DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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気が付いたら年を越したどころか春が見えてきました。
仕事の合間に資料を集めつつ執筆するのがこんなに大変だとは……

ネタだけは揃っているので、失踪する可能性は低い、と思います。
問題は執筆する時間と労力orz


00-09 蛇蝎と光明

 レクト本社。作業フロアの一角にある自らのデスクの前で、茅場晃彦は明かりもつけず、幾つものモニタとAR展開されたウィンドゥを同時展開し、(くだん)の少年、織斑一夏の情報を眺めていた。

 

 彼の出現から数日、DSOはこれまで以上のアクセス数を見せ、噂が噂を呼んで株価も上昇。

 株主達からも『イチカというプレイヤーに特別の便宜(べんぎ)を』との通達が来ている。

 レクト経営者の一人である茅場も、株主達にそれなりの姿勢を見せ、形だけでも便宜を図ったように見せてはいたが、今の所は織斑一夏と直接の接触をする気は毛頭なかった。

 

「……ちっぽけな世界で可能性を求めるから、奇跡と可能性を同一視してしまう、か。彼女も“らしい”事を言ってくれたものだ」

 

 かつて、自分の全てを注ぎ込んで作り上げたSAO。

 過去の妄執に取り憑かれ、自らの狂気で全てを壊そうと考えていた所に、現実を突きつけてきた天災・篠ノ之束。

 彼女のお蔭で自分は(すんで)の所で留まり、SAOは本来のVRゲームとして運用され、茅場は新たな未来(みち)を選択()()()()()

 あの時から彼女に対抗すべく、柄にもなく他者を踏襲する形でDSOを生み出し、望みもしない栄光を手にした。

 世間では成功者として称えられてはいるが、彼にしてみれば今の位置は求めた可能性から遠ざかって――否、()()()()()()()()()気がしてならない。

 事実、求めていた可能性の一つが、()()()()()()実現している。

 おそらくは彼女にとっても今回は望外の出来事に違いない。だからこそ、彼の下に妹を置いてまで彼を守った。

 でなければ、今頃彼は彼女の庇護下(ひごか)から外れ、最悪の展開に進んだはずだ。

 

「明かりもつけずに何をやってるんですか、茅場さん?」

 

 眼鏡をかけた線の細い、やや神経質そうな印象の青年――須郷(すごう)伸之(のぶゆき)が扉を開けてやって来た。手に旧式のタブレットを持ち、茅場を探していたらしい。

 

「須郷くんか、何かあったか?」

「次回の大型アップデート、目処が立ちましたので報告を」

 

 言いつつ、タブレットを差し出す。旧式のタブレットは独立稼働(スタンドアロン)が主になり、紙媒体以上に他社の目に留まりにくく、データの消去も容易だ。故にコスト面から社外秘を取り扱うには都合がよく、仮想を始めとした電子技術が進化して尚、現役で稼働している。

 茅場はそれを受け取って内容を流し読みしていくと、予想以上の出来に口元が(ほころ)ぶ。

 

「成層圏から月軌道までの宇宙エリア、ようやく完成したか」

「はい。それと、例のアレも実装する目処が立ちましたので、次回のアップデートで解放する予定です」

 

 現実(IS)より先に仮想(DS)が宇宙に上がる。

 これ以上の皮肉は無く、彼女へのいいあてつけになる。

 茅場は一通りチェックを終えると指紋認証で承認のボタンをタッチ。それを須郷に返す。

 

「彼も随分と頑張ってくれたようだ」

「ええ、現状はバイト扱いとはいえ、かなりやる気を出してました。それもこれも、“彼”の存在が大きいのかも知れません」

 

 チラリと茅場のPCに目を向ける。今回のアップデートに協力してくれた人物は、イチカこと織斑一夏にライバル意識を抱いている。

 

 プログラマーとしても、VRプレイヤーとしても。

 

 イチカに関しては、(もっぱ)ら話題となっているまとめサイトだけでなく、DSを補助するプログラムをはじめ、これまで見向きもされなかった数多(あまた)の論文は目を(みは)るものが多く、応用次第で様々な分野に転用できる可能性を秘めている。

 故に、今回の仕事を依頼した人物は、対抗心を燃やして他の話を蹴り、猛烈な勢いでここまでのものを仕上げてきた。

 

「ところで、例の話は?」

「そちらの方は仮想課の方にリークしておきました。同時に、一部のプレイヤーも動いてます」

 

 ふむ、と口元を隠して思考。

 ラース、グロージェン()ディフェンズ()、シャムロックの不穏な動きや、小姐(シャオチェ)を始めとした、悪質系(ローグ)の嫉妬から来る八つ当たりじみた周囲への略奪行為。

