DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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お待たせしましたブッ壊れ回――と思ったら文字数が先にぶっ壊れてしまい、前半の伏線部分のみの投稿となります。
戦闘パートに熱が入ったら3万字超えそうになってたw

今まであっちこっち描かれてきた点と点がようやく線で繋がり始め、物語に更なる燃料が投入されてきました。


00-24 蛇蝎達の狂宴

 ラウラ達は更識から装備を受け取り、予定通り広場に展開しているテロリストを相手に戦闘を開始していた。が、その練度は更識をして目を(みは)るものだった。

 

『6時方向、H-1からH-8までのエリア、抵抗戦力なし』

『同じく9時方向、A-1からG-1までのエリア、抵抗戦力なし』

『3時方向、A-8からG-8までのエリア、敵影ありません』

『12時方向、A-1からA-8までのエリア、敵影な――正面、A-5から車両2台!』

『ラウラ、前に出る。クラリッサは他チームのバックアップを』

『了解。D-4に歩兵6名』

『Dチーム了解。カバーを』

 

 歩兵12人を三人一組(スリーマンセル)で編成し、A~Dチームで呼称。四方を見守る形でお互いをカバーし、ラウラ、クラリッサが予定通りISに搭乗。単一で部隊として機能させ、銃火器を所持した部隊に対応しつつ、各班は対人武装を持っている部隊に対応。

 フィールドである広場をチェス盤に見立て、8×8の64ブロックに分割し、北を上にして縦のマスをアルファベット、横のマスを数字呼称しながら各々(おのおの)のクリアリングも用いて時計周りで二重にポイントを注視。中央でIS2機が北西と南東で分担し、それぞれが担当ブロックを適宜(てきぎ)チェックして都度(つど)カバーする徹底ぶり。

 その効果は劇的で、発見の報告から5秒以内でその方角を担当する隊員がダブルチェック。一般人であれば更識のエージェントに連絡して避難誘導、敵であれば10秒以内で最低一人は無力化され、20秒以内で1パーティーが壊滅し、追加で現れた部隊も迅速に無力化するか拘束されている。

 これだけ派手に暴れていれば、テロリスト達は誘蛾灯に群がる虫の様に集まってくる。現に新たにやってきた車両2台は発見から10秒()たずにラウラ機がその頭上を取り、敵と判明すれば一人3秒以内に確実にヘッドショット。弾頭は低致死性のスタン弾とはいえ、ISが装備する強化弾。一発で抵抗する意思どころか意識まで刈り取り、白目をむいて倒れたテロリストを更識の部隊が迅速に拘束していく。

 当の更識は既にお飾りの指揮官となっているだけでなく、エーリヒもオペレーターとして全体を見つつ更識と共に行動していたが、このオペレーターもほぼ機能していないほど練度が高い。

 

「いやはや、素晴らしい練度ですな」

「まだ戦闘中です。何が起きるか(わか)りませんぞ」

 

 エーリヒの指摘に更識が閉口する。ドイツ部隊のスムーズな制圧戦のお陰で、無自覚の内に腑抜(ふぬ)けていたようだ。

 実際、ドイツの部隊が前衛、更識の部隊が後衛を担当する形となってからの被害は皆無で、こちらの部隊は自然と無力化したテロリストの確保と前線への弾薬補給が(おも)となり、余剰隊員は民間人の避難誘導に回せるだけの余裕もある。こちらの鎮圧は時間の問題だろう。

 日本の自衛隊も対テロ戦に関しては防衛と迎撃を主とする訓練をしているし、その一点においては他の追随を許さないと自負している。が、彼女らは更に一歩先、殲滅戦や掃討戦、緊急時の突破戦や退却戦なども視野に入れているフシがあり、それはお国柄なのか、それともあの惨劇を教訓に訓練を見直したのか――

 

(いや、これこそがあのゲーム(DSO)で得た経験、ということか)

 

 五反田 弾のみならず、DSOというゲームは現実以上に濃厚なシナリオを経験するのか、こちらが予想する更に上の“最悪”を常に考慮し、状況を利用して最低でも次善となるように動いている。その読みは個人差こそあるものの、個人でもチームでも最低限のコミュニケーションで護衛対象の安全を確保し、こうして戦力の合流も可能としていた。

