魔法科高校の魔術使い   作:快晴

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第4話

入学三日目、昨日と違い余裕を持って店の準備を終わらせた士郎は、一人学校に向かっていた。

 

「うん?」

 

なにやら校門の近くに人目が集まっている。

まさかとは思いながら足を進めると、あいにくとそのまさかは当たっていた。

 

彼らは人に注目されなければ生きられないのか?

 

気がつくと騒ぎの中心にいる友人たちを見ると、そう思わざるを得ない。いつかテレビのニュースの中心人物として出てこないことを祈るまでだ。

 

「おはよう。それで、今日は何をしでかしたんだ?」

 

校舎の方へ進んでいく生徒会長の後ろ姿から察するに生徒会案件なのだろうが。

 

「おお士郎。今、達也と司波さんが会長にお昼の誘いを受けたんだ」

「ほう、深雪はともかく、達也はいつの間に生徒会長と仲良くなったんだ?」

「だよな。俺もびっくりした」

 

うんうんと腕を組んで首をふるレオ。

なんとも古くさいその仕草に、士郎は不覚にも吹き出しそうになった。

 

「人ごとのようにいってるが士郎、その場にはお前も来るんだぞ」

「なに?」

 

隣で未だに首をふるレオに対し今度は少しイラつきを覚えた。

 

「どうして当人がいないのに勝手に約束が進んでるんだ」

「七草会長は、士郎さんに直接言ったら間違いなく断られるからとおっしゃってました」

 

深雪の言葉で顔を顰めた士郎を見て、エリカが笑顔で諦めろと言いたげに肩を叩いてくる。

 

「士郎、いつの間に会長と仲良くなったんだ?」

 

達也の質問に士郎は力なく答える。

 

「昨日初めて知り合った仲だ」

「そうか。ちなみにさっきの質問に答えると、俺も一昨日初めて知り合った仲だよ」

 

こうして今日も、士郎は波乱へと巻き込まれていく。

 

 

 

 

 

そして昼休み。

嫌なことがある日に限って時間が過ぎるのは早く感じられる。

 

既に生徒会室へと招き入れられた士郎たちは、ホスト席に真由美を置き、そこから深雪、達也、士郎の順で席についた。

 

「あっ」

「どうしたのあーちゃん?」

 

真由美にあーちゃんと呼ばれる、士郎の正面に座っていた女生徒が何かを思い出したかのように声をあげる。

 

「あの、昨日はありがとうございました」

 

士郎に向かって丁寧に頭を下げる彼女に、いったいなんのことかと思ったが、しばらく頭を回していると、昨日、落し物探しを手伝った人物であることを思い出した。

 

彼女は先輩だったのか。

小柄な身体と凄まじい童顔が合間って、おなじ一年生だとばかり思っていた。

 

「へぇ。士郎くんはもう、あーちゃんと知り合いだったの、知らなかったわ」

「是非とも詳しい話を聞きたいところだな」

 

まるで新しいおもちゃを見つけたかのように笑う会長と風紀委員長。

 

やれやれ、また面倒臭いことになるのか。

 

そう思った時、珍しく士郎に救いの手が差し伸べられた。

 

「二人とも、今は司波さん達もいるんです。そういうのは後にして、早く私達の紹介を始めて下さい」

 

確か彼女は、生徒会の会計を担当する市原先輩だったか。

 

「すまない。少し調子に乗りすぎた」

「私も分かったから、そんなに睨まないで」

 

少ない言葉と視線だけで二人を落ち着かせた彼女を見ていると、士郎はある反英霊の女性を思い出した。

 

「それじゃあ、入学式の時に一度してるけど、改めて紹介しますね」

 

会長:七草真由美

会計:市原鈴音

書記:中条あずさ

そして、この間、士郎たちの目の前で耳を引っ張られていた男、はんぞーくんが副会長でここの生徒会が構成されているとのことだった。

 

ちなみに副会長の本名は、服部刑部少丞範蔵であり、断じてはんぞーくんなどというふざけた名前ではない。

 

「それじゃあ紹介も済んで、丁度準備ができたみたいだから、みんなでお昼にしましょうか」

 

準備ができたというのは、ランチボックスと呼ばれる、機内食のようなものだ。

仕事柄の理由を考えて取り付けてあるのだろうが、正直、高校生に対してはいくらかやりすぎな気もする。

 