 悪質系(ローグ)に関してはゲームのシステム内で起きている事ゆえに、運営側である自分達が動くのは公平性(フェアネス)に欠ける為、表立って動く事は出来ない。プレイヤー同士で決着をつけてくれるのであれば特に問題はないだろう。

 問題はゲームのシステムに隠れて暗躍する方だ。

 

悪質系(ローグ)に対抗するプレイヤーか。そちらに彼女達は?」

「参加しています。というか、“彼”が動いたようです」

 

 そうか、と呟くと、追加でARウィンドゥを2つ展開。リストの中から幾つかピックアップし、別ウィンドゥに展開されている名簿の中からも幾つかの名前をタップ。

 それを一つにまとめると、指で弾いて須郷の方に飛ばした。

 

「……!? これは!」

 

 目にした情報に須郷が驚く。それはイチカというプレイヤーが、これまでバイトで作成してきた様々なプログラムの利用法と転用先の一部。

 須郷が知る限りでも、とびっきり上等にして最悪な情報。これが表沙汰になれば、世界の動乱は更に加速する。

 

「この情報を流しておいてくれ」

「これが知れたら、株主に相当叩かれますよ?」

「構わんさ、彼らが知る頃にはもう手遅れだ。それに、これは私達の目的を達成する為の足掛かりにもなる」

 

 須郷はもう一度その情報と提供先を確認する。

 確かにこれならば情報そのものが(かく)(みの)になり、こちらの存在も気付かれにくい。

 

「では、そのように」

 

 不敵な笑みを浮かべつつ、須郷は一礼して去っていく。それを見送ると、茅場はデスクトップのモニタに表示された画像に目を向ける。

 

「これで、貴女(あなた)も表舞台に戻るしかないぞ? 篠ノ之博士」

 

 過去の妄執、それを意外な形で潰しただけでなく、全く異なる可能性を提示してみせた彼女。

 画像の中では織斑千冬(ブリュンヒルデ)と肩を並べ、柔和な笑みを浮かべている。

 

「意趣返し、させてもらう」

 

 茅場の視線が険しさを増した。

 

 

 

***

 

 

「篠ノ之博士を、表社会に引っ張り出すゥ?」

 

 残り少なくなりつつある拠点の一つで、オータムは通話先のスコールの提案に呆れた。

 

「わざわざアメリカに捕まってまでやりたかった事がコレかよ!?」

『状況が変わったの。まずは日本に向かって頂戴』

 

 日本といえば今話題の世界初の男性IS操縦者がいる国だ。彼の誘拐を計画していた所は、合法・非合法を問わず計画の実行前に何者かに襲撃され、亡国機業(ファントム・タスク)も襲撃された。

 スコールはその未確認の情報を求める為、表向きはアメリカに確保されるという形で身を寄せ、オータムは彼女の指示で幾つかの拠点をリーク。その騒ぎを隠れ蓑に暗躍していたが、この段階で表立って動くのが腑に落ちない。

 

「……何があった?」

『彼の本当の姿が知れた、それで世界が動き出そうとしているの。詳しくは資料を用意させてあるから、それで確認して』

 

 確か織斑一夏といったか。以前の情報ではあの悲劇の被害者の一人であり、世界最強(ブリュンヒルデ)が現役を引退する要因となった男。

 VR関連の方ではそこそこ有名で、例の騒ぎがあった直後に篠ノ之博士の妹が身を寄せ、おいそれと各国も手出しできない。

 こちらも誘拐を計画して襲撃されたにも関わらず、再度日本に行く理由が見えない。

 

「日本へ行ったって、何をすりゃいいんだ?」

『例の男性IS操縦者の護衛。ISを展開して派手にいくのが理想ね』

 

 ますます話が見えない。

 百歩譲って話題の男性IS操縦者の護衛をするだけならまだしも、それでISを使用するなど悪印象を与えるだけではないのだろうか?

