DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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終盤戦その1。そろそろプロローグの風呂敷畳む準備始めます。が、状況は明らかになればなるほどカオスの坩堝(るつぼ)に陥っているようで……


つか、前の投稿から1年近く更新してないし、初投稿の頃にはまだ子供だった長女が結婚して春には親になるし。
時間の流れって、早いね……


00-22 『悪』の定義

(チッ、欲張り過ぎたか)

 

 オータムは存在しない部隊(ゴーストスカッド)を潰した後、当初の予定とは違うが市街地に向かって民間人の護衛(最低限の仕事)をしようと向かっていた所、予想外な所で遭遇した謎の機体(無人機)

 偵察が目的なのか、単機で海上を飛んでいたをの幸いにちょっかいをかけてみたが、これが間違いだった。

 

「そっちが格上だなんて聞いてねェぞ!」

 

 アラクネの装備では満足にダメージが通らないのに対し、火力は圧倒的に向こうが上。

 拡散ビームとパルスマシンガン、マイクロミサイルの群れという、単機とは思えない冗談のような弾幕の中に隠れ、まるで狙ったかのようにやってくるビーム砲。

 それらを必死に回避しつつ反撃をしていたが、気付いたら増援が現れ2対1となり、反撃も難しくなって回避一辺倒となった。

 幸いというべきか、敵は攻撃にばかり集中して爆煙の影響まで考えが回らないのか、ちょくちょくこちらを見失ってくれるので生き長らえている。が、これだけ開けた海上では逃げようがない。

 誤魔化せるかと思って海中にも潜ってみたが、ハイパーセンサーも向こうの方が高性能らしく即座に発見され、そこからは逃げの一手。ジリ貧どころか回避に回避を重ね、1秒でも生き延びる事に終始している。

 

「せめて、せめてあと1機いれば――」

 

 ふと、今回の標的(織斑一夏)が脳裏を()ぎった。

 彼がこの場に現れればもしかするかも、と思ったが慌てて(かぶり)を振り、その考えを追い出した。

 相手は中学生、それもISに搭乗してまだ1時間足らずの男。そんなのに頼ってしまうなど、オータムのプライドが許さない。

 

「何考えてんだ、あたしは……ッ!?」

 

 余計な事に思考を()いたせいか、右側面に致命的な一撃。複数の副腕が全壊しただけでなく非固定部位(アンロック・ユニット)も融解。PIC発生器もエラーが起きたのか、満足にコントロールが利かなくなった。

 視界に収めていた2機とは反対側からの攻撃。驚いてそちらを見れば、追加で増援が2機。4対1という絶望的な状況に、流石のオータムにも諦めの表情が浮かぶ。

 

「チッ、ここまでかよ……」

 

 思えば、あの戦闘を見てから心ここにあらずだった。

 男が短時間でISを使えた事に嫉妬したのか、あの戦い方に魅せられたのか。

 どちらにせよ、あれを見てから自分の中で対抗心にも似た感情(ナニカ)が生まれ、いらぬちょっかいを出した結果がこれだ。

 

「――ッ!」

 

 まるで(もてあそ)ぶかのように、無人機はゆっくりと砲身をオータムに向けてくる。最後の瞬間まで対抗しようと相手を睨みつけたが、一瞬の間をおいて砲身がぽろりと落ち、次いで両腕と下半身がバラバラと崩れた。

 驚く暇もないまま、周りにいる無人機も同様に崩れていき、最後に残ったのはオータムと、いつの間にか現れた謎のISのみ。

 

「ぇ……?」

 

 その機体は背面に翼を模した大小4つの非固定部位(アンロック・ユニット)と、腰部両サイドにもスラスターを搭載した非固定部位を懸架し、両手にはブレード。

 

(まさか!?)

