CODE:HERO   作:TubuanBoy

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第十一話

 刻達が転向してきて数日、大神と刻に新たな指令が降っていた。

 

「異能研究の科学者がエデンを離反……」

 

 大神は平家から指令を受け取っていた。

 

「はい。彼は『元隆 櫂鬼』

エデン管轄の研究機関にて個性の源流を異能と考える学者の一人でその繋がりを研究することで異能・個性因子の解明をテーマにした研究をしていました。

しかし彼は禁断の領域に手を出し、エデンを離反。

姿を眩ましていたのですが、先日ついに所在が判明しました。」

 

 

「後は俺達が踏み込んでそいつを消せば終わるってわけネ」

 

 平家の説明に刻が付け足す。

 

「所で、渋谷は呼ばないの?」

 

 刻はここに他のメンバーが集められていないことを気にした。

 気分屋の遊騎ならともかく、新人を経験豊富な先輩に同行させてローリスクで経験を積まさない理由がない。

 

 「彼には少し難しい仕事ですからね。」

 

どうやらよほど危険な任務なのだろう。

 

「遊騎は出自的に今回の事件とは相性が悪そうだしな。」

 

 

 そうして2人で任務をこなすことになった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

そこは元隆 櫂鬼の秘密の研究施設。

そこから狂気じみた高笑いが聞こ得てきた。

 

「ついに…ついに完成した!!

これぞ!人類を…新たなるステージに昇華させる第一歩だ!」

 

『ボクからしたらただの人形(・・)だけどね。』

 

 後ろから聞こえる声に彼は振り向かずに答えた。

 

「たしかに、この薬ではまだかつての力を取り戻しているだけに過ぎない。

 しかし、いずれは貴方様の領域に届いて見せましょう。」

 

『フフッ…楽しみにしているよ。』

 

 最後の笑い声を最後に背後から声は消えた。

 

「さて、この薬が予定通りの効果があるか試さないといけませんね。

…若く、成長の余地を残す、実験にも耐えられ、特定の系統の能力を持つ者

 

せっかくですから彼らに復讐のチャンスを与えましょうか…」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 ある日の放課後、八百万はまたもやバイトに行く大神にまかれて1人で帰っていた。

 

(大神さんの様子…また人殺しに行ってしまわれましたわ。)

 

 放課後、気づいたら大神が居らず、刻も足早に帰ったそうだ。

 遊騎は今日はサボりのようで、平家は探しても見つからない。

 

 いつもなら大神に巻かれても平家か遊騎が場所を教えてくれるか、連れて行ってもらうが、今日はその気配ではない。

 

 1人寂しく帰路に着くと人通りの多い商店街で事件が起きた。

 

「きゃ〜

泥棒!!だっ!誰か捕まえて〜!」

 

 中年のおばさん(おそらく主婦)がカバンを引ったくられ叫ぶ声が聞こえた。

 

 あたりにはヒーローも警察も居らず走り去る泥棒を誰も捕まえられないでいた。

 

「待ちなさい!」

 

 ヒーロー科の学生である八百万はすぐさま泥棒を追いかけた。

 

 泥棒は人通りの少ない裏路地に逃げ込む。

 

 それを追いかける八百万。

 

 すると泥棒は行き止まりに逃げ込んでしまった。

 

「さあ!もう逃げられませんよ!

鞄を返して警察に出頭してください!」

 

 しかし、泥棒は笑っていた。

 

「ばーか、逃げられないのはテメーだよ。」

 

 背後から迫る気配に八百万は振り返った。

 

「マジちょれーな。本当に雄英生かよ。」

「どんだけエリートでもガキはガキってな。」

 

 わらわらと集まってくる柄の悪い連中。

 

「ガキにしてはいいから出してそうだけどな。

上に引き渡す前につまみ食いでもするか?」

「バカ、下手に手を出したら上に怒られるじゃねぇか!」

 

この計画的犯行に八百万は彼等の正体を聞く。

「貴方達何者ですの?」

 

連中は答えた。

 

「俺たちはこの間の事件を起こしたヴィランのツレだよ。」

 

先日のヴィラン連合の襲撃には地元から徴兵したゴロツキが多くいた。

 彼等はそんな連中の仲間だった奴らだ。

 

「……」

 

 地の利も頭数も不利すぎる状況に八百万は手も足も出なかった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 一方、元隆 櫂鬼の研究施設に忍び込んだ大神と刻は次々とトラップを回避して奴の元に近づいていた。

 

「アイツが警戒しろって言ってた割には拍子抜けだな。

 これなら新人でも楽勝だったんじゃね?」

 

「肝心なのはこの後だがな。」

 

 電子的なトラップは刻の前では役に立たず、物理的なトラップは大神には無力だった。

 

TLLLLL!!

