DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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以前、間違えて投稿してしまった回。気が付いてすぐ消しましたが、手違いで驚かせてしまい、申し訳ありません。




ようやく世界を巻き込めます(ぇ

ここから3話ほど説明回が続く予定。しかも誰得の9000字オーバー。
SAOがデスゲームにならないだけでどこまで変わり、どこまでブッ飛べるか。

前話でちょっろとだけ触れた『モンド・グロッソの悲劇』が、今回で明かされます。
表向きの部分だけ、ですが。

ついでにここでストックは終了。次週以降も安定して投稿できるかは頑張り次第。


00-07 動き出す世界

「……まったく、酷い目にあったぜ」

「あんなの、誰も思いもしなかったと思うよ?」

 

 『世界初の男性IS操縦者発見』という事件が世界に知れ渡った夜、一夏はDSOに逃げ込みランクスに愚痴っていた。

 

 あれから会場の騒ぎは拍子抜けする程アッサリと収まった。

 騒ぎを聞きつけた千冬とスタッフの連携、無断でオーグマーを使ったAR配信をしていた数馬達の援護により、(わず)かにいたマスコミへの箝口令(かんこうれい)を施行するより先に、一般人が協力してマスコミ達をブロック。

 会場にいる女性達の『カワイイは正義、イケメンは財産』の名の下に協力し、そこに政府の人間が現れたが、世界最強(ブリュンヒルデ)だけでなく、腐った思考の乙女達がいる前で、世界初の男性IS操縦者に手を出すのは命取りだと察し、手出しを控えた。

 その世界初は織斑千冬の弟であり、モンド・グロッソの悲劇の被害者の一人と知れると、鈴を始めとした友人達もまとめて保護するだけでなく、IS学園のスタッフと連携し、マスコミやパパラッチへの対応と今後の恒久的な護衛を約束。それだけでなく、会場から自宅まで護送までする慎重さ。

 それだけあの事件で酷い対応を行ったという証左だが、現時点で政府が取れる手段はあまりにも少ない。

 もっとも、一夏の傍にいた箒もこの混乱に乗じ、千冬に相談してちゃっかり織斑家の厄介になる、というのは完全に予想外だったが。

 

「それにしても、まさかイチカがかの有名な織斑千冬(ブリュンヒルデ)の実弟、しかも実名プレイとはね」

「初めてやったゲームがDSO(コレ)だったからな。右も左もわからないまま本名で始めて、名が売れてきたら二つ名までつけられ、気がついたら変えるに変えられなくなってズルズルと……」

 

 結構黒歴史の部分なのか、話していくにつれてだんだんテンションが下がっていく。

 なんとなくヤバげな雰囲気になりそうだと判断し、強引に話を切り替える。

 

「ニュースで見たけど、両手に花の現実(リアル)放り出して、なんでDSO(こっち)に?」

「その花同士がなんかソリ合わなくてな。晩飯作るだけでもどっちが作るかで口論になった」

 

 なんで二人とも喧嘩腰なんだろう、とボヤくイチカにランクスは苦笑する。箒という少女もイチカに惚れ込んでいた一人らしい。そりゃ恋敵が一緒にキッチンに立てばケンカにもなるだろう。

 この辺の機微がイチカは未だ鈍感だ。なんとなくだが、恋バナは他人事(ひとごと)と考えている節がある。

 

「それはそうと、これからどうする?」

「これからって?」

「世界初の男性IS操縦者。その肩書はどこも欲しがるだろうし、日本政府もこのまま黙ってるってワケでもないんだろうし」

「まぁ、な」

 

 半ば諦めた様にイチカが苦笑する。

 DSOのみとはいえ、そこそこ長い付き合いだ。二人とも大方の流れは予想できている。

 否、DSOプレイヤーだからこそ考えやすいというべきか

 

