インフィニット・ネクサス   作:憲彦

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溝呂木
「今日は人気のあるお転婆で男勝りなジャジャ馬の登場だ。こっちではセカンド幼馴染みで恋心を抱いてると言うよりも、清々しい位の友達ってイメージが定着してるな……そんなことよりも、もう既に5本目。総集編とは一体なんなんだろうな」


再編集5

「……うるさいな」

 

本体である一夏に攻撃を仕掛けた次の日、溝呂木は何事も無かったかのように教室に居た。ただいつもよりも少し眠そうにしている。そのせいか周りの音がいつも以上に大きく感じるのだろう。

 

「珍しく不機嫌ね。何かあった?」

 

「うるさいんだよ。現在進行形でな」

 

「そりゃそうよ。今日は転入生が来るそうだからね。このクラスに。あ、放課後開けといてね」

 

「今日もやるのかよ……」

 

凪はある程度の事を説明すると、溝呂木の真っ白に染まった放課後に黒い染みを付けて去っていった。因みに何故溝呂木が転入生について知らなかったかと言うと、前日の授業終わりのSHRで説明されたからだ。サボりシートの有効時間はその日1日。唯一の例外を除いては、SHRも有効範囲だ。知らないのはある意味当然。そして溝呂木は、凪に黒い染みを付けられてから、全身の力を抜いて意識を手放そうとした。

 

「お前ら~。SHR始めるぞ~。寝るならサボりシート書いてから寝ろよ~」

 

「……チッ」

 

眠れなかったようだ。いつもなら朝のSHRをボイコットしても渡されたサボりシートさえ解けば、特に何かを言われるわけではない。しかし今日は重要な連絡事がある。その為、まだサボりシートは配られないし寝ることも許されない。

 

「はいこれ。今日のサボりシート。配るの面倒だから、明日から教卓の引き出しに入れとく。サボりたい人は各自ここから取って解くように。じゃ、転入生の紹介だ。入ってきて」

 

室江は一通りの連絡をすると、教室の外に向かって入ってくるように指示を出す。すると扉が開き、小柄なツインテールの女子が入ってきた。まぁ男であったらそれはそれで問題だが。

 

「初めまして。中国から来ました凰鈴音です。早速ですけど、このクラスの代表は?」

 

手短に自分の紹介を終わらせると、早々にクラス代表を周りに聞いた。すると全員の視線はサボりシートを書いている溝呂木に向い、無言で鈴に教える形になった。

 

「俺だが問題あるか?」

 

「そう。面倒だから単刀直入に言うわ。私とクラス代表を代わって。今すぐに」

 

「何故だ?」

 

「私は代表候補生。専用機も持ってる。貴方よりも実力はあると思ってるわ」

 

「そうか。だが断る」

 

「何でよ?!私ならこのクラスを確実に優勝させることが出来るのよ?」

 

「口だけなら何とでも言える。代表候補生?専用機?そんなもんあるだけなら意味はない。それに、お前からは個人的な私用があるように思える。話は終わりだ。俺はサボらせて貰うぞ」

 

そう言って室江にサボりシートを提出して、教室から出ていった。出ていった直後に室江が決定戦やるから放課後は開けておけと言い出し、また放課後に黒い染みが付けられてしまったのは言うまでもない。

 

~昼休み~

 

あれから少し時間を進めて昼休み。大体この時間は弁当を持ってきた生徒は各々気に入った場所で食事を取り、作って来なかった生徒は食堂に行って食べる。食べないのも居るがな。

 

「やっぱここに居た」

 

「ンガッ……何だ?」

 

「どうせ寝て過ごして何も食べないと思ったから、適当に買ってきたわ。放課後の代表決定戦で空腹で負けたなんてベタな敗戦は嫌だからね」

 

「俺が負けようとお前には関係ないだろ。勝とうが負けようが、それは俺の問題だ」

 

「私には問題大有りよ。弟子からしたら師匠が負けるのは嫌なのよ」

 

「弟子にした覚えはねーよ。たかが数回教えてやった程度で。意外と重たいヤツだな。強くなるためなら誰彼構わずに行く軽い女かと思ったが、思ったより清純か?」

 

