戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

6 / 56
—三神戦争での死合・後編—

 

 

隙だらけのアーファ・ネイを双手で捕らえたのは、何も殺すためではない。巨大化させた双手内に収めることで、外からは見えないようにしただけだ。

では何故捕まえたのかというと、一々防御されたり回復されたりすると面倒だから、異空間に送り込むためだ。

あ、異空間ってのは空間操作で行ける空間のことだ。【歪の回廊】って名前を付けた。

 

「貴様っ! よくも!」

 

「よくも母様を!」

 

歪の回廊に閉じ込めたのは、彼らからすれば突然消えたように見えたはずだ。だからなのだろうが、アーファ・ネイの子供であるアークパリスとパリス・ネイが斬りかかってくる。傷のせいなのか速度が遅い。とはいえそれが狙い目だったのだが、こうも簡単にいくとおもしろくない。

俺は光速で動いて一気に近づき、両手でその二柱の神の顔を掴む。

 

「遅い」

 

掴まれたのを自覚したのか、ジタバタと抵抗しているが意味はない。

神罰を受けた時と同じように双腕で自身を包む。その際、掴んでいる彼らもその球体に入るように包んだ。そしてそのまま、異空間に送り込んだ。

 

「さて、あと半分だな」

 

双腕を球状から元に戻し、俺が先程創った眷属たちが戦っていた場を見れば、他には誰もいなかった。俺の分身であるその二柱の魔神によって、殲滅させられたようだ。

とりあえず、俺はバリハルトが大嫌いなので、

 

「やれ」

 

「グハァ!」

 

その眷属×2で奴の胸に穴を開けてもらった。

バリハルトが死んで原作がここで終わったらどうしようかと思ったけど、どうやら神核は破壊できなかったようで、瀕死だが一応生きているらしい。……チッ!

そのまま2柱の体を歪の回廊へと変化させ、異空間に閉じ込めることも忘れない。

 

「これであとは、あんたらだけだな。どうする? 降参するなら今の内だぞ」

 

「……我の妻と子供の仇に、降参なんぞすると思うてか!?」

 

「その通りだ! たとえ我より強くとも、決して最後まで諦めはしないっ!」

 

アークリオンとマーズテリアが激昂して声を張り上げる。次いで来るのは神聖魔術。それを回避しながら、歪の回廊と化していた2柱を消す。それによって、供給していた魔力が俺の中に戻った。

 

「また魔力が上がりおったぞ!」

 

「く、どれだけの力を持っているというのだ!?」

 

魔力が戻ったことを、魔力が上がったと勘違いしているがまあいい。

こちらも暗黒魔術などを放ちながら近づいていく。今度は魔術ではなく、必殺で戦おうと思ったからだ。

 

原作のセリカなら、【必殺・飛燕】というスキルを使っていた。俺はそれにちなんで、自分に合う技を、ここ数百年の間に考えていたのだ。

それを今、この実戦で出すことにした。その戦闘スキルは、【必殺・破撃】。俺の固有技も入ってるけどな。

 

ということで記念すべき第一弾、【ブラッシュ】。直線に進む鎌鼬(かまいたち)を飛ばす技だ。

 

飛ぶ斬撃が、マーズテリアへ向かう。持っている剣で防御しようとするが、傷だらけの体で受け止めるには無理があったようで、衝撃に耐えられずにそのまま吹き飛ぶ。

その隙を逃すはずがなく、俺は恐腕で異空間へ送り込もうとした。

 

「そうはさせぬ! 【断罪の神威】!」

 

が、アークリオンによる神聖魔術が命中し、恐腕が半分ほど消し飛ぶ。

 

「アークリオン様、ありがとうございます」

 

「礼は後にまた聞く。今はあの魔神をどうするかだ。恐ろしき腕の片方を消滅させることに成功したが、勝てるかどうか……」

 

俺の片『腕』を消せたと思ってるな……残念ながら魔力を込めれば簡単に再生するんだが、まあ勘違いさせておこう。その方が後々おもしろそうだ。

 

「おー、流石は主神だ。油断したよ。……でも、やっぱ甘いね」

 

俺の狂腕はもうそこにあるんだよ?

