DS - ダイアグラナル・ストラトス - 作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)
ネタはあるのにこれがスランプなのかと本気で悩みました。なのに内容が結構薄いような…?(元からとか言っちゃいけない)
前回の投稿:10/28
今回の投稿:5/19
年を越えるどころか元号も変わっちゃったんですけど(汗
IS学園に辞表を置いて来た千冬は、校門を出てすぐに懐かしい顔と出くわし、半ば強引に彼女が駆る車で移動していた。
「まったく。来るなら来るで先に連絡をよこさんか、馬鹿者め」
「こっちも急いでたからねぇ。すっかり忘れてたよ」
2年前から疎遠になっていた友人――篠ノ之束は校門前に自らが駆る車で千冬を迎えに来た。
それでちょっとした騒ぎにもなったが、彼女はそれらを一顧だにせず「時間がない」と言ってサッサと動き出した。
IS学園は人工島に建てられた施設であり、移動手段は船かモノレールなのだが、彼女はどうやって車を用意してきたのか。そもそもどこに向かっているのかも気になるが、細かいことを抜きにして話を進める。
「このタイミングで来たのは――」
「バカ騒ぎ起こしたい連中は、束さんを表社会に引っ張り出したいみたいでね。手ぶらじゃなんだからお土産も用意しとこうかなって」
それが
彼女が動けば、それだけ事態が深刻だと学園に知らしめることができる。千冬があれこれ言うよりインパクトがあるが、爆弾付きの諸刃の剣でもある。今頃会議室は騒乱の真っ只中だろう。
学園も動くべきか、それとも静観か。
結果次第では学園の存在意義すら問われかねない事態だけに、会議は紛糾することは
「これで学園が動けばよし。それでも動かず騒ぐだけなら、その時は“あの話”を使って本格的に動くだけさ」
「……いいのか? 箒に恨まれるやも知れんぞ」
モンド・グロッソの悲劇。あの事件は何かと千冬や一夏が話題に上がりやすいが、その裏には束が失踪した本当の理由がある。
IS業界の根幹を揺るがしかねない、とびっきりの爆弾が。
その暴露を恐れたがため、要人保護プログラムがかかった箒はどこも手出しができなかったし、束の奇策によって一夏が助けられたのも事実だ。しかし、あれが暴露されれば一夏の騒ぎどころではない。
「大丈夫、その辺に関しても策はあるから」
「あの事件の残り火はどこでにでも
的を得ない会話でありながら、ニヤリと束が笑う。あの事件は世界中に多大な爪痕を残し、今もその問題はほとんど解決されていない。
それだけあの事件が重かったのか、それとも
そうこうしている内に目的地へ到着したのか、車は港に停泊している小型貨物船の前で止まった。
「はーい、着いたよー」
車から降りて貨物船の中に入っていく束に続き、千冬も中に入ると、コンテナの中にISが1機、ハンガーに鎮座している。
今まで見た事のない形状からすると、新型だろうか?
「これは――」
「ちーちゃんに用意した、新しい“力”だよ」
その言葉に絶句する。束はISを兵器として利用する事に否定的だったはずだ。
「お前、またISを作り始めたのか?」
「必要になったからね」
努めて明るい声で準備を始める束に、千冬は何も言えなくなる。
あの日から束はどこか壊れている。表面上こそ変化はないが、かつて宇宙に向かうことを夢見てISを作っていた篠ノ之束ではなくなっている気がする。
「第4世代型IS、名は
いっくんの所にも援軍を送ってあるからまだ時間はある。今の内にちゃちゃっと
「……そうだな」
目の前にある世界水準から頭一つ二つ抜きん出た機体とか、援軍とか色々言いたい事も聞きたい事もある。が、千冬は何も
さらにコンソールを動かして千冬の前に空間ウィンドウを展開。現在束がつかんだ情報が表示され、流し見ながら話を続ける。
「手短に作戦を説明するね。こっちの目的は今回の戦闘で民間人を巻き込まない事、ドイツにISを使わせない事。
それと――何としてでもいっくんをISに乗せない事」
「一般人を戦火に巻き込まないのはわかるが、一夏をISに乗せないとは?」
束は少し困ったような、苦しそうな顔をして説明を始めた。
「……いっくんは既に連中の
だからこそ、いっくんを止めなくちゃならない。取り返しがつかなくなる前に」
