インフィニット・ネクサス   作:憲彦

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エピソードサーガは少しお休みして、今日から総集編と称して溝呂木視点、一夏(光)視点、織斑一夏視点で少し物語を見てみたいと思います。端折るところ端折って増やすところは増やす。と言った感じにそれぞれ数話ずつ投稿します。特別何かに変更があるわけではありませんので、その辺はご了承ください。


















溝呂木
「久し振りだな。今日から少しの間は総集編。最初は俺のストーリー。光と闇の2つに別れてしまった俺達の心とその戦い。その因縁はここから始まった。俺達を語る上で忘れてはいけない全ての始り。そして俺と言う人間も、これを読めば分かるだろ」


溝呂木信也 再編集版
再編集1


この事件はいつから始まったのだろう。束がISの技術の理論提唱をした時だろうか?それともISを開発した時だろうか?はたまた事件の黒幕が、ISのコアに目を付けて危険な実験に手を染めたときだろうか?

 

まぁどちらにせよ、科学者が自分の優秀な頭脳を、実験を証明するために暴走したことが切っ掛けだ。多くの人が巻き込まれた。多くの人が悲しんだ。多くの人が傷付いた。しかし、もっとも大きな傷を負ったのは、もっとも大きな悲しみを持ったのは、織斑一夏と言う数奇な運命に見舞われた1人の少年だろう。

 

~ドイツ某所~

 

「グッ!離せ!離せよ!!」

 

「……黙らせろ」

 

「はい」

 

「ッ!?グガッ……!アァ…!!」

 

織斑一夏が中学1年生の夏に行われた第2回モンド・グロッソ。ISの国家代表が己の技術を見せるために行われるIS格闘の世界大会だ。その決勝戦の日、織斑一夏は誘拐された。誘拐した連中の顔は分からない。全員同じスーツを着ていて顔にはサングラスをかけている。それにいきなり手足を拘束されて顔を布で覆われたのだ。パニックになって確認どころの話ではない。

 

逃げるために必死の抵抗をする。しかしスーツを着た大男が2人がかりで押さえ付けているのだ。大声を上げる以外の抵抗は出来るはずもない。そして、恐らく上司の男だろう。扱われ方が違う。その男が近くにいた別の男に黙らせるよう命令すると、懐から注射器を取り出し、織斑一夏の首に針を刺して中の薬を一気に押し込んだ。

 

すると、突然意識が遠退き、見ている世界がぶれにぶれる。やがて完全に意識がブラックアウトし、力なくその場に倒れてしまった。

 

「薬の注入は済んだか?」

 

「天十郎様。こちらにいらしたのですか?」

 

「あぁ。重要な実験だ。私自らやらなくてどうする?」

 

「そう言う事でしたか。薬の注入は先程終わりました」

 

「そうか。では、実験を開始しよう」

 

様付け。ボスのお出ましだ。天十郎と呼ばれた男はジェラルミンのカギ付きケースの中から、ボールの様な物を取り出し、それを部下に持たせていたパソコン型の端末から伸ばしたコードに繋げる。そして織斑一夏に向けながら、何かの文字を打ち込みむ。すると、ボールは紫色に妖しく光り始め、織斑一夏の中から何かを抜き取っていった。1分程だろうか。光が収まり、天十郎の始めた実験は終わりを迎える。

 

「フフフ…フハハハハハハァ!!実験は成功だ!!私の理論が証明された!!!素晴らしい……流石は私の優秀な頭脳だ……」

 

「ボス。これは?」

 

「あ?脱け殻に興味はない。放っておけ。撤収だ」

 

「「「「はい」」」」

 

自らの才能に浸るかの様な表情をしながら、成功したと叫んで手から離すことは無かったボールを愛でるかの様に撫で回し、織斑一夏を誘拐した男たちは、その場から姿を消した。だが気付きもしなかっただろう。自分達が織斑一夏から抜き取った存在が、自分達の存在を覚えていると言うことには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?……」

 

「意識の覚醒を確認」

 

「ご苦労。では後はマニュアルの通りに進めろ」

 

「かしこまりました」

 