弁当を持参していた士郎と摩利以外に食事が回ったところで、深雪が質問をした。

 

「そのお弁当は、渡辺先輩がご自分でお作りになられたのですか?」

「そうだ……、意外か?」

「いえ、少しも」

 

達也、意地の悪い答えをした彼女にも非はあるが、その目を手に向けながら、即答するのはあまりにも酷すぎる。

 

「士郎くんのお弁当も、もしかして手作り?」

 

達也の容赦ない迎撃に散った摩利を見かねてか、会長である七草が同じ弁当持ちの士郎に話を振ってきた。

 

「ああそうだ。店の下準備と一緒に手早く作っている」

 

そう言って弁当を開けると、周りから歓声があがった。

 

「よかったらつまんでくれると助かる、少々作りすぎてしまってな」

 

差し出された弁当のおかずに箸を伸ばす一同。

その評価は言葉を聞くまでもなく、顔を見れば一目でわかった。

 

「………ちゃんと料理の練習もしないとな」

 

一人、どこか寂しげな表情でそう呟く人物がいたが、士郎たちはあえて聞こえないふりをした。

 

「さて、それじゃあ早速本題に入りましょうか」

 

この言葉をきっかけに、七草会長が今回士郎たちをこの場に呼んだ理由を説明し始めた。

 

内容は予想通り深雪の生徒会への勧誘。

新入生代表を務めた彼女を引き入れたいと思うのは当然のことだ。

 

「会長は、兄の入試の成績をご存知にですか?」

 

そんな中、不意に深雪がそんなことを口走る。

 

「ええ、知っています。正直、先生にこっそり解答を見せてもらった時は自信をなくしました」

 

どうやら深雪は自身より兄が優れていることを主張し、達也も一緒に生徒会に入れないかと考えているようだな。

だが、一科生と二科生をブルームとウィードと差別している現在の体制の中で、二科生である達也が、この学校のトップ集団である生徒会に入ることなど、プライドの高い一科生の連中が認めるはずがない。はっきり言って彼女の提案が現実となるのは現状不可能なことだ。

 

「残念ながらそれはできません」

 

案の定、それは断られた。

 

内容は士郎の予想とは少し違うものだったが、根本的な問題で、一科生と二科生が関わっているのに間違いはなかった。

 

「………申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差し出口、お許しください」

「いえ、深雪さんを咎める理由なんてありません。それより、深雪さんには書記として、今期の生徒会に加わって頂くということでよろしいですね」

「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」

 

こうして深雪の生徒会入りが決定した。

 

「それで、残った私達はどうしてここに呼ばれたのかね」

 

時計を見て、授業までの時間があまり残されていないことを確認した士郎は、会話を進めるように言葉で促した。

 

「それについては私が説明しよう」

 

そう言うと、摩利はこの学内における役員になるにあたっての規則について語り出す。

 

この時、士郎は嫌な予感がした。

 

そしてその予感は彼女が話し終え、真由美が歓声をあげたことで的中する。

 

「そうよ、風紀委員なら問題ないじゃない。

摩利、生徒会は司波達也くんと衛宮士郎くんを風紀委員に指名します」

 

やはりかと心の中で呟く士郎に対して、珍しく達也が少し感情的に反論した。

 

「すまないが、その風紀委員の仕事について教えてもらっても構わないか、中条先輩」

 

「へぇ⁉︎ 私ですか‼︎」達也の反論に便乗した士郎の言葉に目を白黒させていた彼女だが、達也と二人で見つめ続けることで全ての内容を説明してくれた。

 

なんとも見た目を裏切らない、いい先輩である。

 

「なるほど、ただその話を聞く限り、実技の成績が悪かったせいで二科にいる達也と私には、あまり適した役職とは言えないと思うのだが」

「構わんよ」

「いったい何が?」

「力比べなら私がいる。君たちにはもっと特別な力があるじゃないか……っと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に続きをしたいんだが、構わないか?」

「……了解した」

 

放課後の約束を終えた士郎たちは生徒会室を去っていく。理不尽を押し殺して頷く達也に対して、深雪の方はどこか喜びを押し隠せない様子だった。

 

 

 

 

 

放課後、提出したはずのカリキュラムに少々、不手際があると教務課へと呼び出された士郎は、達也と深雪に遅れて生徒会室へ向かう。

 