「考えられる展開は、ブリュンヒルデ経由で日本のIS企業が名乗りを挙げ、そこでISの勉強をしつつ代表候補生への枠組み、って所かな」

「最悪は箒同様、周りの人間を要人保護プログラムで人質にして、こっちの言う事を聞かせる、ぐらいは考えてる。日本政府(あいつら)の容赦のなさは身に染みて理解してるから」

「日本政府ならありえそうだね。僕もモンド・グロッソの悲劇に関しては、僕もある意味当事者だし」

「え……?」

 

 唐突な相棒のカミングアウトに驚く。あの事件は一部のセレブかIS関係者が当事者といえる事件だ。

 その被害者の一人、というからにはそのどちらかの血縁者か。

 

「こちらばかり情報を持ってるのはフェアじゃないからね。僕の本名(リアルネーム)はランクス・デュノア。イチカと同じ実名プレイだよ」

「デュノアって――フランスのデュノア社の関係者!?」

 

 デュノアといえば、IS界隈において現在世界シェア第2位、一夏が起動させたラファール・リヴァイヴという傑作機を世に送り出した最大手企業。

 

 同時に、あらゆる意味でイチカにとって忘れることができない所だ。

 

 

 

***

 

 

 モンド・グロッソの悲劇。

 

 それは近代史最大のテロ事件にして、世界にISを兵器と認識させる事となった最悪の出来事。

 

 本来は織斑千冬のモンド・グロッソ二連覇を阻止すべく、唯一の家族であった一夏を誘拐・監禁して千冬の決勝出場そのものを阻止しようと計画されたもので、出場を辞退する様に日本政府に通達。

 しかし政府はこの事実を伏せ、千冬の決勝出場を決定した事で計画が変更された。

 

 依頼元は報復として織斑一夏の抹殺を実行しようとしたが、土壇場で依頼元と実行犯の意見が食い違い、欲をかいた実行犯が会場に来ていたセレブやIS関係者も拉致。身代金を狙った事で事件が表沙汰になった。

 

 事件を解決すべく、現地の警護に当たっていたドイツ軍と、各国代表の連携による一大救出部隊が組織され、現地警察や有志を含めた一斉捜査が始まった。

 この時に投入されたISは全部で26機。たった1機で戦争を起こせるようなISが26機も投入されたと知れば騒ぎにもなる。

 救出部隊は投降を呼びかける為に部隊内容を発表し、誘拐犯を無抵抗で投降させるのが狙いであったが、事態は最悪の展開を見せた。

 

 この情報を得た依頼元は即座に実行犯を切り捨てただけでなく、誘拐犯の居場所を第三者を使ってリーク。それを知った実行犯は半ばヤケになり、用意していたIS3機と逃走用に準備していた車に搭載されていた武装を展開。誘拐した一夏達を盾にして逃げおおせようと試みたが、当時はISの優位性を過信していた国家代表の大半が女尊主義者であり、現場を指揮していたのはベテランの男性軍人。当然の如く現場で反発が起き、IS操縦者の独断で行われた狙撃が失敗。

 瞬く間に救出現場は戦場へと変わった。

 

 当時から懸念されていた国家代表の独断専行が悪い方向に働き、『現場の判断』で要人救出の計画は誘拐犯の殲滅(せんめつ)に切り替わり、誘拐犯が逃げ回る事に苛立ちを覚えた部隊が(いたずら)に戦火を拡げ、泥沼の様相を呈していく。

 結果、織斑一夏を含めた要人15名のうち10名が死亡。残った5名も重傷を負い、現地住民や観光客も巻き込まれ、最終的に死傷者は2000人を越え、行方不明も1000人以上という大惨事となった。

 モンド・グロッソの開催地であったドイツのデュッセルドルフも、ライン川の一部とラインヴィーゼン周辺が壊滅。世界経済にも影響を及ぼした。

 それだけでなく、誘拐犯も半数が死亡し、残党もドサクサに紛れて逃亡に成功。唯一人確保に成功した誘拐犯が今回の計画を吐き、その情報はIS委員会を通して世界に開示された。

