魔法科高校の魔術使い   作:快晴

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………まあ仕方ないよね。
人生色々あるからね。楽しんでいただけたら嬉しいです。



………投稿遅くてすみません


第14話

「さてと、それじゃあ話を聞かせてもらいましょうか士郎くん」

 

ここは士郎と幹比古、そしてレオの三人が泊まる一室。今そこに、達也やエリカをはじめとするあの時、摩利の試合を見ようとしていたメンツが集まっている。

 

その目的とはもちろん……

 

「いったい何のことだ?」

「はいはい。そういうのはいいから。ちゃっちゃとあの時急にどこかに行った理由を話しなさい」

 

エリカの言った通り、突然席から立ち上がりそのまま姿を消していた士郎を問いただすためだ。

 

士郎を中心に囲むようにそれぞれベットや椅子に腰掛けている様から、理由を話すまで絶対に逃がさないという意思は明白だった。

 

どうにかできないかという期待を込めて達也に救援の視線を飛ばしてみるがあっさり首を横に振られた。

 

(まあ、あそこまで露骨に行動すれば当然このような結果にもなるか)

 

「………分かった。ちゃんと理由を話そう」

 

そう言って士郎は自身が突然席を離れたのは狙撃手と見られる人影を発見したからだと説明する。

 

「まあ、士郎があそこまで慌てるくらいだからただ事じゃないと思ったが……」

「まさか渡辺先輩を狙った狙撃犯の姿を捉えていたなんて」

「はい。でもそれなら士郎さんがあそこまで焦っていたのにも納得がいきます」

「さすが士郎さん……」

「はっきり言って異常」

「雫、それは士郎さんに失礼よ」

「あ〜あ、それなら私にも教えてくれれば良かったのに」

 

レオに幹比古、ほのかと美月が納得といった反応を見せ、士郎を異常者扱いする雫を注意する深雪。エリカに関してはなぜか唇を尖らせ士郎についていけなかったことを悔しがっていた。

 

「それなら士郎、その情報を早く運営側に伝えた方がいいんじゃないか?」

「幹比古の言う通りではあるが、さっき言った通り私が確認できたのは人影だけではっきりと姿を捉えた訳ではない。姿を確認した場所に到着した時もすでにそこはもぬけのからで途中、狙撃手と思われるような怪しい人物とすれ違うこともなかった。これでは伝える情報としては曖昧すぎる」

「曖昧か?」

 

レオの疑問に達也が答えた。

 

「九校戦が軍事施設を会場にしているという点を考えれば情報としては弱いな。ある程度の情報。例えば場所の特定や時間なんてものはカメラに映り込んだ閃光の角度や試合開始時間を見れば簡単に割り出せる。必要なのはここが軍事施設であるにも関わらず犯行をまったく気づかれずに行った人物の決定的な情報だ。相手の顔、体格、服装、使用する魔法といった部分くらいいかないと士郎の言う通り曖昧と言っていいだろう」

「へー、情報提供ってのもなかなか難しいもんなんだな」

 

レオ以外のメンツも今回の士郎の行動にある程度納得がいった様子でほのかの一言で話題が士郎から逸れていく。

 

「それにしても、今回の一件、渡辺先輩に大した怪我がなくて良かったです」

「そうね。七草会長が言うには七高選手を受け止めた際の軽い打ち身で済んだそうよ」

「狙撃が当たってたら打ち身どころじゃ済まないからねー」

「エ、エリカちゃん、あんまり変なこと言わないで」

 

エリカの一言でその場面を想像してしまったのか美月の顔が青ざめた。

 

「でもそうなると七高のオーバースピードに救われたってことになるのか。すげー偶然だな」

「……、おそらくそれは違うぞレオ」

「違うって、何が違うんだよ」

「七高の選手のオーバースピード、あれは偶然起きたことじゃない」

「それって、達也はあのオーバースピードが意図的に起こされたものだって言いたいのかい?」

 

幹比古の言う通りあれが偶然ではなく意図的だとすれば、七高の選手は摩利が襲撃されることを知っていてあえてオーバースピードを起こした可能性も出てくる。

 

「いや、オーバースピードは選手の意思じゃない」

「意図的だが選手の意思じゃない……、おいおいそれってもしかして……」

「ああ。おそらくレオの予想通り。第三者がCADに細工をしたんだ」

 

達也の否定によってその場の空気が張り詰めたものに変わる。

 