「一夏を、止める?」
束が何を言っているのか、
束の話が本当なら、今こうして動き出した事さえ遅すぎた気がする。
ほんの小休止のような時間さえ、千冬にはとても長く感じた。
貨物列車の停車場から黒塗りのワゴン車が4台、誰にも気づかれる事なく出発する。
窓にはスモークが貼られ、車両の装甲も妙に厚い。民間車両にしては
「こちらC班。陸ルートからの新入に成功した」
「CP了解。これより作戦を開始します」
車両の中にはヘルメットで顔を隠し、完全武装したPMC兵士が1両につき5人。チーム毎に班分けされ、それぞれの目的に従って連携。陸海空の3ルートから、車輌部隊が各4台で1部隊20人。そのまま車両は現地の兵器補給所として機能し、更にあらゆるルートから一般人に偽装した120人の歩兵が合流、都合180人という規模で目標に向かう。
今回の作戦に参加する兵士の数は200。大型クルーザーに偽装した
先行して数日前から現地に潜伏している8機のIS部隊は
各方面が移動を開始するも、早速出鼻をくじかれた。
「な!? 敵しゅ――」
「まさか、こい――」
「こちらB班。海ルートに
開始早々、予想通りに想定外の襲撃者が現れ、次々と通信が途絶えていく。
「くそッ! 敵はどこに……」
敵を探そうにもレーダーには映らず、目視で探しても攻撃がどこから来ているのかさえ判別できないまま、早速1つの部隊が潰された。
本部もその存在を確認しようと周囲の監視カメラだけでなく、衛生リンクにもアクセス。敵の所在を探ろうとするが、動きが早いのかなかなか補足できない。
「見つけ――え?」
部隊が全滅した所でようやく動きが止まり、カメラで確認できた。が、一瞬、それが何なのか判らなかった。
両サイドに巨大な球状の
胴体は一般的なISよりふた回りほど大きく、イカやエイを
「IS、なのか?」
その問いに誰も答えられない。
奇抜な形状とはいえ、あんなものが空中に浮いていれば、常識で考えればISと考えられる。だが胴体の大きさを考えれば従来のISとは操縦形態も根本から違うはずだ。
呆然としている中、謎の機体が高速で移動。視界から消え、ようやく我にかえったスタッフが慌てて部隊に連絡する。想定していた相手ではないものの、
『未知の勢力』という全くの予想外からの介入に、作戦は最初から狂い始めた。
異変が発生すると、IS部隊の行動は迅速だった。
ラウラ達が来日する前より先行して市内に潜伏したのが功を奏し、イレギュラーに目をつけられる前に織斑家付近まで難なく来れたのは、事前に“現場の判断”を優先するという取り決めがあったのが強い。
後は他のメンバーの合流を待てば良かった――織斑一夏が目の前に現れなければ。
「こんにちわ、お姉さん達」
プリントされた七分袖のシャツ、首には旧式のオーグマーを下げていて、ハーフ丈のカーゴパンツにナイロン製のウォレットコード、足元はスニーカーというラフな格好の一夏が壁際に立っていた。
「え? まさか織斑一夏!?」
「ぇ、ちょっ、ウソ? マジ!?」
気さくな態度で声をかけてくる
「こんなトコで会えるなんてラッキー!」
「ね、ね、写真! 写真撮らせてよ」
言いつつも許可なく端末のカメラで撮影しつつ、グイグイ押してくる彼女たちに若干引きつつも、一夏はそこから動かない。
「こんな所で一人でいるなんてどうしたの?」
「ちょっと人を待ってまして」
苦笑しつつも、往来のど真ん中で待ち合わせをしていることを告げ、危機感のない行動に内心ほくそ笑む。連日あれだけ騒がれているのに自身の価値を理解できていないのか、休日の大学生を装って薄着でいる自分達にさしたる警戒もしない。
逃げないのをいい事に、アイコンタクトで一人は胸元を強調しつつ近づき、もう一人が背後に回る。年上の女性に慣れていないのか、視線は胸元に吸い寄せられ、鼻の下も伸びている。
(いくら頭がよくても、所詮は日本の中学生か)
年上の女性の色香に翻弄されたのか、ガードがゆるい。この際だから待ち人の情報も得ようと、何気なく質問する。
「待ってるのはお友達? それとも彼女?」
「あー、どっちでもないかな。実は俺もよく知らないんだ」
相手が誰なのかも知らず、こんな往来で待っているのも妙な話だ。例のオンラインゲームのオフ会とかいうものだろうか?