ここは空中だから、白い色は見えにくい。だからお前らは、後ろにあるソレに気が付けなかった。それが敗因だ。

 

「!!」

 

マーズテリアが、後ろに何かがあるのにようやく察して詠唱に入る。だが、遅い。狂腕の捕獲準備は整っている。

 

「しまった!」

 

アークリオンが後悔の音を上げるが、あとはもう彼一柱しかいない。『腕』に掴まれ、マーズテリアはすでに異空間の中だ。

怒りの感情を隠そうともせずに、こちらを向く。

 

「……やってくれたな。おかげで残るは我のみだ。そなたは、真に魔の神だ」

 

「だから初めに言っただろ、『狭間の魔神』だと」

 

「そなたが現神であれば、最年少とはいえども主神の位を任せられたのだがな」

 

「そんなありえないIfの話なんかするなよ。俺は魔神だ、現神じゃない。……でだ、降伏する気とかないか?」

 

「降伏なんぞしようものならば、そなたに殺された皆に顔向けできぬ。ゆえに、そのようなことはせぬ!」

 

力強く言い切る。だがしかし

 

「いや、あいつら誰も死んじゃいない。異空間に閉じ込めているだけだ」

 

「な、なんだと?」

 

驚きの顔をしているアークリオン。かなりのレアものだな。てか俺って今日だけでかなりの数のレアものが見れたんじゃね?

 

「……嘘ではなかろうな?」

 

「本当だ。こんなわかりやすい嘘なんか言うか。……それで、こいつらは助けてやる。それを交換条件に取引しないか? なに、お前らに不利なことは言わない」

 

「……にわかには信じられぬが、何だ?」

 

「一つ、この戦争は現神の勝利でも構わない。……機工女神に勝てればの話だがな。二つ、俺とその仲間を神殿等の討伐対象にしないことだ。個人的な問題やただの干渉なら別にいいが、現神絡みで俺を殺そうとするものは殺し返す。三つ、そのための、殺し返しても良いという許可を俺に譲渡すること。……これだけだ、簡単だろ? これらをしない限り、俺は基本、現神勢力には手を出さない」

 

「……それで、そなたにどのような得がある? この戦争で現神をそなたが殺せば、必然的に古神の勝利となろう。だのに、何故我らの勝利で構わないと?」

 

「あのな、俺は古神の仲間ではなく魔神だ。今回俺がでたのは、古神とも呼ばれている魔王の、仲間の頼みだったからだ。正直、戦争の勝敗にはあまり興味がない。どこが勝とうが、俺ら魔神は追われ続ける。だったら最も良心的(正義感が強そう)な現神を残して取引、もしくは同盟を組んだ方が追われずに済むだろうが」

 

本音を言えば、この場で原作は壊したくないということだ。ネルガルが滅されたようだからここは変わってしまったが、しばらくは変えたくない。そうしなければ、セリカとアストライアの出会いもなくなってしまう。少なくとも、二人が出会うまでは変えたくない。

……その先? んなもん知らんがな。自由気儘に動くつもりだ。

 

「理由としては確かに理解はできる……が、納得がいかん。されど、ここで全てを滅ぼされるのは我も望まぬ。……いいだろう、その取引を受けよう」

 

「今の話、全部他の奴らにも伝えろよ? あれは全ての現神を対象としているから、気が付いたら一柱死んでたってことにもなりかねないぞ?」

 

「わかっておる。我もそれを守り、他の神にも守るように伝えることを約束し、契約しよう」

 

そう言って手を差し出してくる。握手か?

見る限り魔力や神力が込められていないから問題はなさそうだが、随分とスムーズに進んだな……修正力でも働いたのか? それとも俺が本気でそれを守ると思ったのか?もちろん守るが、敵をこうも簡単に信じるとも思えない。

……………………ま、いっか。

 

俺も手を出して握手をする。手を離しあってすぐに恐腕を再生させる。

お? アークリオンがまた驚いてる。

 

「……消失してはいなかったのだな」

 

「消えはしたさ、だがこれは俺の一部だ。俺が生きている限りは再生し続けるぞ」

 

「そうであったか……どちらにしろ、我らに勝ち目はなかったのか……」

 

遠い目をしている爺さんはほっといて、歪の回廊を六つ展開させる。全員バラバラの異空間に転移させたので、一度に還すのは無理だからだ。

 

ほどなくして、傷が比較的浅い二柱、パルシ・ネイとアークパリスがでてきた。

 

「ここは……現世か!?」

 

「ということは、父様が勝ったのだな!? ……っ!? 貴様は!?」

 

異空間に閉じ込められていたその兄妹は、脱出できたことを喜び、勝利を確信した。でもって俺の姿を見つけて攻撃態勢。

……早速取引に反しそうだな。

 

「おい、あれは殺してもいいのか?」

 

「説明してないのだからこうなるのは必然であろう。待っておれ」

 

