DS - ダイアグラナル・ストラトス - 作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)
GW以降、少しリアルが忙しく、書くヒマ作れませんでしたorz
宣言通りというか、今回は00-07の裏側の一部。おそらくプロローグでの日常編はこれが最後になるかと。そして今回、詰め込みすぎて自己初の1万字オーバー達成。
今回もR‐15なお話アリ。少し本編に絡む内容でもありますが、苦手な方はご注意を。
苦手な人の為に簡単な説明↓
束「男性IS適性のあるいっくん見るとね、女の子はケダモノになるんだ♪」
箒&鈴「「ヒャッハー! 一夏だぁ✩」」
夏「あの、俺の意志は……?」
あとちょっとだけ飯テロあります。レシピに関してはあとがきにて。
「どいつもこいつも連絡つかないってどういう事よ!」
自前の事務所で女性がヒステリックに叫んだ。
女性用のビジネススーツに身を包み、紺色の議員記章をつけ、デスクには『参議院議員
2年前、モンド・グロッソの悲劇において、一夏を見捨てる判断をした張本人であると同時に、支払われる筈の慰謝料、その
一夏を見捨てた際はドサクサに紛れて誤魔化せた。
リハビリをしてる最中、一夏のメカトロニクス技術の高さを知り、技術者達をけしかけて各国の議員と連携し、技術を切り売りして各国に転売することで甘い汁を吸えた。
その利益でPMCや幾つかのマフィアなどにもコネを作れたし、ライバル議員や対立する者達が都合よく消えたりもした。
これら全てが明るみに出れば、政治家生命どころか人生そのものが危うい。それを回避しようと技術者達に連絡を取ろうとするも、向こうも立て込んでいると言って対応が
「あいつら、この期に及んで私達を切り捨てる気ね……」
実際、既に技術者達は過去に依頼した技術の全てをまとめ、彼女をはじめとした女尊権利者を
当事者ともいえる技術者にはおこぼれ程度の報酬しか貰えず、ほとんどの利益を自分達が摂取していたのだから当然と言えば当然だ。が、彼女達からすれば自分達こそが被害者だ。
成功は自分達のおかげ。失敗は誰かのせい。
それで世界が回っていると本気で信じ、自分達はその中心にいると
「これも全部あのガキが悪いのよ。なに断りもなく勝手にIS起動させて――」
自分の事を棚に上げ、怒りは
彼女にとって織斑一夏は
数年後、自分達が政界を引退した頃にバレたとしても、知らぬ存ぜぬを通した上で対策委員会を設置し、『技術者達の独断だった』と話をでっち上げれば、更にひと儲けできると踏んでいた。
だが、今回の騒ぎで全てが狂った。
良くも悪くも、女尊権利者はその思想でヒトの欲に忠実だ。誰しも浮かれてしまえば自身の非を客観的に見る能力は低下するが、彼女達のそれは麻痺に近く、それ故に自らの首を絞めていく事に気付かない。否、理解したくない。
「こうなったら……」
通信端末を手にし、彼女は連絡先をいくつか選んでメッセージを飛ばす。
その選択が一夏の今後を決定づける事になると同時、自分達の破滅につながるとも知らずに――
箒が織斑家にやってきて三日。鈴は早起きしてキッチンに立っていた。
チューブトップにデニムのミニスカートと、いつも通りの軽装備にエプロンをつけ、寝起きという事もあって、髪はおろしてシュシュでまとめてある。
朝からこうして織斑家のキッチンに立っていると、まるで一夏の妻になったような気分だ。
「~♪」
昨日の昼、箒が
昨夜から仕込んでおいた荒削りの混合節を水で戻しておいたものを火にかけ、まだ
あまり温度を上げないように気を付けつつ、浮いてきた最初の
味噌とは違う、甘みのある塩分に少し戸惑うが、全体のバランスを考えればこんなものだろうと味を決定。味が完成したところで火を止め、冷ましながら味をなじませておく。
冷蔵庫から、一味入りの