 

 いかにオータムの意識が無人機に向いていたとはいえ、こんな近距離で、ましてや全ての敵が撃墜されるまで気付かせなかった手腕。

 そんな凄腕のパイロットなど、オータムが知る限りではスコールと織斑千冬(ブリュンヒルデ)のみ。

 

 それを裏付けるかの様に、未知のISがそこにいた。

 

 

 

***

 

 

 

「まったく、ゴッソリ持ってってくれちゃってまぁ……」

 

 言葉とは裏腹に、束の口角は上がりっぱなしだ。

 思ってもみない所から予想外の切り札(ジョーカー)が現れたのだから、それも当然だろう。

 あの機体(IS)鹵獲(ろかく)したパーツのみならず、白桜(はくおう)桂秋(けいしゅう)の予備パーツまで取り込み、残っているのは桂秋は一部の装甲のみ、白桜に至っては予備パーツだけでなく弾薬もゼロ。

 今回の戦闘だけなら大丈夫だろうが、終わったら最低でも弾薬ぐらいは作る必要がある。

 

「ま、それに見合うだけのモノにはなったみたいだけどね」

 

 置き土産よろしく、律儀にも簡易的なカタログスペックが残されていて、それを見た束は驚いた。

 量産機(ラファール)がベースだからか、パワーは第2世代の量産機と同等だが、機動力やハイパーセンサーは第4世代相当。FCSがカットされているのが気になったが、一夏はフルマニュアルで運用していたので問題はないだろう。

 反面、武装は拡張領域(バススロット)に収納された量産機の兵装に、腰部非固定部位(アンロック・ユニット)に白桜の高周波ブレードと電磁銃(ガウスライフル)、その銃身に収納されている短刀タイプのレーザーブレードが懸架(けんか)されているが、電磁銃の弾は装填されている分(80発)のみ、高周波ブレードも本体からのエネルギー供給率が低く、ク-ルタイムが45秒もあり、レーザーブレードに至っては、最大出力で振るえば機体の方が耐え切れない、事実上の切り札。

 それでも運動性能は破格だし、エネルギー総量も現行量産機の倍以上。どこかで見た事がある様な気がする機体だが、おそらくは一夏がかつて使用していたDSの再現機だろう。

 専用機としてはクセも強く、決定打にも欠けるが、凡人からすれば構成自体が『その発想はなかった』のオンパレードで、部位装甲だけでなく、非固定部位すら装備部位(ハードポイント)の一つとして捉えている機体構想は、次世代型汎用機として見れば破格ともいえる性能。

 この構想は基礎フレームによって変化はするが、いくつかの世代差をまたいで機体性能を作り変える事が可能なだけでなく、その世代という概念すら塗り替える可能性さえある。

 桂秋とは対照的なコンセプトの、量産を前提とした機体。

 

「機体名は――ビルト(WILD)フルーク(FLUG)プッペ(PUPPE)?」

 

 DSOで聞いた覚えのある名前に、束は顔をしかめる。

 正直、二度と目にしたくない名前だった。

 

「あいつ、この()に及んでまだいっくんを……」

 

 初心者であった頃のイチカに近づき、戦闘の基礎を教えるだけでなく、DSのノウハウと共に、メカトロニクスの知識まで叩き込み、挙句の果てにはランクスとも邂逅(かいこう)させた奴が生み出した、束が知る限りでは最凶の人物が作り上げた最後の作品。

 後にイチカに(たく)され、改修して“メルセネール・ブラン”となった、今のイチカを形成する要因でもあり、一夏に呪縛を植え付けた、ある意味全ての原因ともいえる機体(モノ)

 この機体が表沙汰になれば――否、このまま一夏が騒動を収めてしまえば、世界のヘイトは一夏に集中したままだ。

 

「これは、クーちゃんとの合流を急ぐべきかな」

 

 戦力面ではそれなりのモノが用意できつつあるが、世界背景も相俟(あいま)って過剰戦力になりかねず、ヴェクター()が言っていた『最悪のケース』という言葉が現実味を帯びてきた。

 彼らもまた独自に動いているが、束とは違った視点で今後の展開(こたえ)を導き出しているのだろうか?

