DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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Extraordinary:突飛、並外れた、異常。
使い方次第では臨時総会や臨時会議、人に使う場合は突飛な人、珍しい人、人間卒業(Extraordinary Human)など。日常会話ではあまり使用されないけど、映画なんかではブッ飛んだキャラに対して使うこともありますし、Extraついてるから英語わからなくても「なんかスゴそう!」って感じがしそうという偏見からこのタイトルに。

Q:いっくんが第2世代ISを使った状況をわかりやすく!
A:スパロボの初期マップで主人公が敵地から逃げるため量産機奪ってったら同型機が追撃してきた感じ。
ただし、レベル差が絶望的な模様。

ところで、仕事で世界中回ってたら我が家に夏と秋が来なかったんですが、どこ行ったか知りません?
帰ってきたら『また来年来ます。探さないで下さい』って置き手紙だけあったんですが……いつの間にか令和元年さんもどっか行っちゃうし。


00-16 Extraordinary

 謎の襲撃者の出現。それはPMCのみならず、日本政府機関にも察知され、会議室は上へ下への大騒ぎとなった。

 

「すぐにIS部隊を動かすべきだ!」

「その前にあの機体の出処(でどころ)を探すのが先だ。アレがどれだけ展開されているのか把握できなければ、2年前の繰り返しだぞ?」

「自衛隊と警察に出動要請は?」

「こちらに権限はない。状況が見えないまま迂闊(うかつ)に動かして鎮圧されてみろ」

「手柄の横取り、ないしは事前活動の功績でデカい顔をされてしまう、か。マスコミには何と?」

「まだだ。マスコミにはテロリストにも情報を与えてしまうとして報道規制をしているが、相手の規模がわからん。おいそれと報道はできんだろう」

「妥当な判断だな」

「例のバイトの件もあるし、今は民意を刺激するのは悪手か」

 

 ただでさえ出生率が減少しつつある男性、それも世界唯一の男性IS適性者に危険が迫っている。

 この状況を打破すべく、閣僚(かくりょう)を中心に専門を僭称(せんしょう)する者達が集まり意見を()べているが、派閥の縄張り争いが互いの足を引っ張りあい、平和ボケした保守派と日和見主義の意見がそれに拍車をかけ、具体的な行動指針一つとれないでいた。

 彼の適性が発覚した際、日本政府は彼の日常を守るため恒久的な護衛を約束している。早く何らかの手段を打たなければ『情報が錯綜して身動きがとれなかった』などの言い訳すらできなくなる。

 最悪でも、どこか警備部隊を先行させ『初動から迅速に動いていた』という実績がなければ厳しい。

 

「せめて、付近の住民への避難勧告ぐらいはして欲しいものだね」

「……同感です」

 

 会議室の壁際で菊岡が嘆息しながら呟き、安岐ナツキも気だるげに答える。

 状況が発生してから40分近く経つも、それだけ経過しても作戦本部(ここ)はまともな行動指針一つ生まれない。その理由はIS特務部門を(にな)(きし) 結華(ゆうか)議員がここにいないのが大きい。

 彼女も事態が発生した直後に事務所を出発したらしいが、10分ほど前から連絡がつかない。この騒ぎを起こした何者かに襲われたのか、それとも他の要因か。詳細はわからないが、ここに彼女がいないのは大いに問題だった。

 

 菊岡と安岐がここにいるのは、以前から仕込んでいた計画(モノ)前の部署(古巣)が目を付け、それに一枚噛ませて欲しいという要請が来た為だ。

 菊岡はその話を一度断ったが、今度は正式な会議に呼び出され、その最中に今回の騒ぎだ。疑わない方がおかしい。

 

(内通者、もしくは当事者がいるのかな?)

