戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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無事に(?)就職できて新生活が始まり、時間がとれませんでした。まだ仕事に慣れてないので、次の更新も遅いと思います。新作発売までには投稿したいと思ってますが。
今回少し長めです。

誤字脱字報告、よろしくです。
そうでなくても、感想待ってます!


ー集結ー

 

 

ゼアノス達が最奥の部屋から、はぐれ魔神と戦うために転移したのと、ほぼ同時刻。

五階建ての宮殿の二階の大広間に、対となったふたつ入口から、それぞれの勢力が同じタイミングで進入した。

 

片方は半魔人の王リウイ・マーシルンが率いる、メンフィル王国の精鋭組。

もう片方は神殺しセリカ・シルフィルを筆頭とした、種族の共通性が少ない一組。

 

「イリーナ!」

 

「え、エクリアお姉さま!」

 

どちらも互いに驚いて歩みを止めるその中で、走り出した人物がいた。エクリアとイリーナ。殺し殺された関係の姉妹であったが、それはフェミリンスに掛けられブレアードの呪いによるもの。神殺しの使徒となり呪いが治まっている今では、何の問題もない。

 

「イリーナ……本当に良かった。生きていてくれて、ありがとう。そして、ごめんなさい。ずっと謝りたかった。私は貴方を、貴方を……」

 

「それは、もう良いのです。私も、お姉さまがご無事で良かったです……」

 

大広間の中心で涙を流しながら抱きしめ合う姉妹を見て、足を止めていた二組は歩み寄る。こんな簡単に歩み寄れたのは、リウイとルナ=クリアに面識があることも幸いしているだろう。

 

「エクリアの様子とあの娘から、メンフィル王と見受けるが……」

 

「ああ、リウイ・マーシルンだ。だがお前は……エクリアとはどのような関係だ?」

 

「俺はセリカ・シルフィル。エクリアは俺の使徒だ」

 

「その名……『神殺し』か。だが、エクリアが使徒だと?」

 

警戒しながら近づき、一応の自己紹介を済ませる。ルナ=クリアはともかくセリカとテトリは、メンフィル国の人物を一切知らないのだから。相手側からしても、セリカは伝説上の人物。戦士としての誇りを持つファーミシルスと、剣士であるカーリアンは興味津々だ。

元マーズテリアの聖騎士であるシルフィアと、マーズテリアの聖女ルナ=クリアは平和的に話が出来るよう会話の懸け橋となり。テトリとペテレーネはオドオドしつつ、自分の主と話を合わせていた。

 

姉妹の会話にセリカとリウイも加わり、エクリアが追放されてからどのようにしていたのかを報告し合う。

リウイとイリーナは、機密情報は無理だが、メンフィルの一般的に知られている情勢や、最近の話題。特に魔神ディアーネや魔神ゼフィラについてのことを話した。何度かリウイが止めようとしていたが、天気の話をするかのような気軽さでイリーナが姉に情報を語るので、リウイは気が気ではなかった。

さすがに魔神の話題ではルナ=クリアも話に参加したが、ゼフィラの件については特に何も言わなかった。秩序ある環境の下で生活し、リウイの命令を聴くのであれば、あとはもう国の問題であるためだ。細かく介入するのを、ルナ=クリア自身は是としない。

 

セリカとエクリアは、主に放浪していた最中の出来事を話した。

どの道筋でどこに行ったのか。その途中で出会った、ゼアノスという魔神からセリーヌの噂を聞いたこと。ノワールという女性と途中まで共にいたことなど。

ゼアノスの名前が出た際にリウイとルナ=クリアが反応していたのだが、思ったことは違っていた。リウイはディアーネから聞いていた事を思い出し、ルナ=クリアはゼアノスが生きていた事を知って、複雑な気持ちになっていた。

 

瞬間。

 

「――ッ!?」

 

「この気配は……!」

 

莫大な魔力の波動が、宮殿の全域を襲った。発生地点はセリカ達がいる場所より上の階層であることに、この場にいた全員が気付いた。

 

「魔神だな。しかも、一柱や二柱では済まない数だ」

 

「どうやら争っているようだな。深稜の楔魔か、はぐれ魔神か、宮殿を守護している魔神なのか……そこは判断の付けようがないが」

 

荒ぶっている魔力と気配を上から感じたセリカとリウイが、それぞれ述べる。そこで透かさず、ルナ=クリアがリウイに提案した。

 

「陛下、これから先はどのような事が起こるか分かりません。ここは、一時期協力し合いませんか? もしかすれば、この他にも魔神や神に連なる者が出る可能性があります」

 

