DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

3 / 24
 現実パート。お待ちかねの鈴ちゃん登場。こっちの鈴は原作より女子力が上がっているようで……
 ついでにちょっとだけ盛ってます(何かは本編で)

 服装とかのオシャレにはなるべく気を遣う予定。コーデに気をつけないのは自分的にはアウトなので。


どうでもいい話

「とりま罰ゲームでちゃんと話投稿始めたから」
「俺ROM専で感想書かずに反応見るから」

ひどい・゜・(つД`)・゜・


※タイトルにナンバリング入れ忘れていたので修正。


00-03 織斑一夏の日常

 DSOでゾルダートの依頼を受けた夕方。イチカこと織斑一夏は昼寝をしていた。

 休日らしくプリントTシャツとハーフのチノパンという格好で、両手と両足に奇妙な形をしたリストとアンクルをつけている。

 ランクスとローラはそれぞれフランスとドイツからDSOにインしているらしく、時差はほぼ変わらず7時間前後。向こうでは大体夕方から深夜にかけてプレイしている事になり、一夏は深夜から夜明け頃までDSOをプレイしていたことになる。

 ややオタクよりのプレイ時間ではあるが、逆に向こうがこちらの時間に合わせてくれることもあるし、今回はたまたまだ。

 

 一夏はそのまま起きて日課にしている朝の鍛錬を行い、軽く家事を済ませたら余裕ができ、軽く休憩するつもりでリビングで横になっていたら、ついウトウトしてしまった。

 時期は夏休みに入ったばかりの夕方、窓は網戸をかけて全開。

 夏らしく暑いことは暑いが、扇風機と外から入って来る風の流れが心地いい。

 

 今この家には一夏が一人で住んでいる。姉の千冬はかつてISの国際競技(モンド・グロッソ)世界最強(ブリュンヒルデ)にまで至った女傑。人伝(ひとづて)に聞いた話ではその技量を買われてIS学園で教鞭を振るっているらしく、姉からの仕送りとDSOで得た報酬、それとたまにあるプログラムを始めとしたネット関連の仕事(バイト)で家計をやりくりし、一夏はこの家に基本一人で暮らしている。

 月に数回は千冬が帰って来るが、それもちょっと顔を出すだけだったり、着替えを取りに寄ったりするだけ。一日家にいるというのは年に数回あるかないかだ。

 そんな事情を知る周りからは、一夏の一人暮らしを心配する声もある。

 というのも、ここ30年程前から男の出生率が減少し、千冬の世代で男女比が崩壊。一夏の世代に至っては男女比は100人に一人が男という割合で、女性は男性に出会える確率が極端に減っている。

 そんな中での年頃の男子の一人暮らしは同世代のみならず、男日照りのオバ――嫁き遅れ予備軍にとって格好の獲物と見られやすく、近年発生する性犯罪の被害はほとんどが男だったり、下着泥棒の被害も大体が男。年頃の男はISが出た影響か、女性へ何かをするということもなく、女性の被害は激減。

 かつて創作などで(うた)われた“男女あべこべ”に近い状況が世の中に生まれていた。

 

 閑話休題。一夏がプログラマーの仕事をするようになったのも、元を正せばDSOがきっかけだ。

 あの世界で初めてVR技術を目の当たりにし、仮想の世界で空を飛ぶという、現実ではありえない事も可能になる世界に魅せられ、在宅で学生でもできる仕事ということでプログラムを勉強。

 ネット上の仲間達から回して貰った仕事を淡々とこなす姿は、まるで親の帰りを待ち()びる子供に見える事さえあった。

 一夏は周りの心配する声を押し切り『姉の帰りを待つ』と言って、頑なにこの家に独りでいた。まるでそうしないといけない様に。

 

 そんな中、かちゃりと玄関のドアが開き、そっとツインテールの少女が顔を出す。小学校から付き合いのある同級生、凰 鈴音(ファン・リンイン)だ。

 庭からリビングを見た際、一夏がソファで昼寝をしてるのを見つけ、気を遣って音を立てない様に入って来た。

 ちなみにこの家のセキュリティは高く、玄関だけでなくリビングの窓に至るまで警報装置が設置されている。これを回避するには家の鍵を使用して入るか、家主が招き入れない限り解除がされない徹底ぶりで、凰 鈴音(ファン・リンイン)こと鈴は、紆余曲折あって合鍵を貰って出入りできた。