「CADに細工って、そんなこと普通……」

「ああ。美月の言う通り普通は無理だ。競技用のCADは各校が厳重に保管しているはずだからな」

 

ならば…

 

「じゃあ、七高の技術スタッフの中に裏切り者がいた?」

「そんな……」

 

同じ学校の生徒が同じ生徒を貶める。

正直考えたくはないことだが可能性としては否定しきれない。

 

「……達也、CADは試合開始まで技術スタッフと選手以外に触れる機会はないのか?」

「流石だな士郎」

「やはりか」

 

このやり取りに初めは首を傾げていたメンバーだったが、その中の深雪、雫、ほのかの選手メンバー三人が士郎と達也の考えを理解したかの様にあっという表情をする。

 

「ちょーっと待った。なんか数名分かった感じだけどいったいどういうこと?」

「エリカ、私たちは必ず学校外の人間に一度だけCADを預ける機会があるの」

「え、そんな機会あるの?」

「ええ。CADに不正が行われていないか確認するために大会委員に引き渡すの」

 

それを聞いた選手メンバー三人と達也、士郎を除いたメンバーが絶句した。

 

「それってつまり、大会委員の中に工作員がいる可能性があるってことだよね」

「ああ。手口は分からないが私はこちらの方が可能性が高いと考えている。おそらく達也も同じ考えだろう」

 

黙ってこくりとうなずいた達也を見て幹比古は「なんてことだ」と一言呟き黙り込んだ。

 

「さて」

 

そんな沈黙も士郎によって破られた。

 

「暗い話はやめにして今日はここまでにしよう。もう時間が時間だ」

 

士郎の言葉につられて皆が時計を確認すると、その二つの針はすでに頂点で重なる少し手前の時間であった。

 

「とはいえこんな気分のままでは皆もぐっすり眠れまい。ハーブティーを入れるから少し待っていてくれ」

 

持参していたティーセットを使って手早く人数分のハーブティーを用意する士郎。

 

「士郎お前そんなもの持って来てたのか」

「というか、このタイミングでよくお茶を出そうと思ったね」

「こんなタイミングだからこそだよ幹比古。

これ以上は私たちがあれこれ考えようが仕方がない。何せ相手は見えない敵だ。私たち以上にストレスを感じているだろう深雪たち三人が、明日からの新人戦に少しでもリラックスした状態で望めるようなサポートをした方がいいだろう」

 

士郎の言ったことが事実だと自分でも分かっていた幹比古は「ほら」と渡されたハーブティーをそっと受け取る。同じ様に士郎が皆にハーブティーを渡し、部屋がハーブの心地よい香りで満たされる頃には先程までの緊張した雰囲気は完全になくなっていた。

 

「士郎おかわり」

「士郎くん。ケーキないの?」

「こんな時間にケーキなど食べさせられるわけがないだろうエリカ。あとレオ、おかわりはいいがあまり飲み過ぎて夜のトイレで私たちを起こすなよ」

 

何気ないやり取り。だがそれがさっきまで若干強張っていた深雪やほのか、雫の表情も和らげる。

 

「そうだ達也、九重から少し前に電話があって言伝があったんだ。少し席をはずせるか?」

「わかった」

 

他のメンバーを部屋に残し廊下に出る士郎と達也。

 

ーー同調、開始(トレース・オン)

 

壁に手を当て魔力を流し込み、盗聴器等の不審物がないのを確認するとすぐに会話を始めた。

 

「昼間の件か」

「ああ」

 

士郎は達也に昼間自分があの場を離れた本当の理由を話す。これに対して達也は大体の予想はできていたのだろう。特に驚くこともなく理解した様子で頷いた。

 

「それでここからが本題だ。詳しいことは調査中だが、今回の一件、私に関係する人間が裏で動いている」

「……」

 

達也自身、士郎が裏で動きその内容を予測をしていたのかどこか納得した様子で話を続ける。

 

「このことを少佐は?」

「もちろん知っている。本当は九校戦がある達也には話したくはなかったんだが、そうも言ってられないようでな」

「俺は何をしたらいい?」

「……やけに協力的だな」

 

士郎と達也は確かに友人であり共に裏の顔を知りうる仲である。だがあくまでそれだけだ。決して家族ではない。ここまで積極的な達也に士郎は驚きを隠せなかった。

 