「ふーん。それってどういう人?」
「IS実働部隊」
サラッと自分達を指摘され、思わず身構える。と、後ろに回っていた方が突然
「なッ――!」
慌てて距離をとると、一夏が何かを投げつけてくるのも構わずISを起動。が、どういうわけか搭乗者保護機能が作動し、ISから強制排出された。
「は!?」
不測の事態に再度驚き、何が起きたのかを理解するより早く、一夏の回し蹴りによって意識を刈り取られた。
「最初の賭けには勝てたか」
最初に昏倒させた女性から、待機状態のISを回収しつつ一夏が呟く。
後ろに回った方には肘と手首のスナップを利かせた裏拳で
量産機は安全性を求める為か、ちょっとの異物で誤作動を起こす可能性があり、一夏はそこをついて搭乗者保護機能を誤作動させ、強制排出を促した。
賭けではあったが、これで
この二人には見覚えがあった。ここ最近、見慣れない連中がチラホラいた中にこの二人がいたが、向こうは面が割れていないと思っていたのか、いけしゃあしゃあと初対面のフリをしてくるのに慣れない演技をしたが、どうにか
DSOではこういう“騙して悪いが”は日常茶飯事だし、逆に罠にハメるのもよくある。彼女らは自分達がハメられる事態を想定してなかったらしい。不意の一言で身構えるなど「私達が犯人です」と言っているようなものだ。
襲撃犯がバカで助かったと内心思いつつ、展開されたISを見る。
「――ラファールか」
モスグリーンをベースにした、ミリタリカラーのラファール。よくよくこのカラーリングとは縁がある。
2年前のモンド・グロッソの悲劇では誘拐犯が所有。多数の負傷者と死者を生み出し、自身も瀕死の重傷を負わされた。先の総合進学案内ではこの機体に触れ、世界初の男性IS適性も発覚。
極めつけは
「……今更か」
諦めたように呟き、リストバンドとアンクルを外し、シャツも脱いで上半身裸になる。
ISスーツがないため、少しでも操縦伝達の誤差を減らすためだが、そこには健康な中学生の肉体ではなく、銃創や手術痕、火傷の跡などが生々しく残る痛々しい姿がある。再生手術に回せるだけの治療費が捻出できず、この傷跡が残った。
ISに触れると、あの時と同じ光景が展開される。
絶対防御、バイタルデータ、シールドバリア、ハイパーセンサー、PIC出力、
一夏は落ち着いてそれらの情報を把握し、理解し、整理し、自らの意思でISを
待機状態なのか、微弱なIS反応あり。敵かどうか判断できず、アサルトライフルを
「……手遅れでしたか」
少女が口惜しく呟く。
身長は一夏より同じか、やや高いぐらいだろうか。白いブラウスに紺色のスカート。足元はローファーとシンプルな格好だが、体型は一般的な中学生よりは若干メリハリがある。
「え? イチ――」
「もうすぐローラが来る。合流して残存するIS部隊と歩兵の対処を頼む」
何を、と言いかけ、一夏がISのヘッドセットを指差し、オープンチャンネルで情報が向こうに筒抜けになっているのを知って閉口する。援軍がいる情報はあっても、細かい情報が伝わるのは遅いほうが動きやすい。
更に一夏はDSOで使われるハンドサインで『あっちに護衛対象が二人いる』と伝え、箒と鈴も守るように指示すると、PICを使って浮上する。
「どこへ?」
「連中の狙いは俺だ。海に向かえば連中は追ってくる」
「あ、ちょっ――」
引き止めるより早く、一夏は海に向かって飛翔、あっという間に見えなくなる。その後ろをISが4機、慌てて追いかけて行くのが見えた。
「イチカ……」
手元にあるISと織斑家、通りで昏倒しているパイロットと飛んでいった一夏達とアチコチ見て、重要度と気持ちを天秤にかけ、悩む。
理性をとるか、感情のまま動くか。
言われた通りローラたちと合流して
事前に得た情報から考えると、こちらには最低でも2機以上のISと多数の歩兵が残っているはず。
次の目標は箒達だ。理性では彼女らを護衛しつつ、ローラ達と合流するのがベストだ。しかし感情では一夏を追いかけて力になりたい。
DSOでは強者であっても、ISでも強者とは限らない。どうするべきか本気で悩んでいると、反対側の通りから
「ちょっと、何の騒ぎよ?」
「すごい音がして何か飛んでいったようだが」
タイミングがいいのか悪いのか、鈴と箒が騒ぎを聞きつけて外に出てきた。状況は束達が考えていた最悪の展開へと流れつつある。
箒達のあまりの危機感のない行動、イチカがISを使った事、自分達が手遅れだった不甲斐なさや襲撃犯への怒りが
「……イチカといい彼女らといい、なんでこうも勝手な」
大股で二人に近づき、二人の手を取ってずんずんと歩き出す。
「お二人共、一緒に来てください」
「な、貴様は一体――」
「誰よアンタ!?」
