インフィニット・ネクサス   作:憲彦

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溝呂木
「さてと、今日からは本編未公開の授業風景だな。これがないお陰で、昼寝キャラが付いちまったんだよな~。本編で書かなかった理由は、まぁ気になるヤツは直接作者にでも聞いてくれ。ろくな答えは帰ってこないことだけは保証してやる。あ、本編の前に、この訳の分からないコーナーからだ」

今だから言える、小説あれこれ

無気力な救世主には、書いていない封印したエピソードが1つあります。内容は、最期編終了後以降の物語。死んだはずの一夏が、自分が死んだことを理解しているが周りは特に何も言わずに普通に生活している。でも、一夏には自分が死んだこと以外に世界その物に少し違和感を感じていた。鷲の書かれた妙なエンブレムが付いたものが、町のいたるばしょに点在していること。そして、自分の知っている歴史とずれていること。再びこの世界にやって来たディケイドとディエンドの2人と一緒にこの事件を解決させる。

書かなかった理由はあれです。なんか別に良いかな。と思ったからです。決して面倒だったからと言う訳ではありません。機会があったら書くつもりですから笑


再編集3

「さぁ~てと。1時間目のクラス代表選出も終わったし、お前ら休んでて良いぞ~。チャイムが鳴ったらこの教室に戻ってこい」

 

やる気の無さそうな声で生徒たちに伝えると、室江は財布を取り出して足早に教室を立ち去った。そして自販機のある場所まで走っていき炭酸飲料を購入。蓋を開けて一気に喉の奥に流し込んだ。

 

「あ゛~……疲れた。教師なんてやってらんないな~。予想以上に疲れが溜まる」

 

ベンチに腰を掛けて愚痴をこぼした。聞いている人間は居ないが、ここで言わなかったら確実にこの後の授業に支障が出てしまう。それだけは避けなくてはならない。まぁ恐らく気付ける生徒は居ないと思うが。

 

「ん?」

 

休憩時間は10分。残りを飲み干そうとしたとき、室江の目の前に挙動不審な生徒が現れた。昨日溝呂木の部屋に入っていた楯無だ。

 

(なにやってんだ1年生の校舎で。まさか、あの言葉を破るつもりか?)

 

暗部にはありがちな話だ。しかし、これはやって良い相手とそうでない相手を見極めた場合にのみ行う。確実に自分よりも実力がある相手に対して行う馬鹿は居ない。居る筈が無い。

 

(随分前に辞めたとは言え、舐められたもんだな~。いや、正体は知られてないはず……じゃあ無条件にあの言葉を破った?おいおい、今代の楯無は大丈夫か?)

 

「2年生がこんなところでなにやってんの?」

 

「室江先生?!何でここに?」

 

「質問してるのはこっちなんだけど……まぁ、私は休憩だよ。ほら」

 

持っている飲み物の缶を見せた。これを見せられれば無条件で納得してしまう。休憩スペースでは何かと都合の良い道具だ。

 

「そうですか。あ、そう言えば、室江先生って溝呂木君の担任でしたよね?」

 

「えぇ?あぁまぁそうだね。それがどうした?」

 

「いえ。今彼はどこに?」

 

「さぁ?サボりシート書かせたら全問正解したから、そのまま授業サボってるよ」

 

「またそんなものを……」

 

「学園長からの許可は出てる。文句は無いでしょ。なんなら解いてみると良い」

 

そう言って、ポケットからサボりシートの余りを出して楯無に渡す。それを見た瞬間、Σ(・∀・|||)と言う顔をして固まってしまった。

 

「ん?どうした?」

 

「い、いえ……彼はこれを解いたんですか?」

 

「あぁ。ものの数十秒で……まさか、分からないとか言わないよね?」

 

「え?も、もももも勿論ですよ!私2年生ですよ!それにロシア代表ですよ!こんなの分からない訳無いじゃないですか!」

 

「だよね~。じゃ、放課後私のところに来てそれを解くように。半分下回ったら特別補習ね。西村先生にも伝えておくから、補習になったらちゃんと学習しておいて」

 

「え?……ちょっ!?私仕事あるのに!?」

 

「だったらこんなところでほっつき歩いてないで、早く教室に行って勉強でもしな。放課後職員室で待ってるから」

 

ここでちょうど呼び鈴が鳴った。室江の策略により、この時間の溝呂木の探索は不可能になり、ついでに教師と言う立場を利用して放課後監視下に置くことに成功。そして確実に補習行きなので、2~3日は放課後自由に動くことが出来ない。色々とラッキーだ。

 

(さてと。これでしばらくは大丈夫。またちょっかい出そうとしてたら、その時にでも考えるか)

 

そんな考えを持ちながら、室江は教室への扉を開けて中に入る。既に皆席に座っており、この時間に使う教材を出して準備が完了していた。

 

「じゃあ2時間目始めるぞ~。溝呂木はサボりっと。他は全員揃ってるな」

 

