魔法科高校の魔術使い   作:快晴

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かなり短いですがお納めおば。

次でようやく九校戦編が終わると思います。


第20話

達也によってCADへの不正が暴かれた後、表面上大会は順調に進んだ。

 

当然表面上ということで裏では「ジェネレーター」と呼ばれる存在が動いていたりもしたのだが、それは士郎が出る幕もなく、独立魔装大隊の仲間の人間によって鎮圧された。

 

「ひとまず終わったか」

 

そして数時間前、ミラージ・バット決勝。

深雪の華々しい勝利で幕を閉じ、同時に第一高校の総合優勝が決まった。

 

試合終了後、念には念をと会場の不審物の点検を行っていた士郎もようやく肩の荷が降りたと深夜のホテルの屋上で一息ついた。

 

そんなふうに士郎が休憩を入れるころ、反対に動き出す人間がいた。

 

「彼に話をしなくてよかったの?」

「ここから先はこちら側の仕事です。あまり頼り過ぎるのも良くないですから」

 

「それもそうね」と呟いたのは風間の副官を務める藤林響子。

 

そして場所は電動車。正確に言えば交通管理システムに誘導され、ハイウェイを東進し入った横浜市内、横浜中華街を臨む高台だった。

 

「…敵国の工作員がウジャウジャいるって分かってるのに閉鎖も検問も行わないなんて、政治家は一体何を考えてるのかしら」

「あの街は本国の圧政から逃れた華僑の、本国に対する主要抵抗拠点の一つ、というのが建前ですから」

「そんなの嘘に決まってるじゃない」

「建前ですから」

 

いわゆる国同士のデリケートな問題というやつで、分かっていても手を出せないという歯がゆい話だ。

 

このまま会話を続けているといつまでも続けそうだと判断した達也はこの話題はこれで終わり、とばかり、車を出てこの都市で最も高い建物を前にする。

 

名前は横浜ベイヒルズタワー。

ホテル、ショッピングモール、民間オフィス、テレビ局の集まる複合施設。魔法師の親睦団体「日本魔法協会」の関東支部もこのビルに置かれている。

 

もっともこのビル、純粋に民間施設というのがこれまた建前に過ぎないことは市民ならずとも周知の事実。ここには東京湾を出入りする船舶の監視する目的で、国防海軍と海上警察が民間会社に偽装したオフィスが置いてある。

 

「少尉、お願いします」

 

既に時刻は真夜中近く。警備員のいる通用口ではなく、内側からしか開かない非常口の湧きに、藤林は小型の端末を押し付け、もう片方の手でCADを操作する。

 

外部からの入力端末もなく、無線入力の機能もないはずの閉鎖装置がハッキングプログラムによって扉を開いた。

 

 

 

 

香港系国際犯罪シンジゲート「無頭竜」の東日本総支部。いわば東日本における活動の司令室。そこが横浜グランドホテル。今世紀前半、香港資本によって建てられた高層ホテル。その最高階の一つ上の階、客には知らされていない存在しないはずの本当の最上階の一室に存在していた。

 

現在中では慌ただしく引越しの準備が進められており、高級のブランドスーツを身に纏った初老の男達がシルクのハンカチで汗を拭きつつ、金銀宝石で煌びやかな指輪をはめた手で不器用に荷造りしていた。

 

「おのれ……このままでは済まさんぞ」

 

一人が手を止めて歯軋りが聞こえそうな声で呪詛を漏らした。

 

「それにしてもジェネレーターが戦果ゼロで取り押さえられるとはな…」

「想定外だ。まさか日帝軍の特殊部隊がしゃしゃり出てくるとは」

「お陰で我々は夜逃げの真似事だ」

「一度勝利したくらいで増長しおって…」

 

この場の誰もが心に秘めていた本音が表に出たことで、焦燥感に堰き止められていた愚痴の歯止めが効かなくなっていた。

 

「日帝軍に対する報復はいずれ必ず果たすとして、それ以上に優先すべきは言峰の始末だろう」

「あやつめ。任せておけなどと言っておきながら結局は失敗しおって」

「今どこにいるか調べはついていないのか?」

「不明だ。あやつが従えていたランサー、アサシン共にな」

「そもそも誰があいつを見つけて来たんだ」

 

発言者が他の同僚の顔を見るが誰もが首を横に振った。

 

「…私たちが初めて言峰と会ったのはいつだ」

 

記憶を遡ってもはっきりしない。

初めからいたような気もするし、いつからか突然現れたかような気もする。

 

気味が悪い。だれもがそう思い始めた時、突如くぐもった苦鳴が聞こえた。

 

声の主は東日本総支部幹部の護身道具として与えられたジェネレーター。そのうちの外部からの攻撃を遮断するため、四種の術式を担当する魔法発生装置のうちの一つ、外壁の情報強化を発動していた一人。

 

外部からの攻撃を遮断するための術式を発動していたジェネレーターが苦鳴をあげる。ならばそれは内側からの攻撃かと思われたが、南側の壁に開いた大きな穴が、それが外からの攻撃であるということを理解させられた。

 

そして無頭竜の幹部達は重ねて理解する。

 

無頭竜は単なる犯罪シンジゲートではなく魔法を悪用する犯罪組織。それゆえに幹部に取り立てられるためには魔法師であることが条件になる。

 