その間にキャベツを塩昆布と2倍に薄めためんつゆで漬けた浅漬けを小鉢に移し、刻んだ大葉をふりかけ、付け合せに
グリルの中にあった鶏肉がいい感じに焼けてきたので、個別に皿にとって並べておく。あとは一夏達を起こした時に汁物を温めつつ、目玉焼きでも用意すればいいだろう。
いつも通り栄養バランスに気を使いつつも、味も重視した鈴らしい献立。天気予報では今日も暑くなると言っていたし、朝はこれぐらいしっかりした方が目覚めやすいだろう。
「……よし!」
火を止めたのを確認し、エプロンを外してパタパタと二階にある一夏の部屋へと向かう。
今日は珍しく一夏は寝坊し、いつもなら鍛錬に行っている時間になっても起きてこない。
「そういえば、一夏起こしに行くのも久しぶりだわ」
前に起こしたのは春先だったか。
ときどき一夏は寝坊する事がある。あの時は珍しく寝過ごした一夏をみてイタズラ心が湧き、ベッドに潜り込んだ所、寝ぼけた一夏が鈴を千冬と勘違いし、抱きつかれた上に胸の中に顔を
「寝てる時はすっごい甘えん坊なのにね」
苦笑しつつ、そっと自身の胸に触れる。同級生と比べるとやや控えめだが、半年足らずで格段な成長を遂げ、AAカップだったのがもう少しでBに届くかどうか。
むしろ春先に起きた出来事を意識するようになってから、身長はともかく女性的な部分が
扉の前で軽く身だしなみをチェック。ちょっと緊張しながら静かにドアノブをひねる。
こうして起こしに来るのもなんとなく
同時に、ふとガールズトークの中で聞いた話を思い出す。
『男のアレってさ、朝もこうなるらしいよ?』
そう言ってカラオケの際に見せられた、臨戦態勢になったアレの画像。勿論モザイクなどなしの、文字通りガッチガチなヤツ。それを見て仲間内でキャーキャー騒いで店員に怒られる一幕もあったが、あの画像のインパクトは大きすぎて、未だ脳内保存されている。
一夏も男なんだし、当然ソレを実装している。弾や数馬の話ではかなり凶悪らしく、数馬
臨戦態勢になった男は思考がソッチ方面に固定されるという話も聞くし、寝起きのあの状態で迫られたら、拒める自信がない。
むしろ箒がいる手前、『既成事実』という単語が脳裏を過ぎり、あの日の続きを期待してワクワクしつつ、静かに扉を開く。
ベッドの上に人影を見つけ、ゆっくりと近づき、そっとタオルケットをめくると――
「……なんでアンタがここにいるのよ」
――箒がいた。
あの日、箒はほぼ着の身着のままで来た為、衣類の持ち合わせがなく、千冬の提案で彼女のお古を
その為箒が今着ているピンクのパジャマも、千冬が以前着ていたものだ。が、元の持ち主のメリハリが凄いせいか、中学生としては規格外なスタイルをもつ箒でもあちこち余っている。
色々期待していたものが一気に
鈴としてはその豊満な肉体に嫉妬しているのもそうだが、一夏のベッドに潜り込んでいた事が余計ムカつく。
想い人の部屋に入ったら恋敵がいるなんて、
当の本人はこっちの気も知らず、一夏の枕を抱き枕にして、幸せそうな顔で寝息をたてている。
肩透かしを食らった上、恋敵が一夏のベッドで寝ている状況。鈴の中でなんか色々なモノがオーバーフローを起こし、一気にタオルケットをひっぺがした。
「ふひゃッ!? なに? なに!?」
いきなりの出来事に箒が驚き、一夏の枕を抱いたまま飛び起きて辺りを見回すと、主犯を見つけて不機嫌な顔になる。
「なんだ鈴か。いきなり何をする」
「なんでアンタがここにいるのよ」
不機嫌なまま尋ねると、箒は何故か鈴を残念な子を見るかのように、
「忘れたのか? 三日ほど前、姉さんに相談して千冬さんの許可を得たから、私は一夏と一緒に暮らすように――」
「なんで・アンタが・一夏の・部屋に・いるのッ!?」
「一夏は人肌がないと寝つきが悪くてな。せっかくだから私が添い寝して寝かせようと思ったのだが――」
言いつつ、抱きしめた枕を優しく
その豊満な谷間に埋まる枕に、鈴は一夏の頭がそこにあるのを幻視してイラッとする。