先程の廃工場とは打って変わって、今度は妙な機械がズラリと並んでいる研究所の様な場所に連れてこられた。何かの溶液の入ったカプセルの中に入れられていた少年が目を覚ますと、ずっと記録を取っていた男が上司に命令を仰いだ。マニュアルに従えと命令を受けると、男はカプセルを開けて溶液ごと少年を外にだした。

 

「ガハッ!ハァッ!……ハァ…ハァ」

 

「織斑一夏。今すぐそこにある服を着て、私に―」

 

「お前は誰だ!?何故俺はここにいる!?」

 

「余計なことは聞くな。お前は黙って私達の指示に従えば良い。その方が身のためだ。さっさと服を着て付いてこい」

 

「…………」

 

警戒して起き上がり、白衣を着た男から距離を取る。しかし男は拳銃を取り出し一夏に向けた。スライド後端に付けられている安全装置が外されているのは数メートル離れた位地からでも見えている。下手に動けば撃たれるのは確実だ。大人しく従うしかない。黙って指示に従い、男に言われた通りに服を身に付ける。そして目的地へと向かう男の背中に付いて歩いていく。

 

「ここだ」

 

「なにがだ?」

 

「ここで実験をする。お前はこれを使って4日間生き延びろ。ただそれだけで良い」

 

一緒に持ってきた鞄の中から、ホルスターに納められたベレッタM92Fと予備のマガジン。そして大型のナイフを渡された。当然中学1年生の一夏には、その2つは大きい上に重たく感じる。だがそんなのお構いなしに、男は一夏の体にそれを付けた。

 

「実験の内容は至ってシンプル。中にいる連中を殺せば良い。ただそれだけだ」

 

「俺に、人殺しをしろってのか?!」

 

「そうだ。お前はその為に作られた。水と食料はその鞄に入っている。精々生き延びて、あのお方のご期待に応えるんだな」

 

扉を開けると、中に入るように促す。そして入ったことを確認すると、なにも言わずに扉を閉めて鍵をかけた。中には既に何人かの人がおり、全員一夏と同じ様な武器を持っている。だが、状況を理解できないのか戸惑っていた。無理もない。全員一夏と同じか幼いくらいの子供だ。武器を持たされて殺せと言われて理解できる筈がない。

 

『ご機嫌よう、モルモット諸君。君たちには今日から4日間、ここで殺し合いをしてもらう。生き残れば素晴らしいご褒美を与える。望みならば何でも叶えてやろう。勿論家族に会いたいと言うなら会わせる事を約束する。精々頑張りたまえよ。私は君達に期待しているのだ。この世界の未来のためにな。ではこれで失礼するよ』

 

運動場程の大きさがあるこの部屋の天井に、投影機の様な物で映し出された男の姿。だが顔は写されていない。首から下だ。その男は楽しそうに殺し合いをしろと子供たちに伝えた。

 

素晴らしい褒美、家族に会わせる等のワードから、貧しいところから買い取った、もしくは誘拐してきた事が簡単に推理できる。そう言った人達にとって、その言葉は良い動力源だ。どんなに幼かろうが、人間は金で飼うことができる。そして家族をチラつかせれば会いたいと言う欲望のためにどんな人間にも尽くす。必要とされなかった人間は未来のためにと言われれば、やることやったことを理解せずにただただ突き進む。

 

その場に押し詰められた人間を理解しているからこそ言えるちょうど良い言葉だ。映像が消えると、さっきの言葉に刺激されたのか、様々な子供が銃を手に取り震えながら近くにいる人に構える。

 

「お父さんに……お母さんに会える……ここから逃げ出せる!!」

 

「お、おい落ち着け!!」

 

「う、五月蝿い!僕は会うんだ。家族に会うんだぁぁぁあ!!!」

 

パァン!パァン!パァン!パァン!