 

 すると平家から電話がかかってくる。

 

「どうした、平家。」

「大変です。大神くん

 

 

 

……八百万百さんが誘拐されました。」

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ?」

 

 大神は詳細を聞いた。

 

「犯人は先日の襲撃班の残党。

すでに渋谷くんと遊騎君で捕縛済みですが、既にヴィラン連合関係者の手に落ちたようです。

近くにヒーローも警察も居らず、初期対応が遅れました。

 どうやらヴィラン連合が手を回したようです。」

 

「何故八百万さんが?…」

 ただの一雄英生である八百万にそこまでする理由はない。

 心当たりがあるとしたら自分たちの関係者であるということ。

 

「私達のせいではありませんね。

他にも候補者がいて彼女はたまたま罠にかかってしまっただけですね。

候補者の共通点は物質を生成するタイプの個性を持ってますね。」

 

「…そうか」

「そちらは刻君に任せてこちらに合流しますか?」

 

「…いや、終わらせてから行く。」

 

 まだ所在がわからないのであれば平家やエージェントに任せるのが最適解だ。

 

 そう思い、大神は電話を切った。

 

「あのねーちゃんは何回事件に巻き込まれれば気が済むんだよ。

 マジで珍種もどきより珍種みたいだな。」

 

 大神に出会ってから八百万は事件に巻き込まれっぱなしだ。

 刻は昔のことを思い出しながら大神に言った。

 

「黙れ…」

 

 大神は軽く頭を抱えながら先に進んだ。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 2人はとある一室に入るとそこには沢山の実験器具や、ホルマリン漬けにされたあらゆる生物の臓器が並んでいた。

 

 ザ・マッドサイエンティストの部屋を見た2人は機嫌を悪くした。

 

「けっ、趣味の悪い部屋だヨ」

「……」

 

 2人は部屋の奥にある机の書類を目をつける。

 

「平家の報告通り、個性と異能の研究だな。」

 

 すると刻が変わった資料を見つける。

 

「何だ?『壬生再臨計画』?」

 

 ほとんど読めなかったが、かろうじて読めたタイトルを読んだところで大神は顔色を変えた。

 

 その言葉に驚いた大神は刻から無理やり資料を奪い取った。

 

 その資料はボロボロになった巻物を写真に撮り印刷したような資料で明らかに現代の文章ではなかった。

 

「『万物を破壊する陰の力、万物を生み出す陽の力を内包する者こそ、真の紅十……」

「おい、何でお前がこんなの読めるんだよ」

 

刻のツッコミを無視して読み進める大神であったが、そこに邪魔が入る。

 

「おやおや、招かねざる客のご登場のようだ。」

 

 2人が振り向くとそこには抹殺対象である元隆 櫂鬼がいた。

 

 Yシャツにネクタイ、上着に白衣。

 度が高そうな大きな丸いメガネに痩せ型の体格。

 この研究室の主人に相応しいほどにザ・マッドサイエンティストの様な姿をしていた。

 

「エデンの犬め、よくも私の研究室を汚してくれたな。

 『皇帝の系譜』に『切り札』…是非とも私の非検体になってほしいが、そう簡単にはいかな様だ。」

 

 

 

「そうだな、元隆…お前は知り過ぎたようだ。」

 大神は元隆を燃え散らす為に青い炎を手に宿した。

 

「私はこんなところで死ぬわけにはいかない。

そろそろお暇しよう。

 すでにバックアップは次の研究室に移動済み、後はここを破壊するのみ…」

 

 元隆は向かってくる大神に対して煙玉を投げて煙幕を貼った。

 

「チィ!」

 

 大神は炎を大きくし、上昇気流を発生させることにより煙幕を払った。

 

 しかし、そこに元隆はいなかった。

 

「大神!すぐに追いかけるぞ!」

「…わかっている。」

 

 すぐに追いかける為に部屋を出ようとしていた2人だが、元隆の代わりに部屋にいた人物を見て驚いた。

 

「八百万さん?…」

「マジかよ…」

 

「……」

 

 そこには誘拐されたはずの八百万が虚な目をして立っていた。

 

 すると元隆の声が部屋に響き渡る。

 

『おや?知り合いでしたか?

