DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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 この1年で無駄に出世してしまい、ただでさえない執筆時間が限界まで削られて投稿が遅れてしまいましたが、1週間ほど有給消化して急いで書き上げました。

 一方その頃の弾やラウラ達による答え合わせその1。裏方に回ったからこそ見えてくる騒動の真相が見えてきました。
なのにIS戦闘が……(汗


00-18 “正義”の価値

 時は少し遡り、一夏が海上へ飛び出した頃。

 弾と数馬はラウラ(ローラ)と共に、ドイツからやってきたエーリヒとクラリッサ(クラリス)を連れて市街地を移動しつつ、合流したことを知らせようと詩乃(シノン)に連絡を入れたが、既に一夏はISを鹵獲(ろかく)し、海上に飛び出して行ったという最悪な報告を耳にする。

 

「一夏のヤツ、マジでISに乗っちまったのか!?」

『みたいよ。いま鈴ちゃん達と合流して話を聞いたんだけど、一夏くんはとっくに飛び出しちゃった後みたい』

 

 弾は驚き、詩乃が嘆息しつつ答える。皆にも聞こえるようにスピーカーにしているが、詩乃の声色には諦めとも呆れともつかない感情が(こも)っている。

 彼女としてもこの状況は回避したい出来事であったが、既に動き出している以上、悲観する余裕もなければ、わめき散らす(いとま)もない。

 

『で、マジェスタ――じゃなくてクロエちゃんが言うには、こっちにもテロリストが襲撃してくる可能性が高いって』

「……とにかく、こっちはこっちで動きましょう。俺達は例の場所に向かいます」

『わかった。こっちも皆を連れて予定通りに動くわ』

 

 通話を切ると、弾を筆頭にして皆と一緒に表通りを移動する。目的地は彼の言っていた“例の場所”だろう。表通りは夏休み中ということもあって人通りも多く、そこかしこでスィーツの販売車や屋台販売、果ては電気や水道関連の業者らしき者までチラホラと目にする。

 何かのイベントがあるのか、一部の道路は歩行者天国となって道路が封鎖されており、人通りが多いせいでその移動速度は早歩きが限界だが、ラウラが半ば呆れた様にぼやいた。

 

「あいつ、少しは落ち着いて行動できないのか?」

「まぁまぁ。一夏には一夏なりの考えがあって動いたんだし」

「わかるからこそ腹立たしいのだ!」

 

 ラウラは一夏の後を追えないことが不満らしく、数馬の正論にブチブチと文句を言い続ける。

 一夏は市街地の被害を抑えようと、自身を囮にIS4機を海上へ引き連れていったらしい。この状況に助けられたのか、普段見慣れないISが飛んでいったのも、一般人にはイベントの一つとして片付けられているようだ。ラウラはその話を聞いて応援に向かいたかったが、既にことが起きてかなりの時間が経っている。

 現状、ラウラ達ができる事はないのでこうしてブチブチ文句を語るしかないのだが、傍から見ればその想いは一目瞭然で、数馬は不謹慎だと思いつつも、頬が緩みそうになるのを苦笑で誤魔化した。

 

「ラウラ、こちらにもテロリストが潜伏している可能性が高い。まずは自分ができることをやらなければいけないよ」

「それは、そうなんですが……」

 

 一方のエーリヒをはじめとするドイツ側の見解は、一夏も心配ではあったが、こちらには篠ノ之博士の妹やDSOで知り合った共通の友人がいる。敵が動き出した以上、彼女らも拉致や誘拐の対象(ターゲット)になりかねない。一刻も早く合流し、当初の予定通り大使館へ逃げ込んでやり過ごすつもりだ。

 

「予想以上に敵の動きが早いですね」

「こちらの動きを察知されたか、もしくは計画が前倒しされたか?」

「ンな考察は後にしてくれよ。この状況は俺達が考えていた予想の中でも最悪のケースだ。こっちも早く行動を決めねェとヤベェぞ」

 

 クラリッサは敵の動きの速さに嘆息し、エーリヒは敵の展開速度に疑問を抱くが、弾がピシャリと考察をやめさせる。

 

