魔法科高校の魔術使い   作:快晴

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お納めぐださい。


第19話

何とも傍迷惑な話。

だが願望など総じてそんなもの。全ての人間に益をもたらすものなどこの世には存在しない。

 

「つまり。貴様は塗り替えられる前の自身の願いのために動いているというわけか」

「いや違う。さっきも言ったが以前の私の考えを今の私は理解できない。私はあくまで君がこの世界に来た理由について教えただけだ。私自身の目的はまた違う」

 

当然といえば当然だ。この言峰綺礼という男がたったそれだけ、塗り替えられる前の自分の願いを叶えるためという理由だけで行動を起こす筈がない。

 

「……外道が」

 

そして、その理由が当然碌なことではないことは容易に想像できる。現にこの九校戦で暗躍し確実な被害をもたらしているのだから。

 

「まだ目的を話していないと言うのに酷い言われようだな。だが、まあいい。私のそれが理解されるとも思っていないからな」

「……それで、その碌でもない目的とはいったいなんだというんだ?」

「大したことではない。少しばかり動かすだけだよ」

「動かすだと?戦争でも起こすつもりか?」

「私が?ふっ、君なら私がそういった考えで動く人間でないことをよく理解していると思うが」

 

そう。この男が求める『愉悦』は巨悪を成したからといって得られるものではない。場合によってははささやかな悪にも劣る。

 

「まあよく考えるといい。幸いあの時(聖杯戦争)と違って今回は時間もあるのだから」

 

(ちっ、この感じ、これ以上情報を話すつもりはなさそうだな)

 

「時間をくれると言うのなら有効に使わせてもらおう。だが英雄王、マスターがやろうとしていること、それに君ほどの王が動く価値が本当あるというのかね?」

「ふん。くだらん。我からしてみればこの世界のほとんどに価値など存在せん。魔法と呼ばれ、貴様も使っているその力もな。綺礼についているのはただの暇つぶしだ」

 

まるでふざけているかのような返答だが、かの王は本気で言っている。現時点で本気でこの世界に価値を見出しておらず、仕方なく暇つぶしにマスターである言峰に従い。気まぐれでこの場に着いてきたのだ。

 

「さて、久しぶりの再会だ。もう少し話に花を咲かしたいところではあるが何ぶんこちらも忙しい身でね。次の雇い主との顔合わせがある。ここで切り上げさせてもらおう」

 

無防備な背を向けて言峰とギルガメッシュは森の中の暗がりに歩き出す。

 

これに対して士郎が取れる行動は何も無い。

 

もとより会話を始めた時点で士郎は見逃されている側であり、その見逃している側も不意を着いて何かすることを許すレベルの相手ではないのだ。

 

ただゆっくりと、確実に離れていく二人の背中を士郎はただ黙って見送った。

 

「……それで君はいったい何のようかね?」

 

士郎の言葉に続いて会話の途中からすでにこの場にいたであろうランサーが霊体化を解いて姿を現わす。

 

「大した用じゃねぇ。ただ一つ忠告をしておこうと思っただけだ」

「………」

「いろいろと思わせぶりな言葉を並べてたが、間違いなくあの野郎の目的はテメェだ。間抜けを晒したくなけりゃせいぜい気合い入れるんだな」

 

それだけ言い残すとランサーは再び霊体となりその場から消えた。

 

「ああ。分かっているさ。そんなこと」

 

しばらくその場で立ち尽くしていた士郎は無線機を投影し上空の風間と連絡を繋ぐ。

 

「こちら藤村。申し訳ありません。サーヴァント一騎を落としたものの作戦は失敗しました」

 

数秒の沈黙。そして。

 

『そうか。仕留めたいところだったが、ひとまずサーヴァントを一騎落としただけでも良しとしよう。身体の方は大丈夫か藤村』

「はい」

『わかった。ならお前が吹き飛ばした倉庫跡地に来てくれ。そちらで回収する』

「了解。新たに分かった情報もそちらで報告します」

 

短い通信の後、士郎は倉庫跡地へと向かった。

 

 

 

 

ヘリに回収され新しい情報を風間に伝えた士郎は、達也たちが新人戦で優勝したことを聞いた後、そのまま風間が用意してくれた部屋の一室で泥のように眠った。

 

明日の試合会場の下見や今後言峰達にどうやって対応するかなど、やらなければならないことが山積みだったが、ここに来て溜まった疲れが吹き出したらしく一時間の仮眠がそのまま就寝に変わった。

 

(完全に寝てしまったようだな)

 

思えばここ数日、士郎は試合の監視や会場の安全確認、サーヴァントとの戦闘と休みと言える休みをまともにとってはいなかった。

 

「肉体を持った弊害だな」

 

分かってはいた。そのため肉体を酷使する鍛錬をしていないわけではなかった。だがやはり連日のサーヴァントとの戦闘が想像以上の負担を士郎にもたらした。

 

「鍛え直すしかない」

 

とはいえ今となっては過ぎたこと。これ以上は切り替えるしかない。

 

それにしっかり睡眠をとったおかげで身体も軽く頭の中もスッキリしていた。

 

「大会は九日目。言峰の口ぶりからしてこれ以上サーヴァントが絡む事件が起きることはないだろうが、言峰が手を引いただけで裏で動いている組織自体が手を引いたとは限らない。気を引き締めなくては」

 

手を引いた言峰のことは一旦後。今は目の前のことに集中すると切り替えた士郎は顔を洗い、身支度を済ませると部屋を出た。

 

向かう先は第一高校のミラージ・バットの試合が行われる会場。

 