当然としてここにいる幹部が皆、魔法師。

魔法を使い、魔法を認識できる。

ゆえに、今なにが起こっているのかも理解できる。

 

苦鳴を漏らしたジェネレーターの身体から、魔法師が無意識に展開する他者の魔法から身を守る情報強化防壁、エイド・スキンが鎧が溶け落ち、いや、蒸発したように消えたことを。

 

そして次の瞬間、ジェネレーターの全身に実体でありながらまるで立体映像のようにノイズが走り、着ている服ごと輪郭が消えた。

 

幹部達は度肝を抜かれ叫ぶことも喚くこともできない。

 

そこに不意に電話がなる。

 

「Hello,No Head Dragon 東日本総支部の諸君」

 

スピーカーから聞こえて来たのは若い男、正確には彼らが知らぬ司波達也という少年の声だった。

 

 

 

 

「お前達が何人殺そうが何人生かそうが俺にはどうでもいいことだ。お前たちは触れてはならないものに手を出した。お前たちは俺の逆鱗に触れた。ただそれだけが、お前たちの消え去る理由だ」

 

Demon Right[デーモンライト]

そう呼ばれるその正体は、一つの魔法式に工程として組み込まれた分解の三連魔法。

 

その力を解き放ち、文字通り彼にとってゴミである人間を片付けた達也。魔法を使用していた横浜ベイヒルズの屋上で少し暑くなった頭を夜風で冷ます。

 

(予想通り何も分からなかったか)

 

幹部達の命乞いで無頭竜のリーダーの情報は引き出すことのできた達也だったが、言峰綺礼とそのサーヴァントに関する情報は全く手に入らなかった。

 

いつ、どこで、どう言った理由で出会ったのか。その質問に対する答えは「知らない。覚えていない」犯罪組織の幹部の答えとしてはあまりにも情けないものだった。

 

何らかの魔術を施されたと判断した達也はそれ以上、言峰綺礼に関する情報を引き出すことはやめた。

 

移動中の車内で士郎の情報を藤林から共有されていた達也が、次に繋がる手掛かりをと思っての行動だったが、話を聞く通りそう甘い相手ではないらしい。

 

(しかし塗り替えられた世界か)

 

共有された情報にあった士郎がこの世界に現れた理由とその仕組み。全てではないにしろ、少なくともこの世界の一部は衛宮士郎と言峰綺礼という人間を中心に作り変えられた。

 

冗談のような話だが笑い飛ばすには達也自身、

衛宮士郎という人間を知り、魔術という存在に触れすぎた。

 

(……塗り替えられた)

 

ここで達也の頭にある仮説が過ぎる。

 

自分が士郎の宝具やサーヴァントを眼で捉える時、正しく認識できないのは、神秘や対魔術のような面もあるだろうが、塗り替えられたことによって埋もれた本質が見えていないことも関係するのではないのかと。

 

(逆に塗り替えることができるなら)

 

かなり力技な思いつきではあるが、すでに魔法が魔術に干渉できることは過去の実験で分かっている。

 

ならば後は方法を確立すれば達也自身サーヴァントに対しての大きな力になる。そう考えていた時、達也が強烈な何かを感じた。

 

方向は先ほどまで無頭竜の幹部達がいたグランドホテル。すぐさまそちらを確認すると、ホテルの屋上のそれと目が合った。そして、聞こえないはずの声が聞こえた気がした。

 

『誰を見下している。不敬であろう』

 

ほぼ同時、反射的に体を逸らすとすぐ横をを高速で一本の剣が通り過ぎた。

 

(サーヴァント‼︎)

 

すぐさま相手からは姿が見えない場所に身を隠し、影から様子を覗き見る。

 

そこでは剣を飛ばしたと思われる金色の髪のサーヴァントと、先ほどまではいなかったランサーと思われる姿が合った。

 

おそらく用済みとなった無頭竜の幹部達の後始末に来たのだろう。

 

「藤林さん聞こえますか」

『どうしたの』

 

達也の声色からすぐに緊急事態だと判断した藤林は短く返答する。

 

「サーヴァントです。対象のいる屋上から攻撃を受けました。すでに任務は終わっているのでこれから離脱します」

『分かった。ポイントβで合流しましょう』

「了解」

 

連絡を終えた達也はまだ屋上にランサー達がいることを確認するとすぐに離脱を開始した。

 

「ふん。逃げたか」

 

屋上から剣を飛ばしたサーヴァント。

ギルガメッシュは後ろに待機するように出していた空中の波紋を消す。

 

「いいのか?テメェはあれが目的でこんなつまらねぇ仕事に着いて来たんじゃねぇか」

「構わん。一目見た。それで十分よ」

「そうかよ。それで、ご感想は?」

「確かにそこらの雑種とは一味違う。だが、致命的につまらん」

「つまらん。ね…」

 

ランサーが屋上から見下ろす視線の先。そこにはこちらに警戒の視線を向けながら魔法を使用した高速移動で撤退する達也の姿がある。

 

(まぁ、変に気にいられるよりかはましか)

 

ランサーは別に達也を心配した訳ではない。

 

ただ、激動の中を英雄として駆け抜け、様々な人と神と出会いその運命を大きく動かされた先人としての素直な感想だった。

 

「俺は帰るぜ。中の連中はあの坊主が先にやってたみたいだからな」

 

そう言ってランサーが姿を消すと、続くようにギルガメッシュもその場から消えた。

 


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