魔法科高校の魔術使い   作:快晴

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お久しぶりです。

更新が遅くなってしまってすみません。

二次創作とはいえ物語を考えるのはやっぱり難しいですね。



第9話

七月も中旬。

中間テストも無事終わり、学校全体が間近に迫っている九校戦の話題や準備に追われている頃、士郎はすでに習慣となった風紀委員会のボランティア活動を行っていた。

 

「達也、紅茶だ」

「すまない」

 

机に向かってせっせと書類を作成する達也に士郎は紅茶を注ぐ。ここ数回の放課後の仕事は、見回りが終わった後にこうしてコーヒーや紅茶を注いでいることが多かった。

 

「士郎くん、私の分の紅茶はないのかい?」

「下級生に本来自分が作らなければならない資料を押し付けて、悠々と見物してる先輩に何か出すものがあると?」

 

そう。達也が今作っているのは、九校戦の後に迫る生徒会長選挙で使われる風紀委員会の委員長引き継ぎ資料で、本来は摩利が自ら制作しなければならないものなのだ。

 

摩利もそれを言われると弱いので、大人しく士郎から引き下がる。

 

「まったく、達也は少しお人好しすぎるぞ」

「自分でもそう思い始めている」

 

口ではそう答えている達也だが、内心では士郎ほどではないと思っているのは言うまでもない。

 

入学式から今日までに、士郎が助けた人たちは風紀委員会のボランティアを除いても二桁後半に及ぶ。今では困っている人を見つけたら必ず助けてくれる「正義の味方」として、学年の枠に関係なく、校内全体に知れ渡ろうとしているほどだ。

 

しかも、あまり良く無い意味で校内に知れ渡っている達也と違って、「正義の味方ファンクラブ」というものまで出来上がっているとの噂もあった。

 

「それにしても、随分と早いうちから資料の準備を始めるんですね」

「九校戦の準備が本格化すればほとんど時間が取れなくなるからな。メンバーが決まれば、競技の練習も始まるし、道具の用意に、情報の整理、作戦の立案、やることだけは山積みだ」

 

確かに話を聞くだけでも随分と忙しそうだが、後半の情報の整理は彼女には無縁だろうに……

 

「士郎くん、何かなその視線は?」

「……いや、なんでもない」

「ところでその九校戦はいつから始まるんですか?」

「昨年通りなら八月三日から十二日までの十日間のはずだ」

「そうだな。今の口ぶりからして士郎くんは九校戦の観戦に行ったことがあるのか?」

「ああ。最終日だけ会場に足を運んで、あとは店のテレビで仕事ながらに眺めていた」

 

この世界に来て間もなかった頃の士郎にとって、様々な魔法をその目で確かめることが出来る九校戦は実に興味深いものだった。

そして、彼が魔法を使えるようになったのも、この九校戦で多くの魔法をその目で分析することができたからというのが大きい。

 

「一人で見に行ったのかい?」

「生憎、一緒に行ってくれる相手はいないのでね」

 

選択肢としてあげられる人物が今では何人かいるが、昔の士郎は九重や達也と深雪ぐらいしかそういったことに誘える友人がいなかった。

 

「士郎くんは寂しい男なんだな」

「ああ、彼氏のしゅうと、よろしくやっている先輩とは違ってね」

 

紅茶をくれなかったことに対する小さな反撃をしたつもりの摩利だったが、見事、士郎の迎撃によって顔を真っ赤にしながら撃沈する。

 

「達也くん、どうして士郎くんがその呼び方を? これを知ってるのはあの時、生徒会室にいたメンバーだけだと思うのだが……」

 

あの時というのは、エガリテ騒動の少し前、二年の先輩、壬生沙耶香と二人きりで話をしていた達也を、生徒会室で真由美と摩利が問い詰めていた時のことだ。

 

もちろんその場にいなかった士郎はそんな話があったことすら知らない。

 

それにも関わらず、彼氏の呼び方を知っているのは摩利の予想通り達也が士郎に教えたからだ。

 

「少なくとも俺は知りません」

 

資料制作の手をいっさい止めずに受け答える達也、真実を知っている士郎からすれば、なんともしらじらしい態度だと思った。

 

「それより、九校戦の試合は何が行われるんですか?」

「……」

「九校戦はスポーツ系魔法競技の中でも魔法力の比重が高い種目で競われる。たしか去年は、個人種目でミラージ・バット、氷柱倒し(アイスピラーズ・ブレイク)、スピード・シューティング、クラウド・ボール、バトル・ボード、三人一組の団体戦でモノリス・コードが行われていたな」