「確かにイチカ君がISを奪取したことには驚きだが、DSOで経験を積んでいるのだ。早々遅れを取るような事態は――」

「問題はそこじゃないよ、おじさん」

()()にとっちゃ、この状況が一番の理想なんだよ」

「どういうことだね?」

 

 話が理解できずにエーリヒが(たず)ねるが、問題点が違うと言われてもさっぱり意図が理解できない。

 弾はAR展開されたマップを視界に収めつつ、周囲を確認すると目的地まで時間があると考え、数馬にアイコンタクト。数馬は頷き、ある程度の答え合わせをしておくべきだと判断。ARマップをグループ共有に切り替え、移動しながら話を続けた。

 

「答え合わせは後でやるけど、連中の目的はテロそのものじゃなく、一夏がこの騒動の中心で、あいつがいるからこの騒ぎが起きたんだと世に知らしめる事だ。その途中で一夏がISを鹵獲(ろかく)するにしろ、テロリストに誘拐されるにしろ、この計画の大まかな流れは変わらねェんだ」

「だからこそ、追加か予備部隊、それと()()が待ち構えていると考えた方がいい」

「待ってくれ。連中の目的はIS部隊と歩兵の遊撃部隊が連携してモンド・グロッソの悲劇を再現しつつ、その騒動を利用した織斑一夏の誘拐、もしくは暗殺ではないのかね? 彼女らの考察では、その危険性が最も重要視されていたが?」

 

 予想外の話にエーリヒがツッコむと、弾がラウラを見て呆れ、数馬も苦笑。クラリッサは二人の意図が読めず困惑する。

 

「相変わらず、戦術には強くても戦略はイマイチなんだな。発展途嬢(レディ)

「その名で呼ぶな! 第一、その二つ名も私は認めてないッ!」

「まぁまぁお姫様、その話は後でね。今はこっちの話が先だよ」

 

 ラウラは弾に噛みつき、数馬がなんとか(なだ)める。エーリヒは発展途嬢(レディ)の話にも興味があったが、今はこちらの方が重要なので続きを促す。

 

「ここまでの流れを話してるだけの時間もないんで端折(はしょ)るが、このテロはモンド・グロッソの悲劇を模倣した自作自演(マッチポンプ)だ。連中はこのテロを使って一夏にトラウマを植え付け、世間に『コイツは被害者であると同時に疫病神だ』っていう印象を持たせたいんだよ」

「それは私も気づいていた。だからこそ我々(ドイツ)が――」

「だから、この計画自体がバカでかい茶番なんだよ。当のテロリスト達も釣られてて、本命がテロを鎮圧して自分達の正当性を主張するのが目的。お前ら(ドイツ)が極秘裡に来日して動くのも()()み済みでな」

「な……ッ!?」

 

 弾達に指摘され、初めて自分の考察に間違いがある事に気づく。

 当初こそ、ラウラはイチカに関係する民間人を手にかけることを危惧していたが、このテロ自体が『目的』ではなく『手段』であるなら、民間人を手にかけるリスクより救助する方が世間にはより好印象だ。

 

「ランクスからの情報だけど、実働部隊の構成員の一部に政府の連中(スパイ)が紛れ込んでるって話だよ。IS部隊のパイロットはノータッチらしいけど、計画からすると非合法組織の方から都合つけてるだろうね」

「同時に、ロシアは北東から、アメリカも南東の海域に非公式ながら新型ISのテストって名目で出張ってきてるらしい。ここで()()、ISが展開するほどの大規模なテロ事件が起きてたら、アラスカ条約(※1)に(のっと)って堂々とこの事態に介入できる。その後の展開はどうなる?」

 

 数馬達に指摘されて、初めて自分達がとんでもない思い違いをしていた事に気づき、エーリヒ達の足が止まる。

 この騒動自体が、自分達(くに)の正義を掲げるためだけに計画された、バカバカしいほどに壮大な茶番。その話が本当であれば、これからの話がとんでもなくややこしい事になる。

