DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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忘れられてる可能性大ですが、最新話投稿です。

今回の話でプロローグで入れたかった現実側の伏線、ほぼ入れ終わりました。
読者の先読みをどこまで裏切れるか、そして伏線を回収してどこまでスカっとできるか、自分なりに色々やってみます。
IS戦闘見たい人にはイライラするほど亀進行ですが;



14話まで書いてて初めて気づいた事があります。
DSOサイドにいるISヒロイン、その胸囲の格差社会に。


00-14 狂宴への準備

 ラウラが来日する三日前。篠ノ之 束はハッキングして得たレポートを(なが)め、(ほぞ)を噛んだ。

 

「中途半端に優秀、ってのも状況によりけりだね」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの新たな代表候補生。

 彼女が動いた為、ドイツの動きが予想以上に早い。イチカのレポートが本職の目に留まり、ドイツをはじめ各国が真面目に採用してしまったのが痛いが、これは束のケアレスミスともいえる。

 ラウラが動いているのは判っていたし、そのレポートも周囲を探りつつ、各国への牽制と極秘開発に徹底していたから特に気にしていなかったが、日本のマスコミが動いた辺りから急に雲行きが怪しくなった。

 

「茅場のヤツ、このタイミングを狙ったか」

 

 日本のマスコミに情報をもたらしたのは、まず間違いなく茅場の息がかかった連中だ。

 このタイミングでこんな社外秘クラスの情報、一介のブン屋がすぐに用意出来るワケがない。彼の情報網は各国の軍内部にまで浸透してるのか、それとも先読みが当たったのか。

 現状では判断がつかないし、今となってはどうでもいい。それでも彼の投じた一石はあまりにも的確だった。

 

 アメリカ、ロシアの動きも他国への牽制と保険を兼ねているのだろうが、どこも一枚岩で動いていない。そこに茅場のちょっかいが拍車をかけ、事態は予想以上に悪い方へと推移(すいい)している。

 メディアの暴露を皮切りに、女尊権利者、IS技術者達による醜い罪のなすり合い。そこにきてドイツの動きと茅場の策だ。

 結果、見事なまでにそれぞれが噛み合わずに振り回され、そこにDSOの悪質系(ローグ)の動きと、それに対抗するプレイヤーの結成。更にはダメ押しとばかりに各国の代表選抜生や代表候補がDSOにいる情報だ。後ろめたい連中はそこに何かあると勘繰(かんぐ)る。

 これで女尊権利者(バカども)が勘違いし、焦って動き出した。

 連中が集めたISは全部で8機。それ以外にも対人装備を持ったPMCも動きつつあるようだし、遅くても一週間以内に何らかのアクションを起こすのは確実だろう。

 共闘ではなく、周りを巻き込んだ共食いという形で。

 

「ちッ、やりづらい」

 

 せめてあと2週間。それだけあればもう1機ISを準備できる余裕があった。

 彼女の為にISを作っておいたが、あれは近接戦主体だ。これを一夏に再調整したとしても、あの機体は一夏とすこぶる()()()()()。束の推論が間違ってなければ、一夏は一切の手加減ができず、ただの殺戮者となってしまう。

 念には念を入れた結果、肝心な所がおざなりになるなど本末転倒過ぎて笑えてくる。

 レポートにあったイタリアのリピア・ザンケールは、先日『不慮の事故』で既に死亡。これは箝口令(かんこうれい)が敷かれているため表沙汰にはなっていないが、他にも権利者、技術者問わず幾人もの関係者が政府やマフィアの手により、隠れ蓑(スケープゴート)として都合の悪い情報と共に闇に葬られている。

 この動きに合わせて動き始めた非合法組織を潰している謎の勢力――最近はアメリカやロシアが活発だが――そこに束の影もチラつかせれば警戒すると踏んでいただけに、ドイツの()()()が逆にこちらの足を引っ張る。 

 

「あの情報(ネタ)を表沙汰にする? いやそれは今関係ないし……」

 

 頭を抱えつつ、あーだこーだと策を練るが、一向に打開策が浮かばない。

 あっちを攻めればこっちが顔を出し、そっちに目をつければ別の所から問題が出てくる。

 このタイミングで篠ノ之束の名を出すのも下策だ。視点が分散するだけで一夏に対する脅威は下がらない。むしろこちらがマークされて一夏や箒へ手も回らなくなるから危険度は増大。加えて準第5世代という爆弾もあるし、最悪の場合、クロエにまで手が及ぶ可能性すらある。