 結果、日本政府の対応が問題視されただけでなく、世界最高峰と言われた織斑千冬が政府不信と、唯一の家族を危険に晒した己の未熟さを理由に現役を引退。更にはこれが引き金となり、篠ノ之束がISコアの製作継続を拒否して失踪。これによって世界にあるISコアの総数は467個となり、コアの増加は絶望的となった。

 

 参加した国家代表の品位も問われ、戦闘に参加した()代表達はテロ行為を助長したとして軍事裁判にかけられると共に、会場での要人警護の体制と監督も問題視された。

 被害に遭ったセレブの親族やIS関係者は早期に動き、被害者を病院に搬送。自らも被害者とはいえ、ISに関わる以上、彼らの体裁を保つという側面もあったが、プライベートジェットの運用やヘリをチャーターし、迅速に多数の医師を確保した事で瀕死の重傷者も一命を取り留め、救助後の死者が出なかったのが救いといえば救いだった。

 

 

 

***

 

 

 この大惨事以降、女尊主義者はテロリストと同列に見られる風潮が強くなり、ただでさえ男女比が少なくなって来た背景もあって、女尊主義への風当たりが強くなり、恋愛はおろか職場でも浮いた存在となっていく。

 そうした中で強調されてきたのが女尊男護(じょそんだんご)という風潮。

 皮肉にもこの風潮が後押しする事で一夏は治療後の早期リハビリを行う事が出来、女性権利者が中心となって支援会を設立。政府も絡んで義捐金(ぎえんきん)(つの)り、被害者達もなんとか治療費を支払う目処が立った。

 

 この時、一夏の病院の手配からリハビリまで準備してくれたのがデュノア社だ。デュノアも誘拐事件の際に母娘を誘拐され、一夏と共に拘束された際、泣きじゃくる同年代の娘を励ましていた経緯がある。

 しかし戦闘に巻き込まれた母が死亡。娘の方も一夏が庇った銃弾が一夏を貫通して被弾したと聞いたが、これ以上騒がれたくない日本政府は、リハビリが終わると同時、護衛と称して一夏を半強制的に帰国させる。

 当時のデュノアも誘拐犯が使用したISがラファールをベースにしていた事から、内通者の容疑をかけられ、徹底した捜査がされていた。

 一夏は帰国後に連絡をとろうとしたが、日本政府は騒ぎの再発を恐れてデュノアとの連絡を制限。なんとか伝手を頼ってメールという形でデュノアに援助の礼を送ったが、デュノアの事情を知って二度目以降の連絡を自重。そのままタイミングを逃し、今に至っている。

 

 

 

「……あの時、俺がもっとしっかりしていれば、あんな事件は起きなかったんじゃないか、デュノア母娘(おやこ)も助かったんじゃないかって、ずっと思ってた」

「それは――」

「わかってる、これは傲慢(ごうまん)だって。それでもあの時の自分が許せなかった」

「それでDSOに?」

「4割ぐらいは意地かな。DSの観点からISを見直して、自分なりに何かできる事をやりたかった」

 

 乾いた笑みを浮かべるイチカを見て、ランクスは『強いな』と思う。

 方法はともかく、イチカは様々なアプローチで世に貢献しているのは知っている。メカトロニクス技術も、ランクスが知る限りでは最高峰の腕前だし、ISへの造詣(ぞうし)も深く、DSをISに酷似させた設定でプレイし、その戦闘でレポートを作成して発表もしている。

 DSOプレイヤーとしてだけ見れば、オタクがハマりすぎてISに酷似した設定のロールプレイだが、背景を知ればイチカなりに事故の再発防止を模索していたのだと納得出来る。実際、公開されたレポートだけでも助かったプレイヤーは数知れず、あの事件以降、ゲームマナーを守る者も増えてきた。

 極め付けはあの視野の広さとアビリティに頼らない技量の高さだ。ISの技術も習得すれば、かの世界最強(ブリュンヒルデ)すら(しの)ぐパイロットとして名を()せるだろう。

 

「世界初の男性IS操縦者なんだ。その肩書はどこも欲しがるだろうし、日本もイチカを獲得するのに手段を選ばないんじゃないかな?」

「だろうな。過去の遺恨も適当に丸め込むか、なかった事にして話を進めに来るかも」

 

 半ば(あきら)めた感情を隠そうともせず答える。

 嫌味も隠そうともしないのを観るに、日本政府との遺恨はかなり根深そうだ。

 

(これは……利害が一致するかな?)