 自らの手の内を晒してドイツとの共同戦線を張り、その経緯(けいい)でパイロットの手配もしなかったのも少年たちの提案だ。

 理由も『敵はこの事態を想定して、既にパイロットにも手が回っているはず』というもので、IS特務部門を(にな)(きし) 結華(ゆうか)議員も今回の騒動に何らかの形で関わっている可能性が浮上し、こちらの動きを知られるのを警戒して手配を回さなかったのが吉と出た。

 

(顔合わせで、ただのゲーマーの(つな)がりと(あなど)ったのは間違いだったか)

 

 横目でチラリとエーリヒを見遣(みや)り、彼もこの結果は予想外なのではないかと考える。

 軍人気質のエーリヒは少年達に助力を得る事を恥じるのだろうが、対暗部である更識からすれば、使えるものを使わず本末転倒になる方が恥だ。

仮想課の男から紹介されて彼らと関係を持ったが、その考察は数手先まで的確。言われるがままに必要な物資と場所を用意すれば、後手に回っていた不利な状況を見事にひっくり返し、ドイツのみならず、織斑女史と篠ノ之博士にも顔繋(かおつな)ぎができた事さえ予想外だ。

 織斑女史の話では、一夏(おとうと)の方も初戦闘で複数のISを撃退したらしいが、その代償に重傷を負って博士の所で治療を受けているという。それでもテロリストのISは全機撃墜できたようだし、事態は好転とまではいかないまでも、日本は政治的なピンチを首の皮一枚で(つな)げられる希望も見えてきた。

 

「あとは何事もなく収束へと向かってくれれば」

「ちょっ、今そんな事を言うと――」

 

 更識の(つぶや)きに思わずエーリヒがツッコむが、一歩遅かった。

 

『護衛部隊より連絡。所属不明のISが3機出現、護衛部隊が教官と共に対応にあたりました!』

『海上でイチカが例の無人機共とその母艦と(おぼ)しき巨大兵器相手に一人で大立ち回りしています。無人機は20機以上展開、母艦の火力も諸条約を無視した大規模なものです。あれが本土(こっち)に来たら対処できません!』

 

 案の定、次々とヤバ過ぎる報告が相次ぎ、状況は一気に悪くなる。

 

「――こうなるんだ」

「……なるほど。これが世間一般に言われる“お約束”とか“フラグ”というヤツですか」

 

 どことなくバツの悪い顔で更識が顔を(そむ)ける。

 五反田 弾の言っていた超大型空母らしき存在も現れ、更識は己の軽はずみな言動を後悔し、エーリヒはジト目で流しつつ、ラウラに指示を出す。

 

「イチカ君の所に増援は回せないのか?」

『イチカの機体とアイツの練度もですが、相手の物量も相当なもので……こちらが用意した機体では力不足(ちからぶそく)です』

「織斑女史を向かわせるのは?」

「それこそ最終手段だ。彼女はこちらに顔を出してしまっている。敵の狙いがそこなら、最悪一夏君は世界の敵になりかねない」

 

 チッ、とエーリヒが舌打ち。今の彼女は良くも悪くも爆弾だ。

 織斑千冬(ブリュンヒルデ)というビッグネームは味方につけば最強だが、その配置には相当な配慮が必要となる。

 無人機を潰すためとはいえ、その姿を自分達の前に姿を見せてしまっている。合流したという事実はテロリストのみならず、この辺をうろついているマスコミ関係者にも把握されているか、もしくは意図的にタレコミをされている可能性が高い。ましてや彼女は新型のISという希望(ばくだん)をもってこの場に現れた。この理不尽(ちから)をもって場を収めることは可能だろうが、被害を出さずに終わらせる、という事態は今となっては不可能に近い。

 泥沼の展開になりつつある現状が黒幕の狙いなのであれば――大々的な人的被害を出してしまえば一般人のヘイトは彼女のみならず、彼女に機体(IS)を渡した篠ノ之博士、ひいては一人で飛び出した一夏も“悲劇の主人公”という都合のいい被害者に仕立てやすくなる。