 

 鈴はリビングで一夏が熟睡しているのを見ると優しげな笑みを浮かべ、荷物を置いてそのままキッチンへ。手にした買い物袋から食材を取り出して必要なもの以外は冷蔵庫へ。

 炊飯器をセットすると、慣れた手つきで鍋やフライパンを用意。エプロンを取り出して料理の準備を始めた。

 

「~♪」

 

 小さく鼻歌を歌いつつ、片手鍋をコンロにかける傍ら、オクラを塩で板摺りしてわかめを一口大に切り、胡瓜(キュウリ)は包丁で手際よく薄くスライス。レバーを取り出し小口に切って塩で揉んだら、水にさらして臭み抜き。

 お湯が沸騰したらオクラをさっと湯がいて色を出し、細かく刻んでわかめと胡瓜に合わせてボウルの中へ。ポン酢とごま油で和えてちょっと味見、ポン酢が少し弱かったので追加。豆板醤(トウバンジャン)とおろし生姜、焼き肉のタレ(中辛)を合わせ、そこに中濃ソース。味を見ると少し辛いが、これは後で何とかなると思い、レバーを(ざる)に引き上げた。

 レバーに蜂蜜をかけてよく揉み、片栗粉をまぶす。ニラを取り出してざく切りにし、オクラで使った片手鍋にもう一度水を張って粉末の煮干しだしを入れた。

 その間に卵を3つ割り、ほぐす間にフライパンへ火を入れサラダ油を少し多めにひく。

 もやしを取り出して袋を開けると、水を入れてさっと水洗い。水気を切ったら熱したフライパンに入れてフタをすると、片手鍋のお湯が沸騰したので計量カップに味噌を入れ、鍋からお湯を注いで液味噌を作る。ついでに水分多めの水溶き片栗を作ると、片手鍋に入れて緩めにとろみをつけた。

 フライパンのもやしがいい感じに火が通って来たので一度取り出してレバーを炒めつつ、火が通るまでの間に作った液味噌を入れてやや濃い目の味噌汁を作り、溶き卵を菜箸に伝わせながら細く長く。卵の花が咲き、弱火にするとレバーの方へ。

 火が通った所でもやしと一緒に作っておいたタレを入れ、フライパンを振りつつ味を馴染ませると両方にニラを投入、レバーの方が茎側で、鍋の方に先の方と分けて入れる。このタイミングで味噌汁の火を止めた。

 ニラレバが完成するとトマトを取り出し、賽の目に切る。残った溶き卵に味噌汁とガラスープの素をちょっと入れ、軽く混ぜ合わせてニラレバを作ったフライパンへ。弱火にしながら残ったタレを絡めるように半熟卵を作り、それを取り出すと賽の目に切ったトマトを投入。フライパンの中で万遍なく回し、火が通って来た所で半熟卵を投入。アレンジが入っているが、日本ではあまりなじみのないトマトと卵の炒め物を作り、和え物を小鉢に移して白ごまをふりかけると今夜の晩御飯が完成した。

 ここまでの所要時間が40分とかからず、彼女が料理に慣れているだけでなく、調味料まで把握してるのを見れば、この家によく出入りしてる事がわかる。

 時刻を見ると夕方の6時半、夕食をとるには丁度いい時間だろう。テーブルにおかずを並べてから一夏を起こそうと思ったが、臭いに釣られたのか、むくりと起きて寝惚け顔で周りを見た。

 

「あ、起きた?」

「……りん?」

 

 まだ頭が回ってないのか、舌っ足らずな声で名前を呼ぶ。普段は頼りになる一夏が、無防備な姿を見せる寝起きの瞬間は鈴のお気に入りだ。一夏にとっての“特別”になれた気がして内心誇らしくも愛らしい。

 そんな気持ちをおくびにも出さず、エプロンを外して前屈みに一夏を見た。

 

