魔法科高校の魔術使い 作:快晴
読んでくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございます。
まあ、だからと言って投稿スピードが上がるわけではないのですが。
すみませんorz
「どうすんだよ。マスター」
鳴り続ける電話のコールを無視し、マスター、言峰綺礼は倉庫の中から携帯のモニターに映る九校戦の様子を眺める。
映しだされている映像では新人戦モノリス・コード決勝が行われようとしているところだった。
言峰たちが身を潜める倉庫に鳴り響くコールの原因も、このモノリス・コード決勝、正確にはモノリス・コード決勝に出場した第一高校にある。
「アサシンが失敗した今これ以上こちらから動くつもりはない。それとも何かランサー、失ったアサシンの片腕の仇でも行きたいのか?
私の知らぬ間に随分と仲良くなったことだ」
その返答にランサーは大きく舌打ちをする。
「違ぇよ。なんで俺があの野郎のケツ持ちをしなきゃならねぇ。俺が聞きたいのはこの九校戦の後のことだ。どうせあの雇い主のところに戻るつもりはないんだろ」
「そっちか。確かに用済みである彼らの元に戻るつもりはない」
「だったら尚更どうすんだ。
令呪を切られてる以上基本的にマスターの命令には従って動くが、ある程度の方針が分からねぇといざって時にこっちも仕事がしづらいんだよ」
「お前が知る必要はない」そう言われると予想していたランサーだったが意外にも返答が返ってきた。
「アサシンがまともに使えない以上やむを得ないか…。次の雇い主は見つけてある。しばらくはそこに潜って仕事をこなす。今回のように表に出てくるのは当分先になるだろう」
「アーチャーのヤツは放っておくのか?
結局やったのは俺たちの情報を少しばかりばら撒いただけだぞ」
「問題ない。それが目的だからな」
(目的…ねぇ)
「……とりあえずは分かった」
言峰の話を聞いたランサーが槍を担いで乗っていたコンテナから飛び降りる。
「どこに行くつもりだ?」
「見回りだよ。アサシンは霊体化して休んでんだ。替わりは必要だろ」
「ほう。殊勝な心掛けだな」
「うるせえ」
お前と同じ空間に居たくないだけ。
心の中でそう呟くランサーがいち早くそれに気が付いた。
「避けろマスター‼︎」
ランサーの声に一瞬遅れ、無数の矢が天井を突き破り言峰に降り注ぐ。
「大丈夫か‼︎マスター」
「問題ない」
土煙の中から転がり出てくる言峰。
所々身体を切ってはいたがどれも行動に支障が出るほどのものではなかった。
「どうやらアーチャーがこちらの居場所を突き止めたらしいな」
そう口にする言峰の言葉に焦りはなく、むしろどこか楽しげに口元を少しあげる。
「ちっ、アーチャー相手にマスターを守りながらの戦闘か」
天井を突き破る轟音と共に降り注ぐ第二陣の矢の雨。
今度は言峰も危なげなくこれをかわしそのまま周囲を警戒する。
「おいアサシン!俺は
穴から飛び出すランサーに替わるようにアサシンが霊体化を解き言峰の護衛に回る。
(野郎、どこにいやがる)
屋上に出たランサーが辺りを見渡すが士郎の姿を捉えられない。
逆に士郎は倉庫のある森林域より少し高い位置。そこの崖から突き出るように生えた木の上でランサーと倉庫周辺の動きを観察する。
『藤村、周辺の人払いは特別訓練という形で完全に済ませた。お前の先制、第二陣の攻撃音に関しても問題ない。存分に動いてくれ』
「了解」
元はベオウルフと呼ばれる英雄が用いていた宝具。その効果には血の匂いを嗅ぎつけ振るうだけで最適な攻撃を繰り出すというものがある。
そして同時に、この血の匂いを嗅ぎつけるという特性から相手の追跡・索敵をこなすこともでき、士郎は今回この特性を利用し言峰たちの居場所を突き止めた。