 そうなれば、必然的に織斑姉弟のみならず、篠ノ之博士も政治的・世論的な首輪をはめられ、籠の鳥になるしかない。それ以前に、そんな巨大兵器がこっちに来たら、秒と経たずに都心部は焦土――いや、日本そのものが更地になる危険だってある。

 

「博士が用意したあの少女は?」

(ヴェクター)の依頼で既に別行動中です。間に合うかどうか以前に、我々は連絡手段を持ち合わせていません』

 

 状況はどんどん悪くなる一方だ。ここでもし彼が殺されるか奪われたりすれば、それは彼を見捨てたという事実に書き換えられ、日本もドイツも窮地(きゅうち)に立たされる。

 

「なにか手はないのか?」

『それなんですが、イチカの奴、一人で無人機と巨大兵器(デカブツ)相手に一歩も引かいないどころか、その――アレを一人で潰す気のようで、自身を(おとり)にして足止めに成功しています』

「「……は?」」

 

 予想の斜め上の答えに二人がハモった。

 ISを起動させて数時間の少年が、前代未聞の機動要塞を前にそこまでできているとは思えず、自身が持ち得る常識すら疑いたくなる。というか、この状況のほとんどは日本の中学生が案を出してくれたお陰で成り立っている事に、今更ながらエーリヒが気づいた。

 

「……日本の中学生とは、皆ここまで出来るものなのですか?」

「あれを日本の基準にしないで下さい。というかドイツ(アンタ)日本(ひと)の事は言えんでしょうが!」

 

 更識がラウラ達を指差しながら、遠い目をしているエーリヒにツッコんだ。

 

 

 

***

 

 

 

 日本で起きたテロ騒動を聞きつけ、ロシア航空宇宙軍(BKC)からの命令で、IS運用部隊は太平洋上での新型機の機動試験を切り上げ日本へと来たが、展開されているIS部隊を見て困惑した。

 

『なぜドイツのISがここに?』

織斑千冬(ブリュンヒルデ)がいる以上、我々と同じくテロの鎮圧の為に展開しているのでは?』

『IS部隊より本部(CP)へ。予想外の展開(イレギュラー)が発生している。指示を』

《こちらCP、命令に変更はない。お前達の判断でテロリストと思われる対象を選別し確保、ないしは処分せよ》

『……了解。ブリュンヒルデと共に行動しているドイツのIS部隊と接触し、情報を共有する』

 

 (らち)があかないと判断した隊長は、独断でドイツとの接触を図ると宣言して通信を切り、展開していた武装を全て収納(クローズ)。本気で未確認の対象(IS)に接触しようとする隊長に、追従していた隊員が困惑する。

 

『隊長、本当にあちらと接触するのですか? 罠の可能性も――』

上層部(うえ)は私たちに伝えていない情報があるようだな』

『と、言いますと?』

『先程の命令、誤解を招くような内容だった。この特務部隊も、いざとなれば切り捨てる腹積もりやも知れん』

 

 もう一人の部下がそんなはずはない、と言いかけて口を(つぐ)む。この部隊は極秘に開発された試験機のテストを任せられる特務部隊(スペシャルズ)だが、それは絶対的な権力というワケではない。

 必要となれば切り捨てる為の秘匿だ。そして今がその時かも知れないということに気付き、隊長の頭の回転の速さに驚愕(きょうがく)する。

 

『命令を守りつつ、我々の有用性を示す為、私はドイツの部隊と合流することがベストだと判断する。意見のあるものは?』

 

 直後、二人は『ありません』と返事し、隊長はオープンチャネルを開いた。

 

『こちらはロシア空挺軍、IS部門特務隊隊長のエレーナ・ベネディクトゥフ中尉。日本近海でISを使用したテロが発生したとの連絡を受け、アラスカ条約に(のっと)り――』

御託(ごたく)はいい、要点だけ聞く。貴様らは我々の敵か?』

『それを決める為にそちらとコンタクトをとりました。手短に現状を――』

『それは私から説明しよう』

 