確かに一夏は普段から眠りが浅い。それどころか知らない他人が近づくだけで目が覚めて警戒する。それで鈴が一夏に添い寝した際、ちょっとした事があったのだが、今はそれを話す必要もないだろう。
「それで? 仕方なく一夏のベッドで
「いや、どうせだったら私の匂いを覚えてもらおうかと思ってマーキングを」
「
その頃、夕べ眠れなかった一夏はいつもより早く起き、日課にしている朝の鍛錬でランニングをしつつ、近所にあるジムに来ていた。
以前弾から紹介され、自宅兼喫茶店としても経営しているそこは『経営時間外で、かつ自分で片付けまでするのなら』という条件で無料で使わせてもらっている。
そこで一夏は横になってベンチプレスを持ち上げ胸筋を鍛えていたが、その重量は90kg。中学生という年齢ではなかなかに負荷のある重量だが、一夏はペースを落とす事なく一定のテンポで持ち上げ続け、100回を超えた所で一度休憩する。
「お疲れさま。相変わらず凄いわねぇ」
ジャージを着た黒髪ショートの少女が現れ、スポーツドリンクを差し出す。
一夏は礼を言ってスポーツドリンクを受け取り、そのまま口を付けて一息つく。
「珍しいですね、詩乃さんがこんな朝早く来るなんて」
「
一夏達より2つ年上で、数年前に何らかの事件に巻き込まれ、その時助けてくれたのが弾と祖父の
その際、子供ながらも身を
それを見て五反田食堂に突撃し、電撃告白。高校進学をきっかけに弾の実家である五反田食堂に住み込みのバイトでやってきた押しかけ彼女だ。
詩乃は『家庭的でスレンダー、かつ眼鏡の似合う年上』という弾の好みにどストライク。
彼女の眼鏡は度入りではなく、眼鏡型ディスプレイなのだが、彼女からの押しに流されるようにして付き合っていた。
その押しの強さは
後にGGOがDSOに統合されると、イチカやローラ達に師事してDSの戦い方を学び、タイプは違えど弾と肩を並べる腕前になるのもすぐで、DSOで得た報酬は自身の学費や趣味に使っている。
更には女子力をあげようと家事を猛特訓したらしく、料理の腕前は祖父の厳からお墨付きをもらえる腕前で、雑事もそつなくこなす能力もある。また、母の
「一夏くん、あの事件から眠れてる?」
「まぁ、それなりには」
少しバツが悪そうに、目を逸らしつつ答える。
「そう? それにしては顔色悪そうだけど」
言われて、室内にある大鏡を見ると、確かに一夏の顔色は悪く、目元にはうっすらクマも浮いている。
実の所、ここ数日の睡眠時間は全部足しても10時間もなく、それでも眠れない一夏は眠気を無視し、半ば強引に体を動かしていた。
「やっぱり弾の
詩乃は
眠れない理由は自分を中心とした騒ぎの渦中で落ち着かない、というのもあるが、そもそもの原因はISに触れて以来、先の見えない恐怖に駆られ、何かをしていないと落ち着かないからだ。
モンド・グロッソの悲劇。
かつて被害者であった自分が、ISを起動させた。
いつ加害者の側に回ってもおかしくないという不安。仮想・現実関係なく、周りが勝手にデータと憶測のみで騒ぐ風評。
それらは
それらを払拭するように体を動かし、恐れるように知識を求め、抵抗する為にDSOで戦闘経験を積む。
だが、どれだけ体を動かしても、知識を得ても、経験を経ても不安は消えない。むしろ
事件からほんの数日とはいえ、当事者になったからこそ見えてくる問題が多すぎて嫌になる。
それこそ“ヒトデナシ”にでもならなければ、これらの問題を解決できないのではないか――思考がどんどん昏い所へ堕ちていく
「こら。勝手にネガティヴになるんじゃないの」
詩乃に空のペットボトルで叩かれたのだと理解するまで数秒の時間を要した。思っていたより睡眠不足は相当キてるらしい。
「でも――」
「でもも何もなし。IS以外に何を抱えてるのか知らないけど、少しは周りを頼る事も覚えなさい。
そんなんじゃ、あなたを気にかけてる人たちがバカみたいじゃないの」
