤城が存在することはまずないとのことだ。

 つまりは、一航戦だの二航戦、五航戦を組むことは合同作戦をしない限りは難しくなる。

 

 なお、俺に言い渡された辞令はトラック島――ではなく、そこと本土との中心に位置し初期の作戦によって奪還され改装が完了したばかりのメガフロート(人工島)に着任せよというものであった。

 何故にトラック島ではないのかと質問したところ、こちらについては拠点としての整備が追いついておらず稼働にはまだ時間を有するとのことだった。なので、それまではメガフロートがある意味最前線に位置することになる。……貧乏くじを引かされた気分だが、逃亡するわけにも行かず俺は項垂れるしかなかった。

 秘書艦についても現地調達せよとのことで、何から何まで一から始めなければならない。拠点もある程度は整っているが、鎮守府として活動するのに必要な最低限の設備のみがあるだけで、これから用途に応じて改造する必要がありそうだった。

 

「……で、何だっけこのメガフロートの名前」

 

「ルルイエです、提督」

 

「ああそうだったかー……って、何で如何にも深海棲艦以外の何かが出そうな名前になってんの!?」

 

 一緒に現地に降り立った年の近い整備兵にふと尋ねてみると、混沌とした答えが返ってきて一気に血の気が引いてしまった。

 

「はあ、何でも敵に一度奪われた施設を奪還して改修した施設ですからね。イメージ的にも悪いですし、何かがあってもわかり易い名前にしたかったのだと」

 

「だからってルルイエはないだろう……そのうち俺らのこと邪教徒だのネタにする奴が現れるぞ」

 

「……いっそのことなっちゃいますか?」

 

「ねーよ」

 

 誰がいあいあ挨拶を毎日するかってんだ。

 ……冗談はこのぐらいにしておいて、さっさと着任の手続きを済ませてしまおう。持ち込んだ荷物と執務室やら自室に適当に配置してっと。

 

「立地からして悪夢ばかりみそうな予感がする……心霊スポットに暮らせと言われているみたいだよ」

 

 霊感に関しては生前より強い方だが、感じ取れるからと言って大丈夫というわけでもなかった。……まあ、こんな事もあろうかとその手の専門家は友人に持っており、有事の際のオブザーバーとして動いてもらう手筈になっていた。

 

「兎にも角にも、まずは建造して秘書艦の確保だな。でもって、初期の面子を揃えて一艦隊は組めるようにしないとなぁ」

 

 建造以外にも艦娘と邂逅し仲間に引き入れる機会はあるものの、結局どちらにも運というものが絡んでくる。そこだけが非常にネックだが、押し付け……もとい任されたからには何にせよ成果は出せねばなるまいて。

 思い立ったが吉日といったように早速俺は工廠へと向かうと、現場のスタッフとの連携の下で建造ドックを稼働し、搬入された初期資源を活用していざチュートリアルな行為に乗り出した。さーて、来るがいい可愛い子ちゃんよ。

 

 まずは軽いジャブとばかりにデフォルトの数値にて建造を開始する。時間も惜しいので遠慮せず高速建造材も投入し、本来待つべきであった時間を一瞬に短縮した。ポッドに見える建造場所からは駆け足で火花と漏れ、夥しい蒸気が周囲を包むように排出された。――おーし、誰が来たのかな?

 

 

 

「綾波……です。『鬼神』とよく言われるのです。よろしくです」

 

「――えっ?」

 

 

 現れたのは俺が知っている限り、逸話に似合わぬ優しさを醸し出した少女であるはずの「綾波」なはずなのだが、目の前に居るのはどちらかと言うと島風に近いような格好と容姿をしたクール系の美少女であった。

 

「ちょ、ちょっとどういう事だこれ……」

 

「――? どうかしましたか指揮官?」

 

 首をコテリと傾げる様子は非常に可愛らしいのであるが、こちらとしてはそれどころではなかった。

 ……明らかに異常事態だ。綾波はもっとこう芋っぽいはずであるのに、どう考えても別の誰かか世界線が違うだけの同一存在が呼ばれてきちゃってる。――原因は何だ? いや、突き止めたとしても上に報告すべきなのかこの問題。

 

「ええと、駆逐艦の『綾波』でいいんだよね?」

 

「はい、そうです。……ところで、綾波以外に別の艦がいないようですが、もしや」

 

「君が最初だからね。嫌じゃなければ記念すべき最初の秘書艦をやってもらいたいんだけど……大丈夫?」

 

 問いかけに対し彼女は熟考するかと思いきや、二つ返事にて了承しめでたく席に収まる運びとなった。

 色々気になるところはあるけれど、それと告げて尋ねるのは互いにとってのメリットにはならないため敢えてここではスルーをした。

 

「他の子もあと五人ぐらい呼ぶから案内は纏めて行うよ」

 

「わかりました」

 

 『鬼神』と呼ばれるとは到底思えない落ち着きように、戦闘で性格が変わるタイプなのかなと思いつつ俺は別のドックを起動し、先程同様の手順にて建造を行った。時間は2時間ちょい……軽空母か水上機母艦だろうか?

