戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—重い事実—

 

 

 

サティアとセシリアに出会ってから、約1年の月日が流れた。

そんな今日この頃、俺は今までにないほど頭を働かしている。

どんなことで悩んでるのかって? それはな、目が覚めたら

 

「う〜ん、ゼアノス………えヘヘ」

 

セシリアが俺のベットで寝ていた。しかも、俺の腕を抱いて。

 

何だ? 何が原因でこうなった? ここら1年、特に気に入られるようなことしたか?

思いつくのは……

 

——ご飯を一緒に作ったり、お互いの下着以外の服を洗濯したり、共同で掃除したり、共にご飯を食べたり、サティアから「まるで新婚みたい」と言われたり——

 

…………………………………………………………………………

 

うぉぉぉおおお! あった! 思いっきりあった! なんぞこれ!?

いつからこうなった!? 気が付いたらなっていたからわかんなかったぞ!

なにこの生活。サティアの言う通りの『新婚』そのものじゃねえか! あれか!? 知らないうちにフラグ建ってたんか!? 嬉しいけど複雑だ!!

 

「ゼアノス〜。起きt……ごゆっくり〜〜」

 

「『ごゆっくり』じゃなくて助けてください。起き上がれません」

 

逃げないでくれサティアよ! くそ、こんなの俺のキャラじゃねえのに。

っておい、ストップ! ウェイト! 部屋から出ないでセシリアを起こして!

 

「しょうがないなぁ」

 

やれやれ、といった感じで近づいてくるサティア。最初は違かったのに、俺が来てしばらくしてから結構お茶目になった。もしかしたら元からそうだったのかもしれないが。

それにしても、ふう、やっと助かる。

 

「私のことを『義姉(ねえ)さん』って呼べたらいいわよ?」

 

前言撤回、助かりません。

セリカよ、お前の将来の恋人は性格が最悪だ。悪いことは言わない、物語が変わってもいいから違う女性と死ぬまで過ごせ。それが幸せへの道筋だ。

サティア行き、という切符は買ってはダメだ。その切符は地獄への一本道しかない。

何故だ。1年前にも思ったが、現神に勝てて何故この二人に勝てないんだ!?

 

「……失礼なこと考えられてる気がする」

 

「何言ってんだよ」

 

外見呆れ顔、内心汗がドバドバ状態です。はい。

 

「ならいいけど、呼べないなら助けてあげな〜い」

 

微笑みながらそう言ってくる。その顔がとても綺麗で、反発できなくなる。そういう点では得だよなぁ〜。

 

「わかった、呼ばない。自分で起き上がるからいい」

 

「そう? 残念」

 

全く残念ではなさそうな顔だ。むしろどことなく嬉しそうな……何だろう?

それにしてもセシリア、こんなことをするってことは、彼女は俺に好意を抱いてくれてるのか? そうだとしたら嬉しいけど、俺の見た目は女だぞ? もしそうなら、俺のどこに惚れるんだ?

 

いや、ただ単に間違えて入ってきただけかもしれないし……だがそれだとさっきの寝言の説明がつかん。

 

俺がうんうんと唸っていてセシリアが起き、悲鳴が上がって俺の頬に紅葉ができたというのは公然の秘密だ。秘密ったら秘密だ。

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

「いいよ、別に気にしてないから」

 

「クスクス」

 

上から順にセシリア、俺、サティアだ。

1年前もこんなことがあったような既視感(デジャビュ)があるが、それは置いとこう。

 

あの悲鳴でサティアがまたここに来て、混乱していたセシリアを放っといて、何があったのかを話した。

その途中でセシリアが混乱から覚め、説明し終わっていない内に謝ってきて今に至る。とは言っても説明するまでもないが。

 

「なあ、何で俺の横で寝てたんだ?」

 

「え!? い、いやただ部屋を間違えちゃっただけよ! 寝ぼけていたからわからなかったの!」

 

「そうなのか、んじゃ次からは気をつけろよ。俺、もうすぐここを出るからさ」

 

前に言った通り、少し経ったら俺はここを出て旅をするはずだった。今までに何回か出ようとしたが、その度に『もう少しだけいて』と姉妹にお願いされ、結局1年もここに滞在してしまい、あと10日以内に出ることを決めたのだ。これもいつも通りに渋られたが、決定は絶対に覆さなかった。残りはあと5日だ。

 

「………うん」

 

「寂しくなるね、ゼアノスがいなくなると思うと」

 

「悪い。でも、もう決めたんだ。大丈夫、生きてればまた会えるさ」

 

俺はこのあと、できるだけ原作を思い出してその地へ行くつもりだからな。何年先になるかわからないけど、会えないなんてことはないだろ。

だからそう言ったのだが、

 

「そう……だね、また会えるよね」

 

赤毛の姉妹が見せる表情は、どちらも悲痛で満ちていた。

 

 

 

Side・セシリア

 

 

 

私とお姉様はゼアノスに隠していることがある。言っても大丈夫かもしれないが、もし駄目だったらと思うと言えないことを隠している。

それは、私達が俗に言う古神だということだ。

 