軽く叱りつけ、詩乃は手にしたタオルを一夏の頭にかぶせると、その上からワシャワシャとかき混ぜるように撫でまわす。
「色々考えたくなるのは解らなくもないけど、今は誰かに相談するか頼る時よ。
ただでさえ一夏くんは一人で抱え込むけど、それは自分で何とかしてしまうだけのスペックがあるから。
けど、今はそれが逆にネックになってる。頼れないなら自分で何とかできる所まで鈴ちゃんとか、篠ノ之さん、だっけ? あの二人に甘えて余裕をもつのも手よ」
何故そこで鈴の名が出て来るのか解らず、思わず顔をあげると、詩乃は腰に手を当てて苦笑していた。まるで手のかかる子供を見るかの様に。
「あの子達は一夏くんに頼られるのを望んでる。誰かを助けておいて自分が助けを求めないなんて、独善を通り越して卑怯よ」
「卑怯、ですか?」
意味が解らずキョトンとするが、詩乃は苦笑して一夏の額に人差し指を押し付けた。
「逆の立場になって考えなさい。もし誰かに借りを受けたまま返せなかったら、どう思う?」
「それは……」
確かに、借りっぱなしで返せないままいたら肩身が狭くなるか、あるいは劣等感を感じるか。
人によっては借りを受けるのが当たり前と感じるようになり、腐っていく場合もあるが、あの二人はその部類ではない。それで鈴は家事を覚えて少しでも返そうとしているのであれば、それは一夏が彼女を歪めた事になる。
そう考えると、一夏は鈴の傍にいない方がいいのではないか――そう考えた矢先、額に衝撃を受けた。
「こぉら、勝手にネガティヴになるなって言ったばかりでしょ」
一拍遅れてデコピンを喰らったのだと理解する。本当に頭が回らなくなっているな、とどこか頭の
「でも……」
「もう、一夏くんは落ち込むとなかなか面倒ね。少しは物事を軽く考えるのも手よ?」
落ち込む一夏を無視し、詩乃は勝手に話を進める。
「それとこれは助言。
女の子ってのはね、好きな男を振り向かせる為ならどこまでも尽くすの、それこそなりふり構わずね。
ワガママの一つや二つ言ってもいいし、甘えるぐらいはしときなさい。それが甲斐性ってものよ」
そう言って一夏の横にスポーツドリンクをもう1本置き、詩乃はランニングマシンで走り込みを始めた。
「軽く考える、か」
思えばISの件で頼ったのはランクスぐらいな気がする。というよりそっち方面に詳しい知り合いがほとんどいない、と言った方が正しい。
頼れそうな千冬は今回の件で
他にとれる手段といえば
そうなると選択肢はランクスぐらいしか残ってないが、それ以前にVR関係の方でも問題を抱えている。それらの対抗策を考えても、あまり眠れていないせいか頭がよく回らない。そうやって一人悶々としている所に、パコンと気の抜けた音と衝撃が来る。
「言った傍から色々考えすぎ。ホンっトメンドくさくなるわね」
呆れ顔で詩乃が叱りつける。気が付けば考え始めてから30分以上経過している。
ネガティヴになるなと言われた傍からこれでは反論の余地もなく、一夏は苦笑する。
いつもならこれほど悩んだり難しく考える事はない。普段であれば
それができないのは本当に睡眠不足のせいか、それとも一人で抱えきれない問題に直面しているからか。
ともかく、最低でも今はこの寝不足を解消しないとどうしようもない事だけは理解した。
「ああ、それとこれ」と言って、詩乃がオーグマーを差し出す。一夏が横になるのに邪魔になって外していたものだ。
「ずっとLED光りっぱなし。多分鈴ちゃんじゃない?」
慌てて装着し、起動。
フォームを見ると鈴からのメッセージだけで10件。最初こそ『朝ご飯ができたから早く帰ってきなさい』というものだったが、4件目あたりで静かな怒りを感じ、最後の方は『今どこにいるの? 無事なら返事して』と心配するようなメッセージが来ている。
それだけ時間が経ったのかと時計を見ると、既に時刻は朝の9時。家を出てから何もアクションを起こしていないし、心配されてもおかしくない。