出席簿を付けると、室江はこの時間に学習する教科書のページを開かせ、重要な部分を抜粋して生徒たちに教えていく。実に手際が良い。

 

「ISには適性値がある。それは知っての通り、人によってバラバラだ。しかし、使うISによっては変化が出ることも報告されている。今現在、もっとも有力と言われてる適性値の差についての仮説を……西条。答えろ」

 

「はい。ISのコアには、人間の人格に似たものが存在しており、その人格が操縦者との相性を決めているからと言われています。使う機体のコアと相性が良ければ機体の性能はカタログスペックを超え、悪ければカタログスペック以下になってしまう事もあります」

 

「正解だ。流石は筆記試験次席。しかし全部の機体がそう言うわけじゃない。中には人格が形成されていないコアもある。つまり、一概にコアとの相性が原因とは言いきれない。西条が説明した仮説はもっとも有力な物ではあるが、当然その中には例外も存在すると言うことを頭に入れておけ」

 

その後も問題なく授業が進んでいくのだが、2時間目終了の20分前程から隣の教室が騒がしくなってきた。この学園は設備こそは充実しているが、人数の関係上どうしても教室と教室を隔てる壁が薄くなってしまう。それでもやれるだけの防音加工はしているのだが、大きな物音の場合は聞こえてくるのだ。

 

「この方向は1組だな……全く。お前ら、残りの時間は自習でもしててくれ。予定の場所までは終わったからな」

 

そう言って室江は2組の教室を出て1組の教室へと向かう。いきなり入るのはあれなので、少し外から状況を見てから入ることにした。

 

(あぁ~。クラス代表の選出か。大方、織斑一夏が選ばれて、それにどっかの生徒が噛み付いたって感じか)

 

だが話を聞いていると、どうも少し予想していた雰囲気と違う。確かに実力が分からない人が選ばれると、それに噛み付く人間は出てくる。しかし何かが少し違う。取り敢えず聞き耳を立てておくことにした。

 

『だいたい!男がクラス代表だなんて良い恥さらし!このセシリア・オルコットに、その様な屈辱を1年間味わえと言うのですか!?』

 

『そうよ!そんなひ弱そうな男に任せられる訳ないでしょ!みんなも目を覚ましなよ!』

 

『それに、ここはISと言う神聖な物を扱う神聖な場所。男がいることで穢れが生まれることも理解できないのですか?この国の人は』

 

(面接官、ミスしたな……)

 

感じていた違和感は、女尊男卑の人間が居ると言うことだ。本来ならそんな生徒はこの学園に居られない。面接を女尊男卑丸出しで受ける馬鹿は居ないからだ。中にはさらけ出してくるのも居るが、ここに入学できていると言うことは余程上手く隠し通したのだろう。

 

「学園長、1組に3人ほど女尊男卑の人間が混じってるんですけど」

 

『本当ですか?』

 

「えぇ。証拠は取っといたんで、後で判断を下してください」

 

『分かりました。では後でその証拠を受け取りに行きます』

 

それを伝えると、これ以上面倒事に首を突っ込むのは嫌なので、そのまま2組の教室へと体の方向を変えて歩いていった。その背中は何か物凄く疲れている様に見えてしまう。実際疲れてるんだろうけどな。

 

「2時間目は終了で良いぞ~。次は実技だから、ISスーツに着替えてグラウンドに集合だ。ISは数が少ないから全員が1回は乗れるように遅れずに来てくれ」

 

このクラスは初日から実技があるようだ。意外と恵まれているな。因みに、ISスーツは入学時に基本タイプの物を学園から支給される。性能としては平均的な物だが、安くても10万円近くするものだ。これは非常にありがたい。

 

「よし、全員居るな?」

 

「先生、溝呂木君がいません」

 

「え?実技は出ろって言ったのに~……あぁ、サボるとしたは屋上だな。すまんが少し待っててくれ」

 

そう言って打鉄を装着。そのまま溝呂木が居るであろう屋上まで飛んでいった。こんなことにISを使って良いのだろうか……。

 

「お~い。溝呂木~。よっと」

 

空中でISを解除して、屋上で寝ていた溝呂木の真横に着地。体を揺すって起こした。

 

「なんだ」

 

「実技には出ろって言ったでしょ。早く着替えてグラウンドに集合」

 

「……パス―」

 

「させないからね。サボりシート書けばいくらでも座学はサボらせるから、こっちには出ようね?」

 

座学への全面ボイコットを条件に、溝呂木をどうにか納得させて授業に参加させた。そして数分後にISスーツを着た溝呂木もグラウンドに現れ、授業を始められる状態になった。

 

「じゃ、今日は基本的な歩行訓練からね。打鉄とラファールを2機ずつ用意してるから、使いたい方に並んで。溝呂木は私の補佐ね」

 

「おい待て。何故俺は補佐なんだ?」

 

「いや。お前の場合今更歩行訓練いらないでしょ。入試の時に1秒足らずで教師倒してるんだから」

 

