明日香結理の日記
△月○日
今日は色々と大変でした。
今日は久しぶりにお姉ちゃんと遊びに行く約束だったのに。
変な虫型ロボット──メギロート?てのがわんさか出てきて街を襲って、私も襲われそうになりました。
そんなとき、空からゲシュペンストが降ってきて私を襲ったメギロート踏み潰して、なんやかんやあってその中に乗り込んだら、“お母さん”からのメッセージがその中に入ってて、そのミラージュは私のだっていうから、訳がわからないまま戦って……
私が調子乗って回避しきれないときは大体ローちゃんが制御を私から奪って回避するんだけど、その時ものすごいGがかかってめっちゃ吐きそうになりました。ローちゃんには後で感謝と文句を言った方がいいと思いました。
そんなわけでなんとか全部倒したら今度は軍に拘束されました。
──ミラージュに入ってた“お母さん”からのメッセージ、お姉ちゃんならわかるのかな。
おわり
*************************
「……………」
戦い終わると私たちは軍に拘束された。
そのまま基地に連れられて、机と椅子だけの殺風景な部屋で待ってるように言われた。ペンダントのローちゃんはこちらから話しかけても何も言わなかったので、私は何もせず、座って待つことにした。しばらくすると誰かが慌ただしく部屋に入ってきた。
その音に肩を震わせたが、中に入ってきた人物を認識すると思わず私は同じ白銀の髪を持つ女性に飛びついた。
「お姉ちゃん!」
「ユウリ!大丈夫だった!?」
お姉ちゃんは飛びついた私を受け止め、抱きしめる。私の無事を確認すると、ホッと肩をなでおろした。
「大丈夫、ローちゃんとミラージュが私を守ってくれた」
「“ミラージュ?”」
私は今日起こったことを全部お姉ちゃんに伝えた。急いで待ち合わせ場所に向かってたら虫型ロボットに襲われたこと、ミラージュが降ってきたこと、ミラージュが“お母さん”からの贈り物だってこと、ミラージュの中に入っていた“お母さん”からのメッセージも全部、お姉ちゃんに伝えた。
お姉ちゃんは黙って話を聞いてくれた。話が終わるとお姉ちゃんは一つだけ聞いてきた。
「“ユウリ・A”……そう言ってたんだね、ミラージュは」
「うん、そうだよ。ねえ、お母さんって……!」
ミラージュを送ってくれたお母さんのことを聞こうとしたら、お姉ちゃんはシッっと人差し指をたてる。それから数十秒後にお姉ちゃんが開けっ放しにしたドアから青い髪の男性が現れた。
「イングラム……妹との時間を邪魔しないでほしいのだけど」
「これでも便宜をはかった方だ。その証拠に君の方が先にこの部屋に来れただろう」
「知ってるし、感謝もしているよ。でも妹との時間を邪魔されたのも事実だもの。いいじゃないちょっとくらい憎まれ口を叩いたって」
お姉ちゃんはニコニコと悪びれもせずに言い切った。男性はその様子にため息をつくとこっちに視線を向ける。私はその視線にビクッとなってお姉ちゃんにピットリへばりつく。
「ちょっと、ユウリをあまり虐めないでこの子は怖がりなんだから」
「虐めてない。この子があのゲシュペンストを操縦していた君の妹か」
「可愛いでしょう、自慢の妹なの」
「そうだな、君よりは素直そうだ」
男性……イングラムさんの言葉で急激に隣の気温が下がった感覚がする。元々地味に張り詰めてた空気がさらにピリピリしだす。
「……そこは否定しないけど、次の模擬戦は気をつけなさい?素直じゃないどっかのパイロットが貴方を狙い撃ちする可能性があるかもだから」
「そうか、ありがとう。先に倒さねばならない敵を教えてくれて」
ニコニコ笑顔と信用できない笑みの応酬に私はビクビクしながら二人の戦いを見守る。誰か、誰か助けてください。このブリザードだらけの部屋に救世主求む。