慌てて鈴に『ジムにいた。今すぐ戻る』とメッセージを返し、帰る準備を始めた。
「で、何か申し開きは?」
「…………ありません」
帰って来るなり、一夏はリビングで二人の前に正座させられていた。その姿は、どうみても朝帰りがバレた亭主にしか見えず、実際正座した一夏を前に二人が仁王立ちしていると、もうそういう風にしか見えない。
いくら家主とはいえ、女の子二人ほっといて朝早くから鍛錬に
なにせ世界唯一の男性IS適性者だ。何かの拍子で誘拐や拉致などが起きても不思議じゃないし、実際、時間が経てば経つほど二人も気が気でなくなり、もう少し遅かったら千冬や警察に連絡を入れようかとも考えていたぐらいだ。
逆に一夏からすれば、自分がいない所で二人が害される可能性もあったのを今更になって気づく。
今朝のランニングの際にも、不自然にランナーや見馴れない町人がチラホラ見え隠れしていて、向こうは隠してる気なのだろうが、あからさま過ぎて逆にコメディに見えてきて、
いくら寝不足気味とはいえ、本当に平和ボケが過ぎる。自分一人がどうこうされるのであれば、ある程度納得はできる。が、自分のせいで周りに被害を及ぼすのは許容できない。
(やっぱり、ランクスの誘いに乗るべき、なんだろうな)
ランクスの誘いは一夏のみならず、周りを含めた状況打破の一手なのだろう。
予想外の手で予想以上の結果を出すのがランクスだ。気が付かない所で裏表構わず行動し、気付いた頃には全ての策が済んでいる、なんてのはザラ。
酷い時には始まる前から反撃さえ許されない状況に追い込まれたり、起死回生の一撃と思った反撃すら利用される。
柔和な見た目に反し、敵に回せば厄介以上におっかないのがランクスだ。一夏がフランスに行く事で丸く収まるのであれば、鈴や箒を始めとした友人知人も厄介事から遠ざけられる。
その選択はベストとはいかないまでもベターだと思う。それでも踏み出せないのは、鈴達と過ごす日常があるから。
鈴達がいる日常は居心地がいい反面、いつまでもこの中にいられない、というのは理解している。
もし、皆と離れたらどうなる?
嫌われる? それとも忘れられる? 考えれば考えるほど、思考はネガティヴにしか向かわない。
親のいない環境で育ち、唯一の家族も生活の為仕事に明け暮れ、モンド・グロッソの悲劇の最中、捨てられる事も経験し、一人でいることに慣れてしまった一夏にとって、鈴達の存在はある意味魅力的な毒になった。これまでほとんど一人でいた一夏にとって、鈴達の存在が大きくなりすぎ、離れるのが辛い、というより怖い。
離れたら最後、嫌われるならまだいい。忘れられたり距離を取られたりしたら――ネガティヴな思考に陥り始めた所で、そっと頬に手が添えられてふと我に返った。
「一夏、聞いてるのか?」
「え、うん。聞こえてる」
箒の質問にやや的外れな答えを返すと、鈴は怪訝な顔をして一夏の顔を覗き込む。
「……アンタ、あれからあんまし眠れてないんじゃない?」
いきなり図星を指され、一瞬返答に詰まる。それだけで察したのか、鈴はため息をつき、箒はそっと身を引いた。
「朝ご飯、準備するから食べちゃいなさい。その後しっかり寝る事。いいわね?」
「え? あ、いや、でも今は――」
――今は寝てる暇なんてない。
そう言いかけた時、二人が非難するように一夏を
「アンタは一回ちゃんと寝た方がいいわ。まともに眠れてないから頭も満足に回んないでネガティヴ思考なんじゃない?」
「まぁ、一夏は昔から無理と無茶を理解しないまま動く悪癖があるからな。今回も集中しすぎて眠れなくなったか」
幼馴染二人に指摘され、ぐぅの音も出ない。その悪癖とも呼べるクセも、箒は当然
年齢的に、というか肉体的にも箒なら
それは例えるなら、束がロクでもない事を思いついた時の様な――要するにアウトな顔。