室江の言うことは確かだ。入試の時の実力を見るからに、今更基本的な訓練は必要ないことが判断できる。IS操縦技術で言えば、1年生の課程はとっくに終えていると言っても良いだろう。そして戦闘技術は国家代表に近いものがある。むしろここで基本を教えることが、溝呂木の成長を阻害してしまう。

 

「IS着けて教えなくて良いから、ちょいちょいアドバイスとか入れてあげて」

 

それを伝えて、室江は半分に生徒を分けて片方の指導を開始し、もう半分を溝呂木にやらせる。仕方無いと言う態度を取りながら、自分が教える生徒たちの場所へと歩いていく。

 

「ほら。さっさとIS着けろ」

 

「は、はい!」

 

少し機嫌が悪いため、威圧感が出ている。最初の生徒は怯えた様子だ。これ以上機嫌を損ねさせない為、キビキビ動いてISに乗る。そして急いで歩こうとする。だが、

 

「ウキャッ!?……イッタタ~」

 

「おい」

 

「ヒッ!」

 

「誰が歩けって言った?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「さっさと立て」

 

溝呂木に指示されて立とうとするが、手足の長さがいつもと違う。慣れない長さのため、当然もたついてしまう。それが焦りを呼び、更に上手く動けないようにしてしまう。

 

「はぁ、利き脚を前に出せ。膝立ちする感じだ。その後に利き腕を膝の上に乗せろ」

 

「え?こう?」

 

「あぁ。その状態で利き脚に力を入れながら少しずつ起き上がれ。反対の脚は釣られて上がるだろ」

 

(((((メッチャ分かりやす……)))))

 

教え方は意外にも丁寧だ。溝呂木の指示に従うと、スムーズに立ち上がることができた。

 

「歩行訓練でもいきなり歩こうとするな。まずはその場で軽く跳んだり手足を動かして長さを慣れさせろ。手足の長さを理解したら歩け」

 

(((((超丁寧だ……)))))

 

もう片方の機体に乗った生徒にも同様に説明する。すると、初めてにも関わらずスムーズに動くことが出来るようになった。その後に乗った生徒も同様だ。自分の経験から来たことをそのまま教えているからかもしれない。

 

「降りるときは屈め。立たせた不安定な状態で次のヤツが乗れるか」

 

(((((メッチャ親切……)))))

 

言い方は厳しい。だが言っていることは正論だ。なにも間違っていない。だから文句を言わずに指示に従っている。

 

「次が最後だな。誰だ?」

 

「私よ」

 

「お前か。早く乗り込め」

 

「凪」

 

「は?」

 

「西条凪。せめて名前で呼びなさい」

 

「面倒だ」

 

「じゃあ貴方の指示には従わないわ」

 

「なら勝手に乗って勝手に怪我しろ。擦り傷で済んだらラッキーだな」

 

初期に行われる歩行訓練。飛行や戦闘に比べれば安全にも思えるが、実際は慣れてない機体を動かす最初の訓練。故に、一度体勢を崩した後に無理な動きをすると大ケガに繋がる可能性もある。基礎の訓練ほど慣れた人間と行わなくてはならない物はない。

 

「それもお断り」

 

「じゃあ従え」

 

「名前で呼んだらね」

 

「面倒な女……凪。これで良いか?」

 

「えぇ。良いわ」

 

「ならさっさと乗れ」

 

名前で呼ばないことに反発していたが、一度名前を呼ぶとその後は普通に指示に従ってくれた。一体何をしたかったのかは良く分からない。そして技術も中々の物だった。歩行の先のレベルの走ることも出来ていたのだ。

 

「中々やるな」

 

「貴方に負けるつもりは無いわ。いつか追い抜いて見せる。首を洗って待ってなさい」

 

「ふん。楽しみに待っといてやるよ」

 

凪を最後に、溝呂木の班は全員終わることができた。そして室江の班も既に終わっている。タイミング的にはバッチリだ。

 

「よ~し。全員乗れたな。あ、実技1時間受けると、放課後にもISでの訓練が許可される。やりたいヤツいたら予約しといて」

 

室江の言葉に、全員返事を返した。座学よりも実際に乗ることの方が楽しいのかもしれない。

 

(溝呂木は意外と馴染めてたな。教えることも教えてたし、案外こう言うの向いてるのかもな~。と言うか全員に対して丁寧に教えてたな。私よりも教師に向いてるんじゃないか?)

 

本職の教師がなに言ってんだよ。しかも自分の生徒に対して。




溝呂木
「改めて言うのも恥ずかしいが、俺としては楽しい時間だった。まさかこんなことを思うなんてな。自分でも思わなかったぜ。でも、俺はまだ分からなかった。いや、分かろうとしなかったんだ。この時自分の中に生まれた感情を。認められなかった。認めようとしなかったんだ。そしてこの感情を忘れるために、俺は動き出すことにした」

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