その分雑になっているかもしれませんが、大目に見てください。
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感想もぜひ。
暴れるだけ暴れまわり、やりたい事だけをして、呆気なく消えていった魔神ゼアノス。
消えた際に周囲に溢れ出た魔力を吸収しながら、ハイシェラは口を動かした。
「……奴の気配が完全に消えておる。どうやら、今度こそ消滅したようだの」
吸収した魔力によって、まだしばらくは現世に留まっていられる。それを確認したハイシェラは、セリカに視線を向ける。これからどうするのか、という意味を込めている。
「小休憩を挟み、それから動くのが最善だと思うが……それでどうだ、メンフィル王」
「ああ。そうでもしなければ、この先どうなるか分からん。あの傍迷惑な魔神のせいでな」
憎々しげにリウイは言葉を紡ぐが、それも仕方が無い。今までに二回しかまだ会っていなかったが、どちらもマイナスの印象しか与えられていないのだから。特にゼフィラの一件は確かにプラスになったが、その経過を見ればマイナスの方が大きいだろう。
そして普段は表情が変わらない無表情面のセリカだが、今のセリカは誰が見ても気落ちしているのが丸分りである。小休憩を挟むことを提案したのも、無意識の内に落ち着く時間が欲しかったからだ。
女神の肉体は、セリカという人間の魂には過ぎた入れ物(器)である。維持し続けるには、一定以上の魔力が必要で、だがその程度の代償で完全に保てるわけでもない。少しずつ、というよりもほんの微量にだが、肉体に耐え切れずに魂が消えていってしまうのだ。その魂の消滅を防ぐため、セリカは魂の代わりに記憶を無くし続けている。
その儚い記憶の中で、ゼアノスは数少ない、思い出に残る友人だったのだ。
どんな理由にせよ、そんな友の一人を失ってしまったのだから、気落ちしてしまうのは仕方のない事だろう。
セリカがゼアノスと斬り合った剣を何気なく見れば、随分とボロボロになっていた。これでは下級ならともかく、上級の悪魔族すら斬る事は叶わないだろう。
気持ちを切り替えて、さてどうするかと思考を始めた直後に、ハイシェラの声が響いた。
「流石はゼアノスと言うべきか。かなり強力な魔剣だの」
その手に持つのは、ゼアノスが【エルサレム】と呼び、愛用していた双剣だった。
「ほれ、我と御主で使ってやろうではないか。奴の遺品だの」
「……すまないな」
セリカを少しでも慰めようとしているのか、ハイシェラはいつもと変わらない笑みを浮かべながら、
セリカもそれに倣って剣を振るう。
剣にはゼアノスの魔力が込められており、ちょっとやそっとでは壊れない。狂戦士と化したゼアノスが頻繁に床に叩きつけていたが、それでも罅一つないのが良い例だろう。
何度か振るい続けていると、突如異変が起こった。
「なに……!」
「セリカ!!」
「「セリカ様! ハイシェラ様!」」
セリカとハイシェラが持っていた剣が、発光し始めたのだ。
二つの剣が、部屋全体を覆うほどの光を放っている。ルナ=クリアとエクリアやテトリは、近づきながらも叫ぶ事しかできず……
「これは、一体……?」
その光は静かに収まり、何も変わりのない二人が佇んでいた。メンフィル組も、そんな不可思議な現象を見て、結局は一か所に集結する。
セリカ自体には何も変化が無かったが、ただ一つだけ変わっていた事があった。それは……
「うわ、何よこの剣っ! 聖剣……どころか神剣の類じゃない!? ここまで強いと私には毒なんだけど!?」
「確かに……私の持つこの聖剣を軽く凌駕する神聖な力を感じます」
カーリアンとシルフィアの言葉は、正しく的を射ていた。だが正しい知識を持つ者はこの場には当然おらず、その神剣が何なのかは分からない。
ただその神剣は黄金色で、十字架を模した天秤の形をしていた。
「む、この神気、どこかで……しかし我が持っていたのは何処へ行ったのだ」
「……」
唯一ハイシェラだけは何やら覚えがある様子だがいつの間にかなくなっていた剣を探し、セリカは何か思う所があるのか、ジィッと凝視している。
そこに。
――――コツ、コツ
「――――――ッ!」
部屋の奥から足音が聞こえ、全員が一斉に戦闘態勢となる。
そこはちょうど、セリカやリウイが通った道ではない……つまり、宮殿の最奥へ続く道だ。