思った以上に修正が手間取った。

まずは全員に謝罪をしなければ。

 

とは言え、実際に遅れている時間は十分ほど。あらかじめ事情を伝えるよう達也に話しているので、この程度の遅れは相手にとっても許容の範囲に収まるだろう。

 

「遅れてすまなーー」

「服部副会長、俺たちと模擬戦をしませんか?」

 

………なんでさ。

 

今の達也のセリフ、確かに彼は俺たちと言っていた。今この場にいる面子で達也がたちとつけて話す人物など士郎しかいるまい。

 

どうしてこうも私の知らない内に話が進んでいくんだ……

 

頭を押さえながら自身の不運を嘆く士郎。

やはり幸運Eは伊達じゃない。

 

「時間はこれより三十分後、場所は第三演習室、試合は非公開とし、三名のCADの使用を承認します」

 

服部副会長が模擬戦の申し出を受けると、真由美がそう宣言した。

 

士郎は達也と深雪の元へ歩み寄る。

 

「それで、事情を説明してもらおうか」

「予想はだいたいついてるんだろ?」

「たわけ。確かにそうだが、君はそれを説明するのが筋というものだ」

 

そう言われた達也は苦笑いを浮かべると、丁寧に事情を説明してくれた。

 

「はあ、相変わらず君は妹のことになると黙っていないな」

「俺にとって、深雪は全てだからな」

 

そう恥ずかしげもなく話す達也の隣で、深雪が頬を染めながら何やらブツブツ呟いていた。

 

これを何の事情も知らない人間が聞けばさぞかし大きな誤解を生むのだろうが、達也と深雪の関係をある事情から知っている士郎は、それがただの愛情表現ではなく、事実であることを知っている。

 

士郎は最後にもう一度大きなため息をつくと、達也を連れてCADを預かる事務所へと向かった。

 

 

 

 

 

事務所でCADを受け取り、第三演習室に移動した士郎は、先に服部副会長と試合をすると言ってきた達也の準備を深雪と共に見守っている。

 

ただ、見守ると言っても、別に達也のことが心配で見守っているわけではない。いくら相手が生徒会といえど、一対一、しかもこの広さでの試合ならば十中八九、達也が勝つ。

 

そんなことより、士郎には一つ気になることがあった。

 

「七草会長、どうして彼がこの場にいる?

この試合は非公開のはずだが」

 

士郎の質問に七草は困った様に答えた。

 

「実はさっきまで森崎くんがこの演習室を使ってたみたいで……」

「……忘れ物を取りに戻って来たところ、状況を知られてしまったというところか」

 

悪意のある巡り合わせではなく、偶然の巡り合わせなのならば彼女を責めるわけにもいくまい。

 

士郎は真由美に向けていた視線を、反対側で自身を睨みつける森崎駿へと移す。

 

ずいぶんと嫌われたものだ。

 

まるで親の仇を見るような視線からは、今すぐにでも士郎に借りを返したいという気持ちがよく伝わってくる。

 

彼と再会したのが、校内ではなく、生徒会長と風紀委員長が揃うこの場で案外良かったのかもしれない。

 

「お兄様…」

 

達也を見つめながら無意識に呟く深雪。

 

「達也のことが心配か?」

 

その質問に対して深雪は首を横に振る。

 

「いえ、失礼な言い方ですが、服部副会長ではお兄様に敵いません」

「だろうな。なら、どうしてそんな冴えない顔をしている」

 

はっきり言ってしまえば、深雪は今にも泣き出しそうな表情をしている。

 

「私のせいで、お二人にご迷惑をかけてしまいました……」

 

それを聞いた士郎は彼女の頭を少し乱暴に撫で回した。

 

「あの、士郎さん、なんで頭を撫でるんですか⁉︎」

 

突然のことに、深雪は士郎の顔を見上げてくる。

 

「達也は自身の意思でああして模擬戦に挑もうとしてるんだ、別に深雪のせいではない。

私に関してもそうだ。巻き込まれる形にはなったが、その後この場に来たのは私の意思に違いない、ならば全て自己責任、君が苦しむ必要はないぞ」

 

その言葉を聞いた深雪は、一度大きく目を見開くと、先ほどまでが嘘のように可憐な微笑みを浮かべた。

 

「それでいい。君は達也の勝利の女神なんだ。いつもそうやって微笑んでいたまえ」

「ええ。士郎さんのいう通りでしたね」

 