 ここにいるのは、世界唯一の男性ISパイロットに篠ノ之博士の妹だ。騒ぎを聞きつけた(てい)でこの混乱に介入し、日本が介入するより早くテロを鎮圧。更に関係者をも守りきれば自国の実力も示せる上、いい意味で織斑一夏との接点が作れる。

 だとすれば、連中の狙いは民間人の殺害ではなく傷害。植物状態のような致命的なものではなくとも、四肢欠損などの日常生活に支障をきたす程度のものならば、後々日本への口出しだけでなく、被害者への生活支援だってできる。

 後はそれを口実にすれば、一夏とは(間接的とはいえ)恒久的(こうきゅうてき)な付き合いができるのだ。

 

「つまり、連中の本当の目的はテロそのものではなく――」

「そう。メディアと民衆の目を真実から遠ざけ、その後の展開を有利にするのが目的。使い古された手段(ミスリード)だけど、手段が派手になれば逆に盲点にもなる」

「あんたらがそこまで制限もなく動けたのは、上層部が連中に踊らされていたか、もしくは知ってて送り出したか。スパイか内通者かは知らねぇが、あんたらの動きは向こうにも伝わってるんだろうけど、これを(スルー)したヤツの(キモ)も相当()わってるぞ」

 

 非合法組織に在籍するISパイロットの腕前など、せいぜい代表候補生レベルがいい所。正規軍所属が非公式に動いている、となれば展開しているのは軍属のIS部隊相手か。それらが相手となればテロの鎮圧も容易だろう。

 犠牲を最小限に収める事ができれば、メディアを使って世間に自分達の正当性を主張し、この騒動を利用して渦中に居る織斑一夏を被害者にできる上、堂々とISを軍事利用できる口実にもなり、テロの鎮圧に日本が後手に回ったとなれば、モンド・グロッソ(過去)の被害を引き合いに日本の管理体制を問題視して一夏を国外へ誘致(ゆうち)する事さえ可能だ。

 仮に一夏が現状維持をゴネたとしても、『この騒動が繰り返されるかも』と忠告すれば否とは言えまい。あるいはこの機を利用して(くだん)の権利者達の悪事を暴露し、それで奴らの資産を摂取(せっしゅ)して慰謝料や賠償金(ばいしょうきん)に当てる事も視野に入れているのか。

 悪党(バカ)共の使い込みを理由に、賠償金の支払いや一夏が本来得られるはずだった規模な報酬も、大幅な減額だって期待できる。もしくは恩着せがましく自国から予算を切り出して不足分を用意する所まで考えているか。

 

 ラウラの中で、何かのピースがカチリとハマる。ハマったからこそ、今の状況が予想以上にヤバいというのが理解できる。

 上手く立ち回れば、あの技術力と世界唯一の男性ISパイロットという()()も独占可能になるのであれば、多少非人道的な手段を()ってでも入手したいと考えるのは、どこも一緒だろう。

 彼らの考察も日本の中学生が考えた机上の空論、と一笑に付すには無視できない程しっかりしている。こちらの作戦は織斑一夏を重要視するあまり、他の部分が(おろそ)かになっていて、逆に動きを利用されているフシさえある。

 ふと、ラウラは作戦立案時に准将が言っていた事を思い出す。

 

(初動は特に問題視するものではない、が楽観視もしていない。その布石も既に打って――)

 

「まさか、准将はこの事を知って……」

 

 これでは早期にISを展開するのも、大使館に逃げ込んで優位な展開に持っていくことも難しい。それどころかタイミングを読まずに先に動けば、状況を利用され『我々はドイツと協働していた』などと口裏を合わせられても否定できる証拠がないどころか、場合によっては功績の横取りすらありえる。

 

「なるほど、そっちも利用されてたってワケか」

「なら、僕達の次の動きも決まったね」

 

 二人はその会話だけで納得すると、数馬は近くにあった自販機から缶コーヒーを2本購入し、1本を弾に渡す。数馬はその缶コーヒーを開けることなく、手の中で弄びつつ淡々と話し始めた。

 