 

4発の銃声。それはうるさかった周りを一瞬で静めた。当然撃たれた方は体に銃弾を浴びて、血を撒き散らしながら床に倒れる。撃った方は人を殺したときに訪れる魂が抜けるような感覚と、銃の反動で体が震えて冷や汗を大量に流しているが、それでも銃を離さず周りに向けている。

 

「帰るんだ……家に帰るんだぁぁぁぁぁあ!!」

 

そう叫びながら、無闇矢鱈に銃を乱射する。巻き込まれまいと、近くにいた人は直ぐにその場から逃げようとするが、既に何人か巻き込まれている。狙いを付けていないため、当然銃弾は訳の分からない方向に飛んでいってしまう。その内の1発が、一夏の方向に飛んでいった。

 

「危ね」

 

顔を少し横に反らし、擦る程度で済んだ。そしてナイフを抜き取り、乱射している子供めがけて投げつける。

 

「うわぁぁぁぁぁあッ……」

 

ナイフは眉間に突き刺さり、一瞬で絶命した。そして一夏は何事も無かったかの様に歩み寄り、ナイフを眉間から抜き取った。

 

「たく。人が考え事してるときにギャアギャアギャアギャア騒ぎやがって」

 

悪態を付きながら屈み、使われていないマガジンとナイフを手に取ると、一夏も拳銃を抜いて安全装置を解除する。そして周りに向けながら引き金を引いていく。放たれた弾丸は正確に相手の頭に撃ち抜き、1発で確実に命を刈り取っていった。弾が無くなるとマガジンを抜き捨て新しいものを入れる。そしてホールドオープンしたスライドを戻してまた撃つ。それの繰り返しだ。物の数分で全てが片付いてしまった。白衣の男が言っていた「その為に作られた」とは、この事なのかもしれない。

 

(成る程な。そう言うことか)

 

殺しても特に感情は出てこない。罪悪感に苛まれる訳でもない。むしろ体が、心が求めている。この感覚を。これで理解できた。作られたと言う意味が。

 

その後も何度も代わる代わる人が入ってきた。自分と同じくらいの子供。少し幼い子供。年上の子供。だがその中の誰1人として、一夏を止めることも、正面から向き合って傷を負わせることも出来なかった。そして期限の4日後。一夏はその部屋から出てきた。後はその腕を見込まれて、この組織、亡国機業専属の殺し屋として動くことになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい!これはどう言うことだ!何故私が殺されなくてはならない!!私がお前たちの組織の為にどれだけ働いてきたか分かって―!!?」

 

「上からの命令だ。グダグダと汚い口を開くな。それとな……」

 

パァン!

 

「俺をアイツらと一緒にするな」

 

男の口に拳銃を突っ込み、無慈悲に引き金を引いた。乾いた銃声が辺りに響き渡り、男は頭から血を流して倒れる。この男は日本の公安警察の潜入捜査官。5年ほど前から潜入していたようだが、今日一夏の手によって殺されたのだ。まぁ、5年潜入していたと言っても、ずっと泳がされていただけなんだがな。それにこの男が奪った情報は、組織からしたらその辺の石コロ程度の価値しかない。所謂無駄死にと言うわけだ。

 

「対象は排除した。ついでに俺の事を付け狙ってた同業者も。後はいつも通りに処理してくれ」

 

『了解した』

 

あれから2年だ。一夏の手で殺された人間は数知れず。時には組織の裏切り者。時には捜査官。時には自分を狙う殺し屋。亡国機業と似たような組織を潰したこともある。ほとんど毎日繰り返される殺しの日々。しかし、不思議と疲れは感じない。と言うかなにも感じない。作られたとは言え、人間らしい感情がこの2年で無くなってきたのだ。

 

「帰るか」

 

そのまま亡国機業の拠点へと戻っていく。軽く体を洗い、自分の部屋のベッドに横になるが、今日は寝付きが悪い。こんなことは滅多にない。何故か眠ることができないのだ。

 

「ん……」

 

今夜は眠れそうに無いと判断したのか、立ち上がって建物の中を回ることにした。特に理由もなく歩いているはずなのに、着いたのは実験室。自分のIDを打ち込んで中に入る。

 

「ん?何だお前か。こんな時間にどうした?」

 

「気にするな。ただの散歩だ」

 

変わったヤツ。と言うような視線を向けて、作業をしていた男はパソコンに目を戻した。一夏は周りの物に目を向けていく。そして、あるものが目に留まった。ガラスケースに入った妙な形をした黒い何かだ。

 

「これは何だ?」

 

