専業主夫目指してるだけなんですけど。   作:Aりーす

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ラブコメ味なんて書けなかったんや。元からラブの味なんて知らないんだよなぁ


▶︎7−1【秘書】

 

 

 柄にもなく楽しみにしている、なんて事は良くあるのかもしれない。どんなことでも楽しみにしている人はいるだろう。ほんの些細なことでも喜ぶことができる、それが人だ。

 

 まぁ私だって楽しみにしている事はある。私だって好きな物はあるし、楽しみにしている事なんてザラにある。えりな様も同じような事を考える事もあるだろう。

 

 人それぞれ、とは言ってもそれにはやはり違いが生じる。例えば好きな食べ物が出てきた、好きなテレビ番組が始まった……こういった日常の中で生まれる楽しみがある。

 

 ならば人と会うのが楽しみ、と感じてしまうのは。それはきっと非日常に近いものじゃないだろうか?いつも通り日常を過ごしているならば、誰かと会うなんてしない。

 

 たまたま外にいれば出会うかもしれない。だがそれは偶然であり、必然ではない。嫌いな人物と会う可能性だって考えられるのだ。だからこそ非日常の出来事なのだろう。

 

 約束をしていた、それも日常なら存在し得ない事だ。今までの自分なら、あり得ない事だと感じているから私は、こんな事を思っている。

 

 えりな様以外の誰かといる、ましてやそれが男子……入学当初なら確実にあり得ない事だ。私自身が変わったのだろうか?この問いに答える人は自分自身しかいないけれども。

 

 ……さて、そろそろ考え込むのもやめよう。例え楽しみにしている事を除いたとしても、私は後悔してる真っ最中なんだから。……集合時間の50分前に来るなどという、普通ならあり得ない事をしでかしているからだ。

 

 少し時を遡るまでもないが、私は千崎との待ち合わせをしている。理由は単純に買い物をする為だ。私も都合が良かったし、何の問題はないからな。

 

 ……そういえばえりな様が変な事だけはダメよ?って言ってたけど変な事とはなんだろうか。どこかこう、子供を見るような目で見られていた気もするんだが。

 

 しかし本当に早く来すぎた。千崎が早く来る確証なんてない訳だが、何故早く来てしまったのか私にもわからない。だが……部屋でじっとしていられなかった、というべきか。

 

 楽しみにしていたのはわかっていたが、もはや自覚してなかったんじゃないかと自分で自分を疑ってしまう。ついでに言うならば1人で待っているからか、よく人に見られている気がする。

 

 遠月学園の生徒だからだろうか?と思っていたが今の私は制服ではなく、私服だからもちろん分かる筈もない。なら何故私はよく見られているのだろうか?特に男子からの目線が多い気がする。

 

 

 

「あー、お嬢ちゃん1人?」

 

「……1人以外に見えるか?後、お嬢ちゃんという言われ方は嫌いだし、誰だ」

 

「ひゅーっ!ガッチガチって感じじゃん?もう少し緩く行こーぜ?」

 

 ……顔も名前も知らない男2人組に近づかれている。何故だ、とは言わない。テレビでもよく見たことがあるナンパ、という奴か?私がされる理由はよく分からないんだが。

 

 せめて誘うなら人の話を聞こうとしろ、まず誰かと聞いて緩く行こうと言われて、何を返せばいいんだ。……しかし面倒だ、騒ぎを起こす訳にもいかないし。

 

「こんな所で1人とか寂しくない?俺らとどっか楽しい所に行こーぜ?」

 

「……別にずっと1人でいるわけでは無いし、お前達と行った所で楽しくはならない、そう思うが」

 

「ガード固いね〜……つか結構言うのな?見た目可愛いのにさ〜」

 

「いきなり話しかけてくる、見知らぬ奴に親しくする必要はないだろう」

 

「まぁそりゃあな?でも関係ないでしょ、これからいっぱい親しくなるんだぜ?」

 

