DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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Extort:無理強いする、強要する。(追い詰めて)強奪する、という意味合いで使用される。あまりいい意味ではないので、使用する人は注意。

一夏対IS強襲部隊、後半戦。
……文字数少ないわ春先に更新にならないように注意するとか言っておきながらこの体たらく。
絶対忘れられてるけど更新しますorz


00-17 Extort

 イチカが構えた。

 その構えは右手を半身後ろに引き、左手のアサルトライフルは前に向けるが、銃口はやや下方向に向いていた。その構えには見覚えがあり、彼女達は戦慄する。

 

「その構え、織斑千冬(ブリュンヒルデ)の――」

 

 第1回モンド・グロッソ。当時の織斑千冬が日本国家代表で出場した際、最も得意とした銃剣一体の構え。

 その当時の千冬のスタイルは右手にブレード、左手に銃器で、いっそ芸術とすらいえる高速の高速切替(ラピッド・スイッチ)で左右の武器を入れ替え、撃てば的の方が当たりに来て、斬れば相手が飛び込んで来るように錯覚し、並居る強豪を撃墜していった。

 あらゆる競技で1分を超える戦闘時間はなく、当時の代表候補のみならず、観戦者やISパイロットを目指す者達もその技術に(あこが)れ、ISの歴史に大きな爪痕を残した。

 後にその構えもISの規定で仕方なく選んだものだと本人が暴露。本来の構えはブレード1本という時代に逆行したものだと知れた時は、戦慄と共にそのインパクトを世間に刻み込んだ。

 その構えとほぼ同じ……否、千冬のものより“らしく”見えて、その後ろに世界最強の姿を幻視する。

 

「ぅ、ぁ……」

「ひ、ぃ……」

 

 勝てない、と思った――思ってしまった。

 

 当初はISを鹵獲(ろかく)して海上へ逃げたと聞いた時は、ただの中学生ゲーマーがイキって調子に乗っているのだとほくそ笑んだりもした。

 だが機体は既に危険域(レッド)を示し、2機ともに残弾はほとんどない上、1機は右腕部の欠損のみならず、右半身がグレネードの爆風をモロに喰らってボロボロ。

 ヘッドギアも右半分が破損し、ハイパーセンサーもまともに機能していない。もう1機も似たようなもので、部位欠損こそないものの、装甲部分は亀裂や破損が目立ち、シールドエネルギーも心許なく、それ以前に心が折れかけている。

 対する相手(イチカ)も機体状況は似たようなものだが、それは計算ずくでそうなっただけの話。もとより戦う意志は折れる事なく、技量は明らかにイチカの方が上。

 先程の2機を潰す際に上からきた謎の攻撃も、おそらくは一夏自身と自らが撃った銃弾が自由落下で落ちてきたのを利用されたのだろう。が、それを集弾させ、さらにピンポイントで自分達が固まる所に誘導するなど、この少年(ガキ)がもつ技術はまだまだ底が見えない。

 撤退、という文字が二人の脳裏を(よぎ)る。先程の射撃の腕もそうだが、回避技術のみならず、ダメージコントロールすら想像の埒外(らちがい)だ。

 地力そのものが違い、4機で包囲しても削ることしかできなかった相手に、今更2機で挑むなど自殺行為だ。

 チラリと互いに目配せし、逃げるタイミングを(はか)る。

 

 ――次の瞬間、比較的ダメージの少ない方が一夏に蹴り飛ばされた。

 

「今更逃げようとしてんじゃねぇッ!」

 

 言いつつブレードを振り抜く。慌てて回避しようとするが、回避しそこねて背面ユニットから繋がるアーマーの一部が切り落とされ、更に至近距離からの銃弾の嵐。いっそ無慈悲なまでにシールドエネルギーと装甲が削られ、一瞬で何が起きたのかさえ理解できないまま分断された。

 

「ぃ、いつの間に――」

「さんざん好き勝手やってきたんだ。ここがツケの支払い時だろうが!」

 

 イチカが追随してくる。一切ブレない胆力に再度驚き、それ以上に戦慄する。

 今の攻撃、またコマ落としのように攻撃の瞬間を知覚できなかった。今度はかなりの距離を一瞬で詰められ、致命傷とまではいかないまでも、現状では無視できないダメージも受けている。

 このカラクリがわからない限り、この場から逃げることはできない。

 

「こ、のォッ!」

「ッ!? ――落ちろぉ!」

 

