DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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Q:ストックとかあるの?
A:現時点でほとんどありません

 ……不定期投稿、ほぼ確定。
 このお話もテストで予約投稿しつつ、反映できるかの確認。

 誤字とか脱字とかはできるだけ確認してますが、あったら報告お願いします。
ちなみにブランの“楯状”は誤字ではなく、『大きな盾』という意味で使用してるので間違いではない、はず?
 他にも機体名とか遊びで由来があります。後々明らかにするか、関係ないものは前書きや後書きで説明入れようと思います。
 文章とかも気付くとちょっとニヤッとするものを入れてみたり。
 戦闘描写はちゃんとできているか不安ですが。


00-02 DSO

 仮想世界の空を4機のDSが駆け抜ける。

 イチカのメルセネール・ブラン、マジェスタの桂秋(けいしゅう)、ランクスのヴォリュビリス、ローラのシュヴァルツェア・ネーベルと続く。

 イチカのメルセネール・ブランは背中にある一対の翼状のものと、両肩に付随する楯状の非固定部位(アンロック・ユニット)が大きく目立ち、本体も西洋の甲冑を連想させるような姿から、一見すると鎧を纏った天使にも見える。それに見合うだけの機動力と継戦能力を有し、どこにも属さず基本ソロでやってきたイチカ自身の戦闘能力は、この世界では上から数えた方が早く、機体性能も相俟(あいま)ってこのメンバーの中で突破力は随一。

 マジェスタの桂秋(けいしゅう)もブランに近い構想の機体だが、軽量に近い中量というブランに対し、重量に近い中量の構成。両サイドと背中にある3つの非固定部位(アンロック・ユニット)全てにブースターが取り付けられ、鈍重な機体を砲弾さながらの速度で突っ込ませる。ブランが切れ味のいい刃とするなら、桂秋は戦斧(バトルアックス)のような豪快な破壊力が持ち味だ。

 ランクスは戦闘寄りではないと公言しつつもイチカに迫る実力者であり、DS製作者(アーキテクト)としての能力はDSO随一。ヴォリュビリス(アサガオ)は両肩にある巨大なコンテナと、6つからなるフィン状の非固定部位(アンロック・ユニット)が機体そのものを隠す様に展開。面制圧という点ではこの中では圧倒的だろう。

 ローラが駆るシュバルツェア・ネーベル(黒い霧)はこの中で最も鈍重で最も大きい。速度こそやや遅い部類だが、索敵を含め状況を把握する能力という点ではダントツに高く、ローラの能力も指揮官という立ち位置でこそ真価を発揮するタイプだし、鈍重な機体にも関わらず、近距離から遠距離まで万遍なく対応できるだけのスペックを有する。

 これだけのメンツを集められたのは僥倖だとローラは思う。このゲーム(DSO)にやって来たきっかけはイチカだったし、彼と関わった事で自分がどれだけ間違った思考を有していたかを知り、この世界で良くも悪くも人間というものを教えてもらった。

 同時に教えるという喜びを知った事でクランのサブリーダーになり、DSOで学び、DSOで考える様になった事で“あの人”に近付けた気がする。

 

「それでも私は私、か」

「何か言ったか?」

「何でもない。唯の独り言だ」

 

 そう、自分は自分。他の誰かに成り代わる事は出来ない。いくらアバターで仮想の自分を作ろうと、ISとは違うDSを身に(まと)おうと、中身が自分である限り――自分という個人が存在する限り、他人にはなり得ない。

 そんな簡単な事まで教えてもらった仲間達には感謝の念が尽きない。

 そんな事を考えていると、表示させていた小型の仮想モニターからポップ音が鳴った。

 

「――もうすぐ作戦地点だ、準備してくれ」

 

 マップを確認し、ミッションの開始地点まで来ていた事にどれだけ過去に思いを馳せていたのかと内心驚きつつ、それもこれもイチカが私を惑わせたのが悪いと自己完結。フィールド上に表示されたミッション参加パネルを確認する。

 

「エクストラミッション『要救助者』か」

「確かに一見すると人命救助だな。マジェスタがやったミッションもこんな感じだったのか?」

 

 イチカがマジェスタに振ると、彼女は「うん」と簡潔に答えて説明する。

 

「私がやった時はミッションに入るなりNPCとの会話中にNPCがやられた。そのままミッション内容が変化したの」

「タイトル通りなら速度のあるイチカとマジェスタが救助、僕とローラが戦局に対応しつつ敵を迎撃。釣りならその場で対応していこう」

 

 ローラががミッションをアクティブにする。エクストラは自由参加のアクティブタイプだ、ここで手をこまねいていると他のチームがやってきてしまう。むしろ時間を食っているだけに既に幾つかのチームが戦闘に入っていると見た方がいい。

 

「よし、なら当初はランクスの案通りに。状況の都度私が指示を出す。皆、よろしく頼む」

 

 了解、と全員が見事にハモった。

 

 

 

***

 

 

 4人が突入した時、既に戦闘は始まっていた。先行していた他チームも釣りだろうと予測していたのか、実弾系の高火力装備で鈍重に固めていたのが災いし、巨大な(アームズ)(フォート)がタンカーの周りに三機。しかも(いや)らしい事に実弾系の弾幕型、無人DSを大量に搭載した輸送型、EN兵装を主体とした高機動防御型と役割分担されている。現実ではありえない弾幕シューティングさながらの密集した弾幕を要に、其々が連携を取り合ってタンカーに近付かせないどころか、確実にこちらを落としにかかってくる。

 先行していたチームは高火力で固めて機動力を犠牲にしていた為、連携は既に瓦解。戦闘に参加している者達も無事と言える状態ではなく、最早戦闘というより何とかして逃げる為に戦線を切り開いている状態だった。

 AFの火力のえげつなさにマジェスタが顔をひきつらせ、ローラは冷静に戦況を分析して参加しているチーム数と戦闘可能な人数を把握する。

 

「既に戦闘しているチームに質問する。この場は共闘するか、敵対するか答えろ」

 

『この状況で敵対できると思ってる馬鹿がいたら連れてこいよクソッタレ!』

『助けてくれるなら助けてよ! こっちはもうジリ貧よ!!』

 

 予想通りというか何というか、かなり切羽詰まっているから乱暴な返答が帰ってくる。ランクスは両肩にある巨大コンテを展開し、多連装ミサイルを展開。同時にコンテナ内部から対DS用バズーカ“KIRITAP”とハイレーザーライフル“Neumond(ノイモーント)”を構え、イチカは銃剣型アサルトライフル“マーヴ”と対DS用ライフル“102ADSNR”を構えた。それを見てマジェスタは大型ショットガン“XSG-D042”と対DS用ヘビーマシンガン“105ADSHMG”を呼出(コール)。ローラも右肩のレールガンと左肩にある大型ガトリングを展開、それぞれの武装を見て即座にフォーメーションを考える。

 

「マジェスタはランクスと共に他チームの援護を。私は遠距離で援護しつつ、戦闘不能なプレイヤーを回収。戦況が整い次第、護衛目標を確保するぞ」

 

 了解、と二人が答えると同時、二人は左右から挟撃する形で展開。空中を飛び回る無人DSに向かって攻撃してタゲ取りすると、プレイヤー達は折を見て徐々に戦線から離脱していく。

 

「イチカ」

「あのAF(デカブツ)を狙う」

 

 指示を出すより早く、こちらの意図を察したイチカが吶喊(とっかん)。行きがけの駄賃とばかりにランクス達が相手取っている無人DSにちょっかいをかけて数機のタゲ取りをすると、後ろから追ってきているのも構わず弾幕型AFに突っ込む。それに気づいたAFが弾幕を張って迎撃するが、イチカは涼しい顔で更に加速。音速の世界で壁の様に迫る弾幕を視覚とハイパーセンサーで把握し、神業ともいえる絶妙な隙間をかいくぐって無傷で抜けるが、後続の無人DSはその弾幕を躱せるはずもなく、いっそ無様な程被弾して撃沈。移動系アビリティ『ワイルドスピード』をアビリティを使用することなく再現してみせた。

 撃沈を確認もせずにAFに肉薄すると、右手に持ったアサルトライフル“マーヴ”で牽制しつつ、左手のライフル“102ADSNR”で弾幕の要であるチェインガンやガトリングを破壊。ライフル系アビリティである『ウィークショット』の技能再現(リプロダクション)によるアレンジだ。

 複雑な立体構造であるAFの懐を衝突も恐れず、高速で動いて行動する事で後続の無人機がイチカに集中し、プレイヤーの救出がやり易くなった。

 

「こちらが戦線を押し上げる。動ける者は戦闘不能になった者達を連れて下がれ」

「た、助かった……」

 

 ローラが向かってくる無人機を撃墜しつつ、イチカの相変わらずな変態機動に嘆息する。イチカが派手に動く事で無人機とAFの攻撃を自身に集中させ、残りもランクスとマジェスタが受け持ったためローラ1人でプレイヤーの救助を行っているが、流れ弾すら飛んでこなくなった戦場の救助程やり易いものはない。先行していたプレイヤーの状態を見るが、ダメージは思っていたより大きい。これでは回復しても戦線に復帰するのは無理だろう。

 

「まったく、単機で戦線を下げるとか……」

 

 イチカの技量に今更ながら驚く。そこそこ長い付き合いで驚く事にも飽きてきたが。

 あれだけ派手に動きながら、衝突するどころか被弾らしい被弾も受けず、逆に単機でAFの密集した弾幕の中、複数の無人機を翻弄する様は一周回って逆に清々しい。

 アビリティが発動するメカニズムを理解しているのであれば、対人戦であれミッションであれ、アビリティは発動させる一瞬のタイムラグと発動後のクールタイムがネックになるが、それでも状況打破の為に使いたい。そうして生み出された技術が、技能再現(リプロダクション)というアビリティを自力で再現する技術。上級プレイヤーにもなればネタなどで使うプレイヤーもいるが、イチカの使う技術は掛け値なしのガチだ。単純な技量だけでいえば、技能再現(リプロダクション)をメインに使用する奇抜なプレイヤーもなど、そうはいまい。

 

 単機でAFを撃墜できるプレイヤーは数多くいるが、あの弾幕の中を複数の無人機とAFを同時に、アビリティも使わず被弾も抑えて翻弄できるプレイヤーはどれだけいるか。本来のイチカであれば、AFの3機ぐらいは余裕で秒殺できる。それをやらない理由は(ひとえ)にリスクリワード、通称R2と呼ばれる報酬の釣り上げを狙っている為だ。

 過去にゲーム実況プレイヤーが始めた縛りプレイ。それに目を付けた公式が独自に設定した報酬の上乗せシステムは、単純にプレイヤー自身に負荷をかける縛り以外にも、チーム戦でのR2も発生する。その倍率に上限はほぼ存在せず、今はイチカが一人で戦線を維持してプレイヤーの救助を行う事で発生する、チーム単位でのR2、イチカ個人が戦線を維持する事で発生するR2を狙っている。状況にもよるが、チームでAFを撃墜すれば発生する報酬は最低でも3倍、救助も含めれば5倍弱。3人に報酬を渡しても懐が痛まないどころか黒字になる。

 それに気づいた二人が行動を起こす。

 

「こっちは粗方片付いたよ!」

「こちらも大体終わった。ローラ、プレイヤーを頼む」

 

 こちらの返事も待たずに二人はローラに回復アイテムを渡し、揃ってAFに突っ込んでいく。プレイヤーにまとめて回復アイテムを渡しながら横目で見ると、イチカは粗方(あらかた)弾幕の要を破壊し、そのまま高機動型へ取りついてマーヴのブレードをアクティヴ。高機動型が展開するエネルギーシールド発生器を叩き斬り、プレイヤー達がいる方とは真逆の位置に回り、わざと主砲の前で止まってライフルを構えて自身を囮にする。主砲のチャージが始まるが、そこに横合いからランクスが打ち込んだ榴弾によって砲身を“く”の字に曲げ、強制的にチャージを停止させた。

 状況を把握しているが故の高度な遊びとコンビネーションに、戦闘を眺めていたプレイヤーから感嘆の声が上がった。

 

「ランクス!」

「応ッ!」

 

 横からバズーカを打ち込んだランクスが、イチカの意図を察して高機動型AFに取りつくと、左手のバズーカにライトエフェクトの光が(はし)る。砲撃系連射アビリティ『リームストライク』が発動、リロードタイムを無視して榴弾を何発も叩き込む。6発撃った所で装甲に亀裂が走り、そこにイチカがブレードを突っ込むとライフルをアクティヴ。ブレードを引っ掛ける様にして装甲に食い込ませ、銃弾を発射した反動を利用して斬撃の威力を底上げする。斬撃系アビリティ『パワースラッシュ』を技能再現(リプロダクション)し、ぶ厚い装甲をさしたる抵抗もなく引き裂いた。

 装甲の裂け目から駆動部がむき出しになり、そこにランクスが右手に持つハイレーザーライフルを突っ込む。既に砲身にはライトエフェクトの光があり、EN兵器系チャージアビリティ『クイックチャージ』が発動。通常チャージの数倍ものエネルギーをゼロ距離で打ち込み、二人は素早く離れると内部でいくつもの爆発が起き、AFが傾いていく。それを確認する事もなく、イチカは先程まで相手をしていた弾幕型に、ランクスは無人機搭載型に向かう。

 

「マジェスタ!」

「りょーかいッ!」

 

 ランクスの合図で今度はマジェスタがフォローに回り、大量に押し寄せてくる無人機に突っ込んでヘビーマシンガンとショットガンの弾幕で撃ち落とし、ランクスがミサイルを発射しつつその合間を縫って本体に取りついた。ランクスはその場でコンテナを回転させ、頭頂部を開く。そこから多連装ロケットランチャーが展開され、横薙ぎに連射して無人機の射出口の半面を一気に潰す。その間に反面の射出口がローラの援護で少しずつ潰され、手薄になった隙にランクスは反対側へ回り、同じようにロケットランチャーで射出口を潰す頃には、AFの弾幕をほぼ無力化できた。

 

「よし、だいぶ楽に――」

 

 瞬間、残っていた弾幕系AFから爆音。見るとAFが煙をあげて沈んでいく。煙幕の中からイチカが飛び出し、あろうことか明後日の方向に向かって両手の銃を構え、連射。

 空間が歪み、そこから4機のDSが現れ攻撃を回避。くすんだ朱色を基調とした4機のDS――作戦前に注意されていた悪質系(ローグ)クラン『小姐(シャオチェ)』だ。

 

「くっ、流石に雇われは気付くか!」

傷物の朱(ヴァーミリオン)が出ると判ってて警戒しないワケないだろ」

 

 傷物とは悪質系(ローグ)クランの蔑称で、PKや横取りなどの悪質行為を続けると、機体カラーが濁る事から、果実が傷む(さま)に見立てて『傷物』と呼ばれる。これはDSOの仕様であり、犯罪行為を続ければ続ける程機体カラーがくすんでいき、色の濁り具合そのものがプレイヤーの罪の深さを表す。

 傷物の朱(ヴァーミリオン)と称される濁った朱色のカラーリングは小姐の特徴でもあり、どんなプレイヤーであってもこの色を見たら真っ先に潰しにかかる程嫌われている。

 

「このタイミングで小姐(コイツら)が出てくるか」

「このタイミングだからこそ、だろ」

 

 ローラの呟きにイチカが呆れた様に呟く。今も彼女達は光学迷彩で姿を隠し、こちらがAFをほぼ無力化した所で横合いから撃墜し、報酬を横取りしようとしていたのをイチカに見破られたのだろう。今の攻撃で二人ほどダメージを受け、残った二人も手にした兵装の幾つかが壊れている。機体構成を見るに全員第3世代のDSで、確かにあの機体では横から掻っ攫うぐらいしないとこの戦場では活躍できそうにない。

 

「このッ……いつもいつも我々の邪魔ばかりッ!」

「男がしゃしゃり出てくるな。雇われ風情が!」

 

 それに対して悪びれるどころか『見つけた方が悪い』とばかりにイチカを睨みつける小姐メンバー。嫌われクランの代表格と言われるのも納得できるとローラも嘆息する。

 

「懲りもせず横取り狙いか。いっそクラン名を小姐(シャオチェ)から小子(シャオジィ)に変えたらどうだ?」

「なッ……貴ッ様ァ!」

 

 いきなりの罵倒に小姐のメンバーが激昂してイチカに殺到する。今の言葉に何の意味があるのかマジェスタはちんぷんかんぷんで、ローラも理解できずに困惑するが、とりあえず絶対ロクな意味じゃないのだけは理解できた。

 

「小姐の扱いは相変わらずか」

「今の意味判ったの!?」

 

 意味を理解したランクスが呆れ、マジェスタが驚きの声を上げた。今の話の内容はこうだ。

 今更だが小姐とは南方では“お嬢さん”を意味する中国語だが、北方では水商売の女、転じて“売女(ビッチ)”を指す悪口になる。それに対して小子とは男性に向ける悪口で“クソ野郎”や“姑息なヤツ”、総じて卑怯者を指す。女尊男卑を掲げる彼女達に対して『小子』は最大最悪の悪口といえる。

 それを理解した瞬間、ローラは頬をひきつらせ、マジェスタもドン退きして「うわぁ……」と声を上げた。

 

 悪口というのは言語を理解するだけでなく、その地の文化を理解しなければ伝わらない。小姐のメンバーはともかく、イチカやランクスが中国語を理解し、あまつさえその知識でもって超高度な煽りを仕掛け、連中の意識を自分に向けさせた事に、それぞれ別の意味で驚いた

 更にイチカは装備を変更。左手に持っていたDS用ライフル“102ADSNR”を収納(クローズ)し、見た事のない近接ブレードを装備。更に非固定部位(アンロック・ユニット)からビット兵器を8基射出。小姐を一人で相手する気満々な動きにローラがフォローに入ろうとするが、ランクスがそれを止めた。

 

「ローラ、小姐はイチカに任せるんだ」

「しかし――」

「大丈夫、今のイチカじゃ小姐は相手にもならないよ」

 

 直後、小姐メンバーの一人がポリゴン光を残して消える。即時撤退する際に使用される転移結晶の光だ。今の短時間で既に1機撃墜したらしい。

 よくよく考えればAF3機を翻弄したプレイヤーが実力派とはいえ、今更第3世代のDS如きに後れを取る事もない。理解するとローラの判断は早かった。

 

「よし、当初の作戦通りミッションを優先する、そちらはどうする?」

『こっちは戦闘できる余力がないんだ、大人しくそっちの指揮下に入っておこぼれに(あず)かるよ』

 

 プレイヤー達のリーダーから次々に共闘の申請が相次ぐ。チームで参加する際は共闘する事で、これまでの撃墜数にお互いのR2が付加(ブースト)される。その報酬は雲泥の差だが、勝ち目がないと判断した場合は例え僅かでも収入になればいい。

 最も、この方法は一度も相手と戦闘をしていない事が前提で、誤射であれ何であれ、一度でも戦闘をしてしまえば共闘自体が破棄されてしまうというデメリットもある。彼らが戦闘に参加できるとは思えないので、本当にこちらに寄生するつもりなのだろうが、こちらからすれば変にウロチョロされるよりかはよっぽどマシだ。

 

「いくぞ!」

 

 3機がそれぞれAFに突っ込み、戦闘を開始した。

 

 

 

***

 

 

 戦闘が終わってみれば、今回は本当にタイトル通りのミッションだった。

 戦闘に巻き込まれたタンカーの荷物はストーリーミッションに関するフラグアイテムで、今回の戦闘を経由する事でドロップ率数%という超レアアイテムをゲットできるフラグを得る事が出来たし、R2に関してはAF3機と無人DS500機以上という大量撃墜、戦線維持や敵対プレイヤーの撃墜なども併せると、倍率は約7倍にも膨れ上がり、報酬を渡しても大黒字な上に大量のレアアイテムもゲットできた。

 プレイヤー達もこれには驚き、メンバーにイチカやランクスがいる事を知ると「それも当然か」といってホクホク顔で帰って行った。

 

「今回は本当に助かった。後日、報酬の上乗せを約束しよう」

 

 ローラがそう申し出ると3人はお互いの顔を見て苦笑、揃って首を横に振った。

 

「こっちもブランの調子を診るっていう目的があったし、報酬はそのままでいいよ」

「僕もヴォリュビリスで飛びたかっただけだし、そのままで」

「なら私もそれでいっかなー。サポートぐらいであんまし役に立たなかったし」

「しかし――」

 

 こういうのはなぁなぁで済ませるのは得策ではない。DSOというゲームの中であってもR2という現実に直結する報酬がある以上、シビアに線引きをしないと余計ないざこざになる。事実、こういった話でトラブルになった例など腐るほどあるし、何よりローラ自身が納得できない。

 

「なら、余分な分は貸しイチって事で」

「そうそう、こう言う場合よく言うだろ。“この礼はいずれ精神的に”って」

 

 むぅ、とローラが唸る、そういう言い方はズルい。本当にズルい。

 

(教官の言った通りだ)

 

 気を抜くと惚れてしまう――そう注意されていたが、こいつらの(そば)は本当に居心地がいい。

 今回の件も、本来ならメンバーの誰かに緊急招集でもかければよかったのに、フレンドのリストを見て二人がオンラインになっているのを見たらメンバーに入れようと思ってしまった。それぐらいこの二人はローラの中では重要な人物になってしまっている。

 

「ふっ、なら現実(リアル)で会ったらデートぐらいはしてやる」

「わぉ、それって『1日は24時間』ってヤツ?」

「マジェスタ、それネタ古いし誰も解らないから」

「どういう意味だ?」

「さぁ?」

 

 ランクスがしれっとツッコみ、二人は意味も分からず首を傾げた。

 

「ともかく、今回は本当に助かった。ありきたりだが――」

「この礼はいずれ精神的に、か?」

 

 イチカに言われ、ローラが苦笑する。なんとも締まらない結果のまま、現地解散で依頼は終了した。

 後にクランに戻ってからマジェスタの『24時間』の意味が気になってクランメンバーに聞き、それでローラが赤面するのは全くの余談だ。




 気付いているでしょうが、ローラの本名はラウラです。VRが絡むとどうしてもこの子は一夏と本編開始前に絡みやすくなるようで。
 オリキャラのランクスの正体はちょっと意外かも知れません。ある意味二次創作の正道からは外れていない、と思いたいです。

Q:マジェスタの名前の由来は?
A:髪留めの一種。弓と串で留めるバレッタの原型とされるアクセ。諸説あり。

 意図的に特徴を書いてませんが、髪が長いのだけは書いとけばよかったかな、と。
 マジェエスタの正体もちょっと意外な人物です。

Q:イチカがソロだとランクスの立ち位置って?
A:本編で出てきます。基本、二人で戦場に出る事は滅多にない設定。

 ランクスの立ち位置も、普通に考えるとあり得そうな位置なので納得はできると思います。

Q:DSに元ネタあるの?
A:特には考えてません。

 モチーフにした機体などはあります。例えばメルセネール・ブランはフレームアームズのレイファルクス+アーセナル装備とACfAのランセルを混ぜたような感じ。FA:Gっぽくするとイメージしやすいかも。機体設定とかは需要あれば記載します。



 次回は15日に投稿予定。

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