「……何一つ話が通じていないようだな、ならハッキリ言おう。私の目の前に立つな、邪魔だ」

 

「しかも気が強いと来た……いいね、すっごい好み!」

 

 ……耳が存在していないんじゃないか、こいつら。何を言っても無駄な気がしてきた。だが付いていくのはまず無しだろう。出来ることなら相手にもしたくはない。

 

「とりあえず行こーぜ?待ち合わせかなんか知らねーけど?そんな奴より俺らの方が良いっしょ?」

 

「……はぁ……比べるのすら意味を感じない。お前達のような取り柄も何もなさそうな奴と、比べる意味を、な」

 

「……へー、言ってくれんじゃん?別に路地裏に連れ込んでも良いんだぜ?」

 

 そう言って私の腕を取ってくる。別に振り解くのは簡単だが……流石に目立つし怪我をさせてしまう。そうなればえりな様に迷惑をかけてしまうかもしれない。

 

「……それは困る、約束があるからな」

 

「はっ!約束なんざほっぽりだせば良いだろ?今更怖くなっても遅ぇぞ、喧嘩売ったのはお前だしな」

 

「……喧嘩売ってるのはアンタらだろ」

 

 いつの間にか、と言うべきか。男の腕を掴んでいた。……あまり感情を出していなかった私の待ち合わせの人が、私でも分かるほど怒っている。千崎が、ここまで怒ることがあるのか、と思えるほど。

 

「どいてくれ。約束がある」

 

「あぁ!?んだよテメェは……」

 

「……待ち合わせ相手だが、悪いか?」

 

「テメェみたいな冴えない奴を待ってたのか?……うーわ、引く。つかほんと俺らの方が良かったろ〜」

 

「……別に俺の事はどうでも良いが、人に引くなんて言える奴らにナンパは出来ないな」

 

「……はっ、うぜぇ。別に潰しても良いんだぞ?」

 

「……さっきも言わなかったか?」

 

 一瞬、本当に目の前にいるのが千崎かどうかも疑ってしまう。……だがそんな考えはすぐ消える。私を庇うように立ってくれているのを私は分かっているから。

 

「……約束がある、どいてくれ、と。……優しく言ってやってるんだから、ちゃんと聞いてくれ」

 

「はぁ?何言ってんだ?」

 

「……邪魔だ、どけ。無駄な時間を使わせるな。ここから消えろ、手を上げないだけマシだと思え。……それとも、痛い目を見たいか?」

 

 ……私には分かってる。入学式の時のように、誰かの心に簡単に入っていくように話しかけているが……うん、強がりだって事はわかる。

 

 なんでかって?……私にもそこまで力で勝てていない千崎が、誰かを殴れるはずがないだろう?まぁ、あの2人はそれより強がっていたようで、こんな事を考えていたら居なくなってたわけだが。

 

「……もう勘弁して下さい、帰っていいですか」

 

「ほう、こんな目に遭った人を、置いていくと?」

 

「……別に新戸さんだから平気じゃないですかね」

 

「なるほど、私だから、か?それは私に喧嘩を売っているのか?」

 

「さっきよりやばい人に俺が絡まれてる……とりあえず行きましょ。今度があるなら、俺の方が早く来ますから」

 

「……ふふっ、まぁその時は、な?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから時間が経ったが、私はかなりの戦いを強いられている。それは千崎のある点について、だ。本人は完全に無意識のつもりだろうが、何というかタラシな部分を垣間見ている。

 

 いや、私に歩幅を合わせてくれたり昼食の時は奢ってくれたりと、優しい部分がある。だが普段あまり話す印象がない分、かなり新鮮に感じるのだ。

 

 思っていたより店員と話せている、という事実が。しかも私と話す時より饒舌に話しているのだ。……こう、何か言い表せないモヤモヤ感がある。

 