「紛らわしい言い方止めて」

 

「ま、飯はありがたく貰っておくよ」

 

軽食の入った袋を受け取り、中に入ってた物の包装を破って口の中に入れていく。凪も隣に座って自分の食事を食べているが、溝呂木は特に何も言わずに渡されたものを食べていく。

 

「ごちそうさん。金は今度返す。さっさと教室に戻れ。そろそろ昼休みも終わるだろ」

 

「別にいいわ。安かったから。じゃ、放課後よろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は室江がクラス代表決定戦を指定した放課後になった。前回の1組の決定戦同様に、放課後を潰して観戦に来た生徒が大勢いる。他のクラスの代表からしたら、相手の実力の偵察も兼ねているのだろう。

 

(本体も見に来てるのか。アイツにでも誘われたか?まぁ良い。どうせなら気付かせてやるか)

 

アリーナの中心で打鉄をまとって居た溝呂木がセンサーを使って観客席を見回していた。そして一夏を見つけると、気付かせると言う方向に修正。遊ばないことにした様だ。体を慣らしながら、試合の準備を始める。

 

「悪いけど、さっさと終わらせて貰うわ!」

 

「弱いヤツ程よく吠えるってな」

 

溝呂木からしたら多くの人間に言ってきた台詞。特に何か思惑や感情がある訳じゃない。だが頭に血の上りやすい鈴からしたら、この一言は冷静さを削ぎとるには十分すぎた。

 

『試合開始!』

 

「ハァァア!!!」

 

「猪かお前は。真面目にやれ」

 

試合開始早々に鈴が全速力で突っ込んできたが、溝呂木は横に1歩ずれて攻撃を避け、足を掴んで地面に勢いを付けて叩き付けた。

 

「どうした?それで終りか?」

 

「な訳ないでしょ!!」

 

双天牙月を呼び出して溝呂木に斬りかかる。だが全く当たる様子がない。どの方向からの攻撃も紙一重で避けられてしまう。

 

「何で!何で当たらないの!?」

 

「教えてやろうか?」

 

「ウッ!?」

 

焦りが見え始めた時、溝呂木は刀を呼び出して鈴に一気に近づく。そして刀を首に突き付けた。下手に動け無い状態を作り出したのだ。そのまま鈴は固まってしまう。

 

「戦いの最中に固まってどうする」

 

「ガッ!?」

 

蹴り飛ばされてしまった。敢えて刀では攻撃しなかったようだ。

 

「双天牙月は中国にある薙刀に似た柄の長い太刀、青龍偃月刀が原型だ。細かい話をすると、青龍刀と呼ばれるのは刀身に青龍の装飾が施されてるからだ。お前のは違うみたいだがな。まぁそんなことはどうでも良い。当たらない理由は、お前が武器の特性を理解できてないからだ」

 

「特性……」

 

「日本刀は刀身が細く長い。鎧の隙間を突いたり速い居合斬りでの一撃必中が目的だからだ。対して中国の青龍刀や偃月刀は刀身がでかい。鎧の上から重さを利用して標的を一気に切り裂く。鎧、肉、骨。諸ともな。だから日本刀の様に振り回すことには向いていない。更に言うと、お前は振る時に脇が開いてる。それも理由だ。中国で訓練を受けたときに言われなかったのか?」

 

「…………」

 

顔が俯いている。溝呂木が指摘したことは中国で訓練を受けたときにも言われたようだ。直接的な表現で言われてなくても遠回しには言われた可能性もあるし、自分でも思い当たる所があるのかもしれない。

 

「直せなかったのか、直す気が無かったのか。どっちにしろそれで専用機を与えられたって事は、中国は相当評定が甘いか人材不足の様だな」

 

「……それが、どうした。当てられないなら、工夫すれば良いだけ!オリャア!!」

 

牙月を1本地面に打ち付けて土埃を巻き上げ視界を奪う。そして溝呂木に1本投げ付けた。

 

「子供騙しか。悪くないが、自分の位置を晒してるぞ」

 

投げ付けられた牙月を掴み取り、飛んできた方向に向かって投げ返す。だが当たった感触はしない。

 

「ん?」

 

「ハァァァアアア!!!」

 

「上か」

 

