専業主夫目指してるだけなんですけど。   作:Aりーす

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最初は少しシリアスめです。


▶︎8−2(リクエスト回−2)【母】

 

 

 裏切られた、と思った。だけど、あの子を泣かせたくないと思った。いつからだろう、私があの子らの前でしか笑えなくなったのは。いつからだろう、あの子らがこんなにも、愛しく感じてしまっているのは。

 

 私の夫がいなくなってから?だけどそれは要因の一つにしか過ぎない。あの2人は、よく一緒にいた。だけどそれ以上に私の周りにいてくれていた。

 

 1人じゃないって言ってくれているかのように、私に温かい時間をたくさんくれた。泣きそうな時も辛い時も、あの子らは私の隣に、後ろに、時には前にいてくれていた。

 

 ……こんなに親バカになるなんて、結婚前も離婚後も思わなかったのかな?愛しいって気持ちが、まるでドーパミンのように溢れ出てくる、そんな親バカ精神に。

 

 とことん思う。あの子らより先に死にたいけど、あの子らの幸せを見届けてから死にたいと。あの子らの味方であり続けようと、思い続けるのはおかしいことだろうか?

 

 私は、写真立てに入っている……3人とほんの少しの家具しか写っていない写真を見ながら、1人の家の中で思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は千崎(ちさき)真夜(まや)、悲しい事を言うけど四捨五入すれば40になるおばさん、かな。好きな事は料理、大好きなのは私の愛しの息子と娘。……あ、娘は本当の娘じゃないけど。

 

 暗い話はしたくないからすっぱりと切るけど、まぁ簡単に言うと私は離婚したのだ。理由は夫の浮気。今は笑い話にも出来るけど、あの時は辛かった。

 

 家に居たくもなかった。ゆきくん……あ、息子なんだけどね。まだ幼稚園の頃に離婚をした。まぁ大人の話になるんだけど、子供の事とかそういった裁判だったり、そういうのは必要なかった。

 

 幼稚園の頃は問題なかった。というよりまだ小さかったから、世話をしないといけないって気持ちだけで動いてた。小学生になると、ゆきくんはある子と仲良くなった。

 

 その子が私の娘……というより私が思ってるだけでちゃんと親はいるけど、小林竜胆、私はりんちゃんって呼んでるけど。りんちゃんと仲良くなって、家に来ることも多くなった。

 

 家が近かったのもあったけど、小学生になったら本格的に仲良くなったらしい。……その頃から、私自身がおかしくなってたのかもしれない。

 

 ゆきくんはいつか離れていく、そう考えると私は一体何の為に生きればいいのか、わからなくなる。小学5年、6年になっていき、りんちゃんは中学になった頃にはもう、私が私じゃない気がしていた。

 

 辛かった。毎日過ごすのも、ただただ辛かった。だから私はゆきくんを置いて家を出てしまったことがある。世間的に言えば家出だろう。いい大人が子供を置いて家出、なんて考えられないことなのに。

 

 3日後にはちゃんと家に戻った。……というより、私は戻る事を決意する出来事があったのだ。私に励ましと、説教をくれたのは誰でもないりんちゃんだった。

 

 私は遠くまで行ったつもりだった。だけど自然に足は少しずつ家に帰っていたのだろう。だから簡単にりんちゃんに見つかった。あの時は本当に驚いたね、あんなに怒ってるりんちゃんを見るのは初めてだったから。

 

 『なんで雪を置いて行ったんですか』とか『なんでそんな事したんですか』って、ね。まだ中学生だったりんちゃんに詰め寄られ、家から出て行った理由を全て説明した。

 

 その上でたくさん説教された。中学生に説教されるなんて生まれて初めての体験だったなぁ……怒られて、そして一切想像してない事を言われたのが今でも、鮮明に覚えてる。

 

 『雪、この3日間……何も食べてないんですよ』って言われた時、家出した時以上に何も考えられなくなった。3日間、私が家出した期間……ゆきくんが何も食べていない、そう言われて。

 

 りんちゃんからの説教を受けてたのに、私の身体は家に走り出していた。りんちゃんも追いかけては来なかった。何か言われた気もするし、私が走ってる姿を見て色んな人に心配をされていた気もする。

 

 だけど、それは私の耳には入らない。家に帰ってきた、入るのに一切躊躇する事なくドアを開ける。そして私は、ゆきくんにこう言われた。

 

『おかえりなさい、母さん』と。たった一言のはずなのに、私の心に簡単に染み渡った。私を責めてもおかしくない、家出したと知ってなくてもいきなりいなくなった、そんな私に対して。

 

 責める事も、何もしないで、ただ私に『おかえり』と言ってくれた。気づいたら私の目からは涙が溢れていた、そしてゆきくんに抱きしめられていた。

 

 いつの間にか、私の身長にも近づいてきた背丈。少しずつ大人の男の子っぽくなっていってる腕、身体。そして顔付き。その時私は、本当の意味で初めて息子を見たのかもしれない。

 

 謝ることしか出来なかった。なのにゆきくんは何も言わず、私を抱きしめてくれた。こんなに優しく育っていたなんて、分からなかった自分があまりにも惨めで、最悪な人間だと思った。

 

 その後はすぐにゆきくんにご飯を作った。3日しか経ってないはずなのに、少し小さめのテーブルを囲んで食べてるこの空間が、懐かしく、温かく感じていた。

 