 こちらが切れる手札(カード)が爆弾付きとか、無理ゲーにも程がある。

 

「あーもぉー、どうしよっかぁ……」

 

 まるでDSOでも攻略している気分だ。規模こそ違えど、やっている事はそう変わらない。

 いっそプレイヤーにこの状況を攻略してもらえればどんなに楽か。

 

「……あ」

 

 そこで気付いた。DSOのヘビーユーザーが身近にいた事を。

 

「束様。ただいま戻りました」

 

 丁度よくその人物が来た。彼女に現状を話せば、この状況を打破できるかもしれない。

 最悪、新しいきっかけがあればそれでいい。

 一縷(いちる)の望みをかけ、束はクロエに相談を持ちかけた。

 

「ねぇねぇクーちゃん。ちょーっと相談に乗って欲しいんだけど」

 

 タイムリミットは明後日(あさって)。ドイツが来日するまでだが、それまでに攻略法ができればこちらの勝ちだ。

 これが茅場の狙いだとしても、()()に気付いている自分ならば、いくらでも出し抜ける自信がある。

 

 

 

***

 

 

 

 鈴の実家が営む中華料理『鈴音』に、男女二人組の客が来ていた。

 男の方は初老に差し掛かったロマンスグレー。彫りの深い顔と見事な白髪(はくはつ)をセットし、グレーのリネンシャツと茶色のプリーツパンツに黒のサスペンダーを合わせ、腰には携帯端末が入れられるシガレットポーチ。足元はシックな革靴という軽装ながら、姿勢がしっかりしていることで清潔感と色気があり、その仕草(しぐさ)一つとっても只者ではない風格を(かも)し、一廉(ひとかど)の人物であることが容易に(うかが)える。

 女の方はブルネットの髪を肩口で揃えた20代ぐらい。オフショルダーのベルト付きビスチェにデニム地のレギンスを合わせ、足回りは涼しさと動きやすさを求めたヒールの低いストラップサンダル。アクセントに右手首に巻いた赤を基調としたブレスレットをつけ、品のある動きと欧州系の顔立ちで、二人揃えば一枚の絵画のように際立った。

 年齢的に見れば、二人の関係は親子か祖父と少し歳のいった孫。下世話な話を好む者が見れば、年の差カップルや金持ちがお忍びで不倫旅行している様にも見える。

 だが、足元にあるモノがその雰囲気全てをぶち壊す。

 

「やはり日本はサブカルチャーの宝庫だな」

「ええ。私も諦めかけていたお宝(モノ)が見つけられました」

 

 ホクホク顔で女性が答えつつ、足元にある戦利品を愛でた。

 そこにあるのは展開された携帯カーゴ。そこには黄色い袋からうっすらと見えるネタTシャツ、某電気店の紙袋の口から(のぞ)く18禁のマークがついた学園もののPCソフト、アニメグッズ専門店の袋も幾つかあり、その角張った形状からフィギュアや漫画、薄い本であろうことが察せられ、二人は満面の笑みで本日の戦果を喜んでいる。

 

「私も購入する気はなかったのだが、タイトルを見て懐かしくなってしまってね。君ほどではないが、ついつい手が出てしまったよ」

 

 そう言って、男がPCゲームに目を向ける。

 そこにあるのは30年以上前の作品ばかり。現行のOSでは動かないものもあるが、どれも一時期名作としてその界隈を賑わせたタイトルばかりで、最近ではなかなかお目にかかれない。彼の青春時代ド真ん中のタイトルなだけに、ついつい手が伸びてしまったのだろう。

 女性の方はクラリッサ・ハルフォーフ、男の方は今回の引率として参加したエーリヒ・ロンメル。お互い目的のお宝(モノ)を買い占め和気藹々(わきあいあい)とオタク文化に会話を弾ませてはいるが、その眼には剣呑(けんのん)な空気が見え隠れする。

 オタグッズを買い漁ったのは確かに趣味だが、それはあくまで周囲を油断させるための欺瞞(ブラフ)。そしてラウラ達と合流する場所としてこの店を選んだのはエーリヒだ。

 

 織斑一夏をリサーチした際、彼の友人関係も洗った。

 交友関係はあまりにも多かったが、エーリヒの軍人としての勘にひっかかったのがこの店だ。

 