ということはゼアノスと同じく、深稜の楔魔かディストピア勢力のどちらか、もしくは新しい勢力なのか。
皆は緊張で動かず、件の足音しか聞こえない。
そして見えた姿は――――――
「ゼアノスが倒されるとは……手加減でもしたのか?」
白銀の女だった。
その髪も、肌も、鎧も、剣さえも。
その存在のあらゆる個所から、何もかもが、白銀の輝きを放っている。
「ぐ――ッ!」
ズシンッ! と、空気が重くなる。
その白銀が放つ威圧感は、先程倒したゼアノスを越えていたから。
凶腕としてのゼアノスならば、それすらも越える威圧感を持つが、ゼアノスが『凶腕』だという事実を知らない面々は、そう認識するしかない。
白銀の女は足を止め、その場にいる全員を見渡す。必然的にセリカ達も彼女を見ることになり、先の台詞から味方側ではない事を悟り、言動の一つ一つを警戒する。
そこでセリカの視線が、ある一点に集中する。それは相手が持つ白銀の剣で、セリカの手の中で変化した黄金の神剣と、似たような神気を感じ取ったからだ。
「――――――ほう、覚醒していたのか」
凛とした雰囲気と、それを裏切らない声が、セリカに向かって放たれる。
いつの間にか彼女の視線は、セリカで止まっていた。
「覚醒、だと?」
「そうだ。その神剣を呼び出せるという事は、貴様が覚醒したことに他ならない。まあ自覚は無いようだが、それはゼアノスの呪いだ。気付くはずもないか」
「……待て。ゼアノスがセリカに、呪いを掛けていただと!?」
怒鳴るハイシェラに、その視線はゆっくりと向く。
「呪いと言っても、悪い事ではない。神殺しの魂が女神の肉体に馴染み易くするという呪いだ。そうでもしなければ、神殺しの魂は少しずつとはいえ消耗されていく。それはゼアノスにとって、良い事ではない。神殺しは彼の数少ない友人らしいからな」
ハイシェラに向かっていた視線が、再びセリカへと向かう。だが、メンフィル勢には欠片も興味が無いのか、見ようともしない。
「ついでに解説しておくが、神殺しが持つその神剣の名は……リブラクルース。もしくは、【天秤の十字架】と呼ばれる――――女神アストライアの神器だ」
「何ッ!?」
驚くのはセリカだけではない。ハイシェラやルナ=クリアはもちろんのこと、古神のことを良くは知らないとはいえ、神器だと言われれば、誰でも驚くだろう。
「なら、それは……!?」
セリカが聞くのは、アストライアの神器だという神剣と雰囲気が酷似している白銀の神剣のことだ。
「ああ、これは……詳しくは話せないが、【
「スティル、ヴァーレ……」
その名に覚えがあるのか、それとも無意識なのか、セリカの顔色が悪くなっていく。
それも仕方が無いのかもしれない。スティルヴァーレはかつて、セリカが『神殺し』と呼ばれるようになった原因でもあるのだから。
「……はあ。まあ、そんなことはどうでもいい」
彼女は溜息をついて、そう呟く。そのどうでもいい発言に何人かが反応するが……顔を引き締めた。現れた時とは比較にならない威圧を放っているからだ。
「主の許可もなく宮殿に立ち入り、その一切の支配力を得ようなど……愚劣に極まる、見るに堪えん! 決して、絶対に、断じて許されん行為だ!」
「お待ちください! 主の許可とは、一体!?」
怒りによるものなのか、その鋭い眼光を向けて来る白銀に、ルナ=クリアが代表して必死に呼びかける。ゼアノスが仲間だと仄めかす様な発言をしているから想像できなくもないが、本人からの言葉で確証を得るためだ。
「もう分かっているのではないか? この宮殿は我が主の、貴様らが『凶腕』と呼ぶ御方の宮殿だ! あの御方が友人から譲り受けたこの宮殿に、薄汚い侵入者をいつまでも生かしておくわけにはいかん!!」
そう怒鳴る白銀は、剣を持っていない方の手(左手)を掲げ、背中からこれまた白銀の翼を現出させた。
「天使、だと!?」
「しかもあれは序列一位……神に次ぐ力を持つ天使、熾天使という厄介な奴だの! まさか凶腕 にとはいえ魔神に従っている固体がいるとは! なぜ堕天しておらぬのだ!?」
「主に仕えている天使など、腐るほどいる。主は古神にとっての英雄。故に未だ古神に忠誠を誓っている天使にとっても憧れ――否、崇拝すべき御方! 私はその偉大なる主に仕える者、熾天使ブランシェ。宮殿の侵入者を裁く存在。本来ならばこれはゼアノスが務めていたのだが……どうやら遊びすぎていたようだから、代わりに私が裁いてやる」