「今回の件。放っておけば深雪にも危害が及ぶのは明らかだが、君の場合、情報を私から聞きだし、様子を見てから何かしら行動のアドバイスを聞いてくると思っていたのだが」

「確かに普段ならもう少し様子を見るが、昼間の行動とさっきの「そうも言ってられない」という言葉。アドバイスを受ける段階としては十分すぎる」

「……わかった。基本的に率先して行動を起こす必要はない。ただ、少しでも達也が違和感や疑問に思ったことがあれば俺に教えてくれ。それだけで十分だ。あと、最悪戦闘になった場合は迷わず逃げろ」

「……そこまでの相手なのか」

「それもあるが、一番は相性の問題だ」

「サーヴァントか」

 

士郎は黙って頷く。

 

「軍でも説明したがあれはダメだ。魔法を展開する前に相手を殲滅できる身体能力。種類によっては発動すれば世界すら崩壊させる威力を持つ宝具。そして何より、対魔力。実際にサーヴァント相手にこちらの魔法を試したことがないから分からないが、もしこれが作用するとすれば魔法師はただの一般人とほぼ変わらない」

 

もちろん対魔力にもランクがあるため、相手の対魔力を上回れば魔法が通用する可能性も十分ある。

 

「士郎、俺の魔法は」

「正直厳しいだろうな」

 

ただ、達也の場合はランク以前に高確率で魔法が通用しないことが予想できた。

 

「達也の魔法は第一条件として対象を解析することにあるからな。俺のただの投影品は分解できても宝具の分解ができない今の状況では、相手の武器の分解、ましてや神の血を引くあの男の身体への干渉は厳しいだろう」

「まて士郎、神の血だと?」

 

………、はぁ、うっかりが感染ったか?

 

達也の言葉でようやく士郎はまだサーヴァントの真名と情報を伝えていないことに気がついた。

 

「私としたことが、あとで風間にも報告せねば。いいか達也。俺が今のところ把握しているサーヴァントは一人。真名をクー・フーリン。ケルト神話に登場する太陽神ルーとデヒティネの間に生まれた半神半人の大英雄だ」

 

そこから士郎は自身の知りうるクー・フーリンの情報を伝える。見た目、使用する武器、宝具、得意な魔術、どういう性格をしているのか。何度も聖杯戦争で顔を合わせているだけあって、士郎の情報量は凄まじい。途中達也に「よくそんなことまで知ってるな」と突っ込まれたほどだ。

 

「範囲内で放てば必ず心臓を貫き、体内殲滅機能まで持つ槍か」

「間違いなく君にとって天敵だ。戦闘という面ならまだ深雪の方が相性がいい。彼女なら広い範囲に高ランクの魔法を使えるからな」

 

とはいえ相手はランサーのクー・フーリン。サーヴァントの中でも最速冠する彼の前では深雪の魔法展開すら遅いだろう。達也の前衛によるサポートがなければ魔法の使用はできまい。

 

「………」

「すまない。達也」

「頭を上げてくれ士郎。これはお前のせいじゃない」

 

俺のせいではないか……

 

確かに全てが士郎のせいとは限らない。だが、魔術が関わりただの一般人より、士郎を知る達也たちや第一高校の生徒が危険な目に遭う確率が高くなっているのは間違いない。

 

「そうか。そう言ってもらえると私としても気が軽くなる。時間をとらせて悪かったな」

「いや、重要な情報だ。こちらとしても知らせてくれたことに感謝する」

「ならそろそろ部屋に戻ろう。あまり話が長すぎると深雪たちも心配するからな」

「わかった」

 

達也と共に部屋に戻る士郎。部屋の中の仲間たちは当然のように二人を受け入れる。

 

士郎にとっては懐かしい感覚。だが、達也にとってはようやく慣れ始めた感覚。

 

私のせいで彼らの時間を壊させるわけにはいかない……

 

 

 

 

 

大会四日目。

本戦は一旦休みとなり今日から五日間、一年生のみで勝敗を争う新人戦が行われる。

 

達也が担当する選手は深雪、ほのか、雫の三人。

 

そしてこれから、雫の出場する女子スピード・シューティングが始まろうとしていた。

 

「調子は?」

 

最終チェックを終えた、スピード・シューティング専用の細長い小銃形態CADを雫に渡した達也がコンディションを確認する。

 

「んっ……万全。自分のより快適」

 

言葉から嘘は感じられない。だがどうにも気持ちが沈んでいるように見える。

 

「士郎のことか」

「………」

 