 蹴り飛ばされた相方がアサルトライフルを乱射しながら吶喊(とっかん)してきた。こちらも咄嗟(とっさ)の判断で残った左腕にマシンガンを呼出(コール)。至近距離からの間断ない弾幕、相方の武器選択も中距離という射程からの連続狙撃。ハイパーセンサーの恩恵がないのが心もとないが、これでも一定のダメージは与えられるだろうと思った。

 だが、ここでも予想外の事が起きた。

 

「甘いッ!」

 

 イチカは咄嗟に引きつつ大きく回転。左手のアサルトライフルで飛んでくる銃弾を撃ち落とし、右手のブレードは振るう毎に火花を散らし弾丸を斬り払う。

 距離は開いたが、当然の如くイチカは無傷で切り抜けてみせ、こちらは今のでアサルトライフルとマシンガンは弾切れ。あまりといえばあまりの光景に二人揃って硬直した。

 

「うそ……」

「ありえない……」

 

 弾撃ち(ビリヤード)斬り払い(スラッシュ)。どちらか一つだけなら、部門優勝者(ヴァルキリー)クラスでも成功率は低いが待ち構えていれば出来るので一応の納得はできる。だが咄嗟の状況で同時に行使して無傷で切り抜けるなど誰が考えるか。

 世界最強(ブリュンヒルデ)並の技量を見せつけつつ切り抜けられ、二人揃って茫然自失(ぼうぜんじしつ)となる。一方は弾切れになったマシンガンを構えたまま硬直し、フォローに入った方も硬直。イチカの前に死に体を晒す。

 その隙を見逃すイチカではなく、いつの間にか突っ込んできたISの背後に回ってブレードを突き刺す。そこは当然ISコアが格納された外殻(シェル)。刀身半ばまで突き刺さったブレードは、テコの原理で装甲の一部ごと外殻が外されシステムダウン。

 

「へっ!? ぅゎあああぁぁぁ……」

 

 無用とばかりに蹴り飛ばされすっ飛んでいくISを尻目に、イチカがコア回収へと向かっていく。

 両手を前に突き出し、いっそ間抜と言えるほど無様な格好のまま海へと吹き飛んでいく。

 これで残ったのは手負いの自機のみ。我に返った時には外殻を回収したイチカが迫って来て、逃げ出す機会をみすみす逃してしまった。

 

「ひッ!? く、来るなぁ!」

 

 突っ込んでくるイチカに恐怖し、背を向け逃げ出そうとするがうまく飛べない。機体情報に目を向けると、さっき斬られた背部ユニットの部分はPIC発生器の一つ。更にはこれまでの攻撃や爆撃を受け、各スラスターにもガタがきている。

 それでも機体を制御して逃げようとするが、追いつかれるのは時間の問題。せめてもの足止めにと残弾ゼロのマシンガンを構えるが、虚しく撃鉄を叩くだけだ。

 

「なんで? なんで撃てないのよッ!?」

 

 既に弾切れになっているのも忘れるほどパニックになり、慌てて別の武器を探す。

 残っている武器はショットガンが4発、グレネードが1発にブレードと残弾も絶望的。目前まで来たイチカに半ばヤケクソになってショットガンを呼出(コール)し構えた。が、また目標を失い、ヤバいと思った時には背中に衝撃を受け、あっさりとシステムダウン。機体はウンともスンともいわず、これまでと同じように海上へと落ちていく。

 4つめのコアがイチカの手の中にあるのを目にして、自分達は中学生の子供に完全敗北したのを実感する。

 

「なんなのよ……なんなのよアンタは……」

 

 イチカは答えず、こちらを一瞥(いちべつ)すらせず何処(いずこ)かへと飛んでいく。その動きに初心者らしい不安定さはなく、むしろベテランのような安定した動きを見せ、改めて自分達との力量差を思い知った。

 

「この――」

 

――バケモノ。

 

 そう言いかけて口ごもる。

 あれだけ否定されても、そうとしか形容しようがない怪物だが、バケモノ呼ばわりすれば先程の言葉を思い出し、自身が無力無力な存在だと認めてしまう。

 それだけは認められない。否、認めたくない。

 認めたら最後、これまで必死に守ってきた“何か”が壊れてしまう恐怖がある。

 

 全く動かない機体の中で、彼女はただ睨みつけることしかできなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 一夏が去った海域に潜んでいたオータムは、先の戦闘を見て戦慄していた。

 

(なんだ……なんなんだ、あのガキは!?)