左手を掲げたまま、ブランシェは飛ぶ。危険を察して魔術や剣撃が飛来するが、そのことごとくがスティルヴァーレで両断される。
そしてブランシェの掲げた左手を中心に、数えるのが馬鹿馬鹿しく思えるほどの光が出現される。スティルヴァーレではなく、その光で裁こうとしているのだ。
「薄汚い侵入者の血で、この神剣を汚すわけにはいかない。宮殿を破壊しないよう手加減はしてやるが、生き残れるとは思わないことだな」
無数の光弾は左手に集まっていき、凝縮された光の槍が形成された。
「受けろ、超劣化版―――」
― メギドの槍 ―
そのあまりの神々しさに、セリカ達は動けなかった。見惚れた訳ではないし、諦めた訳でもない。だが誰も動ことができず、迫り来る光の槍は―――――
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
見事に、ブレアード・カッサレに命中した。
「何故、何故ダアアアッ!!」
膨大な力を得るために魔人となり、人間とはとても言えない体躯をしているブレアードは、その巨体の半分以上が消え去っている。それを、セリカ達は茫然と見ることしかできない。
「言っただろう、薄汚い侵入者をいつまでも生かしておくわけにはいかんと。それは貴様の事だ、ブレアード・カッサレ。堂々と挑みに来た神殺しやメンフィル一行はともかく、何もしないで漁夫の利を得ようなど、おこがましいにも程があるとは思わないか? 貴様が離れた所から、機会を窺っていたのは最初から分かっていた。だからゼアノスの配下である歪魔に協力してもらい、あの瞬間あの場所に貴様を転移させたのだ。疑問は解けたか?」
得意そうな顔すらせず、淡々としたセリカ並みの無表情で、ブランシェは語る。
「ぐっ! いくら凶腕の部下とはいえ、天使が悪魔と協力するとはッ!!」
「貴様の……この世の常識をディストピアに当て嵌める事が間違いだ。だが、まだ喋る事が出来るくらいには元気があるようだな。ならば――」
ブランシェはスティルヴァーレを異空間へ仕舞い込み、新たに二つの剣を取り出した。
そのどちらともが、激しい雷を帯びている。【リッツリンガー】と【ヴェイグディザス】という、特殊な魔法剣である。ゼアノスの命令でバリハルトの部下として動いている時に使っている剣でもある。
何を思ったか、彼女は雷を纏った二振りを構える。だがその時には既に、ブレアードの身体は半分近くが再生しているところだった。
「カカカッ! 儂はかつてゼアノスに、圧倒的な再生力を得られる禁術を契約によって習得させたのだ! 驚きはしたが、身体はすぐに戻るだろう!」
深稜の楔魔としての契約で縛られていた(と思い込んでいる)ゼアノスによって得た力は、ゼアノス程ではないがその再生力は相当なものである。前にリウイと戦った際にはその術を使っていなかったが、今は使っている。故に、負けは無い。
何をされてもすぐに再生するので、熾天使が疲れ果てた折に殺し、その力を吸収してやろう。そう意気込んでいた。
だが気がつけば。
「――」
ブランシェは、いつの間にかブレアードの背後にいた。
そしてブレアードの身体には、全身に電撃が走っている。斬られたかのような傷跡が二か所ほど見え、目に見えないほどの速さでブランシェが斬りつけたのだと判断できる。だがブレアードは平然としているので、大したダメージを与えた訳ではないようだ。
「フハハハッ! 儂の目に見えぬ速さで儂の身体を二回も傷つけたその速度と、あれほどの神聖魔術は確かに脅威だ。だが貴様は、貴様の剣の腕では儂の身体を裂く事は出来ぬようだな!」
「……」
勝利を確信したかのように、ブレアードは嗤う。神聖魔術の威力には、恐怖を感じたと認めてやっても良い。だがあれほどの魔術は何度も放てないはずで、しかもここまで近くにいれば何て事はない。魔術を撃たれる前に攻撃すれば良いだけだからだ。
沈黙したブランシェに、ブレアードの笑みは更に深まる。
自分は凶腕の部下を、それも幹部のような存在を追い詰める程の実力を得ているのだ。そう思ってしまえば、笑ってしまうのは当然のことであった。
しかし、そこに待ったを掛ける者がいた。ブランシェだ。
「それ以上は喋るな、そして動くな。少ない寿命を一気に縮めるぞ」
「クカカッ! 訳の分からぬ事をほざくな、負け惜しみは見苦しいぞ。貴様を食い、儂は更なる力をえプ」