「まあ、いいわ。ユウリの事情聴取に来たんでしょう?さっさと終わらせよう。私は保護者としてここにいるから」
そう言って、お姉ちゃんは私の後ろに立つ。イングラムさんはそれを横目で見てため息をつきながら私を席に促した。そして事情聴取が始まった。
*************************
ユウリの事情聴取が終わり、とりあえずユウリは監視付きで家に帰れることになった。
本当はすぐに一緒に帰りたかったのだけれど、まだやることが残っていた私はユウリを基地の控え室で待たせて、やることをさっさと終わらせようとした。
「シオン、ミラージュの解析が終わりました」
「ありがとうロート」
ミラージュのコックピットを開くと、首にかけていた赤いペンダントからロートの声がした。ナイスなタイミングで帰って来てくれた。
「貴女の予想通りです。“ユウリ”以外の人間がコックピットに入ると“ATA”が発動するようになっていました。今はそのプログラムは解除していますが……」
「ASH TO ASH……灰は灰にか、やっぱりあの人は抜け目ない。ユウリとロートが最初に乗ったことは不幸中の幸いだね」
嫌な予感がしてロートに最初の解析を任せてよかった。解除してなかったら大惨事が起こってたところだった。《ゲシュペンスト・ミラージュ》この機体の解析を私は他の科学者と整備士からなんとかもぎ取ったのは間違ってなかった。
「シオン博士ってシスコンですよね」とか言われたけど気にしない。私はシスコンじゃないけども、敢えて言うならファミコンだけれども。
「スペックは?」
「こちら側のゲシュペンストのスペックと変わりがないように調整しました。今後、誰がこの機体を解析してもこのスペックは揺るがないでしょう」
「ASRSと光化学迷彩は?」
「そちらも性能を落としたものになっています、ユウリもあまりわかってないようでしたから、ユウリから漏れることもないかと、私もわざと難しく言いましたし」
「了解、レポートはそんな風にまとめておく」
ロートからの情報を頭に入れて、私は早速作業に取り掛かる。
「……待ちなさいシオン。貴女は何をするつもりですか」
「何って……これは折角の“お母さん”からの贈り物。これを使わない手はないでしょう……これがね」
使えるものはなんでも使う。それが私の座右の銘です。これがね。
「そういえば……シオン、私は貴女に一つ聞かなければならないことがありました」
「聞かなきゃいけないこと?一体どうしたの?」
スパナを持って整備士の真似事をしてたら、ロートが突然話を切り出した。
「実は、ユウリがゲシュペンスト……“幽霊さん”のことを知っていたんです。私の記憶が正しければゲシュペンストはまだあまり世に知られてません。それなのにユウリは存在だけは知ってたので疑問に思ったんですが……」
「あーそれ?じつは前に私が机に広げてたゲシュペンストの設計図をユウリが見つけてね、その時に教えたの。だからユウリはゲシュペンストのこと、幽霊さんで知ってたの」
ロートの疑問にちゃっちゃと答えた。でも珍しい、ロートならちょっと考えれば私が教えたってわかるはずなのに。
「へー
「あ」
は、嵌められた!?ロートの声がピリピリしだして私は漸く自分が嵌められたことに気がつく。なんとか言い逃れの手段を考えようとするが時すでに遅い、というか一から十まで言ってしまった。
「どうやら貴女は私が思っている以上に子供だったようですね、まさかこんな簡単なカマかけで全部バラしてくれるとは思ってもみませんでした」
「いや、あの日は疲れてそのままにしただけだよ!いつもはちゃんと片してるよ!?」
「言い訳しない!!ユウリに見せたのは事実でしょう、言った事とやった事には責任を持ちなさい!!」
それから暫く私はロートに説教され続け、待ちぼうけを食らっていたユウリにはひたすら謝り続ける事になったのだった。