魔法科高校の魔術使い   作:快晴

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第7話

 

新入部員勧誘週間も4日目。

士郎は屋上でボランティア活動に勤しんでいる。

 

「達也、校庭でトラブルを起こす団体を見つけた至急向かってくれ」

『了解』

 

士郎の役目はこうしてトラブルが起きた場所を達也に知らせることにある。

 

むっ、魔法を使うつもりか。

 

とはいえ仕事は何も連絡係だけではない。

士郎は持参した弓型のCADを手に持つと、魔法を行使しようとしている上級生に向けて弓を引きながら狙いを定めーー放つ。

 

一直線に放たれたサイオンの矢は、今まさに使われようとしていた起動式を見事に撃ち抜いた。

 

起動式を撃ち抜かれた上級生の方はというと、突然壊れた自身の起動式を見て唖然とし、揉めていたことなど忘れてその場で固まっていた。

 

『士郎、そこから俺の姿は確認できるか』

「少し待て」

 

達也からの連絡に士郎はすぐに学内を見渡し彼の姿を探し始める。

 

「見つけたぞ。それで何かあったのか?」

『また妨害にあった。そちらから赤と青の線で縁取られた白いリストバンドをした生徒は見えないか』

「…………だめだ。ここからは見つけられない」

 

アーチャーの称号を司る士郎の目で見つけられないとなると、その相手はすでに屋上から死角になる場所に移動しているのだろう。

 

『手間をかけさせてすまない。

今から報告のあった場所に向かう」

 

そう言って切れた無線をしまい士郎は活動を続けた。

 

 

 

 

 

そして、達也にとってそんな怒涛の一週間が過ぎた翌週、士郎はボランティア活動のため風紀委員室へと向かおうとしていた。

 

「達也も今日、委員会か?」

「いや、俺は非番だ。ようやくゆっくりできる」

「大活躍だったもんな」

 

達也が大活躍するということは、それだけトラブルが発生したということだ。二日しか手伝っていない士郎には分からないが、本当に数えるのが嫌になるくらいの出動を、達也は余儀なくされたのだろう。

 

「今や有名人だぜ、達也。

魔法を使わず、並み居るレギュラーを連破した謎の一年生ってな」

「くっくっく、それはすごいな」

 

これを言われた達也は実に迷惑だという顔でため息をつく。

 

「そういえば謎って言ったらもう一つあるのよね」

「もう一つ?」

「うん。魔法を使おうと起動式を展開すると、飛んでくる謎のサイオンの矢ってやつ」

「ぶっ‼︎」

 

思わず吹き出してしまった。

そんな士郎を見ていた達也は意地の悪そうな笑みを浮かべてくる。

 

「エリカ、その謎の矢を放つ人物を教えてやろうか?」

「えっ⁉︎ 達也くん知ってるの」

「知ってるも何も、エリカも知ってる人物だ」

 

先ほど笑ったせいでとんでもない仕返しを食らう羽目になった士郎は、当然のように感づいたレオとエリカの怒涛の質問責めをなんとか受け流し、達也を置いて教室を出て行った。

 

 

 

 

 

「来たか。アーチャー」

 

思わぬ呼び名に目を丸くした士郎だが、すぐに気を取り直して委員会活動の準備を始めた。

 

「渡辺先輩、もしかしなくてもそのアーチャーというのは私のことかね?」

「屋上からサイオンの矢を使って展開される起動式だけを撃ち抜く。ぴったりだと思わないか?」

 

確かにそうかもしれないが……

まさか、あの噂を流しているのは彼女なのか?

 

「言いえているが、最近流れている噂が収まるまでその呼び名は控えてほしい」

 

士郎とて達也のように悪目立ちして闇討ちや妨害を受けるのは御免だ。

 

そんな心の声が表情に出ていたのか、摩利は苦笑いを浮かべると「わかったよ」と短く答えた。

 

「うん。達也くんといい、君といい、今年の一年生は実に有能で私も助かったよ」

 

実際、その事実は昨年や一昨年に比べた検挙率の向上と、それに伴う負傷者や大きな事故の減少といった数値としての結果に現れている。

 

そして、その検挙に大きく貢献したのが魔法を使わずに相手を無力化する達也と、魔法を使って大事になる前に、起動式だけを正確に撃ち抜く士郎たちのなのであった。

 

「達也が有能というのは分かるが私の方は過大評価のしすぎだ。私はただ連絡をして、間に合わない場合に魔法の使用を阻止していただけだからな」

「いや、十分すぎる働きだよそれは」

 

