魔法科高校の魔術使い   作:快晴

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第1話

少年は言った。

 

死んでいく人を見たくない。

助けられるものなら、苦しむ人々全てを助けることはできないかと。

 

少年が切り捨てようとしていたのは自分自身。

 

信じていくもののために剣を振るった。

 

戦いは終わり、引き返す道などもはや存在しない。

 

ただ、答えは得た。

 

後悔はある。

やり直しなど何度望んだかわからない。

この結末を、未来永劫エミヤは呪い続けるだろう。

 

だがそれでも、俺は間違えてなどいなかった。

 

だからーー

 

「大丈夫だよ遠坂、俺もこれから頑張っていくから」

 

こうして夜の戦いは終わりを告げ、英霊は自らの座へと帰還する。

 

 

 

 

 

「……やれやれ」

 

どうして私はこうもまともに召喚されないのだろう?

 

自身が歪な英霊であることは承知の上だったが、こうも立て続けに空中召喚されていれば、ぼやきたくもなった。

 

今回はいったいどんなうっかりに召喚されたのやら………

 

「ーー?」

 

なんだ、この違和感は……

 

「ーー同調開始(トレース・オン)

 

ーーーー魔術回路二十七本、正常に稼働ーーーー

 

ーーーー身体損傷箇所なしーーーー

 

ーーーー身体能力変化なしーーーー

 

ーーーー受肉、肉体年齢の減少を確認、推定15歳ーーーー

 

ーーーー全て遠き理想郷(アヴァロン)からの魔力供給を確認ーーーー

 

「なんでさ⁉︎」

 

受肉、若返り、全て遠き理想郷(アヴァロン)、いったい何が起きてると言うんだ⁉︎

受肉や若返りはこの際まだいいとして、なぜ遠い昔、彼女に返したはずの全て遠き理想郷(アヴァロン)が体内に宿り、魔力供給まで行っている⁉︎

 

「くっ! 」

 

間抜けな話だが、驚きのあまりが自身が落下していることを忘れていた。とにかく急いで受け身をとらねば‼︎

 

ドゴォン‼︎

 

「……ふぅ、怪我はせずにすんだか。

不完全な受け身になったが、身体能力がサーヴァントの時と同じおかげで助かった」

 

だが、一難去ったところでまた一難。

今度は周りを囲まれている。

 

数はおよそ二十、幸いにもサーヴァントや魔術師といった類の輩ではなさそうだ。

 

この程度の相手、士郎であれば今すぐにでも叩き伏せられるが、状況がつかめていない今は、穏便にすませることが最善だろう。

 

「夜分遅くに騒がしい真似をしたこと、心から謝罪する。なにぶんこちらにも止むを得ない事情というのがあってね。なにも君達に害をなそうと考えている訳ではない、可能ならばすぐにここから立ち去らせてもらいたいのだが、構わないか?」

 

…………

 

……返答する意思はなしか。

ならば仕方ない、一応の無礼に対する謝罪の言葉は述べたのだ、私はこの場を去らせてもらうとしよう。

 

「おっと、せっかく来たのにもう帰ってしまうのかい?」

 

月明かりに照らせれていない門の影、その暗闇の中から声が聞こえた。

 

「ああ。こちらはもともと招かれた客人ではないのでね」

「なるほど。確かに君の言う通りだ」

 

そう言うと声の主は、暗闇から月明かりに照らさる門前へと姿を現す。

 

「ただこちらは家を荒らさている。少し落ち着いて話をしようじゃないか」

 

謝罪の言葉を入れたとは言えあくまでそれは一方的。これに対して家主に話をしようといわれたならば士郎も従わない訳にもいかない。

 

「……分かった。少しの間お邪魔する」

 

士郎の返答に満足そうに頷いた男は、ついてくるように一言言うと、寺の一室へ招き入れた。

 

この部屋、結界か何かを張っているようだが…… この違和感はいったいなんだ?