 

『2年前、日本は彼を見捨てた挙句、支払われる筈だった慰謝料までくすねててね。表沙汰になれば社会的面目が潰れる程度で済めば御の字』

「……話が見えてきたぜ。どっかが暗殺とか計画してんのか?」

『ええ。ISまで準備してね』

 

 ひゅう、と口笛を吹く。どこの誰かは知らないが、そこまで行くと賞賛に値する。人の事は言えないが、そいつもそいつで相当なクズだ。

 

「――で、アタシはそのガキを守って騒ぎを大きくすりゃいいのか?」

『できるだけ派手にやって頂戴。彼が日本から離れようと思うぐらい』

「それは上々」

 

 ますます自分好みの話になっていく事に笑みが零れる。

 襲撃事件からこっち、ずっと潜伏活動で(くすぶ)っていただけに、こういう派手な展開は願ってもない。

 

『それと、護衛対象は彼一人じゃないわ。篠ノ之博士の妹の他、彼の周りにいる友人も含まれるから』

「おいおい、一人二人ならアタシ一人でもなんとかなるだろうけど、それ以上だとさすがにキツいぞ?」

 

 派手に行くのは大好きだが、ハンデ付きは好ましくない。スコールはそれを予期して既に手を打っていた。

 

「現地には既にエージェントを数人配置してあるわ。ISは貴方のしかないけど、日本に着いたら彼女達と連携して」

「……まぁ、いないよりはマシか」

 

 そもそもIS自体が希少な上、たった1機で戦争ができるものがそう易々(やすやす)と用意出来るワケもない。エージェントの能力がどれ程のものかは不明だが、派手にやる事を前提に行動するのだ、生半(なまなか)な腕ではないはずだ。

 オータムは了承する旨を伝えると、早速日本に行く準備を始めた。

 

 

 

***

 

 

 その頃、世界は上に下に大騒ぎだった。

 理由は単純。イチカが表舞台に現れ、これまで彼に依頼してしてきたものが明るみになる可能性が出てきたからだ。

 彼がこれまでバイトで行ってきた、プログラミングを始めとしたメカトロニクス技術。

 それは本人が思うよりも深く、しかし確実に世界の技術に影響を与えていた。

 

拡張領域(バススロット)分類化(パーティション)の基礎理論、彼の作品!?』

慣性制御(イナーシャル・コントロール)の兵器転用だけでなく、空間干渉による機体制御や複数のFCS(マルチコア)による並行処理もか!』

 

 元々イチカはDSOにおいて、極々当たり前の様に使われてきた技術を理論化する事で、様々なアプローチを行ってきた。それを元にして戦闘レポートや攻略、DSの作成にも利用してきた経緯がある。

 その技術の高さに目を付けたISの技術者が、何気なくバイトとしてソフトウェアの作成を依頼したのが始まりだった。

 当初は『新しい発想の糸口になればいい』という程度の期待だったが、出てきたものは驚愕の完成度で、一部の作品はそのままISに応用できる程。

 以来、イチカに様々な仕事(バイト)を依頼してきたが、その産物はバイト代程度の依頼料で済ませられる結果(もの)など一つとしてないから大騒ぎだ。

 

『なんてことだ』

『第3世代以降の技術の大半を、彼一人が……』

 

 新機軸の光学兵器制御の基礎理論、複数のFCSを搭載する事で可能となるナノマシン制御、慣性エネルギーの相転移理論など、枚挙(まいきょ)(いとま)がない。

 本来であれば、IS技術は何十人というスタッフと莫大(ばくだい)な研究費を費やし、何百というトライ&エラーを繰り返した上で、ようやく試験運用にこぎつける。

 イチカがもたらした技術は、その過程を幾つもすっ飛ばし、提供された時点で既に試験運用の段階まで至っているものさえある。

 これら全てを一夏の作品とは公表せず、自社の功績として登録されている以上、彼らが慌てるのも無理はない。

 

 全て合わせると、本来彼に支払われる報酬はバイト代程度ではなく、間違いなく国家予算規模。

 表沙汰になればISの研究業界は非難を受けるだけでなく、開発体制も問われかねない。

 無論、これまでの彼の功績に対する報酬の少なさも問われる。そうなる前に各国のIS技術者がネット上で集まり、自らが依頼したものをリストアップして確認していたが、結果は驚愕の事実ばかり。

 何せ相手は若い男という希少性のみならず、世界初の男性IS操縦者だ。そこにIS技術者という肩書きが上乗せされれば、その価値は計り知れない。

 噂ではイチカはDSをISに近い設定環境でプレイし、かの織斑千冬(ブリュンヒルデ)にも勝てる腕前らしい。

 それが事実ならIS操縦者としての価値も出てくる。早々に何らかの手段をとらなければ、自分達の存在すら危うい。

 

『ど、どうする?』

『どうするって言われても……』

『いっその事、最初の一つのみを公開して、産業スパイをでっち上げるとか?』

『そんなのやってみろ。履歴から裏を取られて終わりだぞ』

 