私のセシリアという名前も、お姉様のサティアという名前も偽名だ。もちろん、セイルーンというファミリーネームも嘘だ。

 

私達の本名は、アイドスとアストライア。

アイドスは私の、アストライアはお姉様の名前。かつては慈悲の女神、正義の大女神と呼ばれた古神だ。

 

争いを止めない人間達に、少しでも争いをやめてほしくて私達は来た。それでも、争いは終わらなかった。

三神戦争が終わり、追われる立場になっても諦めなかった。

そんな日々を過ごしていたある日、オウスト内海の南方の陸地に家を建てて暮らし始めて、7日ほど経ったその日、美しい人が海から流れてきた。

 

その人こそ、私達が嘘をついている人物であり、いつのまにか私の最愛の人となっていた、ゼアノスだった。

 

初めは女性だと思ってた。紫色の長い髪は艶があるし、なにより顔も女顔で、そこらにいる女性よりもよっぽど綺麗だ。というか、海に浸かってたのにサラサラなままというのはどういう原理だろう?

 

彼は、彼を拾ったその日の夜に目を覚ました。そしてその後すぐに、彼が男であると知った。混乱して思わず殺しかけてしまったのは、笑えない冗談だった。『命を助けたその日に助けた本人が殺してしまった』なんて結末にならなくてよかったけど、気絶はさせてしまった。

その後、いろいろあって彼はしばらく我が家に住むこととなった。

 

家事を教えてほしいということで、様々なことを教えた。彼は飲み込みが速く、一つ教えれば他もできるようになっていて、あまり教えられることがなかった。

 

彼の目が覚めたその日の内の深夜。私は何を思ったのか、彼に相談していた。出会って1時間も経っていない相手に、何をしているんだろうと自問自答をしていたが、今ならわかる。多分、あの日からすでに私は彼に惹かれていたんだ。

 

それからも一緒に家事をした。お姉様に言われるまで気が付かなかったけど、まるで新婚の夫婦のように、互いに支え合って生活していた。

 

こんな楽しい時は初めてだった。だから忘れていた、彼が旅に出るということを。

 

「そろそろ旅に出ようかな」と彼が口にしたのは、出会ってから半年程経過した日だった。その言葉に、私とお姉様は思わず動きが止まってしまった。こんな温かい日常なんて今までになかったから、どうしてもそれを手放したくなかった。そしてそれ以上に、彼と一緒にいたいと思う気持ちもあった。

その日はなんとか押し留めたが、それからも何回か言うようになった。

 

彼が旅に出ると言い、私達がそれを止める。それが何回も続き、出会ってからもうすぐで1年になるその日、彼は言った。

「10日以内にここを出ていく。これは絶対に覆さない」と。

 

その言葉通り、彼は何を言っても聞き入れなかった。

私達は姉妹で話し合った。どうすればいいかと。

そして4日目に、お姉様があることに気付いた。

『私達は古神。彼とは種族はもちろん、寿命が違う。だからどちらにしろ、一緒にいることはできない』ということに。

 

そんな現実を思い知り、私は思わず泣いた。こんなに泣くのは初めてだったが、とにかく泣いた。私の中で、彼は途方もなく大きな存在になっていたみたいだ。

 

少しでも一緒にいたくて、でもその想いは叶わない。そんな思考がグルグルと頭の中を巡り、気が付けば私は彼の部屋に入っていた。

寝入っている彼の表情に警戒はなく、見た目麗しい美女そのものだ。

女性の顔をしている男を好きになるなんて、私はそっちの気もあるのかな。と苦笑して彼の顔に触れると、もっと触っていたくなった。もっと彼の温もりが欲しくなった。

 

私が横に並んでも、彼は何も反応しなかった。

いつもそうだ。ドギマギするのはいつも私……達の方。お姉様だって、彼に『義姉(ねえ)さん』と呼ばせたがるけど、彼が呼ばないと言うと嬉しそうにしている。あの人も、彼に気があるからだろう。

 

私達に平等に接し、全く同じ笑顔を見せる。私達のどちらかに特別な表情を見せることなんてない。だから私達姉妹は、お互いに嫉妬している。どちらかに見せる笑顔が出る度に。

 

少しでも近づきたくて、彼の手を取る。本当に、女の人みたいな細い手だ。だけどこんなに近くにいるのに、とても遠い彼はあと5日経てば、どこかに旅立ってしまう。

また会えたとしても、彼は年を取って、私はこの姿のまま。その時、彼はどんな反応をするんだろう?

怖がるだろうか、それとも敵だと認識されるのだろうか。

 

「そんなの、いや……だよ」

 

いっそのこと、自分が古神だと言えればどんなに楽か。戦争が始まる前なら言えただろうが、今となっては言えない。古神は、人類の敵だから。

 

どうすればいいんだろう。どうすれば、彼は私を好いてくれるんだろう。愛して、くれるのだろうか?

