国立雄英高等学校。
国内有数のヒーローの出身校で、最高峰のヒーロー養成機関。
世間にはヒーローの登竜門とも言われ、超一流のヒーローは全員が雄英出身と言われてる。
最近では関西の士傑も教育機関として注目を浴びてるけど、やっぱり大本命。
その注目度、つまりは受験者数も他校の追随を許さない。
各地方から越県受験を志す人間の多さがそのまま倍率へ直結しているんだろう。
プロヒーローが直接、教鞭を取り、国立故の資金力。
今、日本のヒーロー業界を牽引している著名なヒーローの大多数が雄英出身である事実から学閥としてのブランド力。
毎年、体育祭には多数の来場者が集まった上でテレビ中継もあることから世間から集まる注目度。
そんな学校があれば、ヒーローを志す中学生達が行きたいと考えるのも当然だろう。
そんな訳でヒーロー科の毎年の倍率は約300倍。
合格枠は毎年36名なのでこの場には約1万2千人の受験生がいるんだろう。
そのうちの圧倒的大多数は夢に敗れ、別の道を目指すのかもしれない。
夢に破れた少年少女は平穏な家庭を得るのかもしれない。
そんな、緊張を紛れさせる無駄な思考を一旦切り捨て現状を確認しよう。
筆記試験は時間に余裕を持って終わらせた。
いつもより思考が冴えていたので、もしかすると僕は本番に強いかもしれない。
昼食休憩を挟み、今から始まるのは実技試験の説明。
ざわつく喧騒も気にせず、大音量が講堂を支配する。
ボイスヒーロー、プレゼントマイク。
ラジオパーソナリティーとしても有名なプロヒーローが壇上に上がり、分かりやすいゲームに例えた話を交えた説明が行われている。
高いテンションで生徒の緊張を解そうとしてくれているのが伝わってくるけど、周りの受験生達はそれどころではない。
真剣な顔で実技試験の概要を頭に入れている。
プレゼントマイクはそれを気にした様子を見せず、快活にレクチャーを続けていく。
不意に講堂の中程からの挙手、それに続き疑問を呈する声。
ついでとばかりに近くの受験生に対する苦言も呈している。
確かに雑音は集中を阻害するのだろう。
だからといって1万2千人の前で吊し上げられる、その苦情先の人物には御愁傷様としか思えない。
全てを説明し終わったプレゼントマイクから激励の一言をその場の全員へ託してくれた。
「Puls Ultra」
良き受難を、と。
試験会場には若干の距離が開いているようで、バスにて移動する間に試験内容について反芻する。
場所は市街地を模した試験会場にて。
得点を有した機械を行動不能にする。
他者の妨害など、ヒーローにあるまじき行動は禁止。
...逆に考えればヒーローとしての心構えも試されている可能性が高い。
だからといって機械を行動不能にする、以外の具体的な減点項目と加点項目については目下のところ不明。
不確定要素にリソースを費やす位なら圧倒的な確定要素を築き上げる。
どこかの誰か曰く「期待値は裏切るけど、固定値は裏切らない」のだから。
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試験会場にて受験生達は思い思いの時間を待っている。
入念に身体を解す、尻尾の生えた少年。
その筋肉は年不相応に鍛えられ引き締まっているのが見てとれる。
白兵戦が彼の得意分野なんだろうか。
そう考えているとプレゼントマイクの声が何の予兆もなくスタートを告げる。
それを聞いて僕は制服をはだけさせ、背中から生えている翼を肥大化。
それに伴い前方向へと駆け出し、飛び上がり滑空する。
スタートダッシュで周囲の受験生から十分距離を取り、二車線になっている大通りへ飛び出す。
大通りには小型の機械が一体、こちらを捕捉して機械音声をあげている。
気に止めず、僕は目の前の機械へ口元に大量に生えている触腕の内一本を伸ばした。
機械は弾丸をこちらに向けて発射してくるものの、頑丈な筋肉に守られた僕にとってそれは痛くはない。
触腕でその機械の胴体を凪ぎ払う。
思ったよりも脆く、衝撃で機械は四散する。
破片で窓ガラスを多数割ってしまった。
これは街を守るヒーローになる試験でこれは失敗してしまったかな...?
以降は気を付けた方が良いかもしれない。
ガラスの割れた音に反応したのか複数の機械が街角から姿を現す。
どうやら大きな音にある程度近付くようにプログラミングされているみたいだ。
だったらこちらにも考えがある。
先ほど同様、機械へ触腕を伸ばし今度は脚部へと巻き付ける。
締め付け過ぎて砕かないように気を配りながら、ハンマーに見立てて他の機械へ向けて振り下ろす。
盛大な金属同士が勢い良くぶつかる独特な音が周囲に響く。
何回か振り下ろすと機械はボロボロになってしまうので、まだ痛んでいない機械を見繕って同様に脚部を巻き取り振り上げる。
これで機械達を誘き寄せながら、ひたすら打撃を繰り返せば、それなりのポイントを稼ぐ事ができそうだ。
制限時間いっぱいまで特に何もなければこのままで良いかな。