 

 いきなりISを鹵獲したかと思えば一人で海上に飛び出し、自身を囮にして敵ISを誘い出した。オータムも慌ててISを展開して追いかけ、ハイパーセンサーの範囲外で戦闘データを取りつつ、状況を見て援軍として入ろうとしたが、結果は見ての通り。

 

(ISには最近触れたばかりの一般人じゃなかったのか?)

 

 動きも最初こそ不安定な部分はあったが、相手も相手で頭数がいながら連携もフォローもないお粗末な連中。その最中でもダメージコントロールができている事に思わず「初心者なのにやるじゃないか」とほくそ笑んだりもした。

 それでもISに慣れてきたのか、挙動が安定すればまるで別人の如くトリッキーな動きで4機を翻弄(ほんろう)。話術や意図的な誘導で誘い込み、さながら映画のような逆転劇を繰り広げ、4機のコアまでをも鹵獲した。

 これで驚くなというのが無理だ。それどころか、オータム自身は戦闘データを取っただけで当初の目的である護衛の役目を全く果たしていないどころか、暴れる機会すらない。

 

「ッたく、選択を誤ったか?」

 

 タイミングを見計らい、傍観を選択したのはオータム自身だ。そこで展開された予想外の戦闘力に見入ってしまい、完全に介入する機会を逃してしまった。

 現状、どこも入できていない織斑一夏(ターゲット)のISによる戦闘データの回収だけでもそれなりの評価は得られるだろうが、それでも状況次第で一転する恐れがある以上、もう少しインパクトのあるモノが欲しい。

 

「まぁ、それも待ってりゃ向こうからやってくるか」

 

 眼下には緊急時のバリュートが自動展開され、海上に浮かぶ亡国企業(ファントム・タスク)(おぼ)しき敵勢力ISの残骸とそのパイロットが4人。救難信号も出ているようだが、組織を利用した以上、彼女らの末路はロクなものではないだろう。

 連中の他にも、後詰めか予備戦力としてアメリカとロシアから3機ずつ、計6機のISが用意されている。現時点でもそちらが動いたという情報はない。襲撃班が織斑一夏と交戦に入ったという情報を得て、オータム同様、様子見をしていたが予想外の出来事に介入のタイミングを逃したのだろう。

 状況的に見て、市街地に半数は向かうだろうが、残りは必ず海上(こちら)の後始末に来る。

 

「っと、早速おいでなすったか」

 

 ハイパーセンサーにさっそく反応があった。

 その数3機。どちらかの国が貧乏クジを引いたらしい。

 

「この状況、みすみす逃すバカはいねェな」

 

 部隊はおそらく存在しない部隊(ゴーストスカッド)。展開するのは試作第3世代か新型機だろう。

 国際条約の関係で日本の領域内でISを展開すれば、一連の騒動に関与していると思われ警戒される。だが、新型機のテストという形で極秘稼働している所に、騒ぎを聞きつけて介入したとすれば、自国の技術力の高さをアピールできる上、その懸念も払拭(ふっしょく)される。

 同時に、自身の組織(ファントム・タスク)を利用されたという私情もあるが、この状況はオータムにとっても()()()()()

 

「既にやられた強襲部隊を始末しに来た“存在しない部隊”が何故か行方不明になる――表沙汰にゃあできねェ事件だよなぁ?」

 

 事態を収束すべく、オータムはその鍵となるモノを呼出(コール)。それはこの騒動が起きる直前、オータムの名義で届けられたもの。

 剥離剤(リムーバー)を兵器転用し、展開されているISとパイロットのリンクを強制終了させてISを待機状態に戻すという、IS戦における最悪の反則武器(オーバードウェポン)

 今後は対策を取られる今回限りの初見殺しだが、時間がない今は十分過ぎる兵器だ。オータムはその武器を構え、哀れな獲物に向けて警告もなしに撃った。

 

 

 10分後、連絡が途絶えた極秘部隊を探す為、後続の調査班が送られたが、海上にはISらしき残骸と、その周辺に肉食の魚が回遊しているという情報がもたらされ、先に織斑一夏と交戦した襲撃犯も行方不明、後続で投入された“存在しない部隊”も見つからない。

 何があったかは予測できた。が、上層部はその事実を秘匿。これで一方の国はISコアを3つ失っただけでなく、織斑一夏と早期接触できる機会まで失ってしまった。

 

 その国がどちらかは、もう少し先の話になる。

 

 

***

 

 