 いきなり通信に誰かが割って入り、全員がハイパーセンサーで周囲を索敵。突如ウィンドウが開いて応急処置をされたボロボロのISが現れ、ロシアの部隊と千冬達が警戒する。

 

『貴様は?』

『私はアメリカ第23空軍のデボラ・スールマン中尉。束博士からの要請を受けてそちらとコンタクトをとった。情報についてはこれを見て欲しい』

 

 コア・ネットワークを通じて現在の状況をまとめたものが圧縮情報として共有され、ロシアもドイツも、千冬も未知の部分を補完される形で実情を知った。

 

『これは――』

『詳しい話は後回しだ。今はテロリストを相手取っている彼女らを護衛に回し、非戦闘員をこの区域から離脱させてほしい。

 このテロは、最初から失敗を視野に入れて展開されている!』

 

 こうして、ロシアのIS部隊、そしてアメリカのIS(暫定)は織斑千冬と邂逅(かいこう)する。

 この判断が後に日本とロシアに意外な関係を築き、一夏の進退すら決定づける事になる。

 

 

 

***

 

 

 

 これだけ状況が進んでいても、日本政府の会議室はてんやわんやの大騒ぎをしているだけだった。

 

「なぜ日本の打鉄(IS)がテロリストと相対している? 許可を出したのはどこだ!?」

「ウチではないな。IS特務部門ではないのか?」

「岸議員がいないのに独断で動いたとでも? 責任の所在はどこになる?」

「これだけの騒ぎになっているのに、自衛隊と警察は?」

「こちらに権限はないと言っただろう、功績が横取りされてもいいのか?」

「功績云々の話をしている場合ではないだろう。既に織斑千冬(ブリュンヒルデ)が現場で動いているのに、こちらは出遅れているんだぞ?」

「住民への避難勧告はどこかやったのか?」

「私も権限がないから知らん。指揮権があるのは誰だ? さっさと指示を出せ!」

 

 誰一人指示を出さないまま無駄に時間だけが過ぎ、既に言い訳云々(うんぬん)の話ではなくなっているので、今は誰を責任者にするかの問題にシフトしている。

 自身の進退にしか興味のないヘタレと、平和ボケの日和見主義者しかいないから当然ともいえたが、それを傍観(ぼうかん)している菊岡達は呆れるしかない。

 

「いざという時にここまで役立たずが揃うのは、ある種喜劇に通ずるものがあるね」

「思ってても自重してください。連中(アレ)に聞かれたらいろいろ面倒ですよ」

 

 菊岡は見切りのつけどころを探し、安岐ナツキは嫌悪の領域まできているのか、閣僚(かくりょう)達に敬意を払う気すらない。

 例の少年(織斑一夏)がISを鹵獲(ろかく)したという情報が入ってから既に6時間。時刻は既に夕方にさしかかる時間だというのに、閣僚達(コイツら)は保身と責任の(なす)り付けあいだけで騒ぎ続け、首相に至っては3時間ほど前に顔を出し「具体的な指示は作戦本部に任せる」とだけ言って、逃げるように退室。菊岡らを呼び出した前部署(古巣)の連中も、その機に乗じて首相を追いかける形で会議室を抜け出していた。

 騒動が終わった頃、彼らはしれっと「この騒動には気付いたが本部には合流させられなかった」などの理由をつけて責任逃れをする腹積もりなのだろう。

 

(勉強しかできなかった馬鹿が。権力を持つとこうなるか)

 

 彼らの親の世代は有事の際、遺憾(いかん)なくその実力を発揮したというのに、次世代は親の威光を笠に利権と保身に走るだけ。それどころかこちらの存在に目もくれず、責任の所在を誰にするかで揉める始末だ。

 事態はもうすぐ佳境に入るというのに、具体的な提案一つ出せないコイツらは、この事態の収束と共に閣僚としてのキャリアも終わるだろう。

 

(仕掛けるとしたら、このタイミングかな)

 

