戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

7 / 56
—いろいろな意味で衝撃!—

 

 

 

 

気が付くと、目の前に空があった。どうやら起きたらしいが、ここは……

 

「知らない天井だ」

 

「っ!? 気が付いたの!? よかったぁ」

 

な、なんだなんだ!? 今のは誰だ!? っていうかここはどこだ!? 記憶が確かなら俺は宮殿の中で寝て、海に流されてるはずなのに……。

あ〜、もしかして俺ってば海上でずっと寝てて、それに気が付いた誰かが引き上げてくれたってやつ? んでもって現在進行形で看病してくれてるわけ?

 

「もぅ、海を見てたら貴女が流れてくるんだもの。とても驚いたわよ?」

 

「あ、そうなの? ありがとう」

 

長い赤い髪の毛の女性が(それしかみえない)、ちょっと離れた場所からそう言ってくる。やっぱり助けてくれたらしい。

 

それよりも、さっきの『あなた』にちょっと変な感じがしたんだが……まさか……いや、ありえる。なにせ俺の顔は女だもんな。……ハァ、鬱だ。

 

「ハァ…」

 

「突然どうしたの? 溜息なんかついて。体調でも悪い?」

 

「そうではなく、え〜っと、言っとくけど、俺、男だからな?」

 

「………」

 

「………」

 

耳を塞ぐ。こういう時は大抵そうなるから。

 

「「えええええぇぇぇぇぇーーーー!!??」」

 

うぉ! 耳を塞いでんのにうっさ!

ていうか今二人いなかったか? もう一人いるのかな?

 

「え、ちょっと。君って本当に男なの!? ねぇ!?」

 

やたらと整っている、さっきまで話していた女性が俺の胸辺りを触りながら聞いてきた。……何回触れば気が済むんだ? ってうお!

 

「胸がない……じゃあ言う通りに男なの? ねぇ、どうやったらそんなに綺麗な髪になるの!? 海に浸かってたのに何であんなすぐにサラッサラになるの!? ねえ!?」

 

今度は首を掴んで聞いてくる。いや、答えるから離してくれないかな?

そんな思いを込めて、後から来た女性にアイコンタクトをとる。

あれ? どっかで見たことある顔だけど、どこでだ? ……ん〜思い出せない。

 

「あ、あの。ちょっとアイ「お姉様は黙っててください!」……はい…」

 

弱っ! 会話からして姉か? 姉さん激弱っ!! もうチョイ粘ってよ! 主に俺のためにさ!

 

「聞いてる!? どうやったらそんなに長い髪を枝分かれなく維持できるの!?」

 

「………………」

 

「しかも男でこの顔? ……私と同じくらいかな? ……ねぇお姉様、どっちが綺麗?」

 

「あのね、さっきから言おうと思ってたんだけど……」

 

「うん、どっちが綺麗か教えてくれるんでしょ?」

 

「そうじゃなくて、その……」

 

「? どうしたの?」

 

「彼女……じゃなくて、彼の首絞めてるわよ、あなた」

 

「へ? ……」

 

「………」

 

「あ」

 

 

 

—————————————○

 

 

 

「ごめんなさい」

 

「本当に、妹がごめんなさいね、ゼアノス」

 

「うん、大丈夫。助けてくれたから問題ない」

 

あの後、俺は首を絞めていた女性の姉らしい人物によって助けられた。一応自己紹介は済ませてある。相手方の名前はまだ聞いてないけど。

それにしても焦った……現神に勝ったのにその後直ぐに死にかけるとか、しかも恩人に殺されかけるとか。ないわ。

 

あ、あとあの魔王達の神核も無事だ。だって異空間に入れて仕舞ってあるから。

全く成長していなかったが、これからちょくちょく見ることにしよう。

 

「ほんとにごめんね?」

 

俺の首を絞めていた人は、気が付くなりずっと謝ってる。本来はちゃんとした性格らしいが、あのときは極度のパニックになったらしい。

俺としても、この顔で男とか言われたら、俺ではない場合はパニックになるかもしれない。そう考えると、あまり動揺してなかった現神達はおかしいのか? ……おかしいんだな。うん、決定。

 

「謝罪はいいからさ、名前教えてくれない?」

 

「あ、そういえば君の名前は聞いたけど、私達のは言ってなかったね。それじゃ、まずは私。この娘の姉の、サティア。サティア・セイルーンよ。よろしく」

 

「私は妹のセシリア。セシリア・セイルーン。よろしくね」

 

にっこりと笑ってくる二人。

……言わせてもらおう。なんでさ。

やっと思い出せたよ、彼女のこと。ずっと引っかかってたんだよ。

 

「サティアとセシリア、でいいのかな? 改めてゼアノスだ。こちらこそよろしくな」

 

俺も笑顔で挨拶をして、二人と握手する。

……最近握手した回数が多いな。

それにしてもこの二人、とても可愛い。セリカがサティアのことを好きになる理由がよくわかる。実際に見るととてつもない破壊力だ。性格もいいし。

こんな彼女らを殺そうとする現神の気持ちがさっぱしわからん。

 