俺の冗談を真面目に返し、二柱へ説明しに行くアークリオン。

もちろん彼らだけでなく、他の現神も異空間から還ってくるので、そのたびに説明をしに行ってる姿は、どっからどう見ても主神には見えない。それを聞いて納得がいかなそうにしている他の現神も、とても神にはみえない。見た目からして、孫とそれを落ち着かせようとしている爺さんだ。

 

全員に説明が終えたようで、こちらに戻ってくるアークリオン。過半数は納得していなさそうな顔をしている。特にバリハルトがそうだ。

それに反して、マーズテリアとアーファ・ネイはどこか納得しているようだ。後で分かった話だが、マーズテリアは「戦って負けたのだから、勝った相手の言うことを聞くのは道理だ」という理由。アーファ・ネイは「殺されてもおかしくないあの状況で、殺されないだけでも感謝したい」とのこと。同じ神でも器が違うなと思った瞬間だ。

 

アークリオンともう一度取引の内容を確認し合い、再度握手。アークリオンも「必要以上に死ぬものが少なくなる方が良い」と、最善ではないが最悪ではないので、俺にそこまでの悪い印象はないようだった。

 

最後に、ベルゼビュート宮殿は俺が住むから破壊するなと言っておくのを忘れない。後方で何やら嵐の神が煩かったが、無視して宮殿へと向かう。現神もここにいる意味がないので、早々に帰還していった。

 

 

 

———————————☆

 

 

 

宮殿に着くと、そこはもうおれの知っている場所ではなくなっていた。生き物——とはいっても魔族だが——の気配はほとんどないし、至る所に戦いの傷跡が残っている。

宮殿の最奥、玉座の間にたどり着いた。ここは、俺が初めて神の墓場以外で足を着けた場所。友というべき家族ができた場所。その友とバカをした場所であった。

 

感慨にひたっていると、足元からキラキラと粒子のようなものが湧いてきた。どうやら無害らしいが、それは俺を中心にぐるぐると回り続けている。

両手を前に出すと、その物体が集まりだして一つの形となった。それは

 

「……神核、か?」

 

心臓のような形で、時折脈打っていて気持ち悪いがこれは確かに神核だ。よくよく感じ取ってみれば、ここにいたであろう七つの大罪の魔王達の魔力が感じられる。

つまりこれは、七柱の古神の融合体といっても過言ではない生命体ということになる。

 

将来どのような姿になるのか、どれだけ強くなるのか、魔王であった頃の記憶があるのか、あったらあったで全員の記憶が混ざった記憶なのか、などなど疑問は尽きない。だがそれよりも、形が違えども友が生きているということに、喜びが隠せない。

 

しばらく嬉し泣きをしていると、宮殿全体がガクンと揺れた。そしてズズズ、という音と共に、宮殿の欠片がポロポロと海に落ちてゆく音もする。

崩れてるというわけではないようだが、少しずつ落ちて行ってるような……

そこで思い出す。

 

「そういえば、オウスト内海に沈むんだっけ? これ」

 

最近は原作の知識が薄れていってるので、そのことをすっかり忘れていた。しかし、もっと後に落ちると思ってたんだが、気のせいか? それとも攻撃を受けすぎて浮遊する力を失ったのか?

……つーか

 

「これって、俺も一緒に沈むってオチか?」

 

それは勘弁願いたい。気が付いたらネルガルの代わりに俺がパイモンに起こされることになってしまう。そんなカッコ悪いマネできるか。というかそれだと原作に入れねぇ。

とりあえず、いつ浮上してもわかるようにする感知魔術。そしていつでもここに来れるようにするための転移陣を張っておく。

 

こうすれば原作を完璧に忘れてしまっても、おのずとわかるだろう。ここのことは絶対に忘れないだろうし。

 

……いろいろ考えたが、俺が一緒に宮殿と沈んでもいいかもと思った。別にマゾに目覚めたわけではない。流れに身を任せるってのもいいかもと思っただけだ。

一緒に沈んだとしてもここで眠りにつくわけじゃないし、むしろずっとここにいることの方が確率的には低いだろう。

 

海水が入ってきたら、俺は恐らく流されて内海に出る。そこからは潮の流れに乗ってどこかに漂流してそこで生活する。

……ヤバイ。結構スリルがあって面白そう。

 

というわけで俺は今玉座に座っている。もうすぐで海水が浸水してくるが慌てない。このくらいで死にはしないだろう。

ここで寝て、起きたらどこにいるのだろう? はは、楽しみで寝れねぇ。600年は生きてんのに、まるで遠足に行く前日の小学生みたいな心境だ。

………規模は桁外れだけどな。

 

さて、無駄なことを考えるのは止めてとっとと寝よう。そろそろ水が来るだろう。それでは次に目が覚めるその時まで

 

「お休み……」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。