かくして始まった、僕の幸せ挙式計画。
栄光と祝福に溢れた、脳裏のヴァージンロードを現実へ反映させる為の第一歩。
雄英高校への入学。
ここで躓いてしまうと抜本的にプランを練り直さなけばいけない。
抜かりなく、着実に進めていく必要がある。
まずは進学に立ちはだかる壁を考えてみよう。
何事も先立つものがなければ始まらない。
受験料、入学金、入学後の授業料。
これが払えないと退校処分が起こり得る。
奨学金という手もあるが、借金のある身であの女性の隣には僕が立ちたくない。
...幸いにも雄英高校は国立高校、学費の心配はしなくて良いかな?
毎年高倍率だと聞く入学試験はどうだろうか。
筆記試験は学校の授業レベルの内容は聞き流していても理解できている。
同じ学年の生徒と比べて、模試の結果は極めて良好。
記憶力も高い。
中学二年生の最後の三者面談で、高偏差値の学校にもこのままの成績を保てば問題なく受かると先生から太鼓判をもらったところだ。
実技試験もあると聞くがネットの噂を聞く限り戦闘系個性有利の試験が多いようだ。
やり過ぎないように気を付ける必要はあるかもしれないけど、力及ばず不合格、ということはなさそうだ。
一つ一つ、懸案事項を挙げては潰す。
徹底的に、抜かりなく、一つの問題から目をそらして。
けれども、最大の懸念は容赦なく僕の前に立ち塞がる。
過去、僕は複数人のヒトを殺してしまったことがあるという事実である。
まだ幼かった、個性の暴走、強い個性をもったヴィランが生まれるリスク、打撃を受けただけで成人男性が弾け飛ぶパワー、諸々を鑑みたのか日本政府は事故として事態を処理した。
その後、信頼のできる人間に僕を保護させ飼い慣らす方針を採っていた。
当然、不用意な刺激を避けるため情報は規制されたのだろう。
5歳の時、今いる孤児施設に預け入れられてから、もう10年たった。
その間、他の子供や大人に言われた誹謗中傷は余所者である事に関係したことと、見た目がヒトとかけ離れた異形系であること。
児童間虐待を受けたこともあったが、この身体は頑健だ。
大人よりも筋肉質で変に殴ったところで、手を痛めるだけで終わった。
それ以降は遠巻きに謗りを受けるだけ。
...思考が横道にそれてしまった。
これは今ここで思考を重ねても進展はない。
分かる人間に直接聞かないと分からないことだ。
分かる人間、つまりはここ『仲良し園』の責任者、ママ先生だ。
ママ先生こと、心内さち先生は孤児院の子供全員から慕われている。
誰に対しても平等に慈愛を持って接してくれる。
憐れみではない。
偏りもない。
だからこそ僕らは彼女をママ先生と呼び慕う。
進路の事で相談がある、と言えば親身に聞いてくれるだろう。
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結論から言えば努力次第だと思う。
雄英の校訓は『Puls Ultra』
ヒーローになるにあたって幼少期に起こした事故は当然問題視される。
当然それは壁として僕の前に立ち塞がる。
けれども、若く、有能で、それこそオールマイトを越える、もしくはそれに通じる逸材であったなら、ヒーローになることはできるだろう。
当然、雄英に合格することもできるはず。
というのがママ先生の意見だった。
多分だけど、僕の起こした事件は事故として処理されている。
そして、社会には認知されていない。
けど、それなりの社会的地位の人物が探れば分かる程度には隠匿もされてる。
つまり、中途半端に優秀位なら落ちる可能性もあるが、レッテル以上に優秀だったなら雄英側も合格させてくれるだろう。
それはリスク管理かもしれない。
強大な個性を持った人物が反社会的行動を取らせない防犯処置。
それは憐れみかもしれない。
幼少期に殺人を犯した社会的逸脱者に対する救済処置。
それは打算かもしれない。
物理的に強力な個性をもった人間を政府が飼い慣らす為の暫定処置
けれどもそんな内情、子供は気付かない振りをすれば良い。
過去に起こした事件のレッテルを剥がす程の大活躍をすれば良い。
現代ヒーローで抜群の知名度を誇るオールマイト。
彼が幼少期に大きな事故を、仮に引き起こしていたとして。
変わらずトップヒーローとして活躍しているだろう。
何故なら有能で優秀な彼は社会に多大な貢献をしているから。
だったら僕も誰からも認められる位、ヒーローとしての地位を獲得すれば良い。
過去に起こした事件よりもいま起こす慶事で市井を賑やかせば良い。
それでこそあの女性の隣に立つに相応しい男だろう。
これで懸念も晴れた。
思考が纏まれば後は実践するだけ。
受験のその日まで、ひたすら勉強に個性の制御の特訓。
やることは目白押しだ。