 

 

 

「――あら、可愛い指揮官ね~私は愛宕よ。このお姉さんがお世話してあげようかしら~うふふ」

 

「!?」

 

 

 いやいや待て待てちょっと待て。愛宕って言ったらぱんぱかぱーんで金髪巨乳だったはずだろ!?

 なのに、何だって黒髪と白い軍服が美しいお姉さんになってるのさ。それに頭についてるのはケモミミ……ケモ耳なのかそれは!?

 

「そんなに表情を固くして……こっちをジロジロみてはイケないわ、指揮官?」

 

「いやすまん。でも頭の耳が気になって……」

 

「ああこれ? 取れるものでもないし、触ってみる?」

 

 取れないってことは直に生えてるのかよ……おいおい、此処の建造システムはやっぱりバグっていないか。このまま建造続けていたら、もしかしたらケモミミパラダイスになっちまうぞ。わーい、たのしーってレベルではない。

 

「あら、綾波ちゃんじゃない」

 

「……どうも愛宕さん」

 

 面識があるというか互いがどんな艦であるかは見分けがつくようで安心した。これで齟齬があったのなら改善のための俺の仕事が増えるからな。面倒なことは避けたいんだ。

 そうして、続け様にどんどん建造の処理を行っていくと、絶句するような現実に俺は直面する羽目になった。

 

 

 

「指揮官、初めまして。工作艦ヴェスタルです」

 

「あ、わたし……ロイヤルネイビーの、ユニコーン。指揮官、あのぉ……お兄ちゃんって呼んでもいい?」

 

「指揮官さま、ご機嫌よう。イラストリアスが着任しましたわ」

 

「おい! ハムマンのことをぼんやり見るでない、このヘンタイ!」

 

「ふぅん……あんたが指揮官? どこまで楽しませてくれるのかしら? 期待してるわ」

 

「はじめまして、指揮官! 私はクリーブランド、海上の騎士だ!」

 

 

 

 

 ――ごめん、ちょっとどころか全くもって理解できない。

 あれ俺って、秘書艦に海外艦置いてたかな……だとしたら綾波は実は海外艦だった? そんなわけねーだろオイ。

 それよりも大半が未実装艦ばかりじゃねーか! 知っているのプリンツ・オイゲンぐらいだけど、君って確か漫画のアシスタントやってそうな声してましたよねぇ!? どう聞いてもそのヒロインと名字が同じの声優さんの声がするのですが。容姿も全然違うし銀髪に赤いメッシュとかどうしたの、何か辛いことでもあってグレたの?

 

「――あら、鉄血と重桜だけじゃなくてユニオンとロイヤルの艦まで居るのね」

 

「まあまあ、かつての因縁は此処では水に流してしまいましょう」

 

「……そうだな、此処にはセイレーンの連中はいないようだし」

 

「代わりに、別の似たような連中は居るようだけどね」

 

 

 鉄血に重桜、それにユニオンとロイヤル……そしてセイレーンだと?

 そんな勢力、この世界はおろか艦娘の知識の中にあるはずがない。であれば、真面目に考えて彼女らは別の世界線から来たのだろうか。メタ的な言い方をすれば、別の作品或いはゲームといった媒体からだろうか。

 

(別のゲーム……艦船擬人化ゲー、日本艦がケモミミオールスターズ……って、まさかそんな―――)

 

 朧気なゲームの知識を引っ張り出し、条件に合致するゲームがないかどうか探ったところ、似てはいるがシステムが全く異なるゲームが後々登場したことを俺は思い出した。確かそのタイトルは―――

 

 

 ――アズールレーン。

 

 

 共通の敵を純粋な力のみで倒すか、毒を以て毒を制すやり方で倒すかによって意見が別れ、勢力が分断されてしまった悲しき世界。

 その中心に居た彼女達が奇しくもこの世界に呼び寄せてしまった俺は、果たしてまともに攻略作戦に乗り出せるのだろうか。

 

 ……とりあえず、建造された艦について大本営に報告せねばならんけど絶対呼び出し食らうよなこれ。報告書が尋常じゃないくらいに分厚くなりそうだ。攻略作戦より疲れそうだよ、トホホ……。




多分続かない

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