「ま、既に動き出している人達もいるから、いくらでも挽回可能だよ。お姫様」

「……ぇ?」

「今回、連中は3つばかりミスをしてるのさ」

「ミス?」

 

 弾はぐるりと周りを見て、つられてラウラ達も周りを見るが、相変わらず周りには夏休みを満喫する学生や業者が作業する日常がそこにあるだけで、なんらおかしい所はない。

 

「ひとつ目のミスはDSO側から先にアプローチしてきた事。あれで俺達を敵に回し、情報を集めるきっかけになった」

「僕ら正統派(ヒロイック)は横の結束が強いからね。連中、この騒動に乗じて悪質系(ローグ)と手を組んで泥棒擬(どろぼうまが)いの事をやらかそうとしてるみたいだけど、(ネズミ)のアルゴからローグの情報も買って、この間襲撃したんだ」

「それは、また……」

 

 クラリッサがちょっと退きつつ、返答に困窮(こんきゅう)する。

 正統派(ヒロイック)とは名の示す通り、正規のプレイスタイルをモットーとするプレイヤーの事だ。eスポーツが台頭してきた頃からこのプレイスタイルを掲げる者が多く、総じて地道に腕前を上げてきた猛者や有名人が名を連ねるている。

 横の繋がりは広い上に強く、イチカやランクスといったソロプレイヤーやローラ達が在籍するゾルダートも正統派(ヒロイック)で、最大手のクラン『ディビジョン』もこのスタイルを掲げていて、チーターや裏技的なものを多用する者も多いDSOでも、実力ある者は人力チーターや理不尽の塊、異能生存体とも揶揄されるほどの隔絶した実力を持つ。

 そこそこの腕前の悪質系(ローグ)を相手に、怪物クラスの腕前を持つ正統派(ヒロイック)が襲撃したのだ。質が量を圧倒する、文字通り蹂躙という言葉がしっくりくるような戦場だったのかも知れない。

 

「お陰で連中の目的にも気づく事ができたし、こっちもある程度準備ができた」

「……ここでそんな事を話してもいいのかい? どこで誰が聞いているかもわからないのに」

 

 こんな往来で自分達が関係者だと宣言すれば、テロリストが彼らを確保しようと動き始めるのではないか、とエーリヒが危惧するが、弾はあっけらかんとして答えた。

 

「ああ、聞こえるように話してるから。――バレてるぜ、テロリストさん」

「え!?」

 

 何気ない感じで、弾が近くにいた中年の作業員に声をかけた。作業員はビクリとして背中越しにこちらを見るが、作業中の為か振り返らない。

 

「い、いきなり何を言って――」

「作業するなら脇を締めないと力が入らないぜ。最も、脇に隠してる得物が邪魔して脇を締められないんだろうけど」

 

 そう指摘されると作業員の表情が豹変し、(ふところ)から何かを取り出し襲いかかってきたが、弾は慌てる事なくそれをいなしつつ、コーヒー缶を手にしたまま顔面を殴りつける。

 物を握って威力を上げる護身術の殴り方だ。いかに中学生の拳とはいえ相当な威力だったのか、作業員は一発で吹っ飛び、手からテイザーガンが転がった。

 

「これは!?」

「元軍人つっても、テロリストの偽装は見破れなかったか?」

「ここで(たむろ)してる連中、ほぼ全員が工作員ですよ。人数に任せてランダムに監視してた様ですけど、同じ人がループしてたらいい加減気付きます、って!」

 

 弾が指摘すると同時、近くのテラスで談笑していた若いカップルがコンバットナイフを取り出し、それを見た一般人が蜘蛛の子を散らすように逃げ出して騒然となる。

 そんな中、弾と数馬が同時にコーヒー缶を投げつけた。中身が入ったままの缶がカップル二人の眉間を的確に捉え、カップルは(ひたい)を押さえて悶絶する。

 

「ふたつ目のミスは、一夏(あいつ)の周りにいる俺達を、ただの中学生(ガキ)(あなど)ったことだッ!」

「DSOプレイヤーを甘く見ないことだ――ねッ!」

 

