クローディアに連れられ、生徒会室に向かう廊下で海斗は先程の騒動の大本である綾斗と話していた。
何だかんだ転生する前の記憶は彼は持ち合わせてはいない。死ぬ気の炎の特徴など必要なことしか持っていない。
そのため彼は
「俺の名前は天霧綾斗。よろしくね」
「俺は松原海斗。よろしくなえっとー」
「綾斗でいいよ。俺も海斗って呼ぶから」
「わかった、綾斗」
すると、前を歩いていたクローディアが振り向き、笑顔で言った。
「私もあなた方と同じ学年ですから、名前でお呼びください」
「ええと、じゃあクローディアさんで」
「俺もそう呼ぶことにするよ」
流石に初対面の女性に名前呼びはきつい二人。
「クローディアで結構ですよ?」
「いやそれだと…」
「流石に…」
それどころか前提に呼び捨てで呼ぶような度胸を二人は持ち合わせていなかった。
「クローディア、です!」
「ええと、だから呼び捨ては…」
「ク・ロ・オ・ディ・ア!」
「「わかったよ、クローディア…」」
根負けした二人は渋々と呼ぶことにした。
「ついでにその敬語もやめてくれるといんだが…」
「いえ、こちらは習慣のようなものなのでお気になさらず」
「習慣?」
「はい。私こう見えても腹黒いのでせめて外面や人当たりは良くしておかないといけないのです。それが染み付いてしまいまして」
「…腹黒いのか」
「ええ、それは
……ここまで堂々言われるともはや清々しい。
「なんでしたらご覧になりますか?」
「は?…って何で海斗は俺の後ろに隠れるのさ?」
クローディアは言うが早いか上着の裾をめくり上げた。
「うわぁぁ!?ちょ!?いきなりなにを……!」
綾斗はクローディアが腹部を露わにすると咄嗟に視線をそらす。
もちろん見て、腹黒いかなんてわかるわけないのだが。
「ふふッ可愛い反応をしますね。ですが…」
綾斗の後ろに隠れている海斗に、何故分かったんだと言わんばかりの視線を送る。
「……腹黒いって言ったから。まさかとは思ったが本当にやるとは思わなかったけど」
そうですかと少し笑いながらも先を歩き始めた。
なんだかんだあったが目的地である生徒会室についた。
クローディアが校章のによる認証システムをパスして扉をあけると、そこにはとても生徒会室とは思えない空間が広がっていた。
床にはダークブラウンの絨毯や革張りのソファーがあり終いには空を切り取ったかのような巨大な窓。
何所の社長だよこれ。
ここでクローディアがが口を開いた。
「では、あらためまして・・・星導館へようこそ、綾斗、海斗。歓迎いたします。そしてようこそ、アスタリスクへ」
「我が星導館学園が特待転入生であるあなた方に求めるのは唯一つ勝つことです。五つの学園を倒す。すなわち星武祭を制することです。そうすればあなた方の願いも叶えて差し上げましょう。現実に成せるものならば」
要は
「んー申し訳ないけど、そういうのはあんまり興味ないんだ」
先に口を開いたのは綾斗だった。
「ではどうしてこの学園に?」
クローディアが綾斗に尋ねる。
その質問に、綾斗は先ほどとは違い、真剣な表情に変わった。そして綾斗は答えた。いや、クローディアに尋ねた。
そしてそれは全てに欲がないと答えた理由だった。
「クローディア、聞きたいことがあるんだ」
綾斗は真剣な表情で聞いてきた。
「姉さんが・・・天霧遥がここにいたっていうのは本当かい?」
生徒会室がわずかな静寂に包まれた。その静寂を破ったのはクローディアだった。
「こちらをご覧ください」
すると、手元のウィンドウを開いて操作すると綾斗の目の前に一つのウィンドウが現れた。
そのウィンドウを見た綾斗は目を見開いた。
「これは・・・」
それは何とも不気味なものだった。
まるでバグで何かがかき消されたか、文字も画像もほとんど読み取れないデータに化していた。