更なる力を得る。そう言おうとした口は、しかし言い切る直前に幾つもの亀裂が走った。
それは口だけでなく、頭の先から人間とは思えない下半身の一番下まで、つまり全身に亀裂が走っている。
「惜しいな。私が斬ったのは二回ではない。二百回だ。『二』という数字だけは正解だったから忠告したが……真に受けるはずもない、か」
ブランシェの宣言が終わるか終らないかの間に、ブレアードの身体に刻まれた二百の斬れ筋は開き、体内で燻っていた電撃が体表に飛び出ることとなり、一瞬で炭化してしまった。
その光景に驚いたのは、かつてブレアードに辛勝し、今回はブレアードの勝利だと思っていたリウイ達であった。エクリアやテトリもブランシェの本領は魔術だと思い、あのような結果になるとは微塵も思っていなかったので、驚愕している。
「……やはり貴様らは、他の有象無象とは一味違うらしいな。『神殺し』と『地の魔神』は」
「驚いてはいるが、お前が勝つとは分かっていた」
だがセリカとハイシェラだけは、ブランシェの勝利を確信していた。何せセリカは、飛燕剣を使えば同じような事が出来る。だがブランシェは技ではなく、気軽に剣を振るうだけであのような惨事を引き起こしたのだ。セリカとハイシェラが驚いているのはそこである。
「私の剣が見えたとは、流石は主が興味を持つわけだ。特にセリカ・シルフィル。お前は、いずれ私に届き得る可能性を持っているな」
ブランシェの表情に、怒り以外の色が初めて浮かんだ瞬間でもあった。セリカに向けるその顔色は、微笑み。男女間にあるものではなく、まるで母が子に向ける表情だ。
だがセリカ以外に顔を向けた途端に、色は消えてしまった。
「セリカ・シルフィルの可能性に免じて、貴様らが侵入した罪は問わないでおいてやる。が」
「……が、って何よ。が、って」
わざとらしく言葉を止めたブランシェに、一同は不安を隠せない。カーリアンの一言はまさに的を射ていた。
「どんな理由であれゼアノスを殺し、私を攻撃したこと。忘れてはいないな?」
飛ぶのを止めて床に降り立ち、ブランシェは靴で床を叩いてカツンと音を出す。
嫌な予感が的中したと全員が悟るが、床全体に巨大な魔法陣が浮かび上がる。元々は侵入者を迎撃するための罠なのだが、その改造バージョンである。
その効果は、あのパイモンが冷や汗をかく程の代物だ。智略を得意とする魔神が太鼓判を押すのだから、相当なのだろう。
「天使の私が言うのもおかしいが、真の恐怖を知るのだな」
ブランシェが口にしたように、彼女はどんな理由があったにせよ、ゼアノスを倒した者達のことを良く思っていない。期待は一切しないが、誰かが間違いで死なないかな、と思うほどにはイラついていた。
能面の如き無表情は、その怒りで構築されていたのだった。
>【
>【
ゼアノスが持っていた【エルサレム】は、実はこの二つの神剣の姿と性質を変えたものでした。
ZERO編で、こっそりと回収していたゼアノスです。
セリカにこの武器を使わせたかったので、どうしようかと考えた結果、こうなりました。
>メギドの槍
【戦女神Ⅱ】の最強魔術。解説によれば、聖なる光と熱核で敵を融解させる。らしい。対単体技。
ブランシェが放ったのは超劣化版ですが、本人のスペックが桁外れ(最低でも熾天使のトップ×7の強さ)なので、ハイシェラの最強魔術より若干強い程度の威力です。
ちなみに本気でやれば、宮殿が塵も残さず吹き飛びます。
>【リッツリンガー】と【ヴェイグディザス】
どちらとも、【天秤のLa DEA】で登場した電撃属性の剣。覚える必要は特にありません。以降は【電撃属性の聖剣】と書くことになると思います。
>ブランシェの性格
ノワールとはまた違った犬属性。
ゼアノスの呼び方⇒ 主、主様(場合によっては呼び捨て)
ノワールの呼び方⇒ ノワール、貴女、お前
部下の呼び方⇒ 貴方(もしくは名前)
認めた者の呼び方⇒ お前(もしくはフルネーム)
それ以外の呼び方⇒ 貴様
好感度が高くなるにつれて、態度が軟化します。
Q:ブランシェがバリハルトの部下(仮)だってこと、誰も知らないの?
A:バリハルトが強力な熾天使を部下にしていることをルナ=クリアは知っていますが、名前までは知りません。バリハルトが秘密兵器(笑)として重宝しているし、ブランシェ自身が偽名を使っているので。
ブランシェはそれを知っているので、表舞台に出てきました。
Q:ブレアードェ
A:かませ犬