「ん?あぁ。ボスの研究で作ってる物だ。人間の中にある、所謂闇と言うものを使って兵器にするそうだ。確かダークエボルバーって言ってたな」

 

「ほう……ッ!?」

 

『面白い。面白い人間だな』

 

『誰だ。お前は』

 

突然、一夏の頭の中に巨大な人型の何かが現れた。言い表すなら、死神か悪魔が妥当なところだろう。

 

『誰?それはお前が1番知っているはずだ。これは、お前が望む、お前自身の姿』

 

そう言うと、頭の中に現れた死神は、煙のようになって一夏の中へと入っていった。

 

「成る程。そう言うことか」

 

意識が現実に戻ると、小さくそう呟く。そしてガラスケースをぶち破り、ダークエボルバーを掴み取った。

 

「ッ!?おい!何をしている!?」

 

「黙ってろ!面白いものを見せてやる!!」

 

一夏がダークエボルバーを掴むと、パソコンの画面に表示されてた闇の数値を表すグラフが、突然大きく動き始める。それだけではなく、パソコンや他の機械類が突然ショートしてしまう。異常と言える状況が一瞬にして出来上がってしまったのだ。

 

「フフフ……今日でこことはお去らばだ」

 

「なに?今すぐダークエボルバーから手を離せ!」

 

「フン。黙ってろ」

 

ダークエボルバーを男に向けて、闇の光弾を放つ。大きく後方に吹き飛ばされ、体を壁に打ち付けてしまった。一夏はそれを見ると、ダークエボルバーの両端を掴み、一気に引き伸ばした。すると、先程の頭の中に現れた死神と同じ姿に変わっていた。そして光弾で扉や壁を破壊しながら、建物の中を歩いていく。

 

「グッ……!実験道具の分際で……!思い通りになると思うなよ!!」

 

一夏にやられた男は絶命する間際にそう言い残し、非常用の警報ボタンを鳴らした。その数秒後に、武器を持った人間やISをまとった女が出てきて、巨大な死神になった一夏を取り囲む。そして一斉に攻撃を開始する。だが、一夏には傷1つ付けることが出来なかった。

 

『はぁ……今までこんな連中に使われてたのか……』

 

ガッカリしたように首を下げていると、後ろからラファールを装着した女が突っ込んできた。だがそれを鷲掴みにして、そのまま握り潰す。ISには絶対防御があるため、滅多なことがない限り操縦者は死なない。だが、一夏の手からは操縦者の物とおぼしき血が流れ出ている。絶対防御を貫いて握り潰したのだ。

 

そこからは一方的な蹂躙だった。一夏は自分の力を確かめるかのように、向かってくる相手に色々と試している。光弾、光線、単純な物理攻撃。その全てを使って破壊の限りを尽くす。

 

『飽きたな。これでここは終わりだ』

 

次の瞬間、巨人になった一夏の周りにあり得ない量の熱が発生する。次第にそれは周りの物を融解していき、一夏本人の体を赤く染め上げていく。そして

 

ドカァーン!!

 

巨大な爆発が巻き起こり、亡国機業の基地は一瞬にして消滅した。

 

『次はアイツだな』

 

上空で破壊した基地を見下ろしながらでそう言ってどこかへと飛んでいってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、束さま。そろそろ休まれては?」

 

「ごめん。いくらクーちゃんの頼みでも、それは聞けないよ」

 

「ですが!この2年間、あなたはまともに休息を取っていません。それでは―」

 

「これは私の責任だから。私がやらなくちゃダメなの。分かって」

 

篠ノ之束。ISを作り上げた人間だ。そして同時に、今の世界の形を作り上げた人間でもある。束はあの事件からほとんど不眠不休で一夏を探していた。世界中の監視カメラや人工衛星をハッキングし、少しでも情報をかき集めていた。しかし、それでも有力な物は見付からなかった。

 

「誘拐された直後の映像は見付かるのに……何でその後が無いんだ!!もっと膨大で、もっと詳しくて、もっと近くにいた存在……それさえ見付ければ……!」

 

だがそんなものはこの世で1つしかない。束の作り上げたIS。そのコアだ。束の言う条件にもっもと近い存在はそれしかない。

 

「コアネットワーク……そこなら……」

 