「もう、またDSO(ゲーム)に夢中になってたの?」

「ランクスと一緒にブランの調整してたんだけど、ローラから依頼が来てな。そのままエクストラやってた」

 

 大きく伸びをしてあくびを一つ。ふと時計を見て既に夕飯時である事に気付くと、くぅ、と腹時計が鳴った。

 

「お腹すいたでしょ。ご飯出来てるから食べよ」

「ん、いつもゴメン」

 

 いいから、と言って鈴は腕をつかむと、何かに気付いたのか、一夏はふいと目を逸らす。

 

「? どうしたの?」

「その、格好――」

 

 言われて下を見る。今の服装はピンク色したオフショルダーのロンパース。暑いのも寒いのも苦手な鈴は、夏は無防備といえるほど軽装を好む。前屈みになれば当然肌をさらけ出す格好になり、慌てて胸元を押さえて背を向けた。

 

「……見た?」

 

 真っ赤になった顔をしてチラリと一夏を見る。

 

「あー、その……うん」

 

 同じく真っ赤になった顔を背け、小さく頷いた。

 

「~~~~っ!!」

 

 更に耳まで真っ赤になり、ぺたんとその場に座り込む。

 今日は暑かったからインナーをつけてないため、一夏の位置からすると多分モロだ。まだチューブトップやブラフィールのタンクトップを着けてれば中は見えなかったかも知れない。正直に答えたのは女の子としてはアリだが、すぐに目を逸らしたのはなんか色々と複雑だ。

 

「……いちかのえっち」

 

 鈴はそれを言うだけで限界で、一夏は艶事(いろごと)で反論できるだけの語彙(ごい)力はなく、甘んじで(そし)りを受けるしかなかった。

 

 

 

***

 

 

「一夏ってさ、最近ラッキースケベのスキルとか実装した?」

DSO(あっち)でもンなスキルないし、そもそも現実(リアル)なんだから実装できるか」

 

 味噌汁を()ぎつつ、ありもしないスキル実装に一夏がムッとするが、最近二人の間にはそれっぽい事が多くあり過ぎて一概に否定できない、とちょっと思ったりもする。

 今更だが、鈴もDSOプレイヤーの一人で、クラン『キャットライド』のメンバーでもあり、アバターネームはリン。ローラやランクス等とも面識があるどころか色々教わった仲だ。

 

「もしかしてランクスと付き合い長いから、そっち方面の知識もランクスから――」

 

 またもや一夏が目を逸らす。その反応で鈴は察し、再度気まずい空気が流れ始める。二人にネット用語を教えたのは主にランクスやエクエスを始めとした男性プレイヤー達で、何も知らない一夏や鈴にあれやこれや教えたお蔭で鈴はそっち方面にも明るい、むしろ知識を得たせいでそっち方面で暴走しやすくなった。それで去年の秋頃に、ある事情から鈴が『一夏を振り向かせる』と宣言したのがきっかけでこんな関係が始まったが。

 

「そ、それよりも一夏は夏休みの宿題、どこまで進んだの?」

 

 かなり強引に話題を変え、一夏も気まずい空気から抜けたかったのでその話に合わせる。

 

「宿題はほとんど終わってる。残ってるのは自由研究ぐらいだ」

「相変わらず早いわね」

 

 一夏は昔から勉強の類はかなりできる方で、DSOを始めてからはネットの仲間達にも教えを()い、その学力は伸びに伸び続け、今年の中学模試で全国のトップ10に入った。

 家事も人並み以上に出来るし、中2に上がる頃には周りに()われる形で勉強を教え始め、最近では女性の機微にさえ気を遣うようになった。そんな優良物件を女性は逃すはずもなく、同じ学校どころか近隣の女学生までコナをかけに来る。

 一夏を盗られまいと鈴はアレコレ世話を焼き、なんとか自分を意識させようと奮起し、去年の告白騒動にまで至るが、その裏には女性特有のドロドロした関係がない。

 そんな事がバレたりすれば意中の男性に嫌われるのは目に見えているし、何より自分を磨いて振り向かせた方が印象はいい上、諸々(もろもろ)の後腐れがない、というのが近代女子共通の認識だ。