 

 一連の動きはあまりにタイミングが良すぎる。それを警戒してドイツも既に現地入りしているという情報もあったが、まだ上層部(うえ)に報告してない。

 

(おそらく、篠ノ之博士も行動しているか)

 

 というより、博士はこの事態を予測して動いているはず。むしろ率先して何らかの手を打っていてもおかしくない。こちらも迅速な行動を起こさなければどうなるか。

 どう転ぶにしても、これらの件は伝えておかない方が()()()()()こちらにとって都合がいい為、独断で報告していない。言わない方が状況的に被害はこちらに飛び火してこないだろう。

 もし彼や彼の関係者に被害が出れば、ただでさえ距離のある織斑一夏との関係は最悪となり、彼は日本を見限って他国に亡命するか、もしくは諸外国がこの機にしゃしゃり出てくるか。

 今はこの騒ぎに集中しているが、一段落すればこちらの策がいつの間にか彼らの作戦に組み込まれ、転んでも逃げ口上に利用されるのだろうが、菊岡はこのまま黙っているつもりはない。

 たとえ閣僚に裏切り者呼ばわりされても、こちらを巻き込ませるような事態に陥らせないように立ち回ると決め、冷静なフリをしている今も頭をフル回転させ、最終的には自分達が最後の糸口になってこの状況を生き残ろうと画策していた。

 

「で、()()からの情報は?」

「事態が発生した前後、織斑千冬がIS学園に辞表を出したようです」

「大事な弟クンを守るため、かな?」

 

 彼女のブラコンは有名だ。それはモンド・グロッソの悲劇でも証明されている。

 今回の件も国はこの通りだし、学園も動かない事に痺れを切らして辞表を叩きつけたか。この状況だけなら、成功しようが失敗しようが、彼女の行動を上手く使えば学園側も言い訳ぐらいは立つだろう。

 辞表そのものをもみ消し、行動に見合う対価さえ用意すれば『彼女は学園からの要請で動いていた』という弁も立つ。この状況が伝わっているはずのIS委員会が何の動きも見せていないのも気になるが、向こうも学園と同じく日和見で流れを見ているのか、もしくは別の目的があるのか。

 

(……まさか、ね)

 

 一瞬でも沸いた疑念を即座に否定する。いくらなんでもIS委員会そのものがこの騒ぎの裏にいるなど、三流ゴシップでも一笑に伏す話があるわけない。

 

「それと、未確認ですが学園の方に篠ノ之博士が現れ、彼女(ブリュンヒルデ)と共に行動しているという情報も」

「なに!?」

「た、大変です!」

 

 予想外の情報に驚いた所を狙った様に、情報部の職員がプリントを手に駆け込んでくる。偶然ISらしき画像が見えた。

 

 ……凄まじく嫌な予感がする。

 

「さ、先程入ってきた情報ですが、例の少年が襲撃犯からISを鹵獲(ろかく)し、海上へ向かって飛行。げ、現在、太平洋の海上50km地点でIS4機と交戦中。

 そ、それと、未確認の新型ISが確認され、何者かと交戦したという情報の他、未確認ですが織斑千冬がISを装備して現場に現れたという情報も――」

 

 あまりに予想外の報告に、閣僚達は揃って呆けた顔をし、会議室が静かになっていく。

 予想以上の最悪な展開に、菊岡は頭を抱えた。

 

 

 

***

 

 

 

 海上で戦闘が開始されて20分――戦闘は続いていたが、半ば一夏に有利ながらも膠着(こうちゃく)状態にあった。

 

「ったく、数が揃うと厄介だな」

 

 肩で息をしつつ、呆れたように呟くと、相対する4人が猛抗議する。

 

「言ってろ、このクソガキ!」

 

 半ばヒステリックに叫びながら、襲撃犯の一人がアサルトライフルを構えて吶喊(とっかん)。やや遅れて左からマシンガンで弾幕を張り、円状制御飛翔(サークル・ロンド)で周回しつつ接近。更に上下から2機、ブレードを構えて追い詰めようとするが、その連携はあまりにお粗末すぎる。

 

(正面を(おとり)挟撃(ピンサー・ムーヴメント)(※1)を本命にしたのは評価できるが、ここで円状制御飛翔(サークル・ロンド)を単機で使う意味もわからないし、タイミングもバラバラ……)

 

 DSOではこんなのは急造のチームでもやらない連携。

 やるなら左右から二機連携で円状制御飛翔(サークル・ロンド)を行いつつ弾幕を張って動きを止め、中央から1機が吶喊。残り1機は後方支援か伏せ札として上下から奇襲するかだ。急造部隊だからなのか、それとも単騎の作戦が多いからか、こいつらは連携の重要さを理解していない。

 一夏は正面から来る敵に合わせ、スラスターではなくPICのみを使ってターンしつつ、右前方に移動。たったそれだけで全てがスルーされ、4人は一瞬呆然となった。

 