そんな会話をしているうちに士郎の準備もある程度整う。達也が調整した風紀委員会のCADを片腕に取り付けると、気持ちを切り替えるように一度だけ大きく深呼吸をした。

 

すると士郎の纏っていた雰囲気が変わり、研ぎ澄まされた剣のように鋭くなる。摩利がこれを見るのは今日で三回目、初めてこれを見たときはあまりの変貌に全身の毛が逆立ち、手には冷や汗をかいていた。

 

「それでは巡回に行ってくる」

「ちょっと待った。今日は私と一緒だ」

 

なるほど、達也と同様に非番のはずの彼女がこの場にいるのはそのためか。

 

「士郎くんも、達也くんが新入部員勧誘の時に妨害にあったのは知っているだろ。

その時の報告で、少し気になることだがあってね」

 

おそらく摩利が気になっているのは、達也の報告にあったリストバンドをした生徒ことなのだろう。

 

「分かった。そういう事ならよろしく頼む」

士郎たち二人は風紀委員会本部から出て早速巡回を始めた。だが、しばらく校内を回ってみても、特に問題ごとが起きている様子はない。

昨日までの反動もあるのか、校内はいたって平和なものでどこにでもある高校の風景がそこには広がっていた。

 

「平和なのはいい事だが、なんだか拍子抜けだな」

「別に普段から魔法沙汰のトラブルが、多発するわけじゃない」

 

摩利の言う通り、あんな事態が毎日続いていたら士郎たちの身体もそうだが、そもそも学校自体、成り立っているわけがない。

 

自身に今までが異常だったのだと言い聞かせ、士郎たちは尚も巡回を続けた。

 

「さて、次はどこに向かおうか?」

「カフェテリアが妥当なところだろう。この時間ならまだ生徒もそれなりにいる。トラブルが起きる理由としては十分だ」

「流石だな。それならカフェテリアに向かおうか」

 

カフェテリアへと足を進める士郎たち。

もちろんその間も巡回の仕事は忘れない。

沈黙が続く中、不意に摩利が、士郎に対して質問をしてきた。

 

「士郎くんは、やはり部活には入らないのか?」

「ああ、そのつもりだが。一体どうして」

「いや、士郎くんの弓の話を真由美にしたら、是非弓道部に入りなさいとね」

 

別に彼女は弓道部ではなかったと思うのだが…

 

「渡辺先輩も知っている通り私には店があるからな。風紀委員会のボランティアでただでさえ営業時間が少ないんだ、部活でさらにそれを削るわけにはいかない」

 

ただ正直なところ、士郎にも弓道部には少し興味があった。学生生活をしていると、どうしてもあの頃の自分を思い出し、少しではあるが、もう一度あの場に立ってみたいと思ってしまう。

 

頭の中で昔の弓道部のメンバーを浮かべていると、思わずあのハイテンション教師が腹を空かせてやってくる姿を思い出して少し笑ってしまった。

 

「どうかしたのか士郎くん?」

「いや、なんでもない。少し思い出し笑いをしてね」

「君でも思い出し笑いなどするのだな」

 

彼女は私をロボットや何かと勘違いしているのではないだろうか?

 

「渡辺先輩……」

「おっと、今のは不謹慎だったな」

 

士郎のジト目を受けた摩利は、悪戯っぽい笑みを浮かべ、まったく反省のない態度で謝罪してくる。

 

士郎はため息をこぼすと、到着したカフェテリアの巡回を開始した。

 

「あれは……」

「ほほう。達也くんも隅に置けないな」

 

窓際のテーブル席、達也が女生徒と向かい合って何かを話している。女生徒の方の顔がコロコロと変化しているのを見るに、達也はだいぶ相手をいじめているようだ。

 

しばらく観察を続けていると達也と目があった。そしてすぐ隣にいるもう一人の人物を見て、行動には出さなかったが、内心では間違いなく頭を抱えていた。

 

「渡辺先輩、ここは問題ないようだ。

次に行こう」

「何を言っているせっかく面白いもーー」

「この間大事な書類を無くしそうになったこと、市原先輩にバラすぞ」

「なっ⁉︎ 今それは関係ないだろ‼︎」

「なら達也のプライベートも今の私達には関係ないことだ」

「ぐっ」

 

どう見ても摩利に勝ち目はなかった。

 

「プライベートなことはプライベートの時に聞くことだな」

 

士郎はそう言って摩利の首根っこを掴むとズルズルと引きずっていった。

 

引きずられることが恥ずかしいため、抗議の声を上げる摩利だったが、カフェテリアを出るまで士郎が手を離すことはなかった。

 

 

 

 

 