 

「で? 今日はちゃんとご飯は食べたの?」

「えっと……」

 

 うろ覚えで今日の朝から何を食べたかを思い出す。が、よくよく考えると目の前にあるのが今日の1食目であるのに気付く。というか夏休みに入ってからまともに白米とか目にしてないし、最後に台所に立ったのは夏休み初日に千冬が帰宅した時だ。

 それが顔に出ていたのか、鈴は怒りを(あらわ)に一夏に食ってかかった。

 

「ちょっ、鈴、ちか――」

「もう! なんで一夏は自分の事になると適当になるのよ!」

 

 一夏の唯一にして最大の欠点は自身に無頓着な所で、一人になると途端にズボラになり、休日の普段着も適当。ともすれば食事すら抜いたりもしばしば。過去にも栄養失調で倒れた事があるのに、一向に治る気配がない。

 今日も鈴が来なければ、一夏の晩御飯は良くて千冬が貰ってきて常備品となったエナジーバーといくつかのサプリメント、スポドリという結果になっただろう。

 一夏自身も料理の腕はこの歳にして既に本職レベルだが、自分の為にその腕を振るうというのが滅多にない。

 以前、鈴の家がやってる中華料理店で、冗談のつもりで店長である鈴の親父さんに厨房を任されたら、手際よく注文されたいくつもの料理を手早く次々と捌いて親父さんを唸らせた事もある。それで親父さんに気に入られて一時期は店の厨房でバイトした事もあるが、どういうわけか一夏はその腕を自分の為に使うという事をしない。

 普段の食生活が鈴にバレて以来、こうしてちょくちょく彼女は一夏の家で食材を持って来ては食事を作りに来るようになり、場合によっては一通りの家事までやっていくようになった。

 当初こそ初心者丸出しの(つたな)い腕前であったが、通う度にレパートリーが増大し、家事の技量も上昇。今では同年代どころか熟練の主婦に引けを取らない腕前となった。

 

 人はこれを通い妻というのだが、彼女は未だその事に気づいていない。

 

「ボリューム多めに作っておいて正解だったわ。冷めないうちに食べましょ」

 

 言いつつ、ご飯をついで一夏に渡し、鈴も自分の分を用意して席に着く。

 

「んじゃ、いっただっきま~す」

「いただきます」

 

 鈴の元気な声に合わせ、一夏も手を合わせて箸を取る。目の前に色とりどりのおかずが並び、ニラレバをメインに、オクラを添えたわかめと胡瓜の和え物、トマトと卵の炒め物にニラと卵の味噌汁。

 夏は汗と一緒にビタミン群やミネラルを失いやすく、また冷たいものを選びやすいため便秘がちになったり下痢になりやすい。

 中華よりの味付けになるのは鈴らしいが、これは食べる人の事を考えたバランスのいい食事だ。

 メインのニラレバを一口。パサつきやすいレバーがしっとりとしていて臭みもなく、ニラともやしのシャキシャキ感もさることながら、甘辛さのバランスもご飯と合わさると丁度いい。

 続けて和え物を口にすると、ポン酢の酸味とごまの風味がよく、オクラの粘りが酢のツンと来る風味を押さえてくれるので食べやすく、ニラレバとの相性も良くてご飯が進む。

 トマトと卵の炒め物は馴染みこそなかったが、口にするとさっぱりしたオムレツといった感じで食べやすいし、気持ち濃いめの味噌汁を口にすればまた白米が欲しくなる。これを総じて評価するなら

 

「美味い」

 

 この一言に尽きる。変に食レポとか何とか感想を述べるのが凄く失礼な感じがして、ただただ食べる事でしか美味さを表現出来ないのが口惜しい。

 鈴は自分が作った料理を一夏が笑顔で美味しく食べているのが嬉しくなる。

 かつては拒食症かと思えるほど食事に興味を持たず、何かに迫られる様に自身を追い詰めていた陰も見えず、今の一夏を見ているだけで胸がいっぱいになる。

 鈴にとって特別なおかずが一品増えた事に内心喜びつつ、食事を続けた。

 