深雪がいつもの調子を取り戻した時、二丁の拳銃型CADを持った達也が、服部副会長と向かい合う。

 

そして、摩利の合図と共に二人の戦いは切って落とされ、数秒後、達也の勝利という形で試合の幕は閉じられた。

 

無事に終わったか。副会長の様子を見るに私の出番はなさそうだな。

 

意識を取り戻し、深雪に対して謝罪を述べる服部を見ながら、士郎がそう考えていると、余計なことを言い出す人物がいた。

 

「さて、本当ならまだ士郎くんの試合が残っているわけだが、服部の状態を見るに、それは難しい」

 

……はぁ。

 

「ただ、これは士郎くんの実力を知るためにも必要不可欠な試合だ。だから私から一つ提案がある」

 

それ以上は言わなくてもわかる。

 

「ここに丁度、一年で風紀委員に決まっている森崎がいる。服部までとはいかないが、実力者であることは間違いない。だから、士郎くんに是非とも彼と模擬戦をして欲しいのだが」

 

もちろんNOと言いたいところだが、向こうは既にやる気のようだ。これ以上、ああいった目を向けられるのも面倒だ。丁度いい機会なので、ここで彼との因縁を切るとしよう。

 

「わかった。その申し出を受けよう」

「森崎はどうだ?」

「問題ありません」

 

まさか受けるとは思ってなかった真由美が、士郎に駆け寄って来たが、士郎は彼女の言葉に聞く耳を持たなかった。

 

士郎がダメだとわかると他の二人にターゲットを変えた真由美だったが、どれも失敗に終わる。そして最後には「もう‼︎ あなたたち三人、後でそれ相応の処分は覚悟してくださいね‼︎」とプンプン怒り出してしまった。

 

前から思ってはいたが、彼女は少し子供っぽいところがあるようだ。

 

苦笑いをしながら試合の準備を進めていると、先ほど達也のシルバー・ホーンと呼ばれるCADを見て火がついたのか、あずさが興味深そうに士郎のCADを覗いていた。

 

「士郎くんは変わったCADを使うんですね」

 

それを聞いた摩利が、つられて士郎のCADを覗きにくる。

 

「ほう。双剣型のCADか」

 

そう。士郎のCADは達也の様な拳銃型や、ましては腕輪型などではなく双剣。

しかもそれは、自身の分身とも言える、干将・莫耶を模したものだった。

 

「これは達也くん同様に期待が持てそうだな」

 

そう言いながら笑みを浮かべる渡辺先輩は実に楽しそうだ。

 

「先に言っておくが、私は達也の様な器用な真似はできないからな」

 

それだけ言うと士郎は森崎の前へと歩み寄った。

 

「達也くんは、士郎くんがどう言った戦い方をするのか知ってるの?」

「ええ、士郎とは何度か模擬戦をしたことがあるので」

 

短く答えた達也に対して、真由美が続きを促す様に熱い視線を向け続ける。初めはそこから無視をしていた達也だったが、無意識のうちに達也に身体を当ててくる彼女を見た深雪が、黒いオーラを出し始めたので、仕方なく言葉を繋ぐことにした。

 

「士郎も俺と同じで魔法はあまり得意じゃありませんから、加速系統魔法と体術を使うスタイルが基本です」

 

本気の彼は、そこに身体強化の魔術が加わり、一般人ではほぼ認識不可能な速度での戦闘になるのだが、もちろんそんなことを七草に伝えたりしない。

 

「基本ってことは他にもあるんでしょ?」

「確かにありますが、これ以上は俺の口からはなんとも。どうしても知りたいのなら、後で本人に聞いてください」

 

真由美も本気でそこまで教えてくれるとは思っていなかったのだろう。達也の返答にあっさりとその場を引き下がった。

 

「司波、お前と衛宮はどちらが強いんだ…」

 

ここで以外にも口を挟んだのは服部だ。

 

ただ、森崎ほどではないにしろ、少なからず士郎と因縁がある彼にとっては、自身が破れた相手との力関係が気にならないはずもなかった。

 

「どういった観点で強さの評価をすればいいのか分かりませんが、少なくとも模擬戦では一度も勝ったことがありません」

 

それを聞いて、深雪を除く、服部、真由美、鈴音の三人は驚きを隠せなかった。


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