「俺もその事については同意だ。その可能性が無いと断言できない以上、少なくとも魔神がこれだけいるとなれば、ここから進むのは難しいだろう。負けるつもりはないが、確実に勝てるとも言えん」

 

ルナ=クリアの言葉に、是と答えているのと変わらない返答をリウイは返す。自分の腕にそれなりの自信を持ち、仲間も強く滅多な事でも負けないと信じているリウイだが、魔神がどれほどいるか分からない場所に行くような馬鹿ではない。

 

「では、陛下」

 

「ああ、この場限りのものとなるだろうが、協定を結ぶとしよう」

 

「ありがとうございます。セリカ、貴方抜きで話を進めてしまったけれど、貴方もよろしいでしょうか」

 

セリカは断らないと確信しているのか、質問というよりは確認の言葉だった。セリカとしても異論があるはずもなく、構わないと肯定し、だが唯一の不安な点を聞いた。

 

「エクリア、お前はどうだ?」

 

イリーナと話を終えてからは、まるで借りてきた猫のように委縮してしまったエクリアを見て、セリカが尋ねる。彼女が共にいたくないと言うのならば、強制するつもりはないからだ。

 

エクリアがこうなってしまったのは、妹のイリーナやリウイといったメンフィルの関係者に対する罪悪感が原因だった。イリーナにとっては自分を、リウイにとっては最愛の妻を、エクリア本人にとっては妹を殺しかけてしまった、というものだ。

 

本人から許しの言葉は聞いているし、何よりあれは呪いのせいである。だからといって完全に割り切れるほど、エクリアは図太くない。

 

「私は構いません。ですがその、私が一緒にいても……良いのですか?」

 

だからエクリアは、自分が一番傷つけてしまっただろう人物に……リウイに聞いた。それが自己満足だと分かっているが、それでも聞かないなんて選択肢は、エクリアの中には無かった。

 

「イリーナはお前を許し、お前もまた、国外追放の罰を受けた。ならばこれ以上、とやかく言う必要はないだろう」

 

「あなた……」

 

「……ありがとうございます」

 

リウイの決断にイリーナは安心し、エクリアは頭を下げた。特にイリーナの安心感は非常に大きい。夫と姉、どちらも大切な存在だ。どちらかがどちらかを殺す光景なんて、見たくはないのだから。

 

ズガァン!!

 

だがそこで、その折角の感動が消えてしまう出来事が起きた。なんと上の階層から、轟音と共に衝撃が飛んで来たのだ。

 

「くっ!」

 

「ぐぅ……」

 

しかもそれだけでは終わらず、

 

ドゴォン!!

 

少し間を開けて、またしても轟音と衝撃が響き渡る。空気が振動し、浮遊している宮殿の中にいるのにも関わらず、地震が起きているかのような感覚に陥っている。

 

「ちょ、なんなのよ、もう!!」

 

「皆様、お怪我はありませんか?」

 

カーリアンが悪態をつき、ペテレーネが皆の心配をする。

セリカやリウイにそれぞれ追従していた、マーズテリア神殿の神官戦士やメンフィル王国の騎士の中には、あまりの勢いに倒れてしまった者までいたからだ。

 

怪我をした者は一人もおらず、ペテレーネやルナ=クリアの心配は杞憂に終わる。

しかしこれだけでは終わらずに、強大な魔力や闘気を皆が感知し、その後すぐに魔神三柱分の気配が消滅した。

 

「上層ではどうやら、勝敗が決したようだな。何者なのかが一切不明だが」

 

「そうねえ……ねぇ、どうせなら今すぐ上っちゃいましょうよ。魔神が複数いても、今ので決着がついたのなら弱ってるのは確かだろうし、被害が少なく済むんじゃない? まあ、個人的には気に入らないんだけどね」

 

「ですが、その案には賛成します。この宮殿を攻略するならば、被害を最小限に留める事が最低条件でしょう」

 

セリカの呟きにカーリアンが同意しながらも提案を出し、シルフィアが賛成した。

ちなみにカーリアンは自己紹介する前から同じ剣士としてセリカを興味の目で見ており、今では既に仲良く(?)なっている。

 

「セリカ」と呼び、この事柄が終わった後に剣の打ち合いの約束を取り付けるくらいには。

 

カーリアンとシルフィアの言葉を聞いて、彼女らの意見に賛成する者が増える。イリーナとエクリア、ペテレーネとテトリ、ルナ=クリアとファーミシルス。

 

ファーミシルスは提案を出したカーリアンと同じく、個人的には反対だ。武人として己の力を試したい、正々堂々と一対一で勝負したい。そういう願望を、二人とも持っているためだろう。