 スッと壁際から菊岡が離れ、わざと空気を読まない風を(よそお)って騒ぐ渦中へと足を向けた所で、出鼻をくじくように(ふところ)からメールの着信音が鳴った。

 その着信音が意外と大きかったのか、あれだけ揉めていた閣僚達の視線が全てこちらへと向いた。

 

「あー、すみません。マナーモードにするのを忘れてまして」

「なんだね、君は。なぜここにいる」

「僕は総務省の総合通信基盤局、電気通信事業部高度通信網の――」

「仮想課の人間が、何故ここに?」

「今起こっているのはゲームの中ではないのだ。君らの出番ではないだろう」

 

 飄々(ひょうひょう)とした態度と、その所属部署を聞いてイラついた閣僚達が、口々に批難(ひなん)の声を上げたが、菊岡は意図して空気を読まないキャラを作り、彼らの神経を逆撫(さかな)でするように頭をかいて事情を説明する。

 

「いやー、僕もここに呼ばれただけでして、何をしろという指示もなく――」

 

 あまりにも暢気(のんき)な態度にイラついたが、閣僚達は辛うじて「窓際族」という言葉を飲み込んだ。公式の場でそんな暴言を吐いたとなれば、揚げ足を取られてキャリアに傷がつくという程度の分別はあったらしい。

 互いの顔を見てアイコンタクト。誰が彼を呼び出したのかを確認するが、呼び出した当事者はドサクサに紛れてこの場から退出している。当然、なぜ仮想課がこの場に呼ばれたのか誰も知らないし、その意味すら考察することもせず、毅然(きぜん)とした態度で菊岡達に言い放つ。

 

「すまないが、君たちは手違いで呼ばれたようだ」

「この場は我々の仕事だ。君達は君達の仕事をするといい」

 

 今の今まで具体的な指針ひとつ出せない閣僚達(コイツら)は、愚かではなくマヌケだった。

 この()に及んでまだ自分達の利権を優先し、菊岡にとって最良の答えを出してくれたのだから。

 

「……そうですか。では、僕達はこれで」

 

 クイッとメガネを直し、サッサと出ていく菊岡の後ろを、室内に向かって形式的な礼だけをした安岐がついていく。そんな二人を見送ることもなく、閣僚達は自らの保身の為に責任の所在がどこにあるかでもめ続ける。

 目に見える身の破滅――それに目を向けないようにして騒ぎ立てる姿は、本当に喜劇にしか見えなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 誰もいない静かな廊下を二人は無言のまま歩き、エレベーターの中に入った所で安岐が声をかけた。

 

「よろしかったのですか?」

「何がだい?」

「こちらに更識がついているとはいえ、この状況をどうにかしているのは――」

 

 言いかけた所に無言で携帯が差し出され、安岐はそれを受け取って内容を見る。そこには先ほど届いたであろうメールが表示されていたが、その内容を読み進めていけばいくほど、その内容に驚愕するしかない。

 

「ッ!? 既にテロリストのIS部隊が、ぜん、めつ?」

DSO(あっち)でもイチカ君達とはあまり絡みはなかったけど、彼らは予想以上にデキるみたいだね。

 既に篠ノ之博士や織斑千冬(ブリュンヒルデ)にも助力を(あお)いでいるようだし、更識もドイツの部隊と共同戦線を張って、テロの鎮圧に動いてくれているようだ」

「でも今は一夏君が一人でローゼンクロイツァー(みんなのトラウマ)()りあっている、というのは」

「彼の乗っているのが本当にあの機体(ビルト・フルーク)なら、まず負けることはないだろうね。それに、()の推測通り、あの機体が初期設定のままだとしたら、()()()()()姿()も現すんじゃないかな?」

 

 あっけらかんと答える菊岡に、安岐は驚きとも呆れともつかない顔を向ける。そんなご都合展開、起きたとしても成否に関わらず、後はロクでもない話になるだろう。

 第一、()()はプレイヤー間でも物議を(かも)した、存在そのものが理不尽を超越した機体(ナニカ)だ。どう転んでも平穏無事という言葉から遠ざかる未来しか予想できない。

 

「もしそんな事になれば、こちらにも何らかの話が――」

言質(げんち)は取れた。彼らの言う通り、僕達は僕達だけにできる仕事をしよう」

 