 

「……少し、ひっかき回しておく必要があるね」

 

 言いつつ、モニターに写る半壊状態のアラクネを見る。

 自分達が引っ掻き回そうとして裏目に出るというなら、束は“第3の手駒”という予想外の鬼札(ジョーカー)を作り出そうとしていた。

 

 

 

***

 

 

 

 突然現れ、文字通り一瞬で敵を一掃した謎のISと対峙したオータムは、珍しく判断に迷った。

 パイロットは、オータムが知っている織斑千冬とは似ても似つかない小柄な体型。だがそれ以上に気になるのは、その身にまとうISだ。

 タイプとしては中量よりの軽量なのか、構成はかなりシンプル、というよりシャープ。基本色はミリタリーカラーだが、各所にアクセントの様に白が入っているが、どことなく無理矢理感があって、足りない部分に別パーツを持ってきた様に見えた。

 大胆にも両肩に展開されるはずの非固定部位(アンロック・ユニット)はなく、代わりに目に付くのは背面にある大小二対の非固定部位。外側の鳥類を()した翼と、内側には縦に長い楕円形のものがあり、翼を模したものは片翼だけでも機体よりも大きく、それだけで重量級かと錯覚するほど。

 反面、武装はとてもシンプルで、両手に持った反りが薄い刀型のブレードに、腰部非固定部位(アンロック・ユニット)懸架(マウント)されている二丁のライフルのみという高機動白兵戦メインの構成。

 シンプル故にパイロットの技量を求められる構成だが、先程の技量を見る限り、織斑千冬(ブリュンヒルデ)でないにしても正面から相対するのは危険すぎる。

 

「――確認する。あんたはこの事件にどう関わってる?」

 

 バイザー越しながらも、振り返った顔は織斑千冬に似た、幼さを残した少年。

 予想外な人物に内心驚いたが、相手が件の少年(織斑一夏)であることに気がつき、内心の焦燥をおくびにも出さず、毅然とした軍人を演じ始めた。

 

「……私はアメリカ第23空軍のデボラ・スールマン中尉。現在は海軍特殊開発部隊(DEVGRU)に出向している。

 先程まで海上でISの新型機のテストと教導作戦を遂行していたが、日本海域でISによる戦闘が確認されたとの報告を受け、威力偵察を行っていた」

 

 咄嗟に偽名と作戦内容を話す。空軍特殊作戦部隊(AFSOC)(※1)が対テロ特殊部隊に出向するのは珍しい話ではないし、ISの新型機を共同開発しているのも周知の事実だが、当然その活動内容は秘匿(ひとく)されている。

 通常であれば罰則ものの暴露だが、目の前にいる相手は『ただの中学生』と侮らない方がいい。ここは信用を得る方が得策だ。

 

「で、そのテスト機を運用していた部隊は?」

「全滅した。残っているのは私だけだ」

 

 嘘は言っていない。もっとも、全滅させたのはオータムだが。

 

「あの敵性勢力、君とは敵対関係なのか?」

「今の所は。そちらも俺の敵か?」

「……それは君次第だよ。織斑一夏君」

 

 残弾も心許(こころもと)ないし、機体もボロボロ。その機体すら世代差が絶望的だろうが、持ち前の演技力で自分は圧倒的物量という背景を持つアメリカの(イヌ)であるというのを匂わせ、立場はこちらが上であるという姿勢を崩さず、当然の様に名前を出して背後関係も把握してると圧をかけていく。

 そんな内心の駆け引きをしている事など知る由もなく、一夏は思いもよらないことを口にする。

 

「まだ動けるな。この騒動を終わらせるから手伝ってくれ」

「なに?」

 

 普通なら、こんな状態を前にすれば撤退を推奨するか、もしくは無力化して自勢力の指揮下に置くはず。これだけのダメージを受けた機体を目の前にして、あまつさえ戦力としてカウントするなど、あまりに予想外だ。

 

「その程度のダメージで動けなくなるのか? アメリカのISってのは」

「見くびらないでもらおう――と言いたい所だが、さすがに対IS戦は心許ない」

「そっちは問題ない。こっちは篠ノ之博士の戦力と共闘している織斑千冬(ブリュンヒルデ)、それに俺がいる。あんたには民間人の護衛を頼みたい。それぐらいなら出来るだろ」