 

 行動するなら早い方がいい。そう思って話を切り出す。

 

「なぁ、イチカ。フランスに――デュノアに来ないか?」

「デュノアに?」

 

 一瞬怪訝な表情をし、話を理解する毎に真剣さを増していく。

 

「何故、と聞いても?」

「もちろん打算はあるよ。裏もあるけど、相棒の危機だ。僕が動くことで助けられるなら動くよ」

 

 明け透けのない言葉にキョトンとするが、ついで(せき)を切ったように笑い、つられてランクスも笑う。

 笑って、笑って、コンディションアラートが鳴った頃にようやく笑いが治まる。

 

「あー、笑った笑った。まさかランクスの現実(リアル)知ってすぐ、こんな展開になるとは思いもしなかったよ」

デュノア(ぼくら)の状況が切羽詰まってる、っていうのも偽りないんだけどね」

 

 訥々(とつとつ)とランクスが話し出す。

 

「モンド・グロッソの悲劇の際、テロに使用された機体の殆どがラファールだった事もあってね、デュノアは欧州で企画された次期量産型計画であるイグニッション・プラン参加への話が来なかったんだ」

「世間体、ってヤツか」

 

 ランクスが首肯する。テロに使われた機体を作った会社を量産計画に組み込もうなど、醜聞(しゅうぶん)(たぐい)だ。マスコミが飛びつく格好のネタにもなる。

 

「それにフランス政府からも腫れモノ扱いな上、表立ってはいないけど世間からの風当たりも強くてね。それに耐え切れなかった職員も何人かは辞職したり、引き抜かれたりで人員の工面も難しくなってきたんだ」

「それで広告塔として俺がいれば、また話は変わってくる、か?」

「いろいろ問題はあるけど、お互いの利害も一致するし、何より最もインパクトがある」

 

 確かに諸々の問題こそあれ、日本政府と折り合いがつかない以上、デュノアという存在は大いに魅力的だ。

 ISが作られる環境で安全にISを学べる、それにどれだけの価値があるかなど考えるまでもない。自分の価値を考えれば、そこで自分が希望する専用機が作られる可能性だってあるのだ。

 

「普通なら二つ返事で返すべき、なんだろうな。でも――」

「わかってる。イチカにだって生活があるんだ、今すぐ答えを求めたりしない。選択肢の一つぐらいに考えておいてくれれば、それでいい」

 

 すまない、と小さく(つぶや)く。何かを変えたいと願いながら、いざ目の前にチャンスが来たら来たで尻込みする自分に嫌気がさす。

 しかし一夏がデュノアと組めば過去の遺恨も払拭できる可能性があるし、デュノアはまたIS業界で返り咲く事も夢じゃない。

 何より利害が一致している。

 

「俺は――」

「言ったろ、今すぐ答えを求めたりしないって。

 話を振ってから言うのも卑怯だけど、イチカが納得するまで考えて、それで答えを出して欲しい。でも時間が限られているのも忘れないで」

「ああ。そう、だな」

 

 ランクスの提案は、ある意味一夏にだけ有利な話だ。

 デュノアの広告塔になるとしても、それに異を唱える所はごまんといる。こうしている間も、世界は密かに、しかし確実に機会を(うかが)っている。

 それがデュノアに牙を剥かないなど、誰が保証できる。

 

