この鎮守府の良いところは自主練を好きなだけしても怒られない所だ、艤装が無いせいで訓練止まりなのは不満だがこれから実戦が増えれば機会はやってくるだろう。
「ふんふふふーん、ふん。
ん? あの部屋、まだ電気付いてるや」
普段の生活リズムから考えると既に日付けは変わって時間が経っているはずだが、夜間哨戒以外で起きてる者は居ないはずだが。
(あそこって確か提督の部屋だったと思うけど、寒くなってきてるのに窓なんか開けてどうしたんだろ)
開け放たれた窓とその近くまで枝を伸ばしている木を見つけて閃いた。
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『マスター、誰かが接近して来ます』
「え、こんな時間に?」
藤丸は陰から伝えられた忠告を聞いた。
害意は無いようだが、何故か窓の外から侵入しようとしているらしい。
ふと、背後の窓を越えて陰が部屋へと舞い込んできた。
「とーう! 川内型一番艦、川内参上!」
「うわ、本当に窓から入って来やがった!」
オレンジ色の改造セーラー服を着た少女が窓から飛び込んで来た。
窓の外から数メートルを軽々と跳躍したのは、流石艦娘の身体能力か。
「君は、川内さんか。
こんな時間にどうしたんだ?」
「んー? あたしはいつもこの時間まで起きてるよー、ちゃんと休めば3時間寝るくらいでバッチリ動けるしね」
「なるほど、羨ましい体質だねぇ」
「それで? 寝ないといけないはずの提督はなにしてるのかな、自家発電?」
「あんまりそういう事を言うんじゃありません」
肩を回して背中を伸ばすと小気味の良い音がした。
机の上を片付けるように見せかけていくつかの錠剤を引き出しの中にしまう。
「まぁ、前回の第六駆逐隊の被害を見ちゃったらなんとかしなきゃなぁって思うよね」
「なにか思い付いたりした?」
「まずはこれかな。
これから出撃する時はいつも新型のドローンを同行させる、搭載したカメラとマイクで可能な限り現場の状況をリアルタイムで手に入れる」
「ドローンってあれよね、ちっさいヘリコプターみたいなの」
カルデアで使っていた通信技術を借りられれば時間差のない情報のやり取りが出来るはずだ。
いざとなったらチョロそうなオジ様を騙くらかしてでも作り上げる。
「あとは、鎮守府の戦力をもっと強化しなきゃいけないよね。
運用出来る戦力が少なすぎる。
これは叢雲さんのせいじゃないけど、これからは任務もこなして建造もしていかなきゃいけないし」
「あははー、戦艦の2人もいるけど重巡が居ないもんねぇ。
潜水艦とか空母系も欲しいかな」
「待機艦娘の子たちにして貰ってる訓練も、今はほぼ自主練になってるみたいだから効率の良いものを提案したい」
「今やってる射撃訓練とか体術とかで十分だと思うけど?」
「その自主練をしてた第六駆逐隊が今回損失を出しかけたんだ、幾らやっても十分なんて事はないと思っておいた方がきっといい」
勝手にお茶を淹れて飲み始めた川内に煎餅と焼き菓子を勧める。
藤丸は、菓子を齧る彼女に今日一番知りたかった事を訪ねる事にした。
「川内さん、君が今やって見たい事ってある?」
「あ! 出た出た、それ提督がなんでも言う事を聞いてくれるってやつでしょ!」
「かなり間違った情報になってるけど、みんながやりたい事を応援したいとは思ってるよ」
「あたしは断然、夜戦だね! 闇に紛れて敵と味方が接触するギリギリの所で行う砲撃戦こそ海戦の華ってヤツよ!」
「夜戦かぁ、こっちの被害も大きくなりやすいって聞いたからなるべく避けたいなぁ」
唇を尖らせて抗議する軽巡に、質問を重ねる。
「戦場に出ること以外でやりたい事とかない? この戦争が終わった後の事とかさ、考えた事ってあるかな」
「戦争の、後にやりたい事? そんなのあるに決まって……あれ、そういえばよく考えた事って無いような?」
あれれー? と首を傾げる彼女の様子を見て腕を組む。
自分は当初、艦娘という者は『英霊のようなもの』だと考えていた。
しかし、彼女たちと触れ合う間に垣間見える言動から常に戦う事を前提とした考えが根付いているように感じた。
まるで『軍艦が思考能力と感情を得て人の形をした』だけのように思える時がある。
そして、今の質問をして確信した。
艦娘は
理由は不明だが、艦娘の思考や興味は戦争そのものに向かう傾向があるらしい。
(『戦う為に生み出された』せいか、ほかにも理由があるのか)
「わからないなら無理に答えなくてもいいよ、またゆっくり考えてみてよ。
それよりさ、夜戦ってそんなに面白いの?」
「なになに? 提督も夜戦に興味出てきた? いよぅっし、それならこの川内さまが夜戦の魅力について語っちゃうよ!」
悩んでいた顔とは打って変わり饒舌に語り出す川内、それから空が白むまで2人の会話は続けられた。
艦娘の自主訓練は自衛隊がやるような体力づくりや射撃訓練などもしています。
通常武器を扱う分には問題ありませんが、艦娘の真の戦力は艤装との結び付きを強くする事で発揮されます。
この世界では実戦以外で艤装とシンクロする訓練に関してはまだまだ模索中となっております。