雫は基本的に嘘は言わない。都合の悪いことは黙秘する。今回はCADを抱いたまま顔を背けたためそれがより分かりやすかった。

 

雫の気持ちの落ち込みよう。この原因は達也の口から出た通り士郎が原因だ。

 

「寺の急用でどうしても戻らなくてはならなくなったんだ。仕方がない」

 

もちろんこれは嘘。本当の理由は裏で動く魔術師とサーヴァントへ本腰を入れて対応するためだ。

 

「うん」

 

雫も小さな子供ではないためそんなことは承知の上だが、やはりどこか沈んだ調子は戻らない。

 

「そんなに士郎に見て欲しかったのか?」

「ううん。みんなに、みんなで見て欲しかった」

 

ここで言うみんなとは十中八九、昨日士郎達の部屋にいたメンツだろう。

 

「……そうか」

「………」

 

まったく、何が私一人いなくても皆気にしないだろうだ。

 

心の中で毒づいた達也が持ってきていた水筒を取り出し、備え付けのコップに中身を注ぎ雫に差し出す。

 

頭に?マークを浮かべ首を傾げながら受け取った雫だったが、湯気と共に立ち昇った香を嗅いでようやく中身に気づいた。

 

「士郎さんのハーブティー………」

「本当はもう少し緊張が高まる決勝間近で出そうと思ったんだな。士郎から、応援できないせめてもの償いだそうだ」

 

ゆっくりとコップを傾ける雫。

 

「早く用事が終われば必ずまた応援に駆けつけるそうだ。今日はダメでも雫はまだアイスピラーズ・ブレイクがある。その時にいい結果を聞かせて、見れなかったことを後悔させるといい」

「うん」

 

飲み終えた彼女の達也への返答はとても力強い。

 

「よし、頑張れ!」

「ウン、頑張る!」

 

 

 

 

九校戦が続く中、件の士郎はというと、服装をいつもの赤い外套姿に変えて、風間に連絡し忘れていたサーヴァントの情報の伝達、現在使用されている試合会場と、今後使用される予定の試合会場の事前チェックを終えて、宿泊していたホテルの屋上にいた。

 

やはりこの位置からではモノリス・コードの会場全てを把握することはできないか。

 

モノリス・コードは他の種目と違って会場が数種類存在する。森林・岩場・渓谷など、より実践環境に近いよう設定されているため会場間の距離が、他種目に比べて大きく離れていた。

 

この時だけは策を変える必要があるな。

 

策。それは視認しやすいスタジアムという会場と、自分たちの宿泊していたホテルが、丁度全会場の中間地点にあたることを利用し、ホテルの屋上に陣を張り、そこからトラブルの対応するというものだ。ただ、これにはスタジアム内部からの工作を防止しづらいという問題があるのだが、そちらは風間に部下を派遣してもらうことでカバーすることにした。

 

………どうしたものか。

 

演習場一帯の地図を広げて眉間に皺を寄せる士郎。

 

モノリス・コードの会場の中間地点に高い建物はない。となると必然的に単身である私はどこか一つにポイントを定める必要がある。会場の種類は全部で五つ。森林・岩場・平野・渓谷・市街地、襲撃の可能性が高いのは視界を遮る障害物が多い平野を除いた4つ。ここからさらに絞るとなると、相手がどの高校の優勝を望んでいて障害となっているのはどこかなのかだが………、現時点で最大の障害は間違いなく一高(うち)か。こうなるとモノリス・コードでは一高の試合会場で相手の動きを待つということになるか。

 

「さて、これからが私の九校戦だ……」

 

 

 

 

無事に終了していく各種目。

 

雫、ほのか、深雪も、本人たちの実力と達也のエンジニア技術も相まって試合はどれも華々しい成績を収めた。

 

特に雫と深雪による同校同士のハイレベルな戦いは観客たちを大いに盛り上がらせ、一高全体の指揮向上にも繋がった。

 

そしてここにも、その活躍に当てられた男がいた。

 

森崎駿。現在行われている四校との新人戦モノリス・コードの選手。

 

士郎との一件での悔しさから、より鍛錬を重ねて臨むこの九校戦は、彼にとっては自分の力を再確認するための大きなポイントとなっていた。

 

現時点で相手の接近の形跡はなし。

おそらくお互いがこの市街地でまだ相手を探しているはずだ。

 

そう考えた森崎はチームメイトに魔法展開の早い自分が一度単独で周囲の確認をしてくると申し出る。

 

その時、突然森崎たちの頭上に起動式が展開された。

 