(
故に言峰たちの居場所を見つけた士郎は、相手に気づかれない遠距離からの
だが確実性に欠ける上に仕留め損った時のリカバリーが遅れるため、考えを改めてランサーに気づかれてもギリギリ一射ではあるが全力の一撃を放て、最悪失敗した場合にも対処が迅速にできるこの
(これで仕留める)
フルンディングを弓に番えて弦を引き絞る。
倉庫ということで本来は通らない射線も二つの大穴のお陰で今では問題なく通っている。
後は、十分に魔力を溜めるだけ。
一…二…三……
時計の針が一つ進む毎に士郎の纏う魔力が増大していく。
初めは変化のなかった周辺の木の葉も、数を重ねていく毎に騒めき始め、その数が十五を迎える頃にはその場にいる士郎を避けて木の葉が絶えず揺れ動く。
「っ!そこか‼︎」
当然この段階になればランサーも士郎の居場所に気がついた。
すぐさま距離を詰めにかかるがここで士郎が仕掛けたトラップを作動する。
ランサーがこちらに向かって来るルートをあらかじめ予測して隠して置いた宝具の剣を爆発させた。
矢避けの加護で矢が効かないランサーではあるが、矢避けという名前の通り爆風や熱までは無効にできない。
大したダメージを与えられないが
「チッ!止められねぇか‼︎」
このままでは士郎の一射を止められないことを理解したランサーはすぐさま方針を変える。
接近するスピードを落とす代わりに自身の槍に魔力を溜め始めた。
(矢を迎撃するつもりか。マスターの安全を優先して私ではなく矢を狙ったのだろうが……選択を誤ったなランサー)
ようやく二十秒の時間が経過したところで士郎は魔法を発動。
魔術回路に流れる魔力を魔法で加速させる。
(ぐっ…!やはり身体への負担が大きい)
魔力回路への過負荷とこの世界に本来存在しない魔力というものに干渉している影響で、士郎の身体が悲鳴をあげ、鼻からは一筋の血が漏れ出し、瞳が徐々に充血していく。
だが、それだけの価値は十分にあった。
一気に士郎の魔力が膨れ上がり必要な魔力が溜まりきる。
「この矢は止められん!赤原を行け、緋の猟犬‼︎」
『
士郎の手を離れた魔剣は獲物に牙を向ける。
その速さはマッハと呼ばれる域に達し常人であれば反応など到底不可能であろう。
「やらせるか!」
『
だが相手は大英雄。さらにはランサーの持つ槍であればそれは絶対に外れない。
的確に矢を見抜いたランサーはその手に持った魔槍を投擲。
『
金属が擦れ合うような甲高い音と共に矢と槍が一瞬拮抗する。だが一方は万全に対してもう一方は不完全。士郎の『
(俺の『
ランサーの狙い通り、押し負けはした『
この隙に手元に戻り始める愛槍と共に士郎に近づこうとしたランサーはすぐさま足を止めた。
「(ちっ⁉︎そういう仕組みかよ!)アサシン!マスターを護れ‼︎」
大きく軌道を外れた『
「っ⁉︎」
ランサーの声より早くサーヴァントとしての直感でマスターの前に立つアサシン。
「がはっ⁉︎」
「ぐっ⁉︎」
だが矢はアサシンを貫いてなおも勢いを衰えさせず、そのまま言峰綺礼の胸を貫いた。
「悪いが、それだけでは終わらせん」
『
心臓を射抜いてなおの追撃は、倉庫ごと盛大に吹き飛ばした。
(確実に仕留めた。これでランサーもじきに消滅する)
最後の足掻きに今度こそ自分に向けての宝具の投擲をしてくるかと警戒した士郎だったが、一方のランサーは動きを止めて忌々しそうにこちらを睨むだけだった。
(ふん。こんな時だけは往生際がいいのだな)
そんなランサーに向けて皮肉屋の一面を見せる士郎。だがしばらくして異変に気がつく。
(待て、ランサーには戦闘続行のスキルがあるとはいえなぜ退去の兆しが見られない)
背筋に悪寒を感じ足場にしていた木から地面に飛び退く。するとそれを掠める様に一本の剣が通過した。
(これは!)