 ネット社会の昨今、ビッグデータを元に履歴を探られれば簡単に足がつく。SNSやゲームログなど、痕跡がある所はいくらでもある。

 ましてや依頼した時は今話題のDSOの中だ。アカウントから辿るなど容易だし、そこからの捜査などは仮想課を始めとした機関が得意とする所だろう。

 彼と接触を図ろうにも、仮想でも現実でも今となっては難しい。

 それ以前にアポを取ろうにも、IS業界のみならず、世界中が彼を獲得しようと熾烈(しれつ)な競争を行っていて、横槍を挟めば物理的に消える可能性すらあるのだ。

 

『何か……何か付け入る(すき)は』

『あるなら既に突いて――あ!』

 

 不意に一人がウィンドウを展開。猛烈な勢いで情報をピックアップ。その中から赤字で選択されたものを展開する。

 

『現在、日本政府は織斑一夏の獲得に向けて、倉持技研に新型機の開発を急がせてる。それに対して各国の女尊主義の政治家が、色々ゴネてるって話がある』

『そこに付け入る隙があるのか?』

 

 首肯し、更にウィンドウ展開。そちらには最近話題になっている男性のIS適性検査の結果があった。

 

女尊男卑(じょそんだんぴ)のアオリを受けて、ほとんどの男性が適性検査の協力を拒否してる』

『それがどう――なるほど、女尊権利者にこちらの罪を背負って貰おうって魂胆か』

 

 ISの開発と政治、女尊男卑だけでは話が見えないが、これにイチカの開発技術を照らし合わせれば話が見えてくる。

 

『そう。当初は最初の1件目で彼の技術の高さに目をつけ、我々は正当な報酬を払おうとした』

『しかし女尊主義者達はそれが面白くなく、あくまでバイトとして扱った、か』

『そしてこちらは織斑一夏のIS適性発覚に伴い、不正を暴いて正義を()す――なかなかいいシナリオじゃないか』

 

 いくら女尊男護(じょそんだんご)の精神が台頭してきたとはいえ、それは(いま)だ一部勢力でしかない。

 IS発表当時から続く女尊主義は根強く残り、今も不当な理由で男が迫害される事件も珍しくなく、彼女達は狡猾(こうかつ)な方法で今も迫害を続けている。

 実際、彼らもその被害にあったのは一度や二度ではない。証拠が出てきて事件が表沙汰になった話すらある。

 これならばこちらで証拠をでっち上げるのも容易だし、自分達も被害者だと言い張れるだけの下地も揃っている。

 

『こういう時、彼女達の日頃の行いが活きて来るな』

 

 過去、当事者達は事が表沙汰になっても女性であることを理由に、冤罪(えんざい)だと(わめ)き、証拠が上がれば泣き落としで逃げおおせようとした前例すらある。

 

『それでいこう、証拠はいくらでも作れる。我々は使()()()()()()被害者だ』

 

 今更本当の冤罪が1つや2つ増えたぐらいで、世間はそれを冤罪と認めてはくれない。むしろここぞとばかりにこちら側に協力してくれる所も出てきそうだ。

 

『その間、我々は彼に正当な報酬を用意しておけば、堂々と彼に技術提携の話をもちかけられる』

『状況次第では政府から補助金が出るかもな』

 

 これからの展開を考えると笑いが止まらない。

 女尊男卑の世界が自分達を救う手立てになるとは思いもしなかったが、彼らにしてみれば邪魔者も消せて一石二鳥。

 織斑一夏との接点すら作れるのだ、上層部どころか政府もこちら側につく可能性が高い。女尊主義者が行ってきた非道な行いも同時に用意しておけば、早々(そうそう)ボロが出る事もないだろう。

 

『さて、話も決まったからには早速準備だ。これから忙しくなるぞ!』

 

 

 

***

 

 

 フランス、デュノア本邸。その廊下をひとりの少女が駆けて行く。

 腰まで届く金髪をなびかせ、やや目尻の下がった顔立ちは幼くも色気があり、ボーダー柄のロングワンピースの上からでもわかる肢体はメリハリがあり、将来を期待させる。

 少女は携帯端末を手に目的の場所へ到達すると、ノックもせずに扉を開けた。

 

「に、兄さん兄さん!」

 

 兄と呼ばれた部屋の主はこちらに背を向け、複数の仮想モニタを展開したPCを使って作業をしている最中だった。更にはヘッドセット型のAR機器を装着している為か、彼女がやって来た事にも気づかない。

 気付いてもらう為、そのヘッドセットを外そうと後ろからヘッドセットに手をかけようとする。が、タイミングよく机の上にある飲み物をとろうと体を傾け(かわ)される。

 

(え……?)