 凰 鈴音(ファン・リンイン)

 

 来日して以来、織斑一夏とは交流があり、両親共に中国人という家族構成で、3年程前より在日。日本は外国人というだけで警戒する傾向があり、そこに日本人のバイトとして潜り込める隙がある。

 他にもクラスメイトでDSOプレイヤーの五反田弾という少年の実家が食堂を経営しているが、そちらは即シロだと思った。

 実家には住み込みのバイト兼彼女の朝田詩乃がいるし、何より今となっては数少ない若い男性のいる所だ。そこに一見(いちげん)の客ならともかく、政府関係者に目のつきやすい環境で常連客やバイトとして潜り込むのは難しい上、凰 鈴音は織斑一夏に並々ならぬ感情を抱いているのか、彼の自宅によく出入りしているという情報があり、接点としてはこちらの方が出会う確率は高い。

 そこまで読んで、元軍人である自分、つい先日代表候補生を引退したクラリッサと共に“観光”しつつ探りを入れる為、ラウラ達との合流場所をここに指定した。

 元軍人が引率をし、元代表候補生達が次期代表候補生の前祝いとして海外のDSO(ゲーム)メンバーとのオフ会を開催。そこで()()()()()()()中華料理屋の娘は、今話題の男性IS操縦者の所にいる。

 これを“偶然”で片付けられるほど、世界は面倒(シンプル)にできていない。必ず何らかのアクションが起きる。ここにいるのは十中八、九で亡国機業、もしくはそれに連なる組織だと思っている。大なり小なり動きがあれば、日本の警察、もしくは自衛隊が動く。そこにドイツの代表候補生がいれば国際問題として扱える。

 あとは大使館に連絡をつけ、自分達が織斑一夏とその関係者を保護。日本が何らかの難癖をつけて来るだろうが、イニシアチブはこちらが握っているのだ、過去の件を盾にすれば黙らせられる。

 最悪、こちらはISを3機所持している。護衛対象も逃走のみに限定すれば、多少の想定外(イレギュラー)はどうとでもなる。多少のゴタゴタはあるだろうが、それが最も彼らの日常を守れる最善策だとエーリヒは考えていた。

 

 メニューをかざしつつ、横目で店内にいるバイトと(おぼ)しき二人に目を向ける。

 お昼前という事もあってか客足は徐々に増し、それらを慣れた動きで二人は店主と共にカウンターに厨房にと(せわ)しなく動く。流れそのものもスムーズで、かなり前からこの仕事をしているのが判る。

 だが、彼女達の体幹はブレがなく、歩幅も一定。店内全てを見回しているから、注文を取りに行くまでのタイムラグも少ない。明らかに軍事教育を受けた動きだ。

 ISが世に出て以来、女性が軍事教育を受けるのはそう珍しい話ではないが、軍事経験があれば今日日(きょうび)もっと割のいい仕事は幾らでもある。なのにその技術を活かさない所でバイトをする事がおかしい。

 百歩譲ってその技術に苦い思い出がある、という可能性もあるが、エーリヒの目にはそういう暗い過去があるようには見えない。

 

(これはアタリ、なのだろうな)

 

 できれば外れて欲しかったと内心で苦笑し、クラリッサに水を向けた。

 

「そういえば、そろそろあの子達もこちらへ来る頃かな?」

「店を出る前に連絡しましたので、タイミング的にはそろそろ――」

 

 その時、ガラガラと店の戸が開かれつつ「こんちわー」という威勢のいい声につられてそちらを見ると、銀髪の少女とホスト風の少年。

 その後ろにいたのは資料で見た(くだん)の少年、五反田弾。

 表情こそ(なご)やかではあったが、彼らの目を見た瞬間、自分が思っているより事態が深刻化している予感があった。

 

 

 

***

 

 

 

 その頃、ラウラ達が来日した話を受け、千冬も学園を通して一夏の護衛、もしくは保護を目的にIS学園を動かそうとしていた。が、流れはあまりよろしくない。

 

「何故です! 何故ここまできてISの出撃許可が出ないんです!?」

「ですから、今回彼女達が来日したのは例のDSO(ゲーム)のオフ会? とかいう話ではないですか」

「そうですよ。たかだかゲームの話題で子供同士が会うってだけの話です。それで危機感を抱くなど過保護過ぎませんか?」

「確かに。いくらあの悲劇の当事者で、現在世界唯一の男性IS操縦者とはいえ……ねぇ?」

「それに、IS学園はどこからの干渉も受けない代わり、どこかに肩入れする事はできないんですよ?」

 