あれからいろいろと話をして、あれから結構な日数が経っていたことがわかった。戦争は終わり、現神が勝利したらしい。ただし一つの伝説……という名の、公然の事実も残ったらしい。

それは、『最強の魔神・凶腕』というものだ。その内容は、

 

『普通の両腕に加え、それとは別の異形な黒と白の『腕』を肩から生やした魔神で、第一級の現神全員と同時に戦い、そして打ち勝った者』

 

だ。あとこの一級神には、マーズテリアも入っている。あの戦争の後に昇格(?)したらしい。

 

それと、どうやら名前は広まっていないらしい。というのも、これには理由がある。多くの古神や魔神の間では、 凶腕は英雄として扱われているのだとか。だからその英雄と共に現神に仕返しするのを、最低限留めるようにしたのだとか。

そうなると、一つ疑問が残る。仕返しされるのを留めたいなら、何故負けたことを公表したのか? と。だがそれは簡単に答えが出る。それは、俺との取引のためだ。

 

討伐対象にしないと誓わせたのに、その内容を神格者や信徒が知らなければ、それは大惨事の引き金となる。かといって名前を広めたら、その名を騙る偽物が現れるかもしれない。それではどちらにしろ攻撃できない。すなわち他の魔神が倒しづらくなる。

それで、凶腕という特徴だけを広めたのだとか。まあこれならマネできるやつもいないだろう。その凶腕の特徴を知る限り広めたらしいから。

 

まず黒色と白色で変幻自在、消滅しても再生可能な腕。等々。確かにこんなんができるのは、世界広しといえども俺だけだろう。

いやはや、めんどくさいことをさせてしまったな、現神達には。とはいっても、反省なんぞ丸っきりしとらんが。

 

それにしても、10年とは驚いた。ん? 何の年数だって? 三神戦争が終わってからの年数です。つまり俺は10年間ずっと、時に浮きながら、時に沈みながら、時に流されながら寝ていたということだ。

……よく起きなかったな、俺。

 

「私達からしたら、何で10年前以降のことを全く知らないのか気になるのだけど。ね、セシリア」

 

「そうね。ゼアノス、この10年間何してたの?」

 

「……海に流されたことは覚えてるけど、それ以降の記憶がない」

 

嘘ではありません。一個も嘘は吐いてません、言葉が足らないだけです。なになに、そっちの方が殊更悪い? 気が付かなければ問題ない(モーマンタイ)です。

……気が付かなければ大丈夫って、嘘と同じだね。ごめんなさい。

そんな俺の心境なぞ知らず、

 

「そうなの? じゃあ漂流して頭でもぶつけて、一部記憶が抜けてるのかな?」

 

「そうかもしれないわね……家とか、どこにあるかわかる?」

 

「……海に沈んだ」

 

「あ……いいえ、嫌なこと思い出させちゃってごめんなさい」

 

頭を下げてくれる二人。

止めてください、とてつもない罪悪感に見舞われるから。その、シュン、とした表情止めて。貴女方は何にも悪くないから。むしろ悪いのは俺だから! 嘘は吐いてないけど悪いのは俺だからその顔は止めて!

 

「いいよ、もう過ぎたことだし」

 

「……強いんだね」

 

そう言って笑顔を見せてくれるセシリア。……その笑顔は俺にとって眩しすぎです。もはや女神と言ってもいい。

……慈悲の女神でしたね、そういえば。

 

「とりあえず、助けてくれてありがと」

 

「いいのよ、困ったときはお互い様だから」

 

「お互い様か。なら、なんか頼みとかないか? 命を助けられた分、恩返しするが? とはいっても、俺はこれから旅をするつもりだから、家のことは手伝えないけど」

 

その言葉に最初は渋っていた二人だが、なんとか説得できた。内容? 割愛させていただきます。でも結構二人から好かれたというのはわかった。

……好かれたというのは恋愛的な意味じゃないよ?

 

「そう……じゃあ一つお願いするわね」

 

そう言ったのはセシリア。俺は頷くことで肯定する。

 

「お互いが生きている間に、もし私がピンチに陥っていたら、その時に助けてくれない? もちろん、できる限りでいいから」

 

セシリアが言った、『お互いが生きている間』というのは、俺のことを人間だと思っているからだろう。人間の寿命は、神からみれば短すぎる。

 

「わかった、セシリアはそれだな? サティアは?」

 

「そうね……じゃあ、私も同じ内容でいいわ。危なくなったら助けてくれれば」

 

「わかった。出来る限り頑張るよ」

 

これは一種の決意表明だ。出来るだけ助けてやりたいからな。

 

「あとさ、しばらくはここにいていいかな?」

 

「もちろん! むしろ大歓迎よ。ね、お姉さま?」

 

「ええ、いつも私達だけだから、お客さんがいた方がいいわ」

 

さっきと同じように笑う二人。やはり、二人だけだというのは、どちらも古神だからだろう。昔は信仰されていたのに、今では邪神扱い。それでも人間のために行動をしているが、万が一ばれれば討伐されることになる。……たった10年でよくそんなに変わったもんだ。

 

そんなことで、二人は人間と共に行動するなんてできない。人間が一方的に年を取ってしまうからだ。

 