 

名前まではあやふやだっため、摩利の方に確認の視線を向ける。

達也に対して黒いオーラを発していた摩利であったが、一度、大きくため息をつくと士郎に対して頷きを返した。

 

「それぞれの競技に参加する選手は、本戦、新人戦、男女各十名ずつの合計四十名で構成される。新人戦は一年のみで本戦は学年制限無し。

一人の選手が出場できる競技は二種類までだから、本戦に一年が出ることはない。まあ、出場枠の話を抜きにしても、一年生と二、三年生では実力的に勝負にならないだろうけどね」

 

そこから先も短くない時間、摩利の説明が続いていた。話しを聞いたところ、どうやら一高は三連覇がかかる大事な一戦でもあるようだった。

 

「選手については問題ないのだが、今の三年はエンジニアの人材が乏しい。真由美や十文字はCADの調整も得意だから不自由はしないだろうが……」

 

言葉濁しながら横目で達也を見る摩利。

ハイレベルなCADの調整ができる達也に、エンジニアを頼みたいのだろうが、その当人は気づいているであろうにも関わらず、我知らずといった顔で、資料作りを続けている。明らかに、正攻法で達也に依頼するのは難しそうだ。

 

「そういえば……

士郎くん、確か君は以前、双剣型の特殊なCADを使用していたよな。もしかしたらCADの調整もできるんじゃないのか?」

「できるできないで答えるとたしかに可能だ。だが、生憎と他人のCADをどうこうできるほどの腕は持ち合わせていない」

 

士郎の言葉を聞いてあからさまにに肩を落とす摩利。そんな彼女を慰めるかのように、彼はカップに紅茶を注いで差し出した。

 

 

 

 

 

ーー投影開始(トレース・オン)

 

九重寺の中庭で士郎は投影した干将・莫耶を手に、瞳を閉じ、自身の頭の中で鍛錬の相手をイメージする。

 

今、士郎の頭に浮かんでいる人物は、彼が知る中でも最速の英霊で、クランの猛犬と呼ばれた槍の名手。白兵戦においては、英霊の中でも一二を争う実力者。

 

深く、深く、深く。

ただひたすら相手をイメージすることだけに没頭する。そして、そこからゆっくりと瞼を開けてみれば、獰猛な笑みを浮かべたランサー、クー・フーリンの姿が見えた。

 

「ふっ‼︎」

 

次の瞬間、士郎はイメージのランサーとの間合いを詰める。

 

「はっ‼︎ はっ‼︎ はぁぁぁ‼︎」

 

一撃、二撃、三撃と休むことなく連撃を繰り出す。だが、どの攻撃も槍によっていなされ、合間に入る反撃によって自身が持つ干将・莫耶を砕かれる。

 

イメージと連動してすぐさま手に持つ干将・莫耶を消すと、新たに同じものを投影し、今度は本格的に防御にまわる。

 

突き出しと突き戻しの時差がまったくない雨のような槍撃を紙一重で躱しながら、わざと隙を作りカウンターを狙うが、撃ち合いを重ねる毎に早くなるその攻撃に、士郎は自から後方に跳躍し距離をとった。

 

ーー投影開始(トレース・オン)

 

手に持っていた干将・莫耶をイメージのランサーに投げつけ、自身は黒弓を投影し干将・莫耶に続くよう連続で三射矢を放つ。

 

当たるかよ‼︎

 

頭の中で声が聞こえ、全ての攻撃がその槍をもって薙ぎ払われた。

 

へっ、その程度かよアーチャー‼︎

 

言ってくれる、ならばこれならどうだ‼︎

 

士郎は自身の腕につけていたCADを操作し、再びランサーとの距離を詰める。

 

⁉︎

 

今までより格段に上がったスピードにイメージのランサーが目を大きく見開いた。

 

「はぁぁぁあ‼︎‼︎」

 

ぐっ⁉︎

 

先ほどまでの威勢はどうしたランサー‼︎

 

へっ、なかなかおもしれぇことをするじゃねぇか! ならこっちも遠慮せず本気でいくぜぇ‼︎

 

望むところだ‼︎

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

「はぁはぁはぁ…」

「いやー、今日はいつにも増して気合が入った鍛錬だったね」

「九重か。まあ、イメージしたのが少し因縁のある相手でね。それより用事は済んだのか」

「うん、少し前にね。縁側から三人で観てたんだけど気づかなかったかな」

 