 

 戦闘を終わらせたイチカは、市街地への移動時間を利用し、鹵獲した4つの外殻(シェル)を本体とケーブルで直接接続し、残ったエネルギーと弾薬を機体に移動させていた。

 先の戦闘で残っていたブーストエネルギーは2割をきった。弾薬もアサルトライフルは装填分のみ(30発)、マシンガンは撃ちきり、ショットガンは6発、グレネードもなし。ブレードも想定以上に(もろ)く、短時間の使用にも関わらず耐久値が半分をきっているし、機体に至っては装甲は無事な部分はなく、各駆動系も注意域(イエロー)から危惧域(オレンジ)に突入している。

 

「少々、無茶しすぎたかな?」

 

 DSと比べ、ISの第2世代は強度を含めた諸々のステータスが低い。

 運用した感じでは、ユーザーが少し手を入れた第1世代のDSとほぼ同じぐらいだ。かろうじて第2世代と同等な部分はあるが、いくら量産機とはいえ、このステータスはDSOプレイヤーからみると第2世代を名乗るには少々心許(こころもと)ない。

 

「ランクスはこれも見越していたんだろうな」

 

 ランクスはこの状況が起きることを予測し、イチカの持つメカトロニクス技術を合理的に得られる方法の一つとしてデュノアに来ることを提案したのだろう。ここまでの一連の敵味方の動きにも関わっているのは一つや二つの騒ぎではないはずだ。

 

「ま、今はそんな事どうでもいいか」

 

 並の思考ならば、相棒(ランクス)の暗躍に気づいて疑心暗鬼になっているのだろうが、最初から打算ありきで動くと言われている。これで疑うなら、最初からランクスを相棒と呼んでいない。

 私怨や私情を含めて動いてくれるならば、イチカもいろいろ動きやすい。幸か不幸か手土産もできたし、あのランクスのことだ。この動きを先読みして専用機を用意しているぐらいの手筈は整えていてもおかしくない。

 

「――っと、終わったか」

 

 沿岸部が見えてきた所で回収が完了する。

 外殻に残っていたエネルギーや残弾の回収も終わり、ステータスを確認。

 ブーストエネルギーは6割弱まで回復、アサルトライフルは2マガジンほど(100発)、ショットガンは20発、マシンガンは1マガジン(50発)、グレネードは4つ、ブレードは誰も使用していなかったお陰で、自前のも含めて5本ある。

 現状なら、イチカは()()()()()戦いができる。ダメージを考慮してもIS含めた機動戦術でも使われない限り、それなりの戦いはできるだろう。

 

「あっちは大丈夫、だよな?」

 

 自身を囮にしてIS強襲部隊を引き離したとはいえ、残存勢力がどれだけいるかわからないし、この機に乗じて暗躍する勢力がないとも限らない。ローラやマジェスタがいる以上、最悪の展開にならないとは思うが、それでも不安は残る。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で加速しようとした瞬間、ハイパーセンサーにエネルギー反応。攻撃されているとわかった瞬間、咄嗟に身を傾けたのが限界だった。

 背中に衝撃を受けたのを最後に、イチカの意識はブツリと途絶えた。




後半戦、終了(戦闘終了とは言ってない

IS強襲部隊のみで終わると思った人もいるかと思われますが、諸々のフラグ入れる為に延長戦決定。まだ千冬やラウラ側の話もあるので、もうちょっとだけこの騒動は続きます。
執筆時間取れないのに自分の首絞めて何やってんでしょうね。。。

今回の独自設定ですが、量産機に緊急時のバリュートや救難信号で、量産機である以上、パイロットの安全確保とコアの希少性を考えればこれぐらいの機能はあってもおかしくないよなって感じで入れてます。
原作だとこの辺は言及されてませんが、「量産機=モブ、もしくはやられ役」という立ち位置でそこまで作りこんでないんでしょうが、この辺も色々使える設定なのでどんどん盛り込んでいきます。

他にも一夏が回収したコアから直接エネルギーと武器弾薬を回収しているくだりはVTシステム戦でシャルロットが白式にケーブルで直接エネルギーを注入しているシーンがあり、拡張領域(バススロット)内にある武器弾薬は外殻側にパーティションされているという設定。この辺も一夏の専用機がお披露目される際に重要なので、しっかり入れておかないと後で「あれ?」ってなりそうなので。

Q:いっくんの専用機はいつごろ出るの?

A:…………いつなんだろうね(必死に目そらし

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