貴女の隣に立つ為に   作:ウルタールの猫

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講義がないなら自習すれば良いじゃない

 

 

紛らわしいヴィラン曰く、目的はオールマイトの暗殺らしい。

 

会話の最中も形が定まらない黒いモヤは朧気ながらヒト型を保っている。

おそらくだが、自在にあのモヤを広げたり伸ばしたりすることができそうだ。

 

計画遂行を続けようとして、爆発の子とトゲトゲな子に妨害されている。

けれど、その妨害は気体のような揺らぎを生むだけで、効果がなかった。

 

ヴィランから広がる黒いモヤが僕らを包み込もうとする。

咄嗟に近くにいたデク君を肥大化させた翼で囲み庇う。

モヤで視界が塞がる。

 

 

 

気が付けば上空。

 

肥大化させた翼はそのままに滑空しやすいように身体を縮ませる。

下を見渡せば水面が広がる。

 

紛らわしいヴィランの個性で水難ゾーンへワープさせられたようだ。

 

水上に一隻のクルーザーが浮いている。

上空から旋回しつつ見ているとカエルっぽい子がブドウみたいな子をクルーザーのデッキへ叩き付ける。

カエルっぽい子がよじ登るのと僕がデッキへ降り立つのはほぼ同時だった。

 

カエルっぽい子とブドウみたいな子が現状について議論している。

 

何にせよ僕らは僕らで周りにいるヴィラン達をどうにかしなくては。

オールマイト本人だろうと、応援の教師たちだろうと、雄英の校舎からここに来るには時間がかかる。

まずは互いにできる事の共有も含めて個性を含めた自己紹介と意見交換でもした方が有益だろう。

下でお待ちのヒト達はあまり気が長い方ではないみたいだし、と伝えると驚いた顔をされた。

 

その後の反応は両者とも極端に違った。

 

冷静に事実を認識しているカエルっぽい子、改めツユちゃん。

悲観的意見がその大部分を占めるけど最悪の想定でもあるブドウみたいな子、改めミノル君だ。

 

自己紹介中にクルーザーに攻撃を仕掛けようとした行儀の悪いヴィランがいたので触腕を伸ばす。

 

攻撃行動を中断して退こうとするも遅い。

絞め殺さないように加減して上半身を絡めとる。

抵抗されたけど、傷も付かない弱々しい物だ。

水面へ、バチャバチャと数回勢いよく叩き付ける。

 

喚き声が呻き声へ代わり、それも弱々しくなったところでクルーザーに回収。

水面から確認できない壁にミノル君のモギモギで貼り付ける。

 

他にも捕虜にできそうな手頃なヴィランがいないか船縁へ行くと、警戒からか大きく距離を取られた。

さっきみたいに、すぐさま確保できる距離ではない。

残念だけど、話を続けながら牽制にはなるので両方の船縁を巡回する。

 

迂闊なヴィランには同じ目にあってもらったので合計三人のヴィランが貼り付けられている。

ミノル君の今日のコンディションだとモギモギの接着時間は1日は固いと保証も得たのでさっさと片を付けよう。

 

触腕全てを左右へ伸ばして肥大化。

内三本は湖底に突き刺し、本体を安定させる。

触腕の間隔を少しだけ開け、ヴィランの追い込み漁を始める。

 

ヴィラン達は各々が抵抗をしているが、傷を付ける事ができるモノはない。

衝撃は強靭な筋肉に殺され、刃は皮膚に突き刺さらない。

水中を逃げ惑うヴィランも、岸の方向へ逃げ出したヴィランも、余さず笊のように触腕で掬い上げる。

 

水上へ掬い上げたヴィランを一纏めに触腕で絡め取り、勢いよくブリッジ姿勢へ。

ヴィラン達をバックドロップ的に水面へ叩き付ける。

 

大きな波が起こりクルーザーが揺れる。

ミノル君とツユちゃんがバランスを崩しそうになっているけれど縁にしっかりと捕まっている。

 

貼り付けたヴィラン達の顔色が悪くなっている。

触腕に捕まったヴィラン達からは悲鳴と口汚い罵声が聞こえてくる。

まだ元気いっぱいなので、そのまま元の姿勢へ戻し様に着水。

 

何度か遊園地のバイキングの要領で繰り返すと、大人しくなるヴィラン達。

 

船上へ戻りお仲間と同様船へ貼り付ける。

数がそれなりに多いので一人一人丁寧に。

逃がすことなく、クルーザーへ貼り付け終えたところで、ツユちゃんとミノル君と今後の方針を話し合う。

 

取れる方針は3つ。

 

1つはここで応援が到着するまで待機。

安全度は一番高いが何かしらの情報を得ることは難しい。

ヴィランの主戦力がオールマイトを殺害した後、順々にUSJを巡られると詰みだろう。

 

2つめは他のエリアへ行きクラスメイトと合流する。

索敵能力や通信能力のあるクラスメイトと合流できれば情報という面では大いに役に立つ。

苦戦しているクラスメイトの助けにもなる。

移動中や移動先で連続して戦闘を行う可能性が高いので怪我や事故の可能性も上がる。

 

最後が噴水前広場へ戻る。

既に応援やオールマイトが到着していて、全て終わっているかもしれない。

まだ終わっていなくても、それぞれが何か手伝えることもあるかもしれない。

 

ミノル君は1つめを主張したけど、逆に一番の悪手になりかねない。

ツユちゃん的には2つめ。

僕は3つめを推す。

 

それぞれが自分の意見に自信を持っていたからこそ訪れる少しの沈黙。

 

とりあえず、ミノル君の泣き顔は置いておく。

多数決でこの場を離れることは決まった。

 

後は、方向の問題だ。

 

自身の安全とその後の手間を考えると、主力と思われるヴィランもいるが、プロヒーローもいて応援が真っ先に到着する噴水前広場への移動の方が得策だと思う。

 

その点を加味してなんとかツユちゃんを説得した。

 

僕の中では安全は二の次だ。

今だ表皮を傷付ける事ができた者はいないのだ。

ある種、当然である。

噴水前広場へ行くのも、プロヒーローと実力派ヴィランの戦闘に対する興味しかない。

 

結局のところ、講義がないのであれば自学自習。

よいお手本を見習い、未熟な実力を磨く。

もしかするとNo.1ヒーローの戦いを間近に見れるのかもしれないのだから。


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