視線を移すと、確かにそこには用事の相手であった思われる達也と深雪の二人が縁側に腰かけていた。

 

「まったく、私の鍛錬など見飽きているだろうに」

 

士郎のこの鍛錬は、一年前、この世界に来たときから欠かさず続けている。

基本的に早朝に鍛錬をする達也とは、時間的に被ることはないのだが、こうして夜に用事があって来るときは、ことが済み次第、縁側からよく士郎の鍛錬を眺めていた。

 

九重が気を利かせて渡してくれたタオルで汗を拭きながら、士郎は達也たちに近づく。

 

「こんばんは、士郎さん。

夜遅くにお邪魔してしまって申し訳ありません」

「こんばんは。

何度も言うがこの家の主人は九重だ。居候の私にあまりかしこまった挨拶はいらないぞ」

 

鍛錬が終わった士郎に対して、深雪が士郎に頭を下げるのはほとんど習慣と言っていい。

そして同時に、何度もかしこまった挨拶はいらない告げているのだが、彼女がそれをやめる気配は一向になく、最近は頭を上げた時に見せる笑顔に、悪戯心を感じられるようになっていた。

 

「………」

 

そんな深雪とは対照的に、顎に手を当てながら何やら一人でブツブツと呟いている達也。

今、彼の頭の中では先ほど鍛錬で士郎が頻繁に使っていた投影魔術の解析が行われている。

 

自身の感情があまり強く出ない達也であったが、魔術という未知の存在に対しては強く興味を引かれていた。

 

達也が士郎の事情を知ってから、魔術について嫌というほど説明させられたことを士郎は今でも忘れていない。

 

その中で、魔術回路を持たない達也には何度も魔術は使えないと伝えたにも関わらず、こうして熱心に思考を重ねているのだから、彼がどれだけ強い関心を持っているのかがよくわかる。

 

「君の兄は相変わらず勉強熱心だな」

「はい。お兄様は気になったことには妥協をしませんので」

 

兄が思考に没頭する姿を見つめる深雪は、とても嬉しそうだった。

 

「誰だ」

 

思考に集中していたはずの達也が突然、誰何を暗闇に向けて発する。

 

もちろん同じようにそれに気づいていた士郎は、密かに小さなナイフを投影すると気配に向けて鋭い圧を飛ばした。

 

「ちょっ、待って衛宮くん‼︎ 」

 

鍛錬の直後で圧というより殺気に近いものをを受けた相手は、なぜか士郎の名前を呼びながらその場に現れた。

 

「おや、遥クン」

 

その人物、小野遥に士郎は見覚えがあった。

 

まあ、それはそのはず、彼女は総合カウンセラー兼、士郎のクラスの担当教師だからだ。

 

「達也くんも士郎くんもそんなに心配しなくていいよ。遥クンも僕の教え子だ」

 

それを聞いて士郎は殺気を抑え、投影したナイフを消す。ようやく緊張から解放された遥の方は、その場でホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「司波くんはまだしも、衛宮くんにまで隠形が見破られるなんて、もしかして私の技が衰えているんですか?」

「達也くんは僕たちとは違った『眼』を持ってるからね。彼を欺くには気配を消すんじゃなくて気配を偽らなきゃ。

そして士郎くんに関しては物理的な視力かな。彼は目がいいから、君が移動する時に微かに揺れた不自然な木々の動きを見逃さなかったんだろう」

 

そこからは茶番のような師弟の話が続いていく。自身にとってどうでも良すぎることだったため士郎はほとんど聞き流していた。

 

しばらくして達也がその会話に割って入り、小野遥という人物が公安と呼ばれる、警察の一つのメンバーだということが判明した。

 

これに対して達也は強い警戒心を示したが、遥が自身に敵対する意思がないことを告げ、達也と約束交わし、ギブアンドテイクの関係になることで穏便にことを済ませた。

 

「さて、司波くんのことはこれでいいとして、少し衛宮くんに聞きたいことがあるのだけれど」

 

やはり来たか……

 

「…私にですか」

「はい。衛宮くん、あなたはどうしてこの九重寺にいるのかしら?」

「どうして、と言われても、生徒の資料を持っている先生ならご存じでしょうが、私がこの寺に世話になっているからです」

 

遥が本来聞きたいことを理解しながらも、士郎はあえてそれに気づかぬふりをしながら受け答える。

 

「それに関しては私も理解しています。

私が聞きたいのは、どうしてこの九重寺に世話になることになったのかということです」

「随分とプライベートなことをお聞きになるんですね」

「私は先ほど明かした通り警察の一員でもありますが、それ以前に衛宮くんの担任であり、魔法科高校のカウンセラー。生徒の身を心配するのは当然のことです」

 

なんとも便利な立場だな。

 

「わたーー」

「それに関しては僕が説明してあげよう」」

 

九重?