それを脇目から見つつ、俺は嫌な直感がした。
「5年前、この学園に在籍していたとある女学生のデータです。入学は5年前。
その半年後に本人都合により退学。それ以外のデータは抹消されていました。」
データが消された・・・。妙だな・・・。退学になっても何等かの形でデータは残るはず・・・なのに消されている・・・明らかに可笑しい。何者かがやった意外にこうはならないはずだ。
俺が考えていると、綾斗が口を開いた。
「間違いない・・・姉さんだ」
ほんの僅かな面影が残る画像からそれが姉であると確信したのか綾斗が口を開く。其れに続いてクローディアが話した。
「彼女は星武祭に出場したことも、在籍いたことさえも怪しいです。当時のクラスメイトや担任の先生までもが彼女のことを覚えていなかったんです」
「クローディアはどうやってこのデータを?」「すみませんが、それを申し上げることはできません。それでは信用なりませんか?」
「ああ、いやそんなことはないよ」
綾斗はあわてて答えた。まあ生徒会長にでもなれば、いろいろな情報源があるのだろうと俺は思った。
クローディア「ただ、あなたがここに来た理由が彼女であればもう・・・」
言いずらそうに言葉を濁したが、綾斗はいつもののんびりとした顔で答えた。
「ありがとう。別に姉さんのことを探しに来たわけではないからね
「ではどうしてこの学園に?」
「うーん・・・」
綾斗は腕組をしてしばらく考えると、小さく笑って答えた。
「強いて言えば、自分が成すべきことを探す為かな」
「綾斗はなかなか喰えない奴だな」
俺は笑いながら言った。
「そういう海斗はなんで星導館にきたの?」
綾斗が聞いてきたので俺はこう答えた。
「大切な人を守るために。二度と大切な人が傷つかないようにするためだよ」
「それは素晴らしいことですね」
とクローディアは微笑んで言ってきた。それに対して綾斗は
「大切な人ってさっき一緒にいたひと?]
「そういうことですか」
疑問に思っている綾斗と答えがわかったのか、微笑んでいるクローディアに
「なんでそうなる?!それに何で知ってる?!」
「たまたま見えちゃってさ。それに海斗がものすごく幸せそうな顔で話をしてたから、そうなのかなぁって思っただけだよ」
「確かに雫は大事な奴だけど、そういう感情は一切ない!」
俺の今の精一杯の抵抗である。これ以上聞かれれば絶対にボロが出てしまう気がする。
「んーそっか」
案外引くのが早くて、驚いた。それに対してクローディアがずっとニヤニヤしてこっちを見ているのが腹立つがほっとこう。我慢だぞと自分に言い聞かせながら。
「それとあなた方二人には特待生の特権として学有純星煌式武装の優先使用権が与えられますが、海斗は……」
「わかってるよ。俺は星脈世代じゃないからな使えないしな」
「申し訳ありませんが、そういうことになります」
「ええ?!そうなの?!」
「ああ。俺は星脈世代じゃないんだ」
「じゃあの今朝のあの動きは?」
へぇ―。あの動きが見えたのか…。本当に喰えない奴だな。
「まぁ後で教えてやるよ。じゃあ先に出てるぞ」
綾斗がなんでという顔で見てきたので、こう答えた
「綾斗には、最後の転入手続きがあるだろ?」
「それは海斗もじゃ・・・?」
「俺はとっくに終わらせたぞ」
というと、綾斗はいつの間にと驚いていた。しかし、俺が言ったのは嘘である。なんで嘘を言ってまで、逃げようとするかというと……
「そういうことですので、海斗は外で待っててください」
生徒会長がものすごく笑っていない笑顔を向けてきていたからである。
「はいよ。じゃあとでな、綾斗」
「うん・・・」
綾斗はまだ俺の嘘を信じていた。堪忍や、綾斗…。
クローディアにも言われたので、俺は生徒会室を後にした。