 そう言って、安岐に向かって胸ポケットに()していたペンを取り出す。ペン型の盗聴器で会議の内容をちゃっかり録音していたらしい。

 

「いつの間に……」

「ああ、ちなみにこれは盗聴器じゃなくて小型カメラだよ。ちょっとしたツテから貰ってね」

 

 予想以上にえげつない代物を用意していた事に驚く安岐をよそに、菊岡は淡々と話を続ける。

 

「今回、僕らはどう(つくろ)っても脇役(モブ)以上の役割はないだろうね」

「むしろ騒動を利用しようと目論(もくろ)んでいる悪役では?」

「安岐くんも言うねぇ」

 

 毒舌にもカラカラと笑ってみせるが、この上司は昼行灯(ひるあんどん)(よそお)うキレ者だ。

 のらりくらりと動きつつ、幾つかの情報とヒントだけで背後関係を最速で割り出し、最適解に近い答えを行動に移す。現に仮想課は事態の中心から外れながらも、政府関係者の中ではどこよりも核心に近い位置にいる。

 

「僕らの強みはネット界隈(かいわい)に顔が()くという事。まずはそこから始めよう」

「ということは、DSOですか?」

「いいや。僕が黒幕なら、イチカ君の“あの噂”の真相を海外メディアに向かって発信できる状況を作り上げる」

 

 言われて安岐は考える。

 海外メディアに通じる仕事となると、とっかかりがあるのは大手の配信者(ストリーマー)や動画投稿者、ないしは素直にマスコミ関係者に取り入れる立ち位置――ブン屋のバイトなどだろうか?

 

「考えられるのは、ネット関連に強いメディアを通じて世界に情報を拡散する算段をつけるか、もしくはその関係者がマスコミ関係者に接触して思考誘導をかける、といった所かな。

 最も有力な所は……MMOトゥデイかな。そこを足がかりに各国メディアと情報を共有、今回の騒動と関連付けて織斑一夏とその関係者に目を向けさせ、世間の目を真実から遠ざける」

「先回りして情報規制をかけますか?」

「むしろ助長させる。敵もそれが狙いだろうけど、立ち回り方次第ではこの状況を生み出した人物とも縁を作れそうだ」

 

 この騒動の仕掛け人に心当たりがありそうな菊岡に絶句する。敵もそれが狙いだというなら、一歩間違えれば利敵行為か売国者扱いだ。ともすればこちらにも被害が及びかねない。

 

「……算段はあるのですか?」

「モチロン。と言いたい所だけど、ここばかりはイチカ君の頑張り次第かな。今後の為にも、アレはイチカ君に任せるしかなくなったし」

「となると、こちらは後始末担当ですか。(しばら)く残業続きになりそうですね」

「それも数日で収まる目処はついてるから大丈夫。安岐君は先に戻っていてくれ。僕は行く所ができたから」

 

 話が終わったタイミングでエレベーターの扉が開き、一人でサッサと進んでいく菊岡を慌てて安岐は追いかける。

 

「どちらへ?」

「レクト本社。茅場氏にちょっと紹介して欲しい人ができてね、おそらく向こうも僕を待っていると思うんだ」

 

 

 

***

 

 

 

 外の騒動を余処(よそ)に、レクト本社では茅場と須郷の二人がリモートで海外企業と会議をしていた。

 

『そちらは随分と騒がしいようですが、何かありましたか?』

「どうやら、郊外(こうがい)で騒動が起きているようで」

「こちらまで飛び火する可能性は低いでしょうし、今はビジネスの話を進めましょうか」

 

 柔和に応対する茅場と余裕のある須郷を見て、相手は問題なしと判断して会議を続ける判断をしたようだ。

 

「事前にアポを取っていたとはいえ、緊急で会議をしたいというのは、やはりDSOに関するお話で?」

 