「え?」

「ウソ……」

「は!?」

「なにッ」

 

 あまりに自然に抜かれたことに驚く間もなく、一夏は右手のショットガンと左手のマシンガンをダブルトリガー。一ヶ所に固まった4機のシールドエネルギーを削っていく。

 予想外の反撃に混乱してる隙に、自身を使って相手の視界から隠すところでグレネードを呼出(コール)。右側へブーストする勢いを利用し、左足でスコーピオンシュート(※2)。蹴り上げられたグレネードは一夏とは真逆の方向から襲撃犯に向かって飛んでいく。が、当事者は一夏の方に意識が向いて気づかない。

 

「この……ッ!?」

 

 頭に血が昇ったまま、反撃すべく銃を構えた眼前にグレネードが飛んできた。

 ヤバい、と判断した時には既に遅く、ショットガンから数多(あまた)の弾丸が吐き出され、それが雷管を打ち抜いて爆発。至近距離の爆風によってシールドのみならず、兵装や装甲にも甚大なダメージを受け、爆発の近くにいた1機は武器も損傷してしまう。

 一夏は追い打ちで上からマシンガンをバラ撒いて牽制しつつ、距離を取って対峙。襲撃犯達は今の奇襲じみた反撃を警戒して迂闊に動けなくなった。

 

「ぐっ、手癖の悪い……」

「姉も姉なら、弟もバケモノかよ」

「こいつ、本当にIS初心者なのか?」

 

 戦闘開始からこっち、ずっとこの調子だった。

 最初こそISの操縦に不慣れなせいか、こちらの攻撃はまともに当たっていたが、数分もすれば被弾率が目に見えて下がり、連携をとっても(わず)かな隙を突かれて反撃され、包囲しても立ち位置を掻き回された挙句、BoB(※3)を誘われて自滅気味に削られていく。それでも慣れないISの操縦は相当な負担なのか目に見えて疲れが見えて始めていた。

 襲撃犯達は数の利と時間という味方がいる。ゴリ押しすれば勝てるかも知れないという希望があって、やや押されながらも粘り強く連携を取って追い詰めていくが、千日手に陥りつつある。

 

 一夏の方も一見有利に見えながら、内心では攻めあぐねていた。

 ある程度長期戦に耐えられるようソフト面をなんとか調整したものの、予想以上にこのIS(ラファール)は中身が同世代のDSと違いすぎる。

 

(反応がニブ過ぎるし、遅い――)

 

 PICまでフルマニュアルにしたが、入力からの反映がコンマ3秒から5秒のラグがあり、イメージインターフェイスの恩恵があるにも関わらず、リミッターがかかっているのか一定時間内での入力にも限界がある。

 機動力もDSと比べてもあまりに遅い。量産機だからなのか、瞬時加速(イグニッション・ブースト)高速切替(ラピッド・スイッチ)などがDSと変わりなく使えたのは(さいわ)いだが、反応の悪さが災いして特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)を始めとした、挙動に繊細さを求められる特殊機動がこの機体では使いにくい。お陰でそれ以上に繊細さが求められる『技能再現(リプロダクション)』が使えない。

 それでも何度か特殊起動を使って回避行動をとってみたが、少し派手に動いただけでエネルギーをバカ喰いするし、ハイパーセンサーにもリミッターがかかっているのか、得られる情報量もDSと比べて少なく、地味に負担を強いられている。

 

「…………」

 

 そんな不利を(うかが)わせる素振りすら見せない一夏に警戒し、動けなくなっている敵を尻目に一夏は脳内で状況を整理。

 DSOで経験した戦闘や技術が現実でも通用したのは大きな収穫だ。反面、ゲームと違って戦闘中にエネルギーや弾薬を回復させるものがなく、ほぼ同じ条件の機体で4対1。

 単純に考えてもこちらが与えるダメージは4機に分散され、弾薬やエネルギーの消費量は(かさ)んでいき、体力も消耗して状況はどんどん追い込まれる。対して向こうは(つたな)いながらも連携ができる為、各機でダメージの分散ができる。