 薄ら笑いを浮かべ、各国が裏で動いている事実にすら目を伏せ、教師陣が表向きの建前をさも当たり前の様に口にする。

 彼女達の言いたい事はわかる。もし仮にISを出し、一般人に被害(コラテラル・ダメージ)が出れば責任を問われる。彼女らはそれを避けたがっている。

 

(これもあの悲劇の爪痕、なのだろうな)

 

 ISは最強の兵器。皮肉にもモンド・グロッソの悲劇で嫌という程それを実証した。

 結果、どうなるかというのも。

 

 

 あの悲劇を繰り返さないという点においては同意するが、彼女達は現状(いま)を見ていない。凄惨な過去を理由に尻込みし『厄介毎は誰かがやってくれる』と思い込んでいる。

 その役目は国や権力者、または千冬のような実力者がやるべきで、弱い自分達は庇護(ひご)者の下で守られ、事が過ぎるのをただ待っていればいい。

 

 ISは幾ら力があってもスポーツという認識で振りかざしてきた彼女らは、暴力というものを知らない。自らが振るってきたIS(もの)を理解していないからこそ、あの悲劇を自分達の手で引き起こしたくないという魂胆が見え見えだが、それを責める事はできない。

 力の意味を理解しない彼女達に期待するのは、もう無理だった。

 

「……わかりました」

「わかっていただけて何より」

 

 教師陣が胸をなでおろす中、千冬は静かに席を立った。その行動が判らず、一同はキョトンとする。

 

「あの、どちらへ……?」

 

 教師の一人がおずおずと切り出すと、ジロリと睨み返されて小さく悲鳴をあげた。

 

「学園には期待できない、政府もアテにならない。ならやる事は決まっているでしょう。私が家族を救いに行きます」

「で、ですから学園が動くのは無理だと「ご心配なく。辞表を出していきますので」――ちょッ、織斑先生!?」

 

 教師陣の制止も聞かず、さっさと会議室を出て行こうとする。

 彼女が学園を去れば、その経緯を問い質される。それだけでなく、実際に事が起こって自分達が何もしていなければ、その責任すら問われる。

 その責任を負いたくない教師陣が慌てて引き留めようとするが、再度睨まれただけで身動きすら取れない。

 

臆病者(あなたたち)はそこで(おび)えて(さえず)っていればいい」

 

 そう言って一瞥(いちべつ)し、会議室を後にする。

 教師陣は何も言えず、ただ茫然と座っている事しかできなかった。

 

 

***

 

 

 

「……いよいよ来やがったか」

 

 周りに誰もいないので猫かぶりはせず、端末に来た報告を見ながらスコールが(つぶや)く。

 この展開は予想以上だ。いくら世界唯一の男性IS操縦者であり、各国が彼個人に対して負い目があるとはいえ、ここまで敵味方で暗躍するとは思いもしなかった。

 用意されたISだけでも8機。その他にもPMC4社からそれぞれ5人1チームの10小隊を編成し、対人装備の歩兵が合計200人。それらを運用する為、バンや貨物車両に偽装した装甲車が12台。当然の如く対IS用HMGやロケットも搭載し、人数と条件さえ満たせばISの1機や2機は落とせる装備。更にはコンテナ船に偽装した指令所(コマンドポスト)も港に停泊している。

 海上には後詰め、もしくはマッチポンプの救援部隊だろうか。アメリカ・ロシアからそれぞれIS3機、合計6機を搭載した艦隊が演習目的で展開している。

 状況から見てIS委員会も一枚噛んでいる。これだけ大々的なISの展開準備、そうそうできるはずもない。

 

「モンド・グロッソの悲劇、日本で再現する気かよ、こいつら」

 

 あまりの過剰戦力に笑えてくる。乱戦でも起こせば、間違いなくあの街は更地になる。

 日本政府はこれだけの状況が出来上がりつつあるのにまだ動きがない。というより、国防のひとつである外交防衛の理事が首謀者である以上、動きは遅くなって当たり前なのだが、何かがひっかかる。

 

(しかし、何故これだけの部隊が必要になる?)