 

 一瞬、予想外の行動にキョトンとするも、ならば肩を叩いで気付かせようと手を伸ばすが、これも自然な動きで躱されムッとする。

 

「もう! 兄さ――キャッ!」

 

 今度は椅子を揺らそうと背もたれに手を伸ばすと同時、男は立ち上がり、少女は背もたれに押されてひっくり返った。

 何かがぶつかった違和感に男が振り返り、ようやく妹が居ることに気づいた。

 

「あれ? シャルロット、どうしたの?」

「~~ッ、どうしたじゃ、ないよぉ……」

 

 吹っ飛ばされた痛みに涙目になりつつ、彼女――シャルロット・デュノアがランクスを睨みつけた。

 

「とにかく、まずは立ち上がった方がいいと思うよ。見えそうだから」

「え? ぅわっ!」

 

 シャルロットは慌てて(すそ)を押さえ座り直す。ランクスの淡々とした指摘に、とりあえず睨みつけておく。

 

「かわいい義妹(いもうと)に対して、扱いがヒドイ……」

「で、何か用があって来たんじゃないの?」 

「あ、そうだった。これ!」

 

 言って、手にした携帯端末を前に突き出す。

 そこには過去に織斑千冬がドイツでIS教導を行っていた事、その一環としてDSOを利用している。と同時に、イチカこと織斑一夏とはプレイヤー同士で懇意(こんい)にしているというのがニュースで公開された。

 

「遅いよ、この情報(ネタ)

「……知ってたの?」

 

 ん、と言いつつ、机の上にある携帯端末を渡す。そこには今持ってきたニュースの他に、IS産業が活発な主要国もDSOによるISのシュミレーションを行っている事をカミングアウトするニュースがある。

 

「どうするの? 兄さん」

「どうもしないけど?」

 

 あからさまにイチカとの接点があることを意識させる発表だが、ランクスに言わせれば一介のプレイヤーとのやりとりだと言われてしまえばそれまでの話だ。そこから国家規模に発展させれるのは難しい。

 それこそ開発元が日本である以上、日本国籍の織斑一夏の所有権を正当に主張できる口実にもなりかねない。しかしシャルロットはそこまで読めないのか、ランクスの言葉に驚く。

 

「え、でも――」

「この話題そのものは重要じゃないからね。必要なのは次へつながる展開」

 

 言いつつ、着けていたヘッドセットをシャルロットに装着。

 そこには複数の図面と等身大のISのようなものが表示されていた。

 

「これ……ISの図面? と、こっちは完成予想図?」

「そ。イチカと組む予定の専用機」

「は!?」

 

 皮算用もいい所だ。

 織斑一夏が表に出て一週間、各国が彼を獲得しようと水面下で(しのぎ)を削っているというのに、義兄(ランクス)はまるで彼がフランスに来るような行動をとっている。

 

「DSOではイチカと相棒の関係だし、僕の現実(リアル)も説明してる。その上でデュノアに来るように声もかけた」

「だからって、それで来る訳が――」

「来るさ、必ず来る。というより、来る以外の選択肢がないんだ」

 

 それが予定調和と言わんばかりの義兄(あに)の言葉を理解できない。

 何か策を弄しているのか、他に理由があるのか。視線は机の上にあるモニターに向けられているが、文字の羅列ばかりでシャルロットは全く理解できない。

 

「大丈夫。シャルロットはイチカと会った時に、何をお話すればいいのか考えているだけでいいよ」

「ふぇっ!?」

 

 予想外の不意打ちに、シャルロットが赤面する。

 後に、この予測が現実になるなど、彼女を含めほとんどの者達が気づけるはずもなかった。




ようやく序章で外野関連のネタが出揃いました。本当は昨年までにここまで決めたかった(遠い目


どうでもいい話ですが、今回の亡国機業の動きはとある映画、ISの技術者の暗躍は実際に起きた事件が元ネタ。テクノスリラーが好きな人は元ネタ判るかも?

次回も一夏パートではありませんが、意外と重要でヒロイン達の進退にも関係してくる部分。さらにこの一夏がどんだけブッ飛んでるかが判明し、事態は急転する(予定)。いつ出せるんだろ?本編に辿り着くのはいつになるやら……

残るヒロインはセシリアだけですが、この人も意外な登場の仕方になります。しかもずっと後。。。



後書き誤字気付いて編集。

× ヒロインの身体~
○ ヒロインの進退~

ある意味間違ってないケドさぁ……


更に指摘受けてナンバリング抜けてたので編集。
久々に投稿すると色々抜けてるwww

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