 ただの中学生ゲーマーであれば、ゲーム技術にイキって現実とのギャップに追い込まれていたか、もしくは殺されないまでも、半殺しで鹵獲(ろかく)されていたか。

 戦闘中にいろいろ仕込みをしているが、彼女達も馬鹿ではないし、気づかれるのは時間の問題だろう。

 現状一夏が出来る事といえば、連携の穴をついて乱し、ここぞという所を狙って一気に削るという戦法か、予想外の行動をとって意識を逸らし、全く別方向からの攻撃を加えるか。

 そんな不利な条件下でも一夏は涼しい顔をして機体に振り回されないどころか振り回し、冷静に4機のISと対峙しているが、実際はかなりジリ貧だった。

 

 チラリと機体ステータスに意識を向ける。

 機体のシールドエネルギーや装甲に致命的な被弾はない代わりに、各駆動系統は軒並み注意域(イエロー)。ブーストエネルギーも残り半分をきった。

 残弾も4割をきり、グレネードはさっきので撃ちきり、アサルトライフルのマガジンは残り2つ(100発)、ショットガンは残り8発、マシンガンは残りマガジンが3つ弱(250発)。ブレードは今まで距離感がつかめなくて、まだ一度も使用していない。

 傍から見れば、一夏は追い詰められているように見える。が、ここまでが一夏の仕込みだ。更にいえば一夏はこの短時間の戦闘でISを――より正確に言うならこの機体で()()()ことを理解した。

 

「なぁ、そろそろ撤退するか投降してくれないか? これ以上やっても時間の無駄だって判るだろ?」

 

 (あお)る事前提で優しく声をかけてみる。

 4対1、それもIS操縦者にありがちな女尊主義が、目の(かたき)にしている男。それもISを使って1時間も経過していない上に数で押し切れば()()()()()奴に、これみよがしに優しく投降を呼びかけられるなど、屈辱でしかない。

 

「ふッ、ざけるなぁぁぁァァッ!!」

 

 案の定、彼女達は激高(げっこう)して突っ込んで来る。

 それに対して一夏は反撃もせずにあっさり退いて、(わら)った。

 馬鹿にされたと思った彼女らは尚更頭に血が上り、連携も何もないまま、上をとって個々に追いかけてメチャクチャに撃ちまくる。それが功を奏したのか、一夏の機体に被弾が目立っていき、徐々に機体の装甲がひび割れ、削られていく。

 苦し紛れとばかりにマシンガンによる反撃がくるが、まともに当たる方が少なく、体力の限界が近づいていると思い、勝ち目が見えてきて尚更攻め立てていく。

 一夏の回避行動が円状制御飛翔(サークル・ロンド)に入っているのにも気づかず、躍起になって弾幕を張る彼女達に更に一夏は燃料を投下した。

 

「そうカッカすんなよ、小ジワが増えるぞ、オバサン」

「「「「くぁwせdrftgyふじこ!」」」」

 

 追い込まれている中、冷静に言われたのが刺さったのか、尚更ヒートアップして攻撃してくる。が、頭に血が昇った彼女らがまともに照準をつけられるワケもなく、ダメージを与えている姿を見て、尚更状況を分析できる冷静さをも奪っていく――彼我の高度差が逆転していることにも気づかずに。

 退きつつも、相手の射線を右へ左へと身をもって誘導し、だんだん当たらなくなってくる彼女達はムキになって何度もリロードして撃ちまくる。

 やがて1機のアサルトライフルが弾切れを起こし、続けざまに2機目、3機目がもつ銃からガチンとうい音を立ててハンマーが上がる。

 

「ちッ……!?」

「この――ッ!?」

 

 慌ててリロードしようと拡張領域(バススロット)からマガジンを呼出(コール)しようとするが、残弾がほとんど残っていないことに気づいた。

 

「え? なんで?」

「うそ……」

 

 煽られた挙句、暴力にによって上っていた血がスーッと下がっていく。助けを求めるように周りを見れば、同様に青い顔をしている。先程までエネルギーも残弾もかなり余裕があったはずだ。

 

「ISの優位性に頼りきってて、釣られたのに気付かなかったみたいだな」

 

 自分達が一夏の策にハマっていた事に驚き、改めて冷静になって一夏を見て、再度驚愕する。

 今までの攻撃は確かに当たっていた。当たっていたが、ダメージは外部装甲のみで破損もせいぜいが端の部分程度。駆動部への被弾はおろか、内部装甲もむき出しになっている箇所がない。

 