 

 いくら重要人物とはいえ、相手は中学生だ。

 例の未確認が横槍を入れてくるのも視野に入れているようにも見えるが、あっちを抑えつけるならその存在をテロリストとして扱い、逆に大義名分として利用すればいい。

 むしろそちらの方が余計ないざこざを持ち込まず、正面から堂々と織斑一夏や篠ノ之箒(ターゲットたち)を確保できたはずだ。

 IS委員会の影もチラつく以上、それこそ世界唯一の男性IS操縦者の保護を名目に、委員会そのものが状況を利用して動いたっていいはずだ。

 

「もしかして……確保が目的じゃない?」

 

 それで抹殺と考えるには安直すぎる。織斑一夏の利用価値は男性IS操縦者という能力以上に、最大の魅力はあの発想力だ。いくら後ろめたい話があるにしても、あっさり手をかけてしまうのはどの国だって惜しいはず。

 何かを見落としている気がする。その見落としが何なのか理解できない。喉元まで出かかっている答えが出せずにモヤモヤする。

 一度状況を整理してみる。スコールは何と言っていた?

 

 状況が変わったからオータムは日本に来た。目的篠ノ之博士を表社会に引っ張り出すため。

 2年前、女尊権利者は慰謝料や開発費をくすねている。バレたら社会的面子が潰れれば御の字、だからIS部隊を用意した。その反抗勢力としてこちらが動く。できればISを展開して派手にいくのが理想的。

 護衛対象は織斑一夏だけでなく、篠ノ之博士の妹、それ以外にも周りにいる友人知人も含まれ――

 

「――まさか」

 

 本来ならありえない。だがこれが正解ならスコールの言っていた意味がわかる。

 連中が大義名分にしているのは亡国機業(ファントム・タスク)だ。

 準備されているIS8機と中隊規模の歩兵を亡国機業の戦力として動かし、日本が抗戦する折を見て、海上にいるIS部隊を動員。

 彼を中心として戦火を拡げる際、必要なら周りにいる友人の一人や二人、ドサクサに紛れて始末すれば彼にとってはそれが心傷(キズ)になる。

 モンド・グロッソの悲劇が起きた原因も、口には出さないが彼が誘拐されたからだと考えるヤツも少なくはない。

 作戦が成功すれば、織斑一夏は周囲から厄介事のタネとして認識され、周囲から腫れもの扱いされる。あとは自らも操られた被害者を演じて小銭程度の援助金を払えば、報酬の話も有耶無耶(うやむや)にできる。

 彼の処遇についてはそれからでも遅くはない。むしろ成功しようが失敗しようが、必ずどこかが得をして、損をした所はそこに貸しを作れる。

 

「クズもここまで来ると喝采モンだな」

 

 オータムはこの展開をほぼ正確に読み切った。読めたからこそ利用された事に尚更腹が立つ。

 おそらくは不都合の土台を作る為、不正に関わった人間も既に何人か始末されていると見ていい。不都合な話は全部亡国機業(こっち)に押し付けて。

 それを横合いから殴りつけて状況を打破、もしくは利用する為にオータムが派遣されたとなれば話の筋が通る。

 

「なんでスコールはこの事を話さなかった――いや、話せなかったのか?」

 

 スコールは多分、このシナリオの雛形が亡国機業のメンバーから出たものだと見ている。

 亡国機業が長い時間仕込んでいたものを、何者かが利用して各国と女尊権利者を動かし、こちらに有利になるよう画策した。

  組織に対する明確な裏切りだが、結果を出せば問題ない。流れからして、他にも複数の国か組織がこの計画に絡んでいる。だからこそ黒幕が誰なのかわからない。

 

「チッ、これなら剥離剤(リムーバー)でも持って来ればよかったか」

 

 行動指針がわかってから気付いても後の祭りだ。中身(パイロット)は腑抜けとはいえ、ISが8機。立ち回る分には問題ないが、どうにも数が多くて手が回りそうもない。

 

「もう少し手駒がいねえとどうにも――ん?」

 

 手元にあった端末にメール。開いてみると画像が添付されていて、そこにはエージェントが潜伏するバイト先にやってきた護衛対象と招かれざる客の姿。そしてオータムから届けられたという荷物。

 それを見たオータムが獰猛な笑みを浮かべる。

 

「……これならなんとかなりそうだ」

 

 あらゆる思惑が明後日の方を向き、かなりド派手な狂宴(せんじょう)になる。難易度は高いが、やれない程ではない。思う存分暴力を振るえる現場に胸が熱くなる。

 それに応えるかのように、蜘蛛を(かたど)ったペンダントが胸元で光った。

 