 

 

***

 

 

「あたし、今日からこっちにしばらく泊まるから」

「はぁッ!?」

 

 二人で洗い物をしてる最中、いきなりの発言に一夏は目を白黒させる。

 今までは放課後や週末に勉強したり、彼女が作った夕飯で食事をしたりといった関係だったのが、いきなりのお泊り。男女一つ屋根の下というハードルの高さに驚くなというのが無理な話だ。

 

「いや、でもお店の方は?」

「しばらく亜稀さんと燕さん(バイトの人達)が来てくれるって」

「おじさん達がそんなの許す訳――」

「二人から即決でOKもらった」

「千冬姉が――」

「事情話したら合鍵くれた」

 

 知らぬ間に外堀がしっかり埋められている事にぐぅの音も出ない。手回しの良さもそうだが、どうして周りが止めないのか。特に千冬姉。

 

「え、ええっとですね鈴さん、未婚の女性が男の家に泊まるっていうのは何かと問題が……」

「何かあったら一夏の所に嫁ぐから」

 

 あっけらかんと答える鈴。ついさっきまで服の中見られただけで顔を真っ赤にしてた乙女はドコ行った?

 用意周到に準備されててぐぅの音も出ない。もし間違いでも起きたら――

 自然と目線が下がっていき、目に映るなだらかな曲線はさっきの光景が脳内でリフレインさせ、何も言えなくなる。

 男女比が逆転したとはいえ、男女の羞恥心も逆転するわけもなく、女性は普通に羞恥心があるし、男性もそれなりに気を遣う。ある程度女性のガードが下がっているのは否めないが、あの反応は一夏からすれば(いや)でも鈴に“女”を意識させ、慌ててゲスい考えを振り払う。

 

「「…………」」

 

 お互い無言になってしまった中、ちらりと鈴を見る。今日の服も動き易さを優先しながら女の子らしさもある。何より久しぶりに見た鈴の私服姿は一夏の“男”を刺激する。

 

(……意外とあったよな)

 

 幼馴染の成長に気付いた瞬間だった。あの時も一瞬だが全部見えたわけではなく、本当に肝心な部分がギリギリ見えなかった。

 さっき食ってかかられた時も鈴は前のめりの格好になり、見えそうで見えないギリギリのアングルは、控えめな膨らみに視線を持って行かれそうだった。

 その『あとちょっと』がもどかしく、またその部分を何度も思い出してしまい、自然と視線が下がっていく。

 そういう目で見ちゃいけない。いけないと思いつつも意識してしまう。でもしかし――ひとり葛藤(かっとう)している間に、いきなり耳に衝撃が走った。

 

「ぅいででで!?」

「こンのスケベ! ヘンタイ! ムッツリ! なに覗いてんのよ!」

 

 頬を紅く染めた鈴が思いっきり一夏の耳を引っ張り罵詈雑言。今のは完全に一夏が悪いと判っているだけに反論の余地がない。

 

「い、今のは俺が悪かった。悪かったから手ェ離して!」

「ここはもういいから、お風呂の準備してきなさいッ!」

「は、はぃぃ……」

 

 何とか声を絞り出し返事をすると、鈴は手を離した。

 

「ほら、さっさと行く!」

 

 慌てて風呂場に駆けていく。ムスッとした顔をして鈴はその背中を見送ると、洗い物の片付けを再開する。

 

 ――しばらくして、その手が止まった。

 

 

「……あいつも、そういう目で見れるんだ」

 

 あんな一夏は初めてだ。他の男子にもそういう目で見られたことはあるが、不快感しか抱かなかった。それが一夏になった途端、不快感どころか嬉しさが(まさ)る。

 今まで他の女の子が抱きついたりしても、一夏は困惑するだけであんな目で見ようとしないのに。

 

「ちゃんと女の子として見てくれてる、って事よね」

 

 そっと自分の胸に触れる。同級生と比べるとやや控えめだが、それでもちゃんと“前”と言い切れるなだらかな膨らみがあり、幼い果実を(あらわ)す曲線を描いている。

 先ほどまじまじと見ていた一夏を思い出し、小さく笑う。幼馴染という距離から女の子として見てもらえたのに、嬉しさと恥ずかしさが相俟(あいま)って何とも言えない。

 この感情(きもち)をどう表現すればいいのか。

 でも、と思う。もし一夏に女として求められたら自分はどう答える?