「お、お前、まさかダメージを……」

「こんなの、格上と戦うための常識だろ?」

 

 あれだけ勝てそうに思えるぐらい攻撃が当たっていたのに、それら全てのダメージを制御(コントロール)されていたのに気付かなかったのを(あざけ)られ、その技術の高さに歯噛(はが)みする。

 ダメコンはDSOでは必須技術の一つだ。格上との戦いで被害を最小限に抑えるのはもとより、対戦での懸引(かけひ)きや魅せプレイでの利用、格下との対戦で勝ち負けを抜きにしてストレスなくプレイさせるだけでなく、ミッションにおける長時間戦闘への利用など、その用途は幅広い。

 それに、元々この技術は企業のキャンペーンガールとして採用されたIS操縦者が、DSOに持ち込んだパフォーマンス技術の一つだ。それをDSOプレイヤーが昇華させ、一夏がISにフィードバックさせたに過ぎない。

 優位をとりつつも、つかず離れずの実力差で起死回生(ワンチャン)あるように誘わせるのはDSOのPvPでは基本戦術の一つだし、それを含めて被弾率をコントロールするのも実力の内だ。

 それを知らない、というこの襲撃者はどれだけISという存在(チカラ)に依存し、暴力に酔いしれ慢心していたのか。

 

「まぁ、いいさ」

「なに――?」

 

 スッ、と静かに一夏は上を指さす。

 その意味が分からず、彼女達は怪訝な顔をしながらも釣られて上を見た。

 

「ここからは、傭兵(オレ)の戦い方だ」

 

 ただの中学生・織斑一夏が白の傭兵・イチカへと思考が完全にシフトする。

 疑問の答えは、降り注ぐ弾幕だった。

 

「ああああああッ!?」

「くぅッ!?」

「な、何よコレぇっ!?」

「ち、散れッ、とにかく退ひぎゃッ!?」

 

 なにがなんだから解らず、慌てて逃げようとするも、行動するより早く横合いから攻撃され、パニックになったままシールドエネルギーを削られ、アラートが鳴り響く。

 

「まずは2機ッ!」

 

 パニックになっている1機の後ろに回り込み、左手のマシンガンを高速切替(ラピッド・スイッチ)でショットガンに交換。背面のISコア格納部に銃口を押し当て発砲。シールドバリアも機能しない間合いからの攻撃で装甲に亀裂が入り、内部からの衝撃でシールドバリアが歪んだ所へサマーソルトキック。冗談の様にISコアが収納された外殻(シェル)が、カコンッと小気味いい音を立てて外れ、周りが反応するより早く、すぐ隣でパニックになっている1機の背面ユニット部に、初めて呼出(コール)したブレードを突き立てた。

 刃を返すと、また冗談の様に装甲の一部ごと外殻が外れ、体当たりをかまして別の1機にぶつけると、追撃せず抜き取った外殻に向かう。

 未だパニックになっている2機は何が何だかわからないまましがみついていくる機体を引き剥がそうとするが、コアを抜かれた方はいきなり機体がシステムダウンして尚更パニックになってしがみついていくる。

 

「このッ、離せっ!」

「ちょっ、待ってよ! いきなり機体がダウンして……」

「邪魔だ!」

「待っ――」

 

 状況が分からず、『なんらかの攻撃を受けただけでシステムダウンなどありえない』という常識の下、何を言っているのかわからない相手を無理やり引き剥がし、何故か追撃してこなかったイチカを見ると、その手にはISコアが収納された外殻(シェル)が2つ。引き剥がした機体が制御を失いつつも、絶対防御の恩恵によって一定高度まで徐々に落下していくのと、手の内にある外殻を交互に見て、ようやくコアが抜かれたのだと理解する。

 

「い、いつの間に」

「ど、どうやって……」

 

 無事な2機は戦慄する。

 落下していく2機は無視しても大丈夫だろう。腐っても量産機だ、一定高度まで落ちれば予備バッテリーでPICが発動し、パイロットの安全を確保した上で緊急排出されるだろう。

 動揺している二人を前に外殻を拡張領域(バススロット)に収納し、イチカが嘆息する。

 

「ほんッと、ただISに振り回されてただけか」

 