 りんちゃんもそのあと来てくれて、私の料理を食べてくれた。りんちゃんにこっそり伝えられた事がある。『雪、母さんのが食べたかったんだって。私が作ってもダメだったんだよ?』って。

 

 『私も真夜さんのが食べたかったんだよっ?』なんて言われて、また泣いてしまった。そしてもう二度とこんな馬鹿げたことはしないと決めた。

 

 私が不幸になったって、私がたとえ死んだって、この2人は私の家族で私の愛する子供達で、私のかけがえない存在なんだ。それから、かな?親バカなんて言葉で表して欲しくないくらい、あの2人が好きになったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしたの?なんかぼーっとしてるみたいですけど」

 

「ん?なんでもないよー、りんちゃん」

 

 今はりんちゃんが家に来ている。ゆきくんも遠月学園に行った今、この家は私しかいない訳だが……たまにこうして帰って来てくれるのだ。今度はゆきくんも連れて帰ってくるらしい。

 

 うん、久しぶりに息子の顔を見たいって思うのは親バカじゃないもんね。りんちゃんなんて少し会わないだけでどんどん成長してるのが分かるもん。

 

「いつまでりんちゃん呼びなんですか〜……私だって、こう、大人になってるんですよっ?」

 

「え〜?りんちゃんはりんちゃんなのに〜?……まぁ、体の一部分は大人を通り越してるみたいだけどねー!」

 

 りんちゃんのプロポーションは高校生のそれじゃないよ。私が高校生の頃だってそんなプロポーションの子はいなかったし。ま、まぁ私も負けてないから。いい歳した大人が何を張り合ってるんだろう。

 

「あ、真夜さんの料理食べさせてくださいよ〜、久しぶりに食べたいんです〜」

 

「りんちゃんは育ち盛りだからよく食べるのかな?……ふふっ、何が良い?」

 

「にひひっ!真夜さんのオススメ!」

 

「オススメ?ならそこらへんの野草でも拾って……」

 

「にゃ〜!?そ、それは料理じゃないですよっ!」

 

「あははっ!冗談だよ。たまには一緒に作ってみない?」

 

 りんちゃんの頭を撫でながら提案してみる。りんちゃんは偶にゆきくんの頭を撫でたりしてるみたいだけど、それは私が教えた(ドヤっ)まぁりんちゃん猫みたいだもんね。

 

「私が?うーん……でも真夜さんの腕には敵わないし〜……」

 

「もうそろそろ遠月学園も卒業が近づいてるんでしょ?十傑の第二席まで上り詰めたんだし、私に敵わないなんて謙遜すぎるよ〜」

 

「……むー、謙遜してるのは真夜さんじゃないですか!『元十傑第一席さん!』」

 

「……うふふっ、そんな昔の事、覚えてないかな?」

 

 一応だけど、私も遠月学園に通ってた。あ、ちなみに私の今の歳は35歳。ゆきくんを産んだのは20の時なんだよね。こう考えると早め?

 

 ついでに言えばその時の十傑では第一席についてた。まぁ面倒で自分からすぐに辞退しちゃったんだけどね♪あの時は若かったから生意気だったんだよねぇ……その事をゆきくんにも教えてないし。

 

 血筋、とはまた違うけど……ゆきくんは才能はあると思う。ただそれを上回る努力があって、しかもそれを曝け出そうとしないから周りには普通のことしか見られない。

 

 私が家出した理由を話した時から、本格的に料理を始める姿を見てきた。最初から包丁の握り方も完璧だった。あれは偶然の産物、それに才能を合わせたものだろうけど。そこから才能を努力で導いたのはゆきくん。

 

 うふふっ。でもゆきくんは自分に自信はないだろうし、自分の料理の腕は普通、なーんて思ってるんじゃないかな?これでも母親だからね、分かることは分かるんだよ♪

 

 無自覚だけど、どんどん料理の腕が上がるのが分かる。うん、いつかは私を抜いちゃうかもね?……ま、遠月学園を卒業できた程度じゃ抜かせてあげるつもりはないけど♪

 

 願うなら良い子と彼女彼氏の関係になって欲しかったり。卒業なんてゆきくんなら簡単だろうし、友達付き合いとか恋愛とかそっちがお母さんは気になっちゃいます。

 

 ま、ぽっと出じゃありんちゃんには勝てないけどっ!今度帰ってきた時は、ゆきくんに根掘り葉掘り聞いて、面白そうな話をたくさん聞かせてもらおっと♪

 

「じゃ、作ろっか?ついでにゆきくんとの関係が進んだかどうかも、ね?」

 

「うぅっ……お、お手柔らかに〜……」

 

「うふふっ、やだ♪」

 

「真夜さぁ〜ん……」

 

 

 




最大のチートは母だったでござるの巻。ガチ天才さんは母です、竜胆先輩どころか主人公でも勝てないです。息子が無自覚チートなら母は自覚チートって奴です。
あの自由奔放な竜胆先輩でも敬語で話すくらいなんやで、しかも勝てないんやで。さらに自分から第一席を高速で辞めてるから、他の人にほとんど知られてないんやで。

ついでにですが、新作投稿しました。そっちはキャラ崩壊させたり、ネタ多めだったり、恋愛あったり(しかし料理描写は言わずもがな)です。読んでくださると嬉しいです。


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