 今となっては社会現象にもなり始めているDSOは、全世界の協賛企業をスポンサーとし、ゲーム上で使える資金を割引ポイントとして変換できるだけでなく、協賛企業が用意する商品をDSO上でデータという形で陳列する事でO2Oを展開できるメリットがあり、更にはVR上でテスト作成したものを展示し、使用感をユーザーの感想という形でダイレクトに反映させる事で質を容易に向上させる事ができる。

 更には特定のユーザーをマスコットキャラクターなどに起用する事で人的コストを下げる事にも成功した事で、各企業とのコラボ商品を世に出す機会が増えたため、おそらくはそちらだろうとアタリをつけてみるが、答えは意外なものだった。

 

『小耳に挟んだのですが、オーグマーの販売メーカーのカムラと何やら新しい事業を計画しているとか』

 

 水面下で動いている企画を知っている事に内心驚くが、二人はポーカーフェイスを貫いて話を続ける。

 

「耳が早いですね。目的はその事業への参入、ですか?」

『そちらは()()()、というべきでしょうか』

「ついで、とはどういう事でしょう? IS事業を生業(なりわい)とする御社(おんしゃ)とは畑違いな気もしますが」

 

 あちらの計画は『日常の中の非日常を』テーマに、一般人向けの健康維持を目的としたものだ。IS技術が関与できる部分など、茅場には思いつかない。

 

『お互い時間は有限ですし、(ふところ)の探り合いはナシにしましょう。こちらは事業への技術提携を提案し、そのカムラの取締役の一人である重村(しげむら) 徹大(てつひろ)教授と、レクト(そちら)と繋がりのある仮想課の職員を紹介していただけないかと』

「参入を希望するなら必要なことですし、特に問題はありませんが、この事業に参入する意図が見えません。あなたの本当の目的はなんでしょう?」

『DSOを通じて、あなた方が世界に対してやろうとしているコト、同時に今そちらで起きている事件の一因にも関わっているのではありませんか?』

 

 突然振られた話に須郷が動揺する。茅場も警戒してはいるが、場に()まれまいと大胆にも開き直って質問し返す。

 

「……こちらの事情はどこまで把握を?」

『相棒がちょっとばかし世界を驚かせるので、一緒に世界に吠え面かかせにいかないか、というご提案です。

 僕の読みが正しければ、これでお互いの利害は一致するのでしょう?』

 

 大胆な提案に茅場の(まなじり)がピクリと反応する。この男は細い見た目とは裏腹に、神経は相当豪胆(ごうたん)なようだ。

 こちらの目的を知りつつも、その地獄に踏み込もうというのだから。

 

「では、お互いの為にも今後のプランを話し合いましょうか――ランクス・デュノア」

 

 不敵な笑みを浮かべる茅場に対し、ゾッとする笑みを浮かべるランクスを見て、須郷は何か得体の知れない不安を抱く。

 これから起きる事は、自分が思っている以上の事件(モノ)になる予感がした。




キレ者達による頭脳戦という伏線回収と、今後の匂わせだけで1万字オーバーとか頭のおかしい内容になってて自分でも引きました。どんだけ用意してんだよw
お陰でプロローグは更に1話追加。終わる終わる詐欺になってる分、アハ体験ができた、と思いたい所。「ここでアレが繋がるのか!」と驚く展開であればいいのですが。。。
菊岡をはじめとした政府関連、ゲームを運営する茅場達、更に無関係のように見えたマスコミ関連は別方向から話に絡んでいくように見えて、その裏で繋がっているドロドロの人間模様。こういう蛇蝎サイドを書いていくのもなかなか面白いけど、文字数増えるのがネック。
これらを繋げるためにキーとなるキャラが必要だったのですが、政府関係は更識やドイツのようなガッツリ話にくい込む位置より、菊岡や茅場のような『現実の戦闘』から遠い存在の方がいろいろ話を組みやすいのでこいつらをチョイス。
ついでに過去に感想欄であった、オーディナルスケールのフラグも目処(めど)がついたのでここで投入。ユナやエイジがどういう風に関わっていくのか気になるでしょうが、SAOがデスゲームではなくなっているので、斜め上の立ち位置を目指したい所。

次回こそいっくんの戦闘パート。ある程度はできているので、あまりお待たせする事はないはず。


はず――だよね?

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