(昨日第一高校が新人戦で優勝したことで後ろを追う三高と五四十ポイントの差をつけた。ミラージ・バットの配点は一位が五十、二位が三十、三位が二十ポイント。この後のモノリス・コードは最高でも百ポイントの獲得しかできない。そうなると相手側の最後の分岐点は今日のこのミラージ・バットしかない。)

 

士郎は人目がないことを確認しながらも顔のない王(ノーフェイス・メイキング)を投影する。

 

(ミラージ・バットの競技特性上、あくまで事故に見せかけて妨害するのであれば足場か達也の言っていたCADへの細工しかない。試合前の下見ができてない今回は姿を隠して試合中に探る)

 

そのまま宝具を纏った士郎はその場から姿を消した。

 

一方試合会場。

 

今日行われるミラージ・バットは深雪も出場する種目で、出場の出番も第二試合ということもあり第一試合を競技フィールドの脇にのスタッフ席で観戦することにしていた。

 

「小早川先輩、随分気合いが入っているご様子ですね」

 

湖面に突き出た円柱の上で開始の合図を待つ先輩選手の様子を深雪はそう評した。

 

「そうだな。精神面は上々といったところだろう」

 

同じように深雪の隣で試合を観る達也にも選手である小早川の熱量は十二分に伝わっていた。

 

『それではこれよりミラージ・バット第一試合を開始します』

 

アナウンスが入り、観客が、スタッフが、チームメイトが注目する中、始まりを告げるチャイムが鳴り選手達が宙を舞う。

 

着々と得点を重ねていく一高。

 

だがこの試合の重要性を理解しているのは何も一人ではない。他校の、特に三高の選手は死に物狂いでそれを追い上げ、追い越す。

 

目まぐるしく順位が入れ替わる中、第一ピリオドは僅かな差で小早川がトップに立つ。

 

そして迎えた第二ピリオド。

 

緑色の光球に向けて小早川ともう一人の選手が同時に飛び上がる。

 

だが優先権が与えられる一メートル圏内への到達は相手の方が早く、跳躍の勢いを止める魔法を行使し小早川の身体が空中で止まる。

 

続けて元の足場に戻ろうと編み上げ用とするが、その足場が別の選手に使われていることに気がつき魔法式を切り替える。

 

重量を無視して真っ直ぐ斜めに、ゆっくり空中を滑空する移動魔法。

 

ここで、彼らの仕掛けたそれが発動するはずだった。

 

だが、小早川の身体はそのまま編み上げた魔法の通りに空中を滑空する。

 

何度も何度も空中で小早川の身体が止まることはあれど、魔法の行使によって彼女の身体が湖面へと落ちていくことはない。

 

「いったいどうなっているんだ‼︎」

 

どこかでそんな声が聞こえた気がした。

 

(悪いがこれ以上の好き勝手は許さない)

 

士郎の右手に握られていたそれは、本来小早川が使用するはずだったCAD。

 

第一ピリオドの際、僅かに小早川が手を離した隙にCADを解析した士郎が投影したCADとすり替えていたのだ。

 

その後も試合は続いていく。

 

第一ピリオド後、小早川の動きがどういう訳か悪くなりはしたがそれでも善戦。結果三位という成績を残した。

 

 

 

 

まずまずの滑り出しを見せたことで活気に溢れる第一高校のテント。

 

そこにいた達也に士郎からの連絡が入った。

 

『達也、今大丈夫か?』

「少し待ってくれ」

 

テントから一人抜け出した達也は士郎との連絡を再開する。

 

「大丈夫だ」

「わかった。ではまず、優勝おめでとう」

 

虚空から聞こえた想定外の言葉に少し目を丸くした達也は軽く笑みを浮かべた。

 

「その言葉は俺じゃなく深雪やほのか、なにより雫に言ってやってくれ」

「何を言う。しっかり試合に出た君にも送るべき言葉だよ」

「……ならひとまず受け取っておく。それより、連絡してきたということはそれなりのことなんだろう」

「ああ。達也、君は少佐から昨日の出来事は聞いているか?」

「すでに連絡を受けている」

「なら話が早い。連絡通りサーヴァント関係はひとまず片付いた。だがそのバックはおそらくまだ活動している」

 

そう言うと士郎は顔のない王(ノーフェイス・メイキング)の中からCADを取り出し達也の前に見せる。

 

「これは…」

「さっき使われていた小早川先輩のCADだ。第一ピリオドの時に私が投影したものとすり替えた」

 

先の第一試合、実を言うと士郎は小早川のCADに仕組まれていたものを発見できていたわけではない。

 

発見できなかったからこそ確実に異常がない自身が投影したCADにすり替えたのだ。

 

「小早川先輩が第一ピリオド以降動きが悪くなったのはこのせいか」

「残念ながら私もCADではソフトの方までは投影できないからな。だがそれでも結果は三位。さすがは一科生の先輩だ」

 

これに関して士郎は本気で小早川のことを称賛していた。誰だって使い慣れていたものが突然変われば違和感を覚えうまく扱えなくなるのに彼女は結果を残したのだから。

 

「達也、この後の深雪の試合だが…」

「士郎の気持ちは分かるが心配ない」

「……分かった。まずないと思うが物理的な妨害の対策は任せろ。虫一匹通さんさ」

「心強いな」

 

この数分後、CADチェックを行っている大会委員のテントが達也の殺気で満たされた。

 

 




今回、CADの解析ではハードしか解析できない程で書きましたが実際どうなんでしょうね?

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