 

 

——彼を使徒にできれば、永久に私のモノ——

 

 

「ッ!? だ、だめ。それだけは、絶対に……」

 

頭によぎったその考えを否定する。人の使徒化は、お互いの了承を経てするもの。無理矢理にするものではない。彼と離れるのは嫌だが、嫌われるのはもっと嫌だ。私は、彼に仕えて欲しいわけじゃない。ただ一緒にいたいだけ。

……ここのところ、たまにふと邪な考えがよぎることがあるけど、何でだろう?

 

……それは後で考えるとして、今は彼のことだ。

決意を固めることができたら、明日。できなくても、彼が出て行ってしまうその日に言ってしまおう。私達が、古神だということを。

 

彼が私を信じてくれることを信じよう。

私が古神でも、彼は笑ってくれると信じよう。

でも、それにはやっぱり勇気が必要だから、

 

「今日だけは、いい、よね? ……勇気を、私に頂戴?」

 

手を離して腕を取る。彼の腕は、手と同じように小さい。私の腕を絡めて、顔を近づける。そして………

 

 

 

—————————————○

 

 

 

気が付けば、朝になっていた。

自分から隣に行ったのに、恥ずかしくて変な言い訳をしてしまった。それだけならまだしも、思いっきり引っ叩いてしまった。彼は許してくれたけど、心は憂鬱だ。

 

「はぁ」

 

「アイドス、どうかしたの?」

 

振り向けば、そこにいたのはお姉様、アストライア。

 

「ううん。少し、鬱になっていただけ」

 

「……あれはやりすぎだと、私も思うわ」

 

そうよね……

 

「でも、随分と大胆なことをするのね」

 

ニコニコと、いつものような顔でそういうお姉様。いつもなら安心して見られるけど、今日はそういう目で見られない。だって、目が笑ってないもの。

 

「……言いたいことがあるなら、ちゃんと言ってよ」

 

「………」

 

私のそんな言葉に、笑顔の仮面が取れて、嫉妬で歪んだ表情が現れた。けれど、すぐにその顔はなくなった。

 

「言いたいことなんてないの。ただ、不器用に素直な貴女が羨ましかっただけ……」

 

それは本心だということはわかった。でも、なんでお姉様は彼に何もしないんだろう?

いつも、私達を煽るだけで、自分は何もしないで……

 

「そう……ねえお姉様。私、今日ね、彼に教える。私達が、人間じゃなくて古神だって。そのために、彼から勇気をもらったの」

 

「だから、あんな所で寝てたのね?」

 

「うん、そうだよ。……お姉様、何でお姉様は、私達を煽るだけで何もしないの? 彼のこと、好きなんでしょ?」

 

「……確かにそうね。私は彼が好きよ? 多分、これが初恋というものなのだろうけど。でもね、なんだか彼は私よりも、貴女のことを見てる気がして、身を引くことにしたの」

 

その言葉に、私は驚く。私からしたら、彼は私達のことを同じように見てると思ってたからだ。でも、もしそうなら……

 

「でも、それならお姉様はどうするの? 彼のこと、諦めるの?」

 

「それしかないと思う。彼、私のことを恋愛対象として見てない気がして。……ただの女の勘なんだけどね」

 

そう言って笑うお姉様。でも、その笑いにいつもと同じ元気さはない。

 

「……ねえアイドス。彼は、ゼアノスは私たちのことを聞いても、笑ってくれるのかな?」

 

「笑ってくれるって、信じよう? まず私達が信じないと、相手は応えてくれないよ?」

 

これで、私達姉妹の会話は終わった。

二人でゼアノスの部屋の前に行き、扉をノックする。

 

「ん? どうかしたのか?」

 

中から聞こえてくるのは、私が大好きな人の声。

 

「ちょっと大切な話があるの。中に入ってもいい?」

 

「ん、いいぞ」

 

お姉様と顔を合わせ、頷いてから入る。

ゼアノスはベッドに腰掛けており、私達の声色で真剣なのを察してくれたらしく、あまり見られないとても真面目な顔をしている。

 

「で、どうしたんだ? 二人揃って」

 

「あのね、私達、貴方に隠していたことがあるの」

 

「ずっと貴方に嘘を吐いてたの、ごめん」

 

二人で頭を下げる。本当に、心の底から申し訳ないと思ってるから。

 

「頭を上げろよ。それだけ知られたくなかったんだろ? だったら構わないさ、それがどんな内容でもな。それで、どんな隠し事なんだ? あ、ただ言うのには勇気がいるだろうし、勇気を出すのに頑張ったんだろ? 待っててやるから、ゆっくりでいいぞ」

 

……その笑顔が、その優しさが、とても嬉しい。

そんなに優しくて、気が利く貴方だから、私は好きになれたのかもしれない。

 

「ううん、大丈夫だよ。ね、お姉様?」

 

「うん、大丈夫」

 

「そっか。なら聞こうか」

 

今までに、ここまで緊張したことはなかったかもしれない。

深呼吸して、彼の目を見て言葉を紡ぐ。

今までずっと黙っていたけど、やっと言える。

 

「「私達は……古神なの」」

 

言えた。これで、どんな反応をするんだろう?

彼は一瞬ポカンとした顔になって、そして……

 

 

 

 


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