その顔だけ見れば、箒は間違いなく束の妹だ思い、なんとか助けを得ようと鈴の方を横目で見ると、こっちも
何となく嫌な予感がして、そっと距離を取りつつ立ち上がろうとするが、箒に肩をがっしり
「さぁ、朝ご飯を食べたら張り切って寝よう。すぐ寝よう!」
「え、あの、箒――?」
「トレーニングで疲れてるでしょ? あーんてしてあげるから。あーん、て」
「鈴!?」
どういうワケか二人は妙な連携を取り合い、箒は逃げ出そうとする一夏を
朝食はともかく、これから何が起きるのか不安になり、内心血の気が引いていく。
つい先日初顔合わせをしてからこっち、何かといがみ合っていた二人。それがいきなり連携を取り合える事に妙な違和感を覚えるが、今それを考えているヒマはない。
詩乃にも『時には二人に甘えるのも手』とは言われたが、甘やかし(強制)に対してはどう対応すればいいのか。
「ちょっと汗臭いな、朝ご飯が終わったらお風呂に行こう。全身くまなく洗ってやる」
「はいぃ!?」
それは年齢的に色々アウトだ。
男扱いされたら自制できる自信がないし、子供扱いされたら確実にヘコむ。
背中に当たる柔らかい感触を
「それはあたしがやるわ。箒は一夏が寝る準備をお願い」
「鈴も一緒に来るか?」
「すぐご飯の用意するね!」
箒の質問に嬉々として朝食の準備を急ぐ。本当、一夏がいない間に二人に何があったのか。
問い詰めたくもあるが、それを聞いたら色々終わってしまう気がして、聞くのが怖い。
朝食は本当に鈴から『あーん』され、風呂では二人に全身くまなく洗われ、箒の添い寝で強引に寝かされる、というある意味
当の一夏はというと、男はテンパると、どれだけ嬉しいシチュエーションでも“性徴”すらしないのを知り、後に弾や数馬に「大人の階段で地団駄を踏んだ気になった」と淋しく語ったという。
岸 結華はオリジナルでつくったやられ役。『奇襲か!→きしゅうか→きし ゆうか』と安直なネーミングで決定。
こいつはまた後で出るかも。
というか、後日やられモブの名前を活動報告で募集します。というのも、マジでネーミングセンス皆無で、今回のモブの名前もギリギリまで「やられ役2号」でした。
誰か助けて下さい(切実)
今回ようやく出せた弾の恋人の
虚さんも一応弾の恋人候補として考えています。一夏がIS起動させてるので、この世界も生活能力などの条件さえ満たせば重婚の可能性がありますし、サブキャラで修羅場ってあんまし見た事ないな、と思ったのでw
鈴が育った理由にもあった、一夏の眠りが浅いのはモンド・グロッソの悲劇以前からある悪癖のひとつで、一人だとまともな食事をしない(というか生活能力が引き篭もりレベルまで低下する)理由なども今後明らかにしていきます。結構重要な部分だったり。
それとこの箒さん、原作とは対極に位置する暴力否定派にしたせいで痴女気味で、耳年増の鈴とは別ベクトルになりそうです。
というか、気づいたらほぼ全てのヒロインが痴女というか肉食気味。ラウラ、クロエも結構ヤバめですが、それ以上にアイツが(ry
今回もやった飯テロですが、作中に食レポ入れらなかったので、オリジナル西京味噌のレシピを。
味噌:3 ヨーグルト:3 砂糖:1
この割合に一味唐辛子足せば今回出した鶏肉の西京焼きに使用した味噌になります。
この味噌、実は派生がメッチャ広く、一味の代わりにコチュジャン足せばピザソースの代わり、サバの水煮などの缶詰と合わせれて汁物にすれば粕汁風、納豆に入れて七味を混ぜれば醤油の代わりにも。
他にも派生が色々あるので、是非試してみて下さい。
原作だと箒は中華に挑戦し、こっちでは鈴が和食に挑戦。ある意味タイトル通りの展開になりました。
この辺は原作へのオマージュ、とか言っとけば許されますかね?w
次話は合流編。ラウラを軸にして00-06~00-12までを時間軸で説明しつつ、数馬との合流の話になる予定。プロローグはあと2、3話ぐらいかな?