 もちろんそれだけでタラシ、と判断した訳ではない……ただとにかく優しいのだ。店員が困っていても客が困っていても、自分が分かる事なら手伝っているし、とにかく気を配れるタイプなのだろう。

 

 実際買い物の途中での話では、自分で何かやるよりかは誰かを支える方がいい、とは言っていたが、言ってはいたが。……ここで発揮するものなのか、それは。

 

 ……何故こんなにモヤモヤするかは分からない。しかも何の因果か知らないが女子の所に行く事が多い。……まぁ服屋にそこまで男子の店員自体いないのかもしれないが……。

 

 むぅ……やっぱりモヤモヤする。ずっとモヤモヤしていたら千崎にもそれは伝わったらしく、何故かすぐ離れようとしていた。まぁこのモヤモヤを解消する為に、少し、いや、かなり弄らせてもらおう。

 

 とりあえずそのまま別の服屋に移動し、名目をつけて千崎を着せ替え人形にした。別に女子の服を一回挟んでも面白そうだとは思ったが、流石にやめておいた。ついでと言っては何だが、着替えた後の千崎はこっそり撮らせて貰った。

 

 ……しかしアクシデントがなかったわけではない、というより私があまりにも無意識すぎた、というべきだろう。同年代、しかも男子の半裸を見てしまった。

 

 最早これは逆セクハラに繋がってもおかしくないんじゃないだろうか?もしこれが上半身だけ裸ではなく、もしズボンまで脱いでいたらと考えれば……正直まずい。開けた側は私だから、悪いのは私になるわけだしな。

 

 ……平静を保とうとはしているが、チラッと鏡から覗き込む私の顔は赤かった、とだけは言っておく。

 

 買い物はここまでだ。早く来たからこそ少ししたアクシデントには巻き込まれたが、千崎が庇ってくれたというのもあり無事に解決はした。正直かなり楽しかった。

 

 また今度、えりな様と3人で行かないか?とは誘っておいた。何故か変なことを考えられていた気はしたが、何も聞かないでおいた。……あとは謝っておいた。男子とはいえ女子に半裸は見られたくはないだろう、と思ったからだ。するとこう返された。

 

「……別にいいです。逆じゃないだけ」

 

「逆?……ふふっ、まぁその時はどうなるだろうな?」

 

「……俺の明日が無くなります」

 

「そうか?次の日だけで済めばいいな。……あ、もし私が許せない!って言うなら別に見せてもいいんだぞ?」

 

「……堂々と顔赤くしながら言わないでくださいよ、からかいすぎです」

 

「からかいと分かっていても、お前は顔を赤くするんだな?」

 

「……そりゃ言われ慣れてるわけないんで」

 

「私だって慣れてないぞ。……じゃあまた今度な」

 

「はい。今日は、楽しかったです」

 

「私もだよ。楽しかった、こうして男子と出かけるのも初めてだからな」

 

「……竜胆先輩を除けば初めてです。同年代なら初めて、ですね」

 

「……そう、か。初めて同士だな」

 

「そうです、ね。……変なカップルみたいな会話やめません?」

 

「ふふっ、別にこれも楽しくて良かったんだが。それじゃあな、後!負けないからな?」

 

「……?了解、です」

 

 食戟でも負けない。1人の人間としても負けない。……もしかしたら、だけど。負けたくない対象は増えてしまったのかもしれないが、そこは私だけで考えておこう。

 

 

 




この小説書いてる時って大体歌ってみたのカテゴリの歌を聴きながら書いてるんですけど、歌を聴きながら寝ていた時は驚きました
本当に全然関係ないんですけど、個人的に好きなデレマス小説を書いてる方の小説が日間ランキング1位になってるのを見て、すごい嬉しかったです。こう、自分が書いてる小説がランキングに載るのとは違う嬉しさがあります。びっくりしたのはその方からこの小説に評価をいただけた事です。う れ し い

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