「確かにそこなら新しい情報が手に入るかもしれません。ですが、余りにも膨大すぎますし2年前ですよ?到底見つかるとは思えません」

 

「……不可能でも可能にする。それが私のやることだよ。少し集中するから黙っててね」

 

そう言って、コアネットワークの中に入り込んでいく。束の同居人であるクロエが言うように、データの量は膨大そのもの。いや。膨大の一言では片付けられない。ネットワークに連結している全てのコアが情報を共有しているのだ。1日に見た全ての情報を。そこからピンポイントで欲しい情報を探すのは、砂浜に落ちたゴマ粒を見つけ出すことに匹敵するだろう。

 

(2年前のモンド・グロッソ!どこだ!どこにある!?早く見付けないと!!早く!早く!早く!!)

 

一気に流れてくる膨大な情報。その中から探すと言うのは、人間には相当辛い作業だ。束ですら脂汗を流し、大量の鼻血を流している。どれ程脳に負担がかかっているかが理解できるだろう。

 

「ッ!?見付けた!!」

 

「本当ですか!?」

 

「うん!見付けたよ!!これ!!」

 

そう言って嬉しそうにクロエに見つけ出した情報を見せてみた。ISのコアが見た情報だ。しかしやけに不鮮明で音声にもノイズが走っている。

 

「脱け殻?何の事だろう?それにこの妙な文字の羅列…なんかで見たことある様な?」

 

「確かにデータのこの文字の羅列は~……あ、ありました。これです」

 

棚から1つのノートを取り出し、束に渡した。それは昔束が作ってみた、人間を文字や数字等の記号で表した物だ。今回見つけ出した文字の羅列。それは束が昔作り上げたそれに酷似している。

 

「じゃあこれは……人の精神を2つに分けたときの!?ても何かが違う様な……脱け殻?それに天十郎……まさか!?」

 

急いで作ったデータを見付けた文字の羅列に照らし合わせてみる。そして、束は驚愕の事実を知ることになってしまった。

 

「はぁ……まさか科学者の私が、こんなことを言う日が来るなんて……」

 

「……どうされたのですか?」

 

「やられたよ……あの男に……いっくんが何で変わっちゃったのか、この男を見付ければ、もっと早くに気付けたはずなのに……」

 

「?」

 

「闇。だよ。この文字の羅列はね、人間の中にある闇って言うものさ。当然人間には善と悪があるから、それを闇と光って表現するのは分からなくもない。でも、まさか本当にそれが実在して、2つに切り分けて、不安定になった状態で存在している。そんな科学じゃ証明不可能な事が起こっていたなんて……思いもしなかったよ」

 

「では、織斑一夏さんは……」

 

「光と闇、その2つに別れてる……早くちーちゃんに教えないと!」

 

携帯電話を取り出し、メールのアプリを開く。そして見つけ出した情報「完了。ISのコア、光、闇、分断」そう打ち込んで送信した。だがその直後、さらに束を驚かす事が起こった。

 

「えっ!?なんで!?」

 

ISのコアがいくつか消滅したのだ。ネットワークから離れることやまた同期することはある。しかし、消滅することなんてあり得ない。それは、コアの中にある人格の死を意味するからだ。

 

「コアが殺された?そんな……あり得ない!」

 

そしてまたその直後、今度は束のいるこの隠れ家の警報がうるさく鳴り響いたのだ。普段なら束の作った過剰な防衛システムが侵入者を消す。しかし、今回は違った。防衛システムは働いているが、全てが無力化されたのだ。そして、侵入した存在は着実に束の元に向かってきている。

 

「束さま!逃げてください!!」

 

「邪魔だ」

 

「アウッ!」

 

「クーちゃん!?」

 

「久しぶりだな。篠ノ之束」

 

「……いっくん?」

 

「流石だな。その様子じゃ、全部気づいてんだろ?」

 

「うん。誰がやったのかも。君の身に何があったのかも。ついさっき分かった」

 

「じゃあ俺がここに何をしに来たかもわかるな?」

 

昔話をしに来た。何て言う雰囲気ではない。一夏から発せられる殺気がそれを物語っていた。一夏の身に何があったのかは分かったが、この2年間何をしていたのかは分からない。