 

 オータムが返事をするより早く、一夏は反転(ターン)して背後の非固定部位を展開。翼が大きく展開し、先端部には長方形のスラスターが左右4基ずつの計8機、小型の方は口を開くかのように中央からパカリと開いて直列2基、計4基のバーニアが現れた。

 そこからは急展開で、腰部非固定部位のスラスターを含めた推進器に火が入ったかと思うと、コマ落ちと錯覚しそうな超加速であっという間に見えなくなった。

 

「……まさか、な」

 

 まるでその提案に乗ってくると思っているようだった。

 こちらの正体にある程度目処(めど)がついているのか、それとも単純に話を鵜呑(うの)みにしたのか――今の所は判断がつかないが、いくらバックに篠ノ之博士がついたとはいえ、こちらが敵対して篠ノ之博士、もしくは護衛対象の民間人が人質にとられるとは考えなかったのか。

 手負いを戦力としてカウントしたのは、それだけイレギュラーの戦力が大きいのか、それとも別の要因か。

 唯一わかっているのは、あっちも人手が足りないという事だけ。

 

(ともかく、今は行動するのが先か)

 

 そう思って動き出そうとした所に、絶妙なタイミングで通信が入る。

 相手は――篠ノ之博士。

 

「やぁやぁ、自称米国の(イヌ)!」

「いきなりですね、博士」

 

 緊張感のない態度に、さすがのオータムも脱力する。

 あの少年といい、博士といい、自分の立場が分かっていないのだろうか?

 

 

 

***

 

 

 

 港湾に停泊した、コンテナ船に偽装したCPは、作戦の推移を観測していた。

 

織斑一夏(ターゲット)はISを入手したか?」

「はい。こちらの機体を鹵獲(ろかく)し、海上で4機と戦闘。単機で全て鎮圧しています」

「そうか。歩兵部隊の進捗(しんちょく)は?」

「市街地にて戦闘中。例の未確認(イレギュラー)に数を減らされましたが、銃歩兵部隊も戦闘に参加。現在、日本政府の部隊と思われる一団と膠着(こうちゃく)状態」

「対象の一般人は消息不明。ですがドイツの一行と合流している模様」

 

 次々に上がってくる報告は、どれもあまりよくない。()()は別にあるとしても、ここまで先回りされると身動きが取りづらい。

 相当な切れ者がいるのか、もしくは篠ノ之博士か織斑千冬が合流したか。

 

「残りのIS部隊との連絡は?」

「応答ありません。織斑千冬(ブリュンヒルデ)と接敵したとの情報もあります」

「あの女との連絡はついたか?」

「いいえ。最初に分断されてから独自に行動しているかと」

 

 ふむ、と口元に手を当て一考。日本は対テロ部隊を展開しているようだが、未だISが出てきていないのは当初の予定通り。だが未確認の勢力も出張(でば)ってきている以上、こちらの()()はここまでだろう。

 

「出港許可は取れていたな」

「はい。進路上に船影ありません」

「先行させている連中は?」

「例のモノの回収に成功したのか、既に撤収を始めているようです」

「ではすぐに出港しろ。次のプランへ移行する」

 

 指揮官の命令を受け、各所との連携を進めていく(かたわ)らで、一人のオペレーターが(たず)ねる。

 

例の未確認(イレギュラー)はどうします?」

「あれは別口だろう。これ以上こちらにちょっかいをかけてこない様なら捨て置け。今注意すべきは篠ノ之博士と織斑千冬だ、こちらの意図を(さと)らせるな。次の作戦発動は1時間後にセットしておけ」

 

 了解、と答えて出港準備を始めるクルーを一瞥(いちべつ)し、指揮官は(かたわ)らにあったペットボトルを口にする。

 中身はただの炭酸水だが、思った以上に緊張していたのか、半分近くを一気に飲んで一息つく。

 

「……まさか、本当にこんな作戦を実行することになるとはな」

 

 小さな(つぶや)きは、ブリッジの喧騒(けんそう)の中にかき消された。

 

 

