指摘されるまではずっと「にゅうりょう」と発音してました。
「じゃ、あたしらはこの辺で失礼しまぁーす」
「叢雲さん、ほどほどにしてあげて下さいね?」
「私たちは元の業務がありますので」
腰を低めにして退室する3人、現在の執務室は「この漢字どう読むの?」と尋ねた提督に怒りが爆発して大荒れとなっている。
「でも、もっと怖い人が来るのかと思ってました。優しそうな方で良かったです」
「優しそうというか、ちょっと頼りない感じじゃないですか?」
間宮の呟きに叢雲に詰め寄られて眉を下げていた自分たちの司令官を思い出す。
見た目が幼い駆逐艦に叱られている姿は確かに、威厳あるとは言い難い。
大淀が眼鏡をクイッとあげた。
「どうやら提督は軍部の出身ではないようですし、まだお若いので覇気が無いように見えてしまうのでしょう」
「へぇ、ああ見えても優秀だったりするのかな」
「でも、おかしく無いですか? 以前、大淀さんが言っていた提督の条件って・・・・・・」
提督、この場においては『鎮守府において艦娘の指揮を執る人物』となるには複数の条件がある。
まず、『妖精』が見えること。
艦娘、及び艤装に宿る妖精は深海棲艦の登場から間も無く認識されるようになった存在だ。
妖精に干渉し妖精と艦娘を結び付ける能力がなければ提督とはなりえない。
もう1つは軍人、もしくは自衛官である上で能力・人格共に問題が無いと判断されることである。
この条件においては特に『軍人(自衛官)であること』が重要とされる。
無知な一般人より多少問題があっても統率と規律が不可欠だと判断されたからだ。
そして、この鎮守府の提督。
藤丸立香は『軍人でも自衛官でも無い』。
「少なくとも、私が預かった資料ではそうなっています。
確か、前の仕事は『フィニス・カルデア』という環境保全団体だそうです」
「聞いたことがない組織ですね」
「でも環境保全団体ってあれですよね、たまにデモ起こしたりあたしら艦娘ことにいちゃもんつけて来るイヤーな奴ら」
ウヘェ、と舌を出して頭の後ろで手を組む明石。
事あるごとに、というか向こうが勝手に騒ぎ立てているだけだが毎度毎度艦娘の活動に抗議して来る連中を思い出したのだろう。
「どうやらそういう思想家や政治団体とは関係無いそうです。主な活動も災害支援や救難といった『人助け』の延長の様なものがほとんどです」
「あら? 『環境保全』なのに人助けをするんですか?」
「フィニス・カルデアの定める環境とは自然だけでなくヒトがより長くより健康にいられる様にする為に必要な事を指すそうです」
「そんなの聞いた事ないけど、とやかく言われないなら明石さんはオッケーですよーっと」
機嫌を直した明石とは逆に間宮は首をかしげる。
「でも、それって藤丸提督がここに来た理由にはなりませんよね?」
「そうなんです、何よりおかしいのは彼を推薦したのが国連の一派である事です」
「それって何がおかしいんですか?」
「そもそも、『一般人は提督にしない』と決めたのが国連なのです。
各国で活躍する提督達も国連から審査を受けていますが、その国連が軍人ではない彼を推薦するなんて変でしょう?」
「うお、そうなると一体ナニモンでしょーねあの提督」
「それはなんとも言えません。ただ、『入渠』が読めない一般人だったと言うのは間違えありませんが」
あたしは『ドッグ派』だなー、と明石が言ったところで3人は道を別れた。
工廠に向かう途中、見えた窓からまだ怒鳴られている提督の姿が見えた。
『能力があるけど人格がイマイチ』な提督には監督役が付きます。
艦娘に対しても人道に反しない対応が提督には求められます。
また、提督としての条件は『原則』です。
どこかの鎮守府には妖精(さんを付けろデコ助野郎)が見えないグラサンの提督や仮面付けっぱなしの提督や強面パパン提督だったり意識高いドMな提督がいるかもしれません。