 

だが仲間の、国のことを考えるのなら、それは決して許されるものではない。特にファーミシルスには大将軍という立場もあるので、自重することも必要だ。

 

「そうだな。ではここで隊の編成を行い、迅速な行動を心掛け――」

 

リウイのその後の言葉は、周囲はもちろんのこと、本人にすら聞こえなかった。

先程二回も聞こえた轟音を越える、宮殿全体が揺れるほどの爆音がしたからだ。

 

爆音が響く、なんて言葉では物足りない音であった。

永い時を生きているハイシェラでも、これほどの爆音を聞いたのは三神戦争くらいだろう。人間や魔族の戦争でも、こんな音はしない。まさしく、神同士の争いで起こる音だ。

 

セリカ達はこの爆音の原因が、ゼアノスとサブノクの激突であることを、まだ知らない。

古神に連なるソロモンの魔神と、手加減しているとはいえ凶腕の魔神である。その二柱の、必ず殺す技同士の衝突だったのだ。そう、【光分子砲】と【ディオルブレス】だ。

 

あまりにも強大なエネルギーの波が襲い掛かり、ほぼ全員がその場で膝をついてしまう。だが天井を見上げていたセリカが、いつもでは想像がつかない大声で突如叫んだ。

 

「離れろ!」

 

全くと言っていいほどに感情の揺れが見えないセリカの大声に、本能的に察したのか全員が従った。離れると言ってもどこから離れればいいのか分からないものだが、皆は広間の中心から離れて行った。

 

それは長い戦闘経験の賜物といったところか。散開したその直後、天井が砕けて五つの巨体が落ちてきたのだ。広間の中心に近ければ近いほど命の危機は高かったが、セリカの警告のおかけで、飛び散った石の欠片が肌を掠める程度の怪我しか出なかった。

 

(次から次へと、この宮殿は忙しいのう。じゃがここまで魔神が集っているのなら、我も表に出たいものだの)

 

(……戦いたいのか?)

 

(まあの。上層で戦っていた魔神の影響で、今は周囲に魔力が満ちている。これならば、限られた時間ではあるが真の姿に……む)

 

 

何かが落ちてきた衝撃で、広間には煙や粉塵が舞っていた。だがそれも時間が経過したことで徐々に消え始め、セリカとハイシェラは心話を中断した。

 

煙が晴れて彼らが見たのは、五つの巨体だった。

首に穴が空いている、黄色い体表の巨体(アガチオン)

三つの首の全てが穿たれている、恐竜型の巨体(トリグラフ)

身体の隅々まで黒焦げになった、長蛇型の竜の巨体(ライアナス)

全身がボロボロになっているが、岩石を思わせる超重量の巨体(サブナク)

唯一の無傷で、青白く光る魔力を体中から発光している、竜型の巨体(ゼアノス)

もちろんのこと、最後の一柱がゼアノスだとは誰も思っていない。

 

しかも現れたのはそれらだけではなく、更に三つの影が舞い降りた。その大きさは最初に落ちてきたのとは違って、人間と大差ない。

その影の内、リウイは二人知っていた。少し前に喧嘩を吹っかけてきた魔神……そう、深稜の楔魔だったからだ。

 

「エヴリーヌにパイモン、やはり来ていたのか」

 

「これはこれはリウイ陛下、お元気そうで何よりです」

 

「フェミリンスの匂いが増えてる……」

 

リウイの言葉にパイモンはわざとらしく律儀に一礼し、エヴリーヌはリウイではなくフェミリンスの血筋であるイリーナとエクリアを憎らしく睨んだ。その時点で過保護な神殺しが、エヴリーヌを敵として見た事は蛇足だろうか。

 

「なるほど、やはりグラザの息子か。どこか面影がある」

 

漆黒の翼を優雅に使って滞空している女魔神(ラーシェナ)は、リウイを見てそう一言。誰だとリウイが聞けば武士の心得を持つラーシェナは、堂々と答えた。

 

「我はラーシェナ。深稜の楔魔、序列3位だ」

 

「あのパイモンとエヴリーヌがいることから、もしかしたらとは思ったが……やはり深稜の楔魔だったか。いや、父を知っているのだから当たり前か」

 

予想が的中していたらしいリウイは、瞬時に他の落下してきた者達を見渡す。

まだ接点は非常に少ないが、彼女らの事をリウイは少なからず理解しかけていた。何を考えているのか分からないパイモンは除外だが。

 