続け様に槍が。ハルバードが。レイピアが。
多種の武器。いや、多種の宝具が射出され、士郎はそれを瞬時に投影した干将と莫耶で体勢を崩しながらもどうにか弾き飛ばす。
(この攻撃!間違いない‼︎)
片膝をついた士郎の視線のその先。暗がりからマスターであろう言峰綺礼を背に現れたその男は……
「ギルガメッシュ‼︎」
◆
黄金の鎧。逆立てた金髪。この世の全てを見下し、見透かしたかのような赤い瞳。間違いなくその男は士郎の記憶にある英雄王ギルガメッシュだった。
「ふん。久しいな。
腕を組みこちらを見下すギルガメッシュ。
その顔には笑みが浮かんでおり間違いなくこの状況を楽しんでいるのが分かった。
(全く予想していなかった訳ではないが……、まさかこのタイミングでとは。だが、そうなれば言峰が生きていたのも納得がいく)
「ふっ、その目、私が生きていた理由は君の予想通りだよ衛宮士郎。」
「なるほど。単純に私を騙すためだけによくも彼の英雄王が宝物庫の財を使ったものだ」
まさに前門の虎、後門の狼。
ギルガメッシュとクー・フーリンに挟まれた今、士郎は間違いなく追い詰められていた。
「なに、勤勉に働くマスターへ少しばかりの褒美よ。
「そうか。なら形だけでも光栄だと言っておこう。それで、今度は王自らが舞台に上がるつもりか?」
「戯け。そんな筈がなかろう。我はただマスターであるこやつの付き添いで来ただけよ」
(付き添いか。宝具による身代わりといい完全に私の動きは読まれていたということか)
「そう言う訳だ。ここからは私が話をしよう」
「言峰綺礼……、貴様、いったい何が目的だ」
「ふっ、そう焦るな。私がこうして君の前に現れているのはそれを話すためだ。そう急く必要はない」
不敵な笑みを浮かべる相手に眉間に皺を寄せる士郎。
「それに、君が知りたいことは私の目的だけではないのだろう?」
「……貴様」
思わず頭に血が昇るのを理性で抑える。
殺されてもおかしくない状況で相手自ら時間と情報を与えてくれるのだ。自らそれを捨てる必要はない。
「まずは君がこの世界に来たその原因についてから話そう」
(いきなり核心部分か)
「ある程度予想はついているだろうがこの世界に来た原因は聖杯だ。聖杯が託された願い。それを叶えるために君は呼び出された」
なに?
「待て、つまり私は過程ではなく結果として現れた存在というわけか?」
「ああそうだ。既に聖杯戦争は一度終わりを迎えている」
(そんな馬鹿な)
衛宮士郎という人間は魔術師として決して優秀では無い。稀有な固有結界という魔術を持ってはいるが他はからっきしで間違いなく未熟者の三流魔術師だ。ただ、だからといって魔術に対して無知である訳では無い。むしろ掃除屋としてリアルな戦場を生きていたことでそう言った魔術や戦いの残り香に近いものを感じ取る能力は高い。
そんな彼が聖杯戦争ほどの痕跡をやすやすと見落とすなど、いくら優秀な協力機関があろうとも考え難い。それも、風間の力を借りて国内に問わず海外の事故や事件まで情報を仕入れていた状態ではなおさらのことだった。
「少なくともここ数年の国内外の事故や事件で魔術の痕跡のあるものはなかった筈だ」
「ほう。国外まで情報を仕入れていたか。それは感服した。だが、無駄な努力だったな。先ほども言ったが君は聖杯に託された願いによってこの世界に現れたのだよ」
その言葉を聞いて士郎はようやく痕跡を見つけられなかった原因に気がつく。
(聖杯への願いは世界に干渉するものだったのか)
波打ち際の砂浜のように、一度跡を残したとしても波に飲み込まれてしまえばそれは初めてからなかったかのように修正されてしまう。
それと同じようにこの世界は聖杯への願いによって、既に上書きを行われた後の世界なのだろう。
(だがそうなるとますます私が呼ばれた理由が分からない。抑止力として呼ばれたのならば少なくともアラヤからのバックアップがあるはず。だが現在はバックアップがないどころか完全な受肉を果たしさらには体内にアヴァロンを宿している…)
「ふっ、その顔、いよいよもってどうして自分がこの世界に来たのか分からないと言いたげだな」
「……」
「なに恥じることはない。なにせこんなもの、同じ私でさえ理解できないのだ」
「同じ私?……まて、まさか⁉︎」
「そうだ。衛宮士郎がこの世界に呼ばれたのは、この世界の言峰綺礼という人間が、正義の味方として成長した衛宮士郎と戦いたいと願ったからだ」
(…そういうことか。ならば肉体を持っていたのにも、言峰が私の正体を知っているのにもある程度説明がつく)
「私が肉体を宿しているのは正義の味方として成長した私が、この世界の衛宮士郎という人間を依代にして召喚されたからか」
「その通り。まあ、君という存在を上書きする帳尻合わせとして、自身にもその影響が及んだのは元の私も計算外だったようだがね」