「ゼェェエイ!!」

 

「グッ!」

 

上空から急速で降下してきて、全力で牙月を降り下ろした。凄まじい衝撃で、舞い上がった土埃は一気に晴れてしまい、受け止めた溝呂木の刀も折れてしまい刀身の半分が飛んでいき、刀を支えていた左腕部分のパーツも歪んでおり、1番負担のかかったであろう脚部パーツも一部に損傷が出ている。

 

「これでどうだ!当てられないなら当てられる環境を作るまでよ!!」

 

「なら2撃目3撃目も考えろバカ」

 

「ゥアッ!!」

 

だがそんなの溝呂木には関係なかった様だ。動きの止まった鈴を蹴り飛ばし、それを追って2撃目3撃目を加えていく。余りにも一方的な攻撃に、観客席は静まり返っている。

 

「クッ!ハァハァハァ……」

 

「休んでる暇は無いぞ」

 

「キャァッ!くッ!食らえ!!!」

 

倒れている鈴に近付くと、腕を掴んで再び投げ飛ばす。だがただでは飛ばされない。専用機甲龍の最大の武器で溝呂木に攻撃をする。これは確実にダメージを与えられた。鈴自身そう思った。しかし、目の前の男はそんな希望すら見せない。

 

「ッ!?」

 

「目線で撃つ場所がバレバレなんだよ」

 

「アグッ!?(なんで!?衝撃砲は弾はおろか砲台その物も見えないはずなのに!?)」

 

衝撃砲。中国第3世代の機体に付けられる専用武器。見えない砲台から放たれる圧縮された空気の塊。それが敵を襲う。分りやすい例えが空気砲。だが威力はそれの比ではない。しかしその見えない攻撃が避けられたのだ。そして空中から地面に叩き付けられた。

 

「お前は分りやす過ぎるんだよ。狙っている場所を無意識で凝視してしまう。衝撃砲を知らない相手なら兎も角、知ってる相手には通用する筈がない。お陰で衝撃砲の位置も分かった」

 

「ッ!?(そんな?!それがバレたらもう!)」

 

「ほらな」

 

(ッ!?嵌められた!!?)

 

溝呂木のその言葉が、鈴に墓穴を掘らせてしまった。癖を利用して揺さぶりをかけ、嘘の情報を言って欲しい情報を掴みとる。これは面白いくらいに効果的だ。現に鈴はさっきの言葉で、自分の衝撃砲の位置を目で追ってしまった。そしてそれを溝呂木が見逃す訳がない。

 

「計4つ。全部破壊できたな。最初からバンバン撃ってれば状況を有利に出来たかも知れないものを……必殺技は最後の切り札。なんて古臭い考えを持ってるからだ。降参したらどうだ?」

 

「するわけ、無いでしょ!私はアンタなんかに絶対負けない!!私は専用機持ちで!代表候補生で!アンタよりも強い!!」

 

「気合いで立っても力の差は埋まらんぞ。負けを認めたくないなら、俺が終わらせてやる!」

 

「やれるもんなら、やって、みろ!!」

 

突っ込んでくる溝呂木に、手に持っている牙月を全力で投げる。だがそんな攻撃が当たる筈もなく、軽々と避けられてしまった。

 

(かかった!)

 

だがそれは作戦の内。溝呂木の避けた牙月はブーメランの様に帰ってきて、背後から溝呂木を襲おうとしていた。これで自分が負けても引き分けに持ち越すことができる。そう考えていた。

 

「お前は考えが浅いんだよ。昔っから」

 

「え?」

 

鈴を掴んで自分の位地と反転させる。そして帰ってきた牙月は溝呂木にではなく鈴の背中に直撃。シールドエネルギーは0となり、溝呂木の勝利が確定した。




溝呂木
「これが2組代表決定戦の全容だ。ま、俺に一撃入れただけでも誉めてやるか。しかしコイツは、この敗戦をバネとし、タッグ戦では実力を伸ばして戦うことができた。無意識に持っていた傲りを捨て去り、強くなることが出来たんだ」

さてさて今日はここまで。本編と台詞が違うって?気にしたら負けだ。俺も気にしないから読んでる人も気にしないでね!

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