 

***

 

 

 

 クロエは弾と少し話をしてどこかに行ってしまい、その弾も

数馬に頼んで詩乃達を避難先へ誘導してもらっている。その間にエーリヒ達は更識と弾から詳細を聞いていた。が、事態はエーリヒの予想の更に斜め上をいっていた。

 

「連中のプランは複数あります。一つは市街地への被害を拡大することですが、もう一つはあなた方を含め、織斑君の全ての関係者に()()()()()()為に展開しています」

「な、に……」

 

 連中は本当に一夏の居場所を奪う腹積もりらしい。そんな目的で戦線を展開するなんて誰が考えるか。

 更識の説明を受け、改めて自分達の読みが甘かった事に気づかされると共に、予想以上の非道な計画を前にしてエーリヒ達は絶句する。

 

「俺達もそっちの狙いに気付いたのはドイツ(あんたら)が組織でこっちに来ると(わか)ってからだが、一夏は最初から黒幕があんたらの動きに気づいている事を前提で動いているフシがある。単刀直入に聞くが、あんたらが用意したISに対人装備は?」

 

 言われて、エーリヒはラウラに目配せすると、彼女は首を横に振る。

 

「最初からIS部隊の制圧を視野に入れていたので通常装備です。対人に関しては白兵戦部隊で対応する気でいました」

「ISはISでしか制することはできないが(ゆえ)に、対人に関しては過剰戦力――我々がそう認識している常識を利用された訳か」

「我々も、彼からこの話を聞かされるまで気付きもしませんでした。大急ぎでISに対人制圧装備を搭載するのが限界で、パイロットの手配までには至らなかったのです。それ故の共同戦線の提案です」

 

 過剰戦力を前にして、戦火を拡大するための部隊展開だと思っていたが、それがトラウマを与えるための死兵であるなど、考えつきもしなかった。

 

「そこで連中の作戦を逆手にとって、このおっさんと連携して色々準備してた。どこよりも早く俺達が無力化できれば、連中の思惑ぶっ潰せるだけでなく、後々騒ごうとする面倒な連中も黙らせられる準備までしてある」

「……君は、本当に日本の中学生か?」

 

 大胆かつ用意周到な反撃手段を用意していた弾に、さすがのエーリヒもちょっと引いた。

 敵の行動を予測し、あまつさえこれだけの手段と戦力を用意してみせるこの少年が、まるで怪物の様に見えてくる。それを見かねたラウラ達がエーリヒに助言する。

 

「大尉、こいつの行動力は考察するだけ無駄です。DSO(あっち)では魔王の二つ名で呼ばれてるぐらいのヤツですから」

「いや、しかしだな……」

「コイツを含め、ファストクラスってのは頭のネジがダース単位でブッ飛んでる連中です。状況とヒントさえあれば、全体像とそれからの動きをほぼ正確に読み切って、大胆な行動で最適解を叩き出すぐらいは平気でやってのけます。マジェスタ(クロエ)をこっちに回さないのも、何か考えがあっての事でしょう?」

 

 クラリッサの指摘に、弾はニヤリとシニカルな笑みを返す。

 

「あいつには()()の方を任せた。ここは俺達がいれば充分だろ?」

 

 ラウラとクラリッサはお互い顔を見合わせるとため息をつき、弾と更識に詰め寄った。

 

「それで、ISのステータスは?」

「既に数馬(エクエス)経由で調整を頼んである。ラウラのはあっちでクラリッサがあれだ」

「こちらが用意した戦闘要員も参加せたいのですが」

「低致死性装備を用意している。人数分はあると思うので、そちらで確認して欲しい」

「……ここまで来たら四の五の言ってはいられんか」

 

 なし崩しで共同戦線が展開されようとしているのを渋々(しぶしぶ)受け入れ、話に混ざろうとエーリヒが詰め寄ろうとしたが、何かに気づいて上空へ銃を構え、弾もそれに釣られて上を見た。途端、見慣れないISが何かと一緒に弾達がいる所へ降りてきた。

 