「それじゃ、さっきも言ったけど改めてよろしく! 旅に出るまでは家事とか手伝うよ。……できるかわからないけど」

 

「できるかわからないって、不安ね……。よし、だったら私が教えてあげる。ちゃんと一人でも生活できるようにしてあげるから、しっかり覚えてね?」

 

「はは、お手柔らかにお願いするよ」

 

「それは貴方の出来次第よ。でも、今日は何もしなくていいわ。起きたばかりで疲れてるでしょうから、寝ておきなさいよ」

 

「もう大丈夫だよ、特に心配することなんてないよ」

 

「もし途中で倒れたらどうするの。大丈夫でも、少なくとも明日までは動いちゃダメ」

 

本当に平気なんだけどなあ、寝てただけなんだし。でもやっぱ心配してくれてるんだから、言うことを聞いた方が良いか?

 

「はぁ、わかった。大人しくするよ」

 

なんだろう。現神×6に勝てたのに、これでは俺がまるで子供みたいだ。あれか、慈悲の力でも働いてんのか?

 

「そうそう、それでいいのよ。丁度夜だしね」

 

そういえば、周囲が暗かった気がする。ずっと話してたから気が付かなかった。

 

「そっか、どちらにしろやることがないのか。わかった、セシリア、サティア、お休み」

 

「ええ、お休みなさい」

 

「お休み、明日はがんばってね」

 

そう言ってから、二人は退室していった。

そういえばここはどこらへんだろう。オウスト内海近くというのはわかったが、それ以外がまったくわからない。まあ明日にでも聞けばいいか。

そうまとめて、俺は寝ることにした。

……10年も寝てたくせにまた寝るとか、どれだけだし。

 

 

 

—————————————○

 

 

 

俺が寝てしばらくした頃。誰かが、部屋に入ってきた。……誰だ?

 

「ん……誰だ?」

 

「あ、起きちゃった? ごめん。私、セシリアよ」

 

セシリア? 一体何の用だ?

 

「どうかしたのか?」

 

「うん。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

 

「なに? 正直、俺は眠いからまともな返答ができるかわからないよ?」

 

「それでもいいの。むしろ、寝てる貴方に聞いてもらって、答えてもらうつもりはなったから、そっちの方がいいかも。……あのね、人間は何で争いをやめないんだと思う?」

 

これは……

 

「何故それを俺に聞く?」

 

「ううん、ちょっと気になっちゃって、私ではわからなかったの。お姉様もわからなかったから、次は貴方に聞いてみようと思ったの」

 

「そっか……そうだな、何故人間は争い続けるのか、それが人間だからだ」

 

「え?」

 

わからないって顔をしてるな。まあ俺は元人間だが今は魔神だ。だからあの時と比べれば、少しはわかるようになってきた。

人間のことを一番理解しているのは人間ではないってことが。

自分は所詮自分に過ぎない。だから人間が一番理解しているのは自分という人間だけだ。だから元人間の人外が見れば、それがわかるようになってくる。

 

「人間は数多の生き物の中でも、トップクラスに欲が強い。欲の中にも色々あるが、多くの人間が最も望むのは、『異性』と『金』だ。それを両方とも簡単に得られるのが、高い権力を持つ地位だ。その地位がもっと欲しいから、他国へ侵出する。侵出された国は自国を守るために戦う。つまりは、心のせいだな」

 

そこで一旦区切る。セシリアが何か考えてるような仕草をしているからだ。「続けていいか?」と聞くと、頷いて答えた。

 

「他の理由に、『あの国では神を信仰していないから異教徒だ。いずれ災いを呼ぶからそのまえに消そう』とかいうよくわからん理由もあるがな。そう思えば、神が原因ってことも、なくはない」

 

そこまで言って見てみると、セシリアは悲しそうな表情をしていた。

……言い過ぎたかもな。

 

「すまん。だがこれは俺の考えだ。正しいかどうかはわからん。だがこれはいえる。『人間は争う生き物』だ。ま、これの酷くなったバージョンが魔神だな。……一部を除いて」

 

「いいえ、正しいか間違ってるかはともかく、答えてくれてありがとう。……今は、貴方の答えが聞けて満足してるわ。起こしちゃってごめんね?」

 

「だからそれはいいって。……とはいっても聞かなそうだな……よし、なら家事を教えてくれる際に、厳しくしないでくれ。それが交換条件でどうだ?」

 

途端にポカンとする顔。うわ、メッチャ可愛い。

 

「クスッ、何よそれ。いいわ、ならうんと優しくしてあげるわよ。私に惚れちゃうくらいに」

 

「はは、そう? もしそうなったら楽しそうだ。それじゃ今日はここでお開きだな」

 

「そうね。……ゼアノス、お休み」

 

「ああ、お休み」

 

部屋を出ていくセシリア。今日初めて会ったのに、随分とフレンドリーに接してくれたものだ。姉妹揃って警戒心がないのか?

……くそっ、物語ではあの姉妹が不幸のどん底に堕ちてしまうはずだが、肝心な中身が思い出せない。

 

……最善でなくとも、最悪だけは起こさせない。絶対に。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。