「今日は鎮守府の施設を視察に行くわ、地図で見るよりも早く覚えるでしょう」
「あいあいマム」
「マム言うな、それよりも徹夜でもしたの? クマがひどいわね、体調管理は私の仕事じゃないからね」
叢雲は寝惚けた様子の上司と共に間宮で朝食を取りながら予定を確認していた。
「仕事と言えば、昨日みたいな書類の確認はしないでいいの?」
「ああ言うのは大淀が手伝ってくれるのよ、私が今までやってたのは艤装の開発に艦隊の運用がメインなの。
まああくまで『提督代理』だから資材の使える量にも制限があったんだけどね、自分で出撃したりした時は大淀にほとんど任せる事もあったわ」
「叢雲さん、もしかして座り仕事苦手だったりする?」
「・・・・・・現場主義と言ってちょうだい」
生暖かい眼差しを避けるように目線を逸らして食事を済ませる。
「さ、行くわ。
まずはドッグね、分かりやすく言えば集中治療室よ」
「集中治療室?」
ドッグは工廠と並んで港に隣接する施設だ。
帰投した艦娘はここで傷を癒し、穢れを落とす。
「なんか、銭湯みたいな作りしてるんだね」
「なんでも神社の役割も兼任しているらしいわ、奴らの近くに居ると良くないもの溜め込んでしまうらしくて」
「奴ら、というのは?」
「深海棲艦よ。
近くに居るだけじゃなくて攻撃をされたりすると、上手く言えないけど寒いのに引っ張られるような感覚があるのよ」
まるで前世の最後を想起させる、海の底が覗き込んでくるかのような感覚は体感しないとわからないだろう。
提督に先行して中に入る。
艦娘の中には時折とんでもない格好をする者がいるので油断が出来ない。
以前、摩耶が全裸でマッサージチェアーに座りおっさんみたいな声を上げていた時は本当に同じ生き物なのかと目を疑った。
浴室も覗いて誰もいない事を確認する。
「いいわ、誰もいないから今のうちに中を見て起きなさい」
「お邪魔しまぁす、うわーシャンプーの匂いがする」
「キモい事言ってないですぐ出てくわよ、ここは入渠以外にも入りにくる事があるから」
ちなみに鎮守府にある男湯は提督の私室となる部屋のものだけだ。
「ふぅ、良い汗が流せたわね山城・・・・・・あら?」
「姉様、すぐに水を持ってきま……す?」
「しまった、この2人が入ってたか」
鎮守府きっての不幸な姉妹、扶桑と山城。
たしかサウナに入るのが好きだった筈だ、見落としていた。
「俺は藤丸立香。どうか宜しくぶげらぁ!!」
「この! この!! よくも姉様の柔肌を!」
「ちょ、ちょっ待って。見えてる! 君も見えてるから!? うげっ」
(これはマズったかしら)
オロオロしている扶桑はまだしも、山城との出会い方としては最悪の
形となってしまった。
「山城、その辺にしておきなさい」
「あら、提督代理じゃないですか。
ならこの男、いえ変質者が噂の提督ですか」
「へ、変質者」
藤丸は何故か今日1番ダメージを受けている。
「ああ、不幸だわ。まさかこんな安っぽい創作物みたいな目に遭うのかしら」
「姉様早く服を着て下さい、あの変質者が我慢できずに襲いかかってくる前に」
「そんな事しませんよ!? と言うか叢雲さんももっと早く止めて欲しかったなぁ」
「駆逐艦が戦艦に太刀打ち出来るわけないでしょ、それが最低限の損害だと思いなさい」
「こ、コラテラルダメージ」
藤丸に手を貸して引き起こす、どうやら大した怪我はしていないようだ。
ちらっと足元を見たが転んだ時には挫いた様子もない。
「あら、マウント取られたのに平気なのね。
見直したわ」
「嬉しくないです」
「無事ならこのまま2人の紹介をするわ。
扶桑と山城は現在この鎮守府が誇る最高火力、戦艦の2人よ」
頭を下げて礼をする扶桑と姉を庇うように立つ山城、2人とも強力ではあるものの入渠にかかる時間も長くなる。
資材も少なくない量を必要とするので気楽に運用出来ない戦力だ。
「扶桑型1番艦、扶桑と申します」
「同じく2番艦の山城です、それ以上は近づかないでください」
結局、番犬スイッチの入った山城に追い出されてしまったのですぐに撤退する事にした。
「それにしても、龍田といい山城といい厄介なやつらに目を付けられるわね?」
「あんまりギスギスしたくないんだけどなぁ」
「そういう星の元に生まれたんでしょう。
たしか工廠にはもう行ったのよね、なら次の所に顔を出しましょうか」
静謐「あの女今度会ったらザバーニーヤです」