 イチカがしたのは分解整備箇所をピンポイントで攻撃し、ISコアが収納された外殻を取り外しただけだ。

 常識から考えればIS本体を攻撃し、シールドバリアや装甲を削って相手を倒す、というのが戦闘の常識として認識されている。

 それに対してDSOという世界は“なんでもアリ”という一点が恐ろしく突き抜けている。それはこれまでのロボゲーをやり込んだ者からすれば「卑怯」とか「非常識」という言葉を通り越し、現実の理不尽を一部持ち込んできたかのような非情さすらある。

 DSを通してISへの造詣(ぞうけい)を深め、それを基礎に立ち回りを研究し、更にはDSOの対戦法へと昇華させた傭兵(イチカ)の戦い方は、その常識すら根本から(くつがえ)すだけの技術と戦術がある。

 これがあるからイチカは15対1という絶望的な対戦を切り抜け、悪質系(ローグ)クランを個人で潰し、ミッションすら食い破るという濃密な戦闘時間の中で、アビリティという特殊能力をほとんど使わないソロプレイヤー最上位として昇り詰めた。

 

 DSOという仮想世界は、恐ろしいぐらいに傲慢(ごうまん)で厄介で理不尽で、非常識なまでに心折(しんせつ)な世界だ。隙を(さら)せば横合いから伏兵や第三勢力の介入を許し、余裕をもって無様を晒せばそれまでの優位を潰されるどころか、一瞬で窮地(きゅうち)に追い込まれる事さえある。

 2年前に遭遇したモンド・グロッソの悲劇。あの出来事を繰り返さないため――あの恐怖を払拭するために、仮想世界で狂気じみた追い込みと研鑽(けんさん)を重ねてきた。

 機体が同じでも経験が違う? 人数的な不利? ダメージを受けて窮地に追い込まれる?

 正直、イチカにとってそんなもの不利の内にも入らない。むしろ一日の長がありながら、無様に踊らされるどころか追い込まれる状況に(おちい)っている襲撃犯に呆すらある。

 

「この、バケモノめ……」

 

 目の前にいる男が同じ人間だとは到底思えない。まるで同じヒトの形をしたナニカに見えてくる。

 そんな怯えをイチカは鼻で笑い、訥々(とつとつ)と語り始めた。

 

「バケモノって便利な言葉だよな。テメェの弱さや劣等感をその一言で全部解決できる」

 

 襲撃犯達は(イチカ)が何を言っているのかわからない――理解したくない。

 

「そうやって自分より強い奴らをバケモノ呼ばわりしときゃ、格下の自分達が優位になるのか?」

「……ッ!」

 

 自分の中で必死に守ってきた何かが崩れていく。

 否、見たくもない自分の醜さが晒されていく。

 

「弱いことを理由にして、強者を数の暴力で排除すりゃ、自分の弱さと向き合う必要も、上を目指す必要もないもんな」

「う、うるさいッ! 私達の何がわかると――」

 

 聞いてはいけない、聞きたくない。それでもバケモノ(イチカ)の言葉は続く。

 

「そうやって強者を否定してるクセに、自ら強者の位置に立つこともなく、群れるだけで世界最強(ブリュンヒルデ)に挑むどころか、上を目指す気概すらない」

「だ、黙れ……」

 

 一つ一つの言葉に心当たりがあり、それら全てが突き刺さる。

 正論すぎて、否定したくても否定できない。

 

「都合のいい時だけ弱者って立場に甘んじて、そのクセ必死にISにしがみついて――そんなあんた達に何ができるってんだ?」

 

 目を背けていたことを、見たくなかった事を指摘され、ついに何かがキレた。

 

「「うゎあああぁぁぁ!!」」

 

 連携も何もなく、必死な形相で滅茶苦茶に攻撃する。

 

「死ねッ、死ねぇェェェェッ!」

「殺す、殺してやるッ!」

 

 これまで目を背けてきたものが『恐怖』となって自らに突き刺さる。

 今後の為にも、こいつはこの場で殺さなければいけない。そうでなければ自分を、これまでの過去(もの)が紛い物だと思う。認めてしまう。

 

「はッ、できるかよ」

 

 そんな必死さを嘲笑(あざわら)う様にシニカルな笑みを浮かべ、これまでとは一線を画す動きで一夏はスイスイ避けていく。その動きに疲れの兆しすら見えず、勝ち目が遠くなっていくのがわかっていても止まらない。

