専業主夫目指してるだけなんですけど。   作:Aりーす

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本当にお待たせしました。今回はリクエストでもらった『水原冬美が主人公に向ける感情が完全に恋慕だったら』です。次は本編を入れる予定です。リクエストは全て回収できるかは書く内容が降りてくるかどうかによります。時系列で言えば『▶︎9-2 【エフ】』の時点での感情が恋慕だったら、そしてその後その気持ちを伝えたなら、です。短めですがどうぞ。


▶︎IF 『エフ』の恋慕

 

 

 料理をして、毎日毎日努力を続けてきて。そんな私が抱く訳もないと思っていたような感情。まさかそれを自覚する日が来るなんて思ってもいなかった。

 

 千崎雪夜……私よりも年下で、私の後輩でもある子。そんな彼を説明するなら……才能と努力を兼ね備えている、天才というべき子。その料理はあまりにも普通の料理で、しかしその味は異常とすら思えるほどの美味さ。

 

 そんな彼に初めて会ったのは……宿泊研修だろう。それで言えば私はあの時審査する側として選ばれた中では、初めて彼の料理を初めて食べた、のだろう。

 

 ……口下手な私だけど、あんな料理をまだ入りたての1年生が作れるなんて思いもしなかった。それ程までに暴力的で、それであって細部まで私の全てを攻め立てる料理は……今まで数えられるほどしか食べて来なかった。

 

 その時、からかもしれない。私が彼を欲しいと思ったのは。私の店に招きたいと思ったのは。……そして、いざ店に招いた。本当に緊張したが、私の料理を振る舞った。そして彼が帰った後……日向子に言われて、気づいたのかもしれない。日向子に気付かされたのは多少不服だけど。

 

『……えっ、それって恋だと思うけど〜?恋をする顔って言うか間違いなく恋だよ?』

 

『……私、が?』

 

『間違いないよ〜。今日一日見ててわかったけど……間違いなく恋をしています。今すぐ告白するべきです』

 

『……いや、そんな……だって私は年上だし、彼とそんな絡みがある訳でもないし……』

 

『……めっちゃ可愛い……じゃなくて!それで取られたらどうすんの!店にも来なくなる!会えなくなる!その気持ちもなくなる!デメリットしかないからね!』

 

『……それは、なんか……嫌だ』

 

『ほら〜!……まぁすぐにとは言わないけど、何回か招いてみたら?そしてそこからグッ!だよ〜』

 

『…………分かった、やって、みる……』

 

 なんであの時の私はあんな簡単に乗ってしまったんだろう。そもそもこの気持ちが恋だなんて自覚してもいなかったのに。……酔った勢いだったのかも。

 

 ……でも、多分それは……ううん、間違いなく間違ってなんかいなかった。彼を招く時には緊張したし、彼に会えない日が続くと心が空っぽになったような気がした。

 

 ……料理にも集中できない時がある程だった。……だけど彼の邪魔になりたくはなかった。彼の学園生活を邪魔したらいけないと、そう思った。

 

 あの日までは。学園が少し長めの休みに入った、あの時までは。

 

 

 

 

 

「……どうしたんですか?手が止まってます、けど……」

 

「……何でもない、のは嘘。あの時の『雪くん』の事、思い出してるだけ」

 

「えっ……それはあまり思い出したくないんですけど……」

 

「……駄目?あんなに急いで来てくれたのに……」

 

「……それはそうですよ。だって『冬美さん』のこと、心配でしたから……」

 

 あの日、私はあまりにも料理に集中出来ず、自分の気持ちの整理ができず、店を一時期休業していた。体調を崩していた訳ではなかったけど、料理ができるコンディションではなかった。

 

 ……だけど、コンディションが戻る目処があったかと言えば、それは無かった。だって私のコンディションが戻らない理由は、年下の男の子に会えないという、寂しさから来るものだったから。

 