 

 ――ぞわり、と鈴の女の部分が鎌首を(もた)げた。

 

「……泊まる、って、言っちゃたんだよ、ね」

 

 途端、自分がどれだけ大胆なことをしてるか気づいた。

 初めこそ一夏の食生活を見ながら勉強を教えてもらう。そんなありきたりな理由で泊まるつもりだった。

 『何かあったら嫁ぐ』なんて言葉も半ば勢いだ。

 一夏も『そこまでの事は考えても行動に起こさないだろう』と、ある種信用に近いものを(もっ)て言ったに過ぎない。

 

「あいつ意外と体格(ガタイ)いいのよ、ね」

 

 身長こそ鈴とあまり変わらないが、かつては剣道を(たしな)んでいたらしく、その名残なのか一夏は毎日の鍛錬を欠かさない。

 それだけでなくあの手足についているリストとアンクルは誰かから貰ったというパワーリストとパワーアンクルで、1つ3kgという重量でありながら、日常生活でその重みを感じさせる動きはなく、既に体の一部となっているのが(うかが)える。

 先日の学校大掃除の時など、1人で大きなロッカーを持ち上げ、周りを驚かせた。

 あの時はただ単純に凄いと思ったが、もしあのパワーで組み伏せられたら鈴では絶対(かな)わない。それどころか、どこかでそれを望んでいる自分に気付いてハッとする。

 

「なに考えてるのよ、あたし……」

 

 意外と自分もムッツリかも知れない。頭の中に浮かんだ“既成事実”という単語を必死になって追い払う。興味が無いと言えば嘘になるが、そういうのは()()早い。

 

「……あたし()、意外とえっちだ」

 

 今ここに一夏がいなくて本当に良かった。こんな醜い部分を一夏が知ったら嫌われる。

 振り払う様に、黙々と洗い物を再開した。

 後日、その考えが間違いだったと教えられる事になるとは思いもしなかったが。




 鈴の出身は中国ですが、日本へ移住する経緯から、この世界では中国の南通(ナントン)市(南下に上海があるから)。ここをチョイスした理由は南島市の基幹産業が港湾業をメインに、紡績を始めとした各種加工業も発展。その影響で日系企業が進出している経緯があり、更に南通市は学業にも力を入れていて、外国語(英語や日本語など最低でも2カ国語以上)が幼年期から取り入れられています。
 また、観光スポットが多く、それに併せて食文化も多様化しているという点も。料理もその辺を意識して構成しています。

Q:鈴ちゃんはちっぱいじゃないの?
A:少し盛ってます。具体的にはAA→Aぐらい。
 育った原因? だいたい一夏のせい。
 詳しくは今後の本編で明らかに。

Q:一夏って、一人になるとダメな人?
A:YES!
 少し鈍感さが消えているので、ヒロイン勢と絡みやすく、過去という背景を作り易い部分を求めたらここに落ち着きました。原作でも誰かが絡んでないと適当だったので。
 世話の焼き甲斐がある主人公とか、王道だと思うのは自分だけ?

Q:なんで最後にフライパンでトマト調理したの?
A:先人の知恵で、こうするとフライパンがキレイになります。

 中国では食材は『最後まで使い切る』というのが徹底して教え込まれ、家庭料理で生ごみを出す事自体が贅沢とか食材に対して失礼と取られ、調理器具に調味料が残るのも料理下手と見られるんだとか。
 この辺は儒教とか地方の教えが絡むのかな? と思ったり。


ちなみに鈴が作った料理は本当に作れます。というか自分で作って時間を計りタイムを割り出してます。
慣れるとこの量でも30分かかりませんでした。
名前の通り、ちょくちょく飯テロ入れていきます。


次回からストックが続く限り、毎週日曜の18:30に予約投稿しています。
せめて11月いっぱいまでは続かせたい所……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。