それから一週間。放課後のボランティア活動も、特に問題が起こることもなく、ようやく普通の高校生活を送っていると実感し始めた頃、

放送室が占拠され、生徒会と部活連に対して対等な交渉の要求が大々的に放送された。

 

やれやれ、ようやく静かな日常になったかと思えばまたトラブルか。

 

士郎は本来、今日はボランティア活動の日付ではなかったのだが、荷物を机に置くと校庭へと向かった。

 

ここだな。

 

校庭にある体育倉庫の屋上、丁度、校舎の三階にある放送室と平行になる場所で、士郎はCADではなく普段から使用する黒弓を投影していた。

 

中の様子はカーテンのせいで見えないが、幸いガス対策のために数箇所窓が開いている。

 

士郎は矢を投影し、その先にポケットから取り出した筒を取り付けた。

 

「達也、聞こえるか」

『士郎か』

 

外に出る前、あらかじめ無線を入れておくように指示した士郎は、校内で生徒会や部活連と合流している達也に連絡を入れた。

 

 

「そちらの状況を教えてくれ」

『今は生徒会や風紀委員会、部活連のメンバーと共に教室の前でこれからどうするかを話している最中だが……士郎、お前はどこにいる?』

「校庭の体育倉庫上だ」

『………』

 

達也はなぜそんなところになどと野暮なことは聞かない。士郎の言葉である程度やろうとしていることが読めたのか、少しの沈黙の後、指示を仰ぐ言葉を告げてきた。

 

「カウント十で、私は閃光玉付きの矢を放送室に打ち込む。達也達は部屋の鍵が空き次第中の連中を拘束してくれ」

『わかった。だがどうやって室内に矢を打ち込み、放送室の鍵を開けるつもりだ?』

「放送室の窓が少し空いていてな、矢はその隙間を狙って打ち込む。鍵の方に関してはそのまま私が乗り込み開錠しよう。先程から外の様子を確認するために中から生徒が覗いているが、近場ばかり気にして離れた場所にいる私に気づいていない。目が眩んでいる状態なら侵入も容易だろう」

『了解』

 

達也に指示を出し終えた士郎は黒弓を構えると静かに弦を引く。

 

「カウント、十、九、八…………」

 

照準を合わせたままピタリと動きを止めた士郎は、淡々とカウントを進めた。

 

「三、二、一……ゼロ」

 

手に持った弦を離すとまっすぐと矢が窓の隙間へ飛んでいく。そして、反対にあった壁にそれが突き刺さると、次の瞬間、凄まじい光量が教室を包んだ。

 

「ふっ‼︎」

 

矢が外れることはないと確信していた士郎は、すでに投影した黒弓を消して体育倉庫から移動し三階の放送室の窓に手をかけている。

 

作戦通りにいったことで何の妨害を受けることもなく教室に入る士郎。

中では数名の生徒が目を抑えてうずくまっていた。

 

……やり過ぎたな。

 

士郎は壁に突き刺さった矢を消して、ドアを解錠すると生徒を拘束しに入ってきた達也達と合流した。

 

「士郎くん⁉︎ あなたまさか」

 

思わぬ人物が中から出てきたことで真由美が驚き声をあげる。どうやら、士郎がここを占拠したメンバーの一人だと勘違いしているらしい。

 

「安心しろ。私はここを占拠していた一団とは無関係だ」

 

それを聞いて真由美は自身の胸をそっと撫で下ろした。

 

「そうか。だが、なおさらどうして君が中から出てくる」

 

摩利の質問から察するに、達也はこの作戦のことを他のメンバーに説明していなかった……

いや、達也への連絡から実行までの時間を考えると説明する時間がなかったと言った方が正しいか。

 

「達也にはあらかじめ連絡をしていたのだが、簡潔に事実だけ述べると、この部屋を制圧したのが私だからだ」

 

達也が誰かと連絡を取っている姿を思い出したのか摩利が「相手は君だったのか」と呟く。

 

「なら先程の閃光も君がやったのか?」

「ああ。体育倉庫の上から放送室の窓へ閃光玉を打ち込んだ」

「閃光玉って…… どうしてそんなものを」

「護身用だ。私の場合、武術で対抗すれば相手の方に怪我をさせるから、これで目を眩ませている隙にその場を立ち去るため……らしい」

「はぁ、君は忍か何かなのか?