 

「先生が?」

「実は彼の父親とは昔の友人でね。

仕事の関係で海外に行くことになった彼に変わって、士郎くんの修行を兼ねて僕が面倒を見てるんだ」

「先生のご友人の息子で、修行ですか………

分かりました。

先生、今日は夜分遅くに失礼しました。

私はこれで失礼させてもらいます。

士郎くんも変な質問をしちゃってごめんなさい」

 

何か考えるように黙り込んだ遥であったが、しばらくすると不承不承といった様子で言葉を残すと、そのまま九重寺を後にした。

 

「さて、それじゃあ遥くんも帰ったことだし僕たちも解散しようか」

 

九重の言葉で達也と深雪が寺を出て、門の前に止めておいたバイクに跨る。

 

「君たちにはいらぬ心配だろうが、道中気をつけてな」

「ああ」

「それでは、失礼します」

 

深雪が自身にしっかりと捕まったことを確認した達也は、バイクのエンジンをかけ、暗闇へと消えていった。

 

「……九重、あれはいったいどういうつもりだ?」

「あれ? ああ、さっきの遥くんのやつだね。

もしかして余計なお世話だったかな?」

「いや、そんなことはない。

ただ、あの場面で九重が私を助けてくれるなど思ってもみなかったからな」

「はっはっは。確かにそうだろうね。

でもまあ大した意味はないよ。強いて言うなら日頃の感謝の気持ちさ」

「感謝?」

 

あまりに予想外な答えに、士郎は思わずその言葉を口に出していた。

 

「そう。いつも僕や弟子に美味しいご飯を作ってくれたり、寺の掃除から洗濯までほぼ完璧に家事をこなしてくれる士郎くんへの感謝の気持ちさ」

「………なるほど。まあ、そう言うことにしておこう」

「あ、疑ってるな士郎くん?」

「ふっ、そんなことはないさ」

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラ、どきやがれ‼︎」

 

こぼれ球に向かって突進するレオ。

 

まるで暴走したイノシシだな。

 

すぐ近くにエリカがいれば間違いなく爆笑し、本人が聞けば間違いなく顔を顰める、そんな感想を抱きながら、士郎は一般科目の一つである体育の授業を受けていた。

 

今、行なっているのはレッグボールと言われるフットサルの派生競技で、簡単に説明すると、反発力を極限まで高めた軽量ボールを、無数の小さな穴が開いた透明の箱で覆われたフィールドで使ったフットサルである。

 

ちなみにボールの他にも、フィールドを覆う壁や天井に高いスプリング効果を持たせているため、この競技ではフィールドの中をボールがピンボールのように目まぐるしく跳ね回る。

 

そんなスピーディかつ相手のゴールにボールを蹴り込むというパワフルさも兼ね備えたこのスポーツではあるが、元サーヴァントの士郎にとってはただ反発力を高めただけのボールなど、虫が止まるような速さに見えるため、いささか退屈な競技でもあった。

 

とはいえ、士郎が楽しめるレベルのレッグボールとなると、それは、選手すべてが英雄クラスで設備と道具すべてが英雄クラスの本気に耐えられるという条件がつく。

 

かの大英雄、ヘラクレスがバーサーカーのクラスでこれに参加していたらなどと考えると、悲惨な未来しか想像できなかった。

 

いや、そもそもあの状態の彼にルールのあるスポーツはできないか。

 

「達也!」

 

見事にボールを拾ったレオが中盤の達也にパスを送る。

 

シュート性の勢いのあるパスであったが、達也はそれを真上に蹴り上げることで勢いを殺し、天井から跳ね返ってきたところを綺麗に抑えると、前線の選手に向けてさらにパスを出す。

 

レオほどではないものの、かなりスピードの乗ったパス。やや強すぎると思った士郎であったが、前線のその生徒は見事にワントラップでそれを収めると、相手のゴールにシュートを叩き込んだ。

 

ほう、たしか吉田幹比古といったか。

あの身のこなし、なかなかやるな。

 

予想外の動きを見せた幹比古に素直に士郎が感心していると、同じように前線で感心したようにレオと話をしていた達也が、飛んできたボールを上段回し蹴りで相手ゴールに蹴り返していた。