 否、止められない。

 

「当たれッ、当たれよッ!」

「落ちなさいよッ、男のクセに、(わたし)たちのISに乗るなぁァァ!」

 

 涙目になりながら攻撃するが、一向に当たらない。それどころかこちらの罵倒も聞き流し、シニカルな笑みを浮かべたまま反撃すらせずにこちらを見てくる。それがまるで自分達を嘲笑うように見えた。

 

「うぁぁぁ――ッ!?」

 

 恐怖を振り払おうとグレネードを呼出(コール)し、投げつけようと振りかぶった所でキンッという小さな音が妙に耳についた。

 へ? とグレネードに目を向けると、雷管の所に銃弾が突き刺さっているのが見え、直後に爆発。

 二度目の至近距離の爆撃によって、悲鳴すらかき消され、持っていた右マニュピュレーターの反応もロスト。確認するまでもなく右腕が吹き飛んだと(わか)る。おそらくは至近距離にいたもう一人も無事では済んでないだろう。

 それよりも何よりも、(イチカ)が撃った瞬間が見えなかった。いくら狂気に駆られていたとしても、目を離すことはなかった。

 なのに、いつ撃ってきたのかわからない。

 いつ構えた? いつ狙いをつけた? どうしてコマ落としのように撃った瞬間が抜けてて、なぜ男が左手でアサルトライフルを構えて、それがピンポイントでグレネードの雷管を撃ち抜いた?

 

「ぅ、あ……」

「ひ、ぃ……」

 

 歯の根が合わず、カチカチと耳障りな音を立てる。

 目の前のバケモノ(おとこ)が怖い。恐ろしいのに目が離せない。

 標的(ターゲット)世界最強(ブリュンヒルデ)付属品(おとうと)で、ただの中学生だと聞いていた。それなのに翻弄され、挙句追い詰められている状況はなんだ?

 

「言葉で言ってもわからないってんなら、直接その身に教えてやる」

 

 ゆっくりと、イチカが構え直す。

 

「お前らが今までやってきたことは幻想にしがみついてきただけで、ただのガキにすら負けるって現実を」

 

 

――傭兵(イチカ)の蹂躙が始まる。




ない時間無理やり作ってちまちま書いてましたが、なんか微妙。スキルインフレ表現したかったのに、どう見ても敵YOEEE…
一夏がISコアぶっこ抜いたのは「分解整備箇所を~」としてますが、正直自分でも暴論な類だと思ってます。アニメ版でオータムがアラクネのコア抜いて自動操縦で自爆特攻かましたから「これぐらいやっても問題ないかな」って感じで無力化してます。
というかぶっちゃけこうでもしないと必殺技もないままダラダラやって数減らしても面白みないだろうと思いますし、一夏の規格外さを表現するのにインパクトないので。

伏線だけは幾つか入れてるけど、この辺が現状では精一杯。正直時間かかっても練り直すべきだったかと思いますが、グダグダ書き直すより話進める方にウェイト置いてストーリー進めます。いつか時間的余裕ができたら書き直すなり何なりしたい(やるとは言ってない
年内ギリギリで更新しましたが、また春に更新とかならないように善処します(f^_^;)



今回出てきた専門用語。

(※1)挟撃(ピンサー・ムーヴメント)
軍事用語。文字通りの挟み撃ち。四面楚歌の状況も該当するらしいのですが、ゲーム用語なんかだとクロスアタックとか呼ばれる戦術。フクロとか表記するとよりわかりやすい?

(※2)スコーピオンシュート
サッカー用語。ヒールシュートとも呼ばれ、踵を使ってシュートする方法。体でボールを隠すように打つので混戦状態だとシュートされたこともわからない事があるようです。

(※3)BoB
軍事用語。正しい綴りはBlue on Blue、フレンドリーファイアの事。NATOでは自軍が青で表記される事からこの呼び方。BoBと略すのが一般的みたいです。
現在はフレンドリーファイアという呼び方は同士討ちというより援誤的な意味合いで使われているようで。

個人的にゲームと現実の違いなんかはこういう細かい所でメリハリつくんじゃないかと思っているので、今後もこういった専門用語は出てくると思いますが、ドンドンこういうネタは入れてくつもり。



余談ですが、今回のタイトル、次点の候補が「elsewhere」でした。

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