それにらしいって…… どうして自分でもよく分かっていない」

 

士郎の話しを聞いて思わずため息を漏らす摩利。ただ、彼自身も心の中では同じようにため息を吐いていた。

 

私はいったい何を言ってるんだ……

こんなことを言ったところでただの苦しい言い訳にしか聞こえないのだろうに。

やはり、相手に怪我をさせないようにと思って九重に渡された閃光玉など使わずに、少し手荒だが自身で窓から進入して制圧した方が良かったな。

 

そんなことを士郎が考えていると、室内の生徒の拘束を終えた達也と一緒に出てきたがっしりとした体躯を誇る男子生徒が話しかけてきた。

 

「まず、放送室の解放に協力してくれたこと感謝する。私は部活連代表の十文字克人だ」

「………風紀委員会でボランティアをさせてもらっている衛宮士郎という」

 

ボランティアという言葉に一瞬眉を顰めた克人、だが、最近、風紀委員会がボランティアを一人募集したことを思い出したのか小さく頷いた。

 

「そうか。衛宮、一つ聞きたいことがある」

「何か?」

「どうして正規で風紀委員会に入らない。

先程の手際から見てもお前なら十分やれるはずだ」

「私は店を開いていてね、非番があるとは言え入ってしまえば強制力が働く組織活動はあまり望ましくない」

 

士郎の顔を見たまま黙り込む克人。

あずさあたりなら卒倒しそうな眼力と威圧感だが、士郎は全く気圧されずその瞳を正面から見つめ返す。そのまましばらく時間が経ったところで克人が視線を逸らす。

 

「わかった」

 

一言だけ告げると、彼は拘束した生徒達を連れて私達の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

それから一日が経過した。

結局あの後、生徒会と部活連は明日、彼らとの話し合いに応じることとなり学内はどこに行ってもその話で持ちきりだった。

 

「九重、茶が入ったぞ」

 

風紀委員会のボランティアも終わり、寺へと帰宅した士郎は夕食を終えて縁側でひと息つく九重に茶を持っていく。

 

「ありがとう士郎くん。そこに置いといてくれ」

「邪魔している」

「こんばんは士郎さん」

 

茶の数を間違えたようだな。

 

「こんばんは達也、深雪。

九重、こんな時間にどうして彼らがここにいる」

 

その質問に答えたのは達也の方だった。

何やら九重に頼みたいことがあるらしい。

 

「頼みごと…… 今回の騒動についてか?」

 

騒動というのはもちろん、生徒会と部活連に対する公開討論会についてだ。

 

「ああ。ある人物とブランシュの関わりについて聞きに来た」

 

ブランシュ…… 反魔法国際政治団体。

 

「そうか。なら私は一度席を外そう」

「いや、そのままで構わない。士郎とは情報の共有をしておきたいからな」

「………わかった」

 

そこから数分、九重の口から今回の一件にブランシュの下部組織が関わっていること、その組織のリーダーが達也の話したある人物、司甲と関わりがあることが説明された。

 

「士郎」

 

帰り際、達也が士郎に寄って来た。

 

「明日は非番だがよろしく頼む」

「私に強制力は働かないぞ」

 

その返答に対して達也は笑みを浮かべる。

 

「ああ。だから頼んでいるんだ」

「まったく、君も性格が悪い」

「仕方がないだろう。万が一の時に頼りになるのが士郎なのだから」

 

それだけ言い残すと達也は深雪を連れて寺を出ていった。

 

「士郎くんも大変だね」

 

士郎と同じように二人を見送りにきた九重がニヤニヤと笑いながら話しかけてくる。

 

「そう思うのなら、今日中に司甲の兄を始末して来てくれないか」

「僕は俗世に関わらない主義でね」

 

なんとも薄情な返答だ。

 

「それに士郎くんはこのことをもっと早くに知っていたじゃないか。自分が放っておいたことを他人に尻拭いさせるのは関心できることじゃない。やるなら自分でやるべきじゃないかい?」

 

そう。士郎は達也がリストバンドをした生徒に妨害をされ始めた段階で、今回の討論会の裏でブランシュの下部組織「エガリテ」の日本支部リーダーが絡んでいることを、さらにはその人物が剣道部の主将、司甲の兄であることを自力で調べていた。

 

「私はそれでも構わないが、それだと小さくない組織のリーダーが突然消えることになる。

尻尾を掴まれるようなヘマはしないが、もしもの場合を考えると面倒ごとに巻き込まれるのは九重も一緒だぞ」

「それは僕がやっても同じことだと思うけど?」

「ふっ、国の上層部とも繋がりがある九重と私では、成し遂げたことの意味が大きく変わってくる。結局、色々な意味でことを長引かせないためには、既に顔の知れた人物が収めるか、集団という不特定多数の中で行動するしかないのだよ」

 





相変わらずツッコミどころが多いですね。
自分で読み直していてよく思います。
「なら直せよ」そう思ったそこのあなた。
おっしゃる通りです………
作者の脳みそが足りなくてすみません。

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