いきなり出てきた少女に困惑し、状況がわからない二人は抵抗するが、少女はお構いなしにグイグイ引っ張っていく。
「時間がありませんから手短に説明します。あなた達がこのままいるとイチカが危険です」
「一夏が!?」
「どういう事よ!?」
一夏の名前を出され、尚更困惑する。
二人を協力的にさせるには、ある程度の現状を伝えるべきと判断し、
「イチカは先程テロリストのIS実働部隊の一部を撃退、うち1機を
箒様がいる以上、残存勢力がこちらに来ないとも限りません。束様も動いてはいますが、
「姉さんが、来てる?」
「ローラって、アンタ、まさか……」
DSOプレイヤーの部分が警鐘を鳴らし、なんとなくではあるが、正体を察した鈴が
「
束様の依頼により、援軍として来ました」
挨拶はするが振り向かない。
「ったく、最初から証拠を残す気ないのかよ」
ISを最高速度で維持しつつ、一夏は機体と武装チェックを同時進行で行っていたが、その機体構成に辟易していた。
ISを一夏が使えたのは、機体登録が仮登録のまま使われていたのもあるが、内部構成もほぼ
アメリカのアサルトライフル、中国のマシンガン、イスラエルのショットガンにロシアのグレネード、オマケに日本の近接ブレードと国際色豊かで笑えてくる。それぞれクセのある武器をデフォルトの機体で操作しろというのだから、最初からまともに当てる気はないか、戦火を広げるのが目的だったらしい。これだけで
「向こうはまだ追いつけないか……」
お互いトップスピードで海へ向かい、スタートから攻撃が届かない距離を維持している。
海上に出るまであと6分。目標地点に到達するなら10分はある。
機体調整をするには微妙に時間が足りない――普通なら。
「……やるか」
一夏は最高速度のまま
(
普通ではありえない速度で機体の再調整が行われ、ISが別物へと変わっていく。
常人であれば10分という時間はかなり短い。機体とコンディションをチェックし、装弾数の再確認をするだけで手一杯で、4分も余れば御の字だ。だが一夏は違う。
これまで経験したメカトロニクス技術、ソフトウェア開発、ISの知識を基にしたDSOにおける機体開発。一夏自身を含め、周囲が認知している以上にISへの造詣とその技術力は束に迫るか、部分的にはそれ以上のモノを有していた。
目標地点まで残り30秒。再調整が終了すると自動操縦を切り、そのシステムもカット。リソースは全てブースト出力に再設定し、右手に展開していたアサルトライフルだけでなく、左手にマシンガンを
再調整され速力の上がったブースターに火を入れ、再度加速する。心地よいGの圧力を感じつつ、全く関係ないことが脳裏を過ぎった。
「ゲーマーが本物の機体に乗って戦うなんて、まるでアニメだな」
なんかそういうのがアニメかマンガであったなと考えるが、目標であった海上40km地点に到達したのに気づき、気持ちを切り替えクイックターン。
「
ここからは一介の中学生・織斑一夏じゃない。白の傭兵・イチカの戦いだ。
「――勝負といこうか」
一夏の目つきが厳しくなった。
ようやく一夏をISに乗っけられました。DSではかなりの腕前だけど、ISではどうなるか。
敵味方関係なく、周りの連中はフィーバータイムに間に合うのか?
それとも間に合わずただのガヤに成り下がるのか!?
量産機が仮登録でも待機状態にできるとか、展開時における保護機能の誤作動などは独自設定です。もっと詳しく書くと、展開して装着する時にちょっとした電子機器を割り込ませると誤作動を誘発させやすい、という設定。
これは量産機限定で、専用機の場合は繋がりが強く、
この発想はなかっただけに、発想をちょっと変えるだけでこうも違うのかと、目からウロコでした。
こういった小ネタみたいな感じでISを制圧する話はあまりないだろうし、この方法ならどのタイミングでもモブを黙らせられると思って入れてます。使えると思った人は使ってやってください。
束と千冬、さらにクロエが参戦するも、謎の勢力が現れてさらにカオス。奇しくも束や千冬が懸念していた最悪の展開ですが、これぐらいの状況からの逆転劇の方がより面白いんじゃないかと。全くない知恵(というか厨二設定?)ひねくり出して作った状況です。
どっかで矛盾発生してないかとヒヤヒヤものですがw
謎の勢力も「ぼくのかんがえたさいきょうのあいえす」をデビューさせるための布石だったのですが、出すタイミングとしてはココかな、と。コイツの存在も色々な所に絡んで来ますが、どこまで先読みさせず、いい意味で裏切れるかが今後の課題。
次回は本格的な一夏の戦闘をメインに、ほぼ全部が戦闘。というか戦闘パートは2話が3話ぐらい続く予定。
遅くなったら執筆時間を捕まえに行ったと思ってください。
ホント、マジで執筆時間が欲しい。。。