 どう動くにしても、疫病神(いちか)の扱いをなんとかできなければ、おいそれと答えを出す事はできない。何らかの打開策がない限り、織斑一夏を中心に戦争が起きても不思議ではないのだ。

 

(……どう動くにしても、騒ぎは大きくなるか)

 

 難題過ぎる問題に、イチカは頭を抱えたくなった。

 

 

 

***

 

 

 その頃、世界は男性IS操縦者獲得という手段に向け、静かに動き出していた。その目的は一夏の予想とは裏腹に――否、予想の斜め上に向かって。

 

 中でもドイツは予想通りというべきか、予想外というべきか、当初から全く別の方法でのアプローチを計画していた。

 

「それでは、我がドイツは織斑一夏との直接関与ではなく、協力関係を優先すると?」

「はい。友好的な関係を築くだけで信頼関係を得られるかと」

 

 高官達が並居る会議室、その中心で銀髪の少女が答える。その姿は毅然とし、准将を筆頭とする高官達を前にして、僅かにも動揺する素振りさえ見せない。

 

(変われば変わるものだ)

 

 老齢に差し掛かった女性准将が(いつく)しんで目を細める。

 試験的に設立を計画しているIS部隊、その隊員を育てる上でDSOという存在は格好の隠れ(みの)だった。

 かつてドイツに教導で来ていた千冬の提案により、半信半疑でDSOをIS教育の一環に組み込んでみれば、思った以上の結果を(もたら)してくれた。

 最も気難しかった少女がDSOを通じて技量を上げたのはもとより、社交性を得るまでに至った。毅然とした態度も堂に入っており、数年もすれば公式の場に出しても問題ないレベルになるだろう。

 

「君が提出した案もなかなかどうして」

「うむ。これなら不測の事態が起きても随時対処が可能だ」

「正直、これ程の案が出て来るとは」

「DSOではこのような事態が常なのかね?」

 

 矢継ぎ早に上がる会話に頬が上がりそうになるのを(こら)え、少女は高官達に意見する。

 

「今回提出した草案ですが、元々はイチ――(くだん)の男性IS操縦者がDSO内で頻繁(ひんぱん)に上げていたレポートの一つです」

「なんと……!?」

「彼はこの事態を想定していた、というのか?」

 

 にわかにざわつく高官達。銀髪の少女は「いいえ」と答え、補足する。

 

「モンド・グロッソの悲劇以降、彼はDSを通してISとそれに関する技術を模索すると共に、あの悲劇の再発を防止すべく様々なアプローチを試みています。その結果、レポートが増えるにつれ、戦闘においてはクラン規模の戦闘方法はもとより、単機での領域支配(エリア・ドミナンス)にまで言及されています。

 正直な所、私を含めたクランメンバーも彼との共同戦線で助けられた事も多く、その技量はゲーム内とはいえ、教官をも凌駕する腕前です」

 

 おぉ、と高官達から驚きの声が上がる。

 普通の感性であれば『たかがゲームの出来事』と一笑に伏すものだが、そのゲームで培った技術は多少の修正はあれど、ISへフィードバックできたのを鑑みれば、その成果を軽視できないだろう。

 

「であれば、この事態に対する草案は――」

「はッ。彼はあの出来事を繰り返さない様、彼なりに模索した結果かと」

 

 ふむ、と准将は考える。彼が作成したというレポートは、軍人という観点から見ても驚異的ともいえる完成度だ。

 しかし、ゲーム内という観点からすれば病的ともいえる。噂では彼はメカトロニクス技術にも精通し、ソフトウェアに関しては本職も唸らせるものだと聞く。

 その技術を得た経緯も、生活費を得る為のバイトらしいが、『あの噂』が本当であれば、その報酬はバイト代程度で済ませていいものではない。

 

(この状況、使えそうですね)

 