 

「この2年間散々だったよ。アンタがISなんて言うガラクタを作ったお陰で、随分な目にあわされたからな」

 

「…………」

 

「これは復讐だ。俺は、今この世界を作り上げている物を全て破壊する。そして新しく作り替える。今の俺にはそれを成すに十分な力がある」

 

「全て?まさか!?ちーちゃんも!?」

 

「あぁ。その通りだ」

 

「じゃあいっくんの友達も!知り合いも!大切な場所も!全部壊すって言うの!?」

 

「だったら何だ?俺に何の関係がある?壊したところで、俺には大した損はない。あるとすれば本体の方だろうな?今も楽しく友達とつるんでるんだろ?」

 

「そんな……」

 

「俺はあの時全部を失った……だから、今度は俺が奪う。全てを」

 

「ッ!?クーちゃん逃げて!!」

 

「俺がここから人を逃がすと思うか?」

 

ダークエボルバーをクロエに向けて、光弾を放った。それはクロエの心臓を貫き、たった1発で命を奪った。

 

「クー……ちゃん」

 

「どうだ?奪われる気分は?俺を殺したいか?俺が憎いか?まぁ安心しろ。次はお前だ。すぐに会える」

 

「アッグッ……!?」

 

束の首を掴み、力一杯締める。人間離れした束ですら、その力から逃げることは出来なかった。

 

「いっくん……!君は…闇でも、そんな人じゃ……ない筈だ!……どんなに、人を恨んでも、こんなことするような人間じゃ……無いでしょ!」

 

「はぁ……それは俺じゃない。本体だ」

 

グガァ

 

束の首をへし折り、そのまま投げ捨てた。ちょうどいい事に束はパソコンを起動していた。少しそれを拝借して、自分の新しい戸籍を作り出した。名前を溝呂木信也と変えて、全く新しい別の人間になったのだ。

 

「……チッ。篠ノ之束、クロエ・クロニクル。か」

 

殺した存在には一切の興味や感情を抱かない筈の一夏だが、この2人に関しては何故か違った。自分が殺されようとしていたのに、お互いにお互いの事を心配していたのだ。そして束は一夏を恨むどころか、必死に説得しようとしていた。

 

この時、一夏の中で何かが変わってしまった。ダークエボルバーを取り出して、それと殺した2人を交互に見る。何かを決めると黙って2人にダークエボルバーを突き付けた。すると、クロエの胸に開いた風穴は塞がっていき、心臓は再び動き始める。束も折れた首の骨が戻っていき、呼吸や心音が安定したものへと戻っていく。

 

「はぁ……気分が悪い」

 

そう言って一夏は、束の隠れ家をあとにした。宛もなく歩いていると、至るところから妙な殺気を向けられた。大方、亡国機業の連中、もしくは一夏を狙ってる殺し屋の皆さんだろう。

 

「お前ら、最初に言っておくぞ。今の俺は、虫の居所が最高に悪いんだ。まともに死ねると思うなよ」

 

直後、その場が地獄と化したことは、言うまでも無いだろう。




溝呂木
「この時はこれ以外に方法が無かったとは言え、情けないことに俺は奴らの言われるがままに動くことしか出来なかった。そして俺は、自分は闇だ悪だと自分に言い聞かせ、この行いを正当化していた。今思えば情けないことこの上無い。そして今もこの考えは変わらない。だが、何故か俺は殺したヤツの顔を覚えておかなくてはならないと思った。詳しい理由は自分でも分からない。だが、死んだことを誰にも覚えてもらえないなら、認識されないなら、せめて殺した俺が覚えておこう。そう考えてしまったのかも知れない。闇と悪に染まりきった筈の俺がだ。この時既に、悲しいことに俺は過去の知り合いすら殺せない腑抜けになっていた様だ」

次回は溝呂木の学園でのストーリー。本編では余り語られなかった死神の学園生活に注目だ!

次回もお楽しみに!感想と評価、お気に入り登録もよろしくお願いします!!

今だから言える、小説あれこれ

インフィニット・ネクサス、溝呂木にはヒロインを付ける予定だった。まぁ今回の総集編で付けます。そしてストーリーも少し変化させます。

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