 

………学校の体育の授業で上段回し蹴りとは、なんとも大人気ない。

 

とは言え、先ほどからゴールキーパーとして飛んでくるシュートをすべて防ぎきっているので人のことをあまり言えたものではなかった。

 

そして、その後も達也たち三人の攻めと士郎の鉄壁の守りにによって、F組は一点も取ることが出来ぬままE組の圧勝に終わった。

 

「ナイスプレー」

 

試合が終わり見学ゾーンに移動した士郎たち三人は、やや離れたところに腰を下ろしていた幹比古に声をかけた。

 

「そっちもね。特に衛宮、まさか相手のシュート全部を防ぐなんて君はとんでもないな」

「そうか? レオや達也、吉田にも出来そうな気もするが」

「幹比古でいいよ。苗字で呼ばれるのはあまり好きじゃない。それと、キーパーに関しては僕には真似できないよ」

 

幹比古に続くようにレオも「俺も全部は無理だな」と一言。

 

「……そうだな、そんなことができるのは士郎だけだろう」

 

わざとなのかどうかは分からないが、少し間を空けてから答えた達也に、士郎、レオ、幹比古の三人は間違いなくできるだろうと心の中で意見が一致した。

 

「俺は西条レオンハルト、レオって呼んでくれ」

「司波達也だ。達也と呼んでくれ。俺たちも幹比古と呼んで構わないか?」

「オーケー、達也、レオ」

 

二人の言葉に気安気な口調で答えた幹比古は、少し気恥ずかしそうな表情を見せた。

 

「実を言うと、前から僕は君たち三人と話をしてみたいと思っていたんだ」

「達也と士郎は分からなくもないが、なんで俺も入ってるだ?」

「なんと言ってもあのエリカにあれだけ根気良く付き合える人間は珍しいからね」

 

「……釈然としねぇ」とエリカとワンセット扱いに顔を顰めたレオを見て、達也と幹比古は同時に吹き出した。

 

「まぁ、あれだけ教室で仲良くしてればワンセット扱いも当然だな」

「「仲良く(ねぇよ)(ないわよ)‼︎」」

 

いつのまにか現れたエリカの声が、綺麗にレオと重なった。

 

「士郎くん、冗談でもこいつとワンセットなんて言わないで。鳥肌が立つわ」

「それはこっちのセリフだ‼︎」

 

ぎゃーぎゃーといつも通りやかましく言い合いを始める二人。少なくともこの関係が改善されることがない限り、レオとエリカはワンセットで扱い続けられるだろう。

 

「ところで、さっきの口ぶりからして、幹比古はエリカと知り合いなのか?」

 

達也の指摘に幹比古がしまったという表情をした。

 

「いや、知り合いってほどの……」

「私とみきはいわゆる幼なじみ?ってやつよ」

 

なぜそこが疑問形になる。

 

「エリカちゃん、なんで疑問形なの?」

 

エリカについて来ていた美月の言葉が士郎の疑問と重なった。

 

「知り合ったのが十歳だからね。幼馴染と呼べるかどうか微妙なとこだと思うよ。それにここ半年くらい、学校の外でまったく顔を合わせてなかったし。教室じゃずっとさけられてたしね」

「なるほどな……

ところでエリカ、君はいったいなんて格好をしてるんだ」

「何って、伝統的な女子用体操服だけど?」

 

はぁ、今時そんな伝統を受け継いでいるのはエリカぐらい……、いやどこぞの道場にも同じように伝統を受け継いでる娘がいたな。

 

「エリカ、ブルマーなど、あまり女子生がそう肌を露出させる服を着るものじゃないぞ」

「あれ? もしかして士郎くん、興奮しちゃった?」

「いいや。どちらかというと彼の方だろう」

 

そう言って視線を向けた先では、幹比古が顔を真っ赤にしながら陸に上げられた魚の様に口をパクパクとさせていた。

 

「ブルマーって言うとあれか、昔のモラル崩壊時代に女子中高生が小遣い稼ぎに中年オヤジに売ったっていう……」

「黙れバカ‼︎」

 

顔を真っ赤にしてレオの向こう脛を蹴り飛ばすエリカ。華麗に決まった一撃に脛を抑えて悶絶するレオであったが、その一方、蹴りを入れたエリカの方も片足を抑えてぴょんぴょんと跳ね回っていた。

 

「……やはり君たちは仲がいいな」

「「仲良くない‼︎」」

 

 


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