 世界初の男性IS操縦者。その存在を求める所は合法・非合法問わず、あらゆる手段を以て接触しようとするだろう。

 そうなればこちらは彼女の提案通り、直接関与は避け、友好的な関係を築くだけで信頼を得られるだけでなく、()()を発足させるいい口実にもなる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。貴女(あなた)の提案、私は賛成しましょう」

「准将!?」

 

 隣にいた高官が准将に抗議するが、准将は涼しい顔で考えていた計画を口にする。

 

「これは我が国にとってもチャンスです。彼を守護する名目があれば、“アレ”も設立しやすいでしょう?」

「……なるほど」

「確かに。彼女を窓口にすればなにかとやり易くなるでしょうし」

 

 高官達が一斉にラウラという少女を見る。

 一糸乱れず、揃って視線が自分に集中する姿はある意味レアだが、その異様さにラウラがちょっと退いた。

 

「ふぇ? あの……?」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。あなたはDSOにおいて、彼とその相棒とされるランクスというプレイヤーとも親しい関係にある、という話は本当ですか?」

「え、えぇ。私個人というワケではなく、クラン規模でミッションの協働を依頼したり、何度か素材集めにも協力するような関係ですが」

 

 別に隠す内容でもないので事実を報告する。准将はニヤリと笑い、とんでもない計画を口にし始めた。

 

「そこであなたの出番です。かねてより計画されていたドイツ軍指揮下におけるIS運用部隊――その部隊メンバーにあなたを抜擢し、彼を護衛すると共に教導に協力しようということです」

「は、はぁぁぁ!?」

 

 ここがどこで誰を前にしてるかも忘れ、ラウラは素っ頓狂な声を上げた。

 

「そ、それは普通に世界との軋轢(あつれき)を生んでしまうのでは!?」

 

 ISの軍事利用はアラスカ条約で禁止されているし、ラウラも今の年齢(14歳)で軍事任務に従事すれば、ジュネーヴ諸条約にも違反する。

 常識で考えても、本当に行えば世界を敵に回す事になる。

 

「まあ聞きなさい。あなたを候補選抜生から正式に代表候補生に抜擢(ばってき)し、そのバックアップ部隊とISの管理の全てをドイツ軍が行う、という事です」

「そ、それは――」

 

 それはどこにでもあるISの運用態勢だ。

 モンド・グロッソの悲劇以降、一歩間違えれば兵器にもなりうるISの運用・管理を軍が行うのは珍しくなくなった。

 

「あなたが彼の教導をする事で、我が国に教導を行った織斑千冬の株も上がり、あなたを通して協力体制をとる事で、我が国は彼との接点を得る事ができる。WIN-WINの関係というわけです」

 

 確かにその方法であればイチカと接点を得られる。

 国家代表や代表候補生の素行に関しても、IS学園に一任するのではなく、最低でも少尉以上の権力を与えると共に責任を負わせ、自分が何を扱い、どんな立場なのかを自覚させる。

 国によってその方法は様々だが、モンド・グロッソの悲劇はそれだけ世界に影響を与えた事件だ。(おの)ずと日本がどういう目で見られているかが判る。

 この高官達は日本の暴走、もしくはそれに見せかけた各国の暗躍を狙っている。それに先んじてこちらが協力的な態度を取り、時間をかけてでも彼を自国(ドイツ)に引き込もうという魂胆だ。

 

 気が長い話だが、最も確実で堅実で誠実。

 どこからも文句が出ないし出せない。何より自分好みのやり方だが、問題がないこともない。

 

「は、話は解りました。しかし、それを行うにしても初動は――」

「いずれ来ます。彼を獲得する為に行動する所など、掃いて捨てる程ありますから」

「確かに。特に日本などは過去の遺恨もありますし、暴発する可能性は最たるものでしょう」

 

 それはちょっと考えればいくらでも出てくる。日本もさる事ながら、世界の指導者を僭称(せんしょう)するアメリカ、隠し事が大好きなロシアや水面下で行動する中国なども軽視できない。

 

「た、確かに可能性は高くありますが」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。初動は特に問題視するものではありません」