彼女は私の大事な被検体第一号です。

経過観察を見る為にしばらくあなた方に預けます。

 大事に扱ってくださいね』

 

 

「ふざけんじゃねぇ!元隆!百ちゃんに何してくれてんだ!」

 

 刻の言葉も虚しく、再び返事が返ってくることはなかった。

 

 少し、下を向いていた八百万が顔を上げた瞬間、C:Bでもトップクラスの力を持つ2人が闘気だけで一瞬、動けなくなった。

 

 そんな常人離れした八百万の瞳はまるで血のように真っ赤な『紅ノ瞳』であった。

 

 

「『物質創造』、《書庫》(アーカイブ)より刺突・切断に長けた武器を選択、対象をロック、射出!」

 

八百万が機械の様な無機質な声で唱えると、空中に西洋剣が現れて大神達を襲った。

 

「どわっ!!」

 

 刻の足元に剣が刺さる。

 威力、スピードともにかなりのものだ。

 

「百ちゃんの能力は脂質を元に創造する能力だろ!!明らかに無から作り出してるぞ!!」

「ああ、しかも作り出した物を操ってる。

これがやりたかったから、この手の個性を持つ生徒を襲ったのか。」

 

 エネルギー・状態を司る個性・異能と違い、物質を作るタイプの個性は質量を無視している傾向が強い。

 八百万だと、消費している脂質に対して精製できる物質の質量を明らかに凌駕している。

 

 1を10にできる能力が改造・強化されれば0()から物を生み出すことも可能であろう。

 

 

「軌道修正、敵回避対策に射出数を増加……」

 

 次は古今東西あらゆる剣を作り出して射出した。

これは避けられない。

 

「刻!」

「わかってるよ!」

 

 ものすごい勢いで飛んできた剣は突如止まった。

 

 刻の異能は『磁力』。

 彼の前では磁性のある金属は彼の支配下だ。

 

 しかし…

 

「百ちゃんに返すわけにもいかねぇよな。」

 

 刻の力を持ってすれば金属による攻撃は全て相手に返すことができるが刻は八百万を傷付ける気はない。

 

 攻撃が効かないことを学習したのか八百万は次の手を考えた。

 

「鉄成分にクロム、ニッケルを配合、面心立方格子構造で形成…」

 

 

「γ鉄!?」

 秀才かつ科学に精通する刻は八百万の独り言に危機を感じた。

 

 八百万は別成分を配合することで磁性を抑えて武器を作り出した。

 

 

「やばっ!」

『青色の煉獄業火』(サタン・ブレイズ)

 

 刻に向かっていった剣を大神が燃え散らす。

 

「…鉄に炭素配合…」

「!!!」

 

 

 八百万は磁性に続き、熱にまで耐性をを備えた

 

「大神!こっちだ!」

 刻はすぐ様周囲の金属を操り八百万の攻撃の盾にした。

 

「ほとんど洗脳状態なのに対応力半端ねぇ」

「厄介だな。」

「下手に攻撃すると百ちゃんを傷つけちまうからなぁ。

 正義の味方は辛いな。大神クン!」

「黙れ…」

 

 2人の実力的にはいくら魔改造されているとしても学生レベルの八百万に遅れは取らない。

 

 刻は八百万が作り出す武器以外で攻撃すれば良いし、耐熱性の金属だって火力と時間が有れば大神ならお構いなしで燃え散らす事ができる。

 

 しかし、それだけの力を行使すれば八百万を傷つけてしまう。

 

「一気に蹴りをつけたいな。」

 

「あの力…『生命力』垂れ流しだな。

あれなら闇色の辺獄烈火(ベルフェゴール)を使えば気絶させることは出来るが…」

 

「ベルフェゴールだと剣を防げないんだろ。

俺が何とかするヨ」

「何とかって…」

「最近は持参してなかったんだけど、ここが研究室でよかったよ。」

「なるほど。」

 

 2人はニヤリと笑い、一気に勝負を仕掛けた。

 

 先に飛び出した大神に無数の剣が射出される。

 

 しかし、それは瞬時に破壊された。

 地面から伸びる金属の氷柱が武器を壊したのだ。

 

 刻の異能『磁力』で操る事ができる液体『汞』、水銀と言われる常温で液体の金属は刻により強度も形も思うがままの代物だ。

 大神が前に出る前に地面に這わせて準備を整えていた。

 

『汞』は武器を破壊すると次は八百万の体を拘束した。

 

闇色の辺獄烈火(ベルフェゴール)…」

 

 その隙に大神は黒い炎で八百万を包み込んだ。

 

「あぁ…」

 

 黒い炎により生命力を食い尽くされた八百万はそのまま気絶した。

 

 静まり返った研究室に佇む2人と気絶した八百万。

 

 

「元隆櫂鬼は…逃げられちまっただろうな」

「また、将臣に減点されるな…」

 


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