まずい‼︎

 

咄嗟にクイック・ドロウで起動式を展開し相手の起動式の破壊を試みるも間に合わない。

 

せめて仲間だけでも‼︎

 

対象を相手の起動式から仲間に変えて咄嗟に魔法を発動。威力を調節された空気圧縮弾を瓦礫の直撃コースにいた仲間に当てて避難させる。

 

だが、自分の回避は間に合わない。次の瞬間、森崎の頭上からは大量の瓦礫が降り注ぎ、彼は意識を失った。

 

ーー隣のビルの一室ーー

 

「あの状況で咄嗟に仲間だけでも救い出す。森崎、君のおかげで被害を最小限にできた。もし君の動きが無ければ私の助けも間に合わなかっただろう」

 

隣のビル、瓦礫の隙間から見えるのは地面に気を失い横たわる森崎。そんな彼の周りには巨大な剣が地面に突き刺さり、落ちてきた巨大な瓦礫から彼の身を守っていた。

 

「それで、そこにいるんだろう。ランサー」

 

ワンフロア式になっていた部屋。その一柱の影に向かって投影した干将を投げる。投じられた干将は弧を描くように飛んでいくと、そこにいた男の朱槍によって弾き飛ばされ床に突き刺さった。

 

「どうして私の邪魔をしなかったんだ?それが君の役目だろう」

 

まず間違いなくランサーの妨害が入っていれば森崎は大怪我をしていたことだろう。

 

「俺の役目は魔法の発動の邪魔をさせないことだ。発動した後のことは知ったこっちゃねぇ」

「なるほど。気の乗らない仕事に対する君らしい対応というわけか」

「言っとけ」

 

心底くだらないと言いたげに答えたランサー。

 

彼はもともと生粋の戦士。こういった小細工が嫌いなことは良く知っている。士郎の言葉に答える前、小さく舌打ちしたのはその言葉が的を得ていたからだろう。

 

だが士郎はその舌打ちの真意を知りながらあえて違う意味でとらえた。

 

「舌打ちか。今回はまた随分とストレスが溜まっているようだな。まぁ、君ともあろう男がたかだか高校生のお遊びのような大会に、使い走りとして参加させられていると思えば当然か」

「………」

「いったい君のマスターは何を考えているんだ?正直、たったこれだけの規模のためにあの言峰が動いているとは思えないのだが」

「………何が言いたい?言っとくが、テメェの安い挑発にはノラねぇぞ。そもそも、あのエセ神父が何を考えていやがるなんて俺も知らねぇことだしな」

 

………やはり、ランサーのマスターは言峰綺礼で決定か。できれば外れて欲しかったのだが。

 

「挑発?そんなつもりは微塵もないさ。ただ私は純粋に疑問に思ったことを聞いただけだ」

「純粋な疑問ね。それならもっと他に聞きたいことがあるんじゃねぇのか?」

 

………どういうつもりだ?

 

「たとえば?」

「どうして言峰の野郎と俺がマスターとサーヴァントの関係でここにいるのか、どうしてテメェが若返って受肉を果たしているのかとかな」

 

っ⁉︎

 

「ようやくその鉄仮面を崩しやがったな」

「……その話をするということは貴様は全てを知っているということだな」

「ある程度はな。っても、テメェも予想はついてんだろ」

「……聖杯か」

 

正直、自分がこの世界にやって来た理由の一番にこの選択肢を思いついた。だが、この世界について調べれば調べるほど、魔術の痕跡がほとんど存在せず、科学的な魔法という概念が大きく発達していることを知り、少しずつ原因の一つから、聖杯という選択肢を外し、代わりに自身の守護者としての原因が大きいのではないかと考え始めていた。

 

だが、ランサーから聞かされたこの事実。

魔術に魔法。どうやらこの世界は思った以上に面倒なことになっているらしい。

 

「さて、お喋りはここまでだ。仕事は終わった。俺はとっとと消えさせてもらうぜ」

 

槍を担ぎその場から消えようとするランサー。

それを士郎の斬撃が止めた。

 

「このまま帰れると思っているのか?」

「へっ、だろうなぁ‼︎」

 

火花を散らしぶつかる槍と双剣。

次の瞬間、その二つが弾けた。

 

「知っていることの全てを話してもらうぞランサー?」

「さっきも言ったろ?お喋りは終わりだぜ坊主‼︎」

 




次回はランサー対アーチャーです

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