 

 

 まさか、とラウラの目が驚愕に見開かれる。

 初動を問題視しないなど、考えうる行動は限りなく少ない。その中で解り易く、今後の行動がしやすい展開などほんの数手だ。そしてその行動は下手をすればイチカに悪印象を持たれかねない。

 

「安心なさい、我々はそこまで楽観視もしていません。その布石も既に打っています」

「布石、ですか?」

 

 不安なラウラに対し、准将は不敵な笑みを浮かべた。




代表候補選抜生と、代表候補生に関する下りは独自設定です。部活等における部員とレギュラーみたいな関係と考えてもらえれば。
ようやく諸々の仕込みを入れられるようになりました。今回は現実パートの分で、次回はDSOというか、仮想に関する部分の仕込み。とりあえず消化できる分は全部入れる予定。


第2回モンド・グロッソは、この世界では一夏が12歳(小6)の秋頃(つまり一夏の誕生日が過ぎた頃)に起きた事になっています。お蔭で一夏は小学校の卒業式に出席してません。中学も卒業式は――あっ(察し

ちなみに使わない(予定の)ネタなので公開しますが、第1回は前年。千冬が強すぎた為に各国が不正疑惑などをでっち上げ、あれこれ騒いだ事で第2回が前倒し(というかやり直し?)で開催された、という設定。
こうすると誘拐犯がどこで計画されたかわかりやすくなるかな?
ちなみにドイツではありません。ヒントはSAOです。


第2回の会場をドイツのデュッセルドルフにした理由は、ドイツ軍が会場の護衛である事、ドイツの主要都市の一つであり、世界経済における動脈の一つであると共に、ライン川に沿ってエスプリ・アレーナやノルド・パークといった有名な観光地もあり、IS競技を行う為に必要な『広大な敷地』という条件を満たしているから。
更に川に沿って南下すればノルトライン=ヴェストファーレン州議会や工業地帯が並び、ヘーアトまで視野に入れれば総合病院が存在する為。色々匂わせる事ができる施設が充実しており、実際、映画やドラマの撮影で使用された事もあります。
日本でいう神奈川の川崎、ないしは大阪の岸和田に近い感じ。微妙にメジャーではないので、大きなイベントでもない限り観光地としては目に留まりにくい場所。逆に商業的見地ではよく使われます。
こういう風に地理で遊びを入れられるのもISの面白みかな、と。
実際にこの時期の現地で開催すると、ドイツは日本の初冬並みの気温(日中でも最高10℃前後)なので、ISスーツで待機してたら寒そうですね。

Q:これだけの被害が出てるのに、どうしてDSOは人気なの?
A:銃と同じ。コントローラー握るか本物握るかの違い。

Q:デュノアはISシェア3位じゃなかった?
A:原作開始前なのでこの位置に。
 ラファールという傑作機を世に送り出した勢いがまだある、という考え。しかしランクスいるんで、原作以上にブッ飛んだ事になりそうですが。

Q:ラウラは既に力と暴力の違いに気付いてる?
A:2話の時点で少し触れてますが、中身的にはVTシステム後より成長してます。
 VRゲームやってて人と触れあってるのに、中身あのまんまじゃヒロインは無理があるだろう、という事でひとつ。
 この世界のにおけるラウラの越界の瞳との相性ですが、医療技術の発達でそこまで相性は悪くないという設定。
 後々描写を考えていこうかと思ってますが、眼帯の代わりにオラクルかメガネ装備させようかと考えてます。ちょっと意外な展開を思いついたので。
 ついでに女子力超強化。ファッションはもとより、料理はお菓子作りが趣味になりつつある設定。ちっこい娘が料理上手なのは正義だと罰ゲーム言い出したヤツが言ってたので。


これだけ書いて、ようやくSSというか、小説の書き方とかが見えてきました。
余裕が出来てきたのかな?
余裕が出てきたから暴発(誤爆?)したような気が……

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