 

 

***

 

 

 

 弾と数馬がクラリッサ達と合流してから1時間後。一夏は弾と連絡を取り合っていた。

 

「じゃあ、もう少しでこっちに?」

『ああ。こっちは先に数馬がローラと合流してて、そっからクラリスと引率のオッサンと会って引っ張ってきた。後で詩乃さんも蘭を連れてそっちに行くとさ』

「わかった。こっちも鈴と箒が気合入れて歓迎の準備して待ってるから」

『そりゃご苦労なこって』

 

 それからひと言ふた言雑談を交わして通話を切り、キッチンにいる二人を見た。

 今日は来客がある為か、鈴はノースリーブのシャツにサロペットを合わせ、箒は先日購入したオールインワンのワンピースと、いつもより防御力高めな服装。

 小柄でスレンダーな鈴はその体型に合わせたカワイイ系、箒はメリハリのある体型を見せたくないのか、ワンピースで体型をぼかしながらも清楚さを失わない服装をチョイスし、それぞれエプロンをつけてあれこれと(せわ)しなく準備してくれている。

 最初こそ一夏も手伝おうとしていたのだが、二人から「家主なんだから落ち着いていろ」と言われ、リビングで手持ち無沙汰となり、なんとなく視線は二人を追ってしまう。

 当初こそソリの合わない二人だったが、一夏が一人で外出して以来、どういうワケか妙にウマが合うようになった。今もお互いの邪魔をしないどころか、むしろフォローしあって動いていて、時折笑い声も聞こえる程に仲良くなった。

 鈴とは1か月弱、箒とは2週間程一緒に過ごした。

 その間何もなかったと言えば嘘になるし、『幼馴染』ではなく『女の子』として意識させられ、その色香に惑わされた回数だって少なくない。

 

(それももう終わり、か)

 

 先日のニュースでイチカの功績(バイト)が取り上げられて以来、SNSではその話題でもちきりだし、各IS関連も浮き足立っているのが見え隠れする。

 一見すれば織斑一夏の獲得に向けて動いているようにも見えるが、一夏からすれば後ろめたい連中は頭も尻尾も隠しきれず、動き出すのは時間の問題。

 残された時間は少ない。一夏は静かにリビングを出て準備を始めた。

 

(……覚悟、決めるか)

 

 一介の中学生である織斑一夏ならば、この状況に右往左往するしかなかった。しかしイチカであればいくらでも手段がある。ゲームとはいえ、DSOはそんな生温い世界ではないのだ。

 同時にそれは、普通の日常との決別となる。

 

「やっぱり、必要とされてたのは一夏(おれ)じゃなくてイチカ(オレ)だったか」

 

 その呟きは誰にも聞こえない――彼女達にさえも。




ようやく、ようやくここまで来ました。
まだ粗とか目立ちますが『ぼくのかんがえたさいきょうのあいえす』を大々的にデビューさせるには大量の伏線が必要でした。
明確な悪とその敵(not正義)、それを待ち構える為の下準備。これらを用意しておかないと、いきなりポッと出てきて『これ何?』と言われるのが恐かったのでここまでISを出せませんでした。チキンと笑ってください。

「亡国機業=明確な悪、もしくは敵対」とう図式はよく目にしますが、この立ち位置を逆手に取る、という手法は目にした事がなかったので、こういう構図が逆に新鮮に見えれば幸い。使えるのであれば使ってやってください。
今回、あえて束が掴んだ情報とオータムが得た情報量に微妙な違いがありますが、束はあくまで科学者、オータム(というか亡国企業)は現場からの叩き上げ。そして世の中には“暗黙の了解”という、とてもとても都合のいい言葉あります。
更にもう1つ2つ状況が引っくり返るようなシナリオを考えています。主にモンド・グロッソの悲劇に隠されている話とか仮想側の話とか。
ちなみに感想で書いた国庫ウンヌンは《自主規制》で、実はもうちょっと先があります。ヒントはこの盛大な勢力とIS委員会とイチカ。

海外ドラマとか好きな人が脳汁出るような展開を目指します(出来るとは言ってない

次回、ようやく一夏がIS使います。何を使うかも既に決まっているのですが、可能な限り先の展開を期待させつつ、その先読みを裏切れる様努力します。





……ところで、執筆時間ってどこかで売ってませんか?

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