 

「さてと、まず自己紹介といこう。

僕の名前は九重八雲、この九重寺で住職をやらせてもらってる。君の名前はなんて言うんだい」

「ーーー衛宮士郎だ」

「衛宮士郎、君は日本人なのか?」

「ああ。これでも世界を渡り歩いていてね。

その時のトラブルで髪と肌の色が変わっているが、生粋の日本人だ」

 

そこからしばらくはなんの変哲も無い雑談が続いた。具体的にはどういった国を回ったのか、何をしに世界を旅していたのかなどだ。

 

「うん。ある程度君がどういう人物なのかというのが分かったよ」

 

………頃合いだな。

 

「だからそろそろ本題に入らせてもらう。

士郎君、君は一体なにものだい?」

 

先ほどまでの緩んだ雰囲気が一変し、まるで張り詰めた弓のように緊張が走る。

 

「なに者かか……それはどういった意味で聞いているんだ?」

「どうもこうもそのままの意味さ。

まあ、もっとストレートに言ってしまえば、君はどこの魔法師かと聞いているんだ」

 

魔法師だと?

 

「僕は俗世に関わらないことを戒めにしている人間だが、こうして自身の土俵に問題が入ってきてしまった以上、聞かない訳にはいかなーー」

「すまない、少し待ってもらっていいか」

「……どうしたんだい?」

 

突然話を遮られ九重が眉を顰める。

 

「今あなたは魔法師と言ったか?」

「ああ、確かに僕は魔法師と言った」

「魔術師の間違いではなく?」

「魔術師?」

 

なるほどな、九重の反応でようやく士郎は状況が理解できてきた。

 

結界に感じた違和感もおそらくこれが原因だな。どうやらここは、私の知る世界ではないらしい。

 

体内の宝具やこの世界に来た経緯などは未だに不明だが、自身がどういった世界にいるのかのヒントを掴めたのはかなり大きい。

 

一人で納得した様な表情をする士郎に対して、九重はより眉を顰める。

 

「士郎君?」

「いや突然口を挟んですまない。少々思うところがあってね。謝罪の代わりと言ってはなんだが、先ほどの質問にお答えしよう。

私はそもそも、あなたが言う魔法師ではない」

 

その答えに対して九重は「ほう」と呟く。

 

「ただあなたが考えている通り、一般人でないことも確かだ」

「それが魔術師だと?」

「ああ、正確には魔術使いだが、今は些細な問題だ」

 

そこから士郎は自身の知る魔術について、そして自身がこの世界の人間ではないことを説明し、九重には魔法についてと、この世界の仕組みについてを教わった。

 

「なるほど、確かに君の言う魔術は、僕たちの知る魔法とは少し違ったモノのようだね」

「話し終えて言うのもなんだが、あなたは今の話を信じるのか?」

「目の前で魔術を実際に見れば、信じない訳にもいかない」

「さっきのは手品かもしれないぞ?」

 

実際、九重に見せた投影魔術は一見手品のようにも見えなくはない。

 

「これでも真実と嘘を見分ける力は持っているつもりさ」

 

そう言うと九重は一度大きく伸びをし、事前に出しておいたお茶に手を付けた。

 

「ほう、さすがは寺の僧侶といったところか」

 

ふっ、そもそも贋作を作り出す投影魔術を見て真実と嘘を見分けるか……、なんともおかしなことだ。

 

士郎も同じように出されていたお茶に手を伸ばすと、喉を潤すようにゆっくりと口へ流し込んだ。

 

「ところで士郎君、君はこれからどうするつもりなんだい?」

「そうだな、あいにく私は手持ちがないのでね、最低限の衣食住を確保をするためにも、しばらくは資金集めになるだろうな」

 

英霊であった私なら間違いなく元の世界に帰ることを第一としただろうが、受肉を果たした今、もはやそれは不可能に近い。

ならば私にできることは1つ。

この世界での生を受け入れ、新たな人生を歩むだけだ。

 

「そうか……、なら士郎君、うちで暮らしたらどうだろう?」

「いいのか? 私のせいでトラブルに巻き込まれるかもしれないぞ」

「うーん、それは勘弁して欲しいけれど、もう士郎君とは深く関わってしまったからね、これも何かの縁ということではダメかい?」

 

本当は異分子である私のことを野放しにしたく無いだけなのだろうが……

この言い草、会って数分の相手が言うのもなんだが、実にこの男らしい。

 

そう言った九重は、掴みとどころの無い笑みを浮かべながら手を出してくる。

 

「くっくっく、いや悪く無い、こちらとしても事情を知っている人物が家主なら色々と都合がいい。ここはお言葉に甘えて世話になるとしよう」

 

士郎は差し出されたその手をしっかりと握り返した。


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