エヴリーヌは、戦闘力は目を見張るものがある。だが精神的には見た目通りで、幼い。

ラーシェナは雰囲気がファーミシルスと似ており、武人としての誇りを大事にしている。おそらく、すぐに激昂するような性格ではない。ただし一度熱が入ると冷めにくいタイプだ。

 

その二人の様子を見て、リウイは思わず舌打ちをしそうになる。

エヴリーヌとラーシェナらは見るからに、魔神としては珍しい分類だが仲間を大切にする性格だろう。そんな彼女らが、明らかに事切れている魔神に見向きもしていない。

 

つまり、今死んだ魔神の中には、深稜の楔魔はいないということだ。

魔神が敵意を露わにしている様子から、和解は最早不可能。ならば敵対するしか道はなく、それなら少しでも数が減った方が、メンフィルにとっては有利になる。だが現実は甘くなく、深稜の楔魔の被害は実質ゼロだった。

 

(パイモン、ラーシェナ。はぐれ魔神の死体やサブナクをあそこ(・・・)に運んでくれないか? こいつらの相手は俺とエヴリーヌが引き受ける)

 

ラーシェナの自己紹介が終わった当たりで、巨大な竜型の魔神――セリカやリウイは知らないが、それはゼアノスである。ゼアノスが心話を飛ばした。混乱しないよう、エヴリーヌにも聞こえるようにしている。

その提案に驚く二人だが、盲目的にゼアノスを敬っている彼らは質問すらも無駄だと言わんばかりに揃って(うやうや)しく頭を下げ……言われた事を迅速に行動し、去って行った。

 

それは、10秒にも至っていない。

ラーシェナが簡易な術を発動させることで小規模の爆発を発生させ、はぐれ魔神の死体を唯一死んでいなかったサブナクの近くへ無理矢理動かし、その間にパイモンが用意していた転移術で転移する。

……というものだったのだが、その速さはまさしく、神業だった。

 

「……構えろ」

 

彼らの突然の行動で唖然とするリウイ達に、セリカが静かに警告する。彼らを見ている巨竜がゼアノスだと今の内に知っていたのなら、セリカは剣を抜かなかっただろう。だがゼアノスは、今回ばかりは本気で戦い合うという思いがあった。凶腕は最終手段として、この場所から実力で追い出そうと思っていたのだ。それならば、相手が本気で斬りかかって来た方が、こちらも躊躇&遠慮なく拳を振るう事が出来ると考えたのだ。だから、正体を明かしてない。

 

「パイモンとラーシェナの行動から深稜の楔魔だと推測できる正体不明の魔神。それに加えてエヴリーヌか。一時的なものとはいえ、『神殺し』や貴女達と協定を結べたのは僥倖だったようだ。聖女殿、先程の提案に感謝する」

 

「いえ、こちらとしても、御国の方々と手を結べたのは幸いでした」

 

「……お別れは済んだ?」

 

リウイの言葉にルナ=クリアが返して、皆が武器を構え直したのと同時に、エヴリーヌの指からパチンと音が響く。

笑みを深くしたエヴリーヌが指を鳴らして出現させたのは、両手の代わりに甲殻類の大鋏を持った魔族。ベルデーモンと呼ばれる、上級悪魔の一種だ。貴族悪魔には及ばないが、上級悪魔の中位程度の戦闘能力を持っている。

 

「感謝してよ。退屈なお話の間、私とお兄ちゃんが態々(わざわざ)待っててあげたんだから。じゃ、みんなみんな、特にフェミリンスは……死んじゃってよ!」

 

高らかに叫んだエヴリーヌが、呼び出した何体ものベルデーモンを追従させて飛翔した。

その先にいるのは、エクリアとイリーナ。フェミリンスの血筋を真っ先に殺そうと、力を込めた矢を放ち……

 

「させんっ!」

 

「そこです!」

 

リウイの魔法剣とシルフィアの神聖剣に阻まれる。

続いてベルデーモンが大鋏を振り下ろしたり魔術の暗黒槍を放ったりで、エヴリーヌに命令された通りにフェミリンス姉妹を殺そうとする。

 

「私を甘く見ないでください!」

 

だがそれはイリーナ本人の神聖魔術、【防護の結界】によって防がれる。

前に凶腕(ゼアノス)によって蘇ってから、彼女は魔神級の強さを得た。深稜の楔魔が相手ならば負ける可能性もあるが、中位の上級悪魔程度の攻撃ならば絶対に通さない。

そして。

 

「甘い! 隙は見逃しません!」

 

エクリアの冷却魔術である【氷垢螺の吹雪】を受け、数体のベルデーモンが氷漬けになる。

それに続くようにカーリアン、ペテレーネ、ファーミシルスが剣技や魔術で撃退しているのだが