 寂しさと、そして私が知らない所で誰かと……付き合ってなんかいたら。そんな事があれば私は壊れてしまうだろう、と思って。……ありもしない未来に、嫉妬していたんだ。

 

 だけど、そんな不安も嫉妬も、ある日突然なくなった。休業していた時に、彼が来てくれたから。後で聞いた話だけど、日向子が話していたらしい。……正直、感謝。

 

 『休業してると聞いて心配で、来ました』と、言われた。それだけで私の心は、桜が開いたかのように明るく、なった。なってしまった。なんて単純で、卑しい女なのだろうと、今でも思う。

 

 泣いた。そして、私の口はあまりにも軽く、私の心の内を話してしまっていた。私は貴方が好きなんだ、と。そして貴方のことを考えると、私の心は壊れるように苦しくなって。貴方がいないと思うとあまりにも不安になって、料理も出来なくて。

 

 ……最低の女。まるで弱みにつけ込むかのように、私は悪くないと言わんばかりに……彼にぶちまけた。告白のように。告白とも思えない、最低な言葉を。

 

 なのに、彼は。雪くんはこう言ってくれた。

 

『……大丈夫です。俺が、そばに居ますから』

 

 それだけで、たったそれだけの言葉で……私の気持ちは軽くなった。

 

 

 

「……ねぇ、本当に良かった?あんな最低な、告白とも思えない言葉に、あんな風に返して。……私、こんな見た目だし、歳だって……」

 

「……俺、後悔なんかしてませんから……それに、俺だって……意識してない訳じゃ、なかったですから……」

 

「そっ、か。……信じてるからね?ちゃんと卒業したら私の店に来てくれるって」

 

「……分かってますよ」

 

「……他の女にうつつを抜かしたら……分かってる?」

 

「……そんな事しませんよ……それに、冬美さんが俺の事を好きって言ってくれたの……うれしかったですから……」

 

「……恥ずかしい事、言わないで……」

 

 ……今、私と彼は秘密裏に付き合っている。学園にもバレないように。……まぁ日向子には勿論バレてるけど。後は雪くんのお母さんにだったりはバレてる。

 

 ……今、付き合ってるけど……それ以上の気持ちを伝えるのは、彼が卒業してからと決めている。勿論それを、彼が受け入れるかどうかは分からないけど……

 

 ……でも、断られたとしても……私はきっと雪くんを送り出せる。十分幸せを堪能したんだ。……この先不幸があったって、私は生きていける、と思う。

 

 ……なんて強がりを、心で思ってみせる。きっとそんなことは無理だろうけど、私みたいな女が重いなんて、最低な女街道まっしぐらだから。

 

「……それに、ちゃんと証明しますから。他の人に目移りしたりしないって。……冬美さん」

 

 まるで改まって何かを話すかのように、どこか決意を滲ませた口調で名前を呼ばれる。つい、手を止めて彼の方をゆっくり見てしまう。

 

「…………えっ?な、に……これ……」

 

「……俺、口下手ですし……感情とか出る方じゃないと思います。だけど俺は……冬美さんに、本当の気持ちを、伝えます」

 

「……あ、あぁっ……」

 

 彼の手には、箱。ただ簡単に覆えてしまうようなそんな、箱。その中から覗くリングと、そのリングに輝く宝石には、私の顔が綺麗に映っている。

 

 今の私の顔は、その宝石を見るまでもなく、決まり切っているだろう。涙が止まらない。だけど、上がる口角を止められない。

 

「……一生、幸せにします。だから……俺と……」

 

 その先の結果は、言うまでもないだろう。だけど一つ言えることがあるならば。

 

 私が経営する『リストランテ エフ』は、『2人』で経営することになった、と言うことだろう。

 

 

 




恋愛の話は難しい……次は本編に行く予定ではあります。学園祭で薊が出てくる辺りの話ですね。いつ投稿できるか分かりませんが、今後もよろしくお願いします!

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