「弾、無事だったか」

「教官!」

「千冬さん!?」

「織斑女史か!」

 

 いるはずのない千冬にラウラ達は驚き、弾が問い詰めた。

 

「千冬さん、なぜここに? 一夏はどうなった!?」

「一夏の方は何とかなったのでな。私は束から話を受けてこっちの襲撃部隊とコレを片付けに来た」

 

 「この辺にいたのは大体片付けたぞ」とドヤ顔で言いつつ、一緒に落ちてきた何かに目を向ける。ラウラ達にはISの残骸(ガラクタ)に見えたが、弾はすぐに気づいた。

 

「DSOの、レギオン?」

「束の話では敵の敵が送り込んできた無人機らしい。私のみならず、連中にもちょっかいをかけていた」

「ここにきて別勢力など――」

「……チッ。だから一夏は先に動くしかなかったのか」

 

 周りが困惑する中、何気なく言った弾の一言を聞き逃すことができず、全員の視線が弾に集中する。

 

「弾……?」

「一夏はすぐ動ける状態か?」

「あいつは戦闘の際、かなりのダメージを負ったので束に任せてきたが――」

「すぐ確認を。先んじてマジェスタ(クロエ)に向かわせたが、あいつが動き出したら完全に詰みだ」

 

 状況はかなり逼迫(ひっぱく)しているのか、千冬への敬語も忘れ、完全にヴェクターの口調になっているのを見て、さすがにラウラ達も問い(ただ)したい気持ちを抑え、静観に徹する。

 

無人機(レギオン)はどれだけ見た?」

「私が確認できただけで16機だったが――」

「ドイツのオッサン、更識のでもいい。空か海で量産機のIS、最低でも30機以上搭載できる輸送機か戦闘機、どこかで開発されてないか?」

「……ロシアが極秘開発していた超大型空母。それであれば、カタログスペックで最大45機だ。が、国家安全保障局(NSA)に嗅ぎつけられ、その計画は半年前に凍結されている」

「その開発にはアメリカをはじめ、複数の企業が出資しているらしい。それと不確定情報ではあるが、同時期に開発された広域殲滅兵器と超長距離射程の2種が実験的に搭載されている、という話を耳にしたことがある」

「ッたく、ここでGDとシャムロックが(つな)がるのか。推測だが、そりゃ空母どころか戦時国際法に抵触するレベルのヤベェ代物だ。凍結も表向きで、ロールアウトしてこの騒動に試験投入されてるぞ」

 

 エーリヒが自国(ドイツ)で得た情報に更識が補足を入れる。それを聞いたラウラ達はまるで話が見えないが、弾はまるでそれが稼働しているかのように話を進めていく。

 

「作戦変更だ。ローラ(ラウラ)、ドイツから持ってきたISは何機だ?」

「3機用意しているが――」

「来ているメンバーは全員が搭乗可能か? それと調整なしでもISの運用ができるのか?」

「それは問題ないが――」

「メンバーからパイロットを選出して、非戦闘員に防衛体制を展開しろ。特に鈴達には絶対近づけるな。ローラ(ラウラ)クラリス(クラリッサ)は、予定通りこっちのISを使って更識の部隊と連携して歩兵の制圧を急げ。更識のオッサンはドイツの部隊と一緒に――」

 

 矢継ぎ早に指示を出してくる弾にしびれを切らし、ついに千冬がツッコミを入れた。

 

「一体何がどうなっている!? 少しくらい説明しろ!」

「俺達がいるにも関わらず、大人(アンタ)達は後手に回ってばかりだから、一夏はとっくの昔にあんたらに見切りをつけてた。そして俺達は見当違いの所を見ていたから一夏より数手遅れていた。

 あいつは自分がブッ壊れんのを覚悟の上で、この騒動を一人で片付けようとしてんだよ!」

 

 

 

***

 

 

 

 弾や一夏が敵の真意に気づいた理由を話すには、時を一夏がIS4機を倒し、逆に撃墜されて千冬に救出された頃まで戻さなくてはならない。 

 

 

 会議室のような広いブリッジの中、一夏が落とされるのを見て(きし) 結華(ゆうか)が手を叩いて喜ぶ。

 

「今の織斑千冬(ブリュンヒルデ)表情(カオ)見た? 傑作だったわ!」

 

 それに賛同し、周囲にいる妙齢の女性達の(あざけ)りと笑い声が(こだま)する。

 

「たしかに。あれはないわ~」

「私たちを追い詰めたあのガキに、ロクな価値なんてないのにねぇ」

「ま、世界最強なんておだてられてても、所詮は時代に取り残されたロートルってことでしょ。ウチらはいつだって時代を先取りしてんのよ!」

 

 泣きそうな顔をして一夏を抱える千冬を見て喜ぶさまは、無責任な子供のようなノリで痛々しいが、誰もそれを(とが)めたりしない。

 彼女達はISに関連した政治や経済、果ては関連工学で名を()せ、一時期話題にもなった者達。しかしその功績は(くだん)の横領や成績の横取りで得たものだ。そして彼女らはその責任を問われる前に逃亡し、表向き――それすら裏だが――極秘開発された空海両用の大型艦を持ち出した。

 全長1642メートル、全幅940メーというそれは、ISを核として、各ブロックに搭載された18基のプラズマジェネレーターによって生み出される大出力を頼りに、ISの機動技術と陸海空の軍事技術を融合させる事で常軌を逸した機動力と火力を生み出す、世界初のIS型機動要塞(アームズフォート)

 余りある出力により、常軌を逸した超長距離射程の主砲を使って一夏を襲撃し、ジュネーヴ諸条約(※2)によって禁止されているはずの広域殲滅兵器をはじめとした大量の装備などが搭載されているうえ、広大な格納庫の中には工房(ファクトリー)と呼ばれる生産設備も搭載され、そこでは弾薬の他、例の無人機がライン生産で量産されている。

 これだけの規模でありながらISであり、本体はこの中央にある。外装部分は特化換装装備(オートクチュール)の派生とも呼べる代物で、中央にIS本体を据え、他部位をブロック化し、それを複数の管理AIがサポートすることでワンオペで運用が可能という規格外でもあったが、それはジュネーヴ諸条約ならず、軍事目的でISを利用している時点でアラスカ条約にも抵触している。

 くだんの件で美味い汁を啜っていた者達が、一夏の研究を利用していた技術者達を抱え込み、幾つかの組織を巻き込んで制作した、数世代先を行く兵器であり、彼女達にとっては最後の切り札。

 この機体の建設が嗅ぎつけられたのを機に、岸が組織ごと(かくま)いつつ、仲間内と共に表沙汰にできない財産の隠し場所として利用してきたが、追い込まれた以上はこの要塞を使って戦火を拡げ、あとはそのドサクサに紛れて身を隠すつもりだった。

 

「にしても無人機(こいつら)、カタログスペックは第3世代とか(うた)ってたけど、あの織斑千冬(ロートル)には全然歯が立たないじゃない」

「所詮はゲーム脳のおバカが作ったもんだし、場をひっかき回すって目的は達成できてるからいいじゃん」

工房(ファクトリー)もあるんだし、量産は可能なんだから足りなくなったらまた作ればいいわ。例のコアはまだあるし、いざとなればこれ自体で反撃すればいいし」

 

 お気楽に会話する彼女らを、ISのパイロットがピシャリと(たしな)める。

 

「ダメよ。例のコアは残り10、あのコアでも量産はできるけど、使えばアシがつくわ。隠れるのが難しくなるけど、やる?」

「あら、なら次の段階に移行しましょうか」

「ま、気づいた所でアタシらの居場所は割れないけどねぇ~」

「あのテロリスト(バカども)に情報リークして騒ぎが大きくなったけど、イマイチ不安ね。例のコア全部使ってもう少しかき回すべきじゃない? あのコアは闇市場に流せばもうひと財産築けるだろうし」

 

 皆それぞれに今後の展開を意見しているが、彼女らには捕まらない根拠と自信があった。

 仮に捕縛に来る者がいても、余裕で迎撃できる火力と、万に一つの可能性でこの要塞が落ちる事があっても、この機動要塞の中にいる限り、彼女らの存在は表沙汰にできない。

 最悪、捕まったとしても今の地位と名誉は失うだろうが、その時は司法取引で新たな戸籍を用意し、別の人生歩めばいい。

 

「とにかく、こっちも危ない橋を渡ってあんたを牢獄から引っ張り出したんだし、その分の仕事はしてちょうだいね――スコール・ミューゼル」

 

 ポップアップウィンドウに映る岸に腹を立てるでもなく、中央ブロックでISに搭乗するスコールは妖艶に微笑む。

 

「ええ、私にも目的があるもの。報酬に見合うだけの仕事をしてみせるわ」




序盤の伏線回収、少しずつ始まりました。

感想欄で指摘されていたIS部隊の幼稚さですが、こういう伏線を張っていました。『騒動に紛れて関係者を誘拐、もしくは殺害』という線より『殺人という重責を負わせる』方が闇深いし、ヒロインズも一夏と絡むのが難しくなる、又は孤立する図式の方が悪役の観点からすればヘイトコントロールがしやすいのでこういう伏線に。ここにはもう一つ伏線を張ってますが、まずバレる事はないでしょう。気付いた方はネタバレせず、一人ニヤニヤしてて下さいw

新型を手に入れた一夏、ラウラ達と合流した千冬、瀕死のオータムと、何故か投獄されているはずのスコールの登場。その脇で暗躍していた女性権利者もいましたが、この展開は予想できたかな?
まぁ、こんだけ無人機ポンポン出てるのに本拠地出てこない時点で気づかれたかもしれませんが(汗


次話はガッツリ戦闘パートの予定ですが、どこまで盛り上げられるか以前に、また1年ぐらいかからないように時間作るのが問題。
ジジィになるんだし、アーリーリタイアできないもんかと悩み中。愚痴になりますが、中高年がいつまでも上にいたって会社は衰退するだけだろうに……



【今回の設定】

※1 AFSOC
正式名称はAir Force Special Operations Command、アメリカ空軍特殊作戦部隊。対テロ作戦をメインに、情報戦も担う組織。湾岸戦争以降、いくつもの戦線に投入された実績があり、2013年に第23空軍は活動停止してますが、この世界線では活動は継続中。
アラスカ条約の穴を突き、テロ対策を建前として親元である統合軍の指揮下で海軍特殊開発部隊(DEVGRU)と共同で新型ISの開発を行うと共に、学園を卒業したパイロットの教導(育成と運用)を行っている、という設定。今後も必要な組織だったので作りましたが、ホーム置いてあるだけで使いやすい。
こういう細かい背景は必ず作れと言ってくれた知人に感謝w

※2 ジュネーヴ諸条約
別名『戦争のルールブック』。戦争時における国家間のやりとり(戦争に参加できる最低年齢とか)から民間人への配慮(マスコミの取材条件含む)、果ては使っちゃダメな兵器ウンヌンを条文化したもの。これを基準に戦時国際法やら他条約がツリー化される形で条文化されてます。
00-07でちょっと触れてたけど、この条約は結構広義解釈されやすく、調べた自分でもちょっと把握しきれてません。
もしかすると勘違いしてる部分あるかも(汗


※ ビルトフルーク・プッペ
DSOにおいてある人物からイチカに託されたDS――のレプリカ。
本来は第4世代相当のはずだが、DSをIS規格に落とし込んだ過程で、今あるパーツのみでそれっぽく似せた機体なため、武装やら何やらが色々足りず、武装や機動力関連は第4世代相当だが機体は第2世代相当という、とてつもなくアンバランスな構成をしている。
何か秘密がある……らしい?
今後、一夏の専用機というわけではなく、次に繋げるフラグ機としてのゲスト参戦的な扱いの為、今後出番があるかは不明。ポジション的にはOOのアストレアみたいな存在ですが、システムとしてはコアガンダムのプラネットシステムみたいなので武装していると考えて貰えればOK。
次の話でこの機体はブッ壊します。

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