 ブラックジャックを振りかざしてきた女性を弾が投げ飛ばし、数馬は作業員が手にする特殊警棒を身を沈めてかわし、躰道の技術を使った遠心力たっぷりの前蹴りを叩き込み吹き飛ばす。

 突然の暴力沙汰に、何も知らない一般人が驚き、混乱しつつも我先にと逃げ惑い、大通りは一瞬にしてカオスとなった。

 

「走れッ!」

 

 弾の声にハッと我に返り、ラウラ達は数馬を先頭に民間人の混乱に乗じて駆け出す。敵も慌てて追いかけてくるが、咄嗟(とっさ)の一歩で出遅れ、地元民の長所を活かして小道や裏道を使ってジグザグに駆け抜けていくことで徐々に距離が開いていく。

 

「この、止ま「邪魔ッ」るォぼッ!?」

「回収」

「こっち!」

 

 運がいいのか悪いのか、先回りした男が立ちはだかるが、弾の前蹴りを受けて轟沈。その際、男が持っていた特殊警棒をラウラが目ざとく見つけて蹴り飛ばし、合図と共に数馬が空中でキャッチ。

 

「クラリス!」

「了解!」

 

 たったそれだけのやりとりで全く目を合わせる事もなく、弾がスライディングしつつ(かが)む。その背にクラリッサが足をかけ、弾が立ち上がる勢いを使って高くジャンプ。新たに現れた犠牲者(テロリスト)は悲鳴をあげる間もなくクラリッサの飛び膝蹴りに沈み、弾はちゃっかりその犠牲者の手からこぼれ落ちた特殊警棒をくすねていく。

 一連のやりとりを行った二人に、エーリヒは内心舌を巻いた。

 

「出会って間もないというのに、なかなかいい連携じゃないか」

「DSOではこういう連携は常ですし、武器調達のチャンスは逃せませんから」

 

 エーリヒは一連の連携を褒めるが、ラウラはさも当然のようにDSOを引き合いに出し、VR(あちら)での仲を匂わせた。

 それからも弾と数馬の誘導でジグザグに駆け回るが、この騒ぎで周りも混乱しているのか先回りしてくる者は現れず、後ろを追いかけて来る者もつかず離れずの距離で追いかけてくる。が、エーリヒにはこれも意図的に追いかけさせているように見えた。

 二人の背を追いつつ、ARマップの示す場所へ向かうが、目的地は郊外にある何もない広場。企業が作ったイベント用の広場らしく、誰でも借りられるため定期的にイベントを(もよお)しているという情報が添付(てんぷ)され、現在はイベントを行っているのか、本日貸切という文字がオンライン表示されている。

 

「今向かっている所では何を?」

「ちょいとツテがあってな。今回連中と()り合う可能性があると思って場所を確保しといた。

 あそこならIS戦が起きたとしても、被害は拡がりにくい」

「これに関しては弾の読みに感謝だね。僕だけだったら、連中を追い出すことだけに考えを()いてコラテラルダメージまで考えが及ばなかったし」

 

 ラウラの問いにそう答える二人を見て、エーリヒは織斑一夏のみに注視しすぎた事を悔やむと同時、現在進行形で民間人に頼っている自分を恥じた。

 たとえ一度は退いた身とはいえ、民間人の安全を守るのが軍人。それがエーリヒの信念ゆえにこの状況はいだだけない。

 挽回できる機会がなければ、彼らに顔向けできないどころか自分を許すことすらできなくなる。

 

 そうこうしている内に片側4車線という広い道路が現れ、その途中にある地下遊歩道へ入っていく。これだけ広い道路であれば横断歩道や陸橋(りっきょう)を作るより、多少コストが高くても地下に遊歩道を作って交通リスクの軽減を狙いつつ、多数の分岐を作ってあちこちにアクセス可能な歩道を作った方が安全だ。

 逆を言えば、この状況では待ち伏せされる危険がある。

 

「待ち伏せはあると思うかい?」

「俺なら、追いつけないと判断した時点で先回りするね」

 

 弾から至極真っ当な答えを返され、エーリヒは腰につけたポーチから黒い箱を取り出す。一見するとカバーのついた携帯機器にも見えるそれは、本体の中央部分という不自然な位置にあるカメラを押すと、一瞬でハンドガンへと変貌する。

 かなり旧式だが、要人警護の目的で開発された折畳み銃(FPG)だ。このタイプはベルギーの企業が50年ほど前に開発したものだったと弾は記憶している。

 

「随分とレトロなモノを」

「装弾数と携帯性のバランスを考えると、これがベストだったのでね」

 

 当時から弾種の問題で軍どころか一般市場にもまともに流通せず、エアガンでその存在を知られたようなキワモノだが、その性能は一部マニアの間では話題になるほど高い次元でまとめられている。

 走りながら銃の遊底(スライド)を引き、弾を装填して戦闘準備。この銃の装弾数は25発。予備マガジンも2つ用意しているので、それなりの戦果は期待できるだろう。

 

 これ以上、大人(エーリヒ)が子供達の後塵を拝するわけにはいかない。




【毎度のごとく長いあとがき】

テロは目的ではなく手段、というのは前々から考えてました。こういう方法で展開進めようとするのはなかなかなかったように思います(ガンダムなどではよくある手法だけど
この展開はちゃんと伏線入れてました。政府が腐敗してたり、女尊主義者が暗躍してたり、というのはガンダムUCのオマージュ。政府は連邦議会の極右派、女尊主義はマーサ・ビスト・カーバインと置き換えてもらえればわかるかも。一夏はリカルドっぽい位置だけど、主人公なので生存は確定。
でも専用機入手までは難易度マストダイ。もうちょっと苦労してもらいます。


今回のオリジナル設定

※1 アラスカ条約
 この世界での条約は国際法の一部として捉えられているので、緊急時のISを展開したテロの鎮圧、もしくは避難行動が条文化されている、という設定。
 例えるならスパロボで一般人だった主人公が、ロボに乗って戦ったり逃げたりしても罪には問いませんよ的な条文も含まれますが、補足にテロ起きたら鎮圧って目的で他国が武力介入してもOK。その際指揮系統は(建前としては)混乱を避けるために(本音は責任とりたくないから)独自に行動しつつ連携。それでも混乱するなら、その場で最も地位の高い人が責任者になってね、みたいな事が盛り込まれています。

ティターンズ<ガタッ
アロウズ<ガタッ


なんか弾や数馬が中学生という域ではない戦闘力とか先読み能力ありますが、この辺も今後の展開に必要なので、やりすぎ感あっても強引に入れました。
弾はDSOではイチカとタイプが違い、スパロボで例えれば弾は扱いやすいガンダム系、一夏はオーソドックスだけど底が見えないオリジナル系、数馬は露払いや切り込み隊長を努めやすいオーラバトラー系といった感じ。
ちなみに数馬も一夏や匹敵するぐらいの実力者ですが、PvP特化なのでランク的には一歩劣り、ミッションなどはシノンと同レベルぐらいの実力。
それでも他人戦に限れば世界ランカークラスの実力はありますがw

ラウラの発展途嬢(レディ)呼ばわりは当初から雛形だけは考えていたのですが、知人から「発展途上のお嬢様、略して発展途嬢(レディ)とかいいんじゃね?」という案を頂きそのまま採用。原因は予想通り原作の“やらかし”をDSO上でやって、並み居るプレイヤーにフルボッコにされたから。ドイツの冷水になるのはまだまだ先のようです。

エーリヒが持っているFPGとはフォールディングポケットガンの略で、マグプル社がエアガンで出している(実銃もある)FMG9が有名。他にも幾つかのFPGが存在しますが、今作では人間サイズの武装は(泥沼になる&モノによってはクレームが来るらしいので)特にこだわってません。個人的にはベースは某57をベースと考えていますが、リアルでは作られてないみたいですw
同時にテロリストが持つ武器にもある程度縛りを設けていて、銃火器に関してはそこまで大量に持ってきてないです。一般に潜伏しているエージェントは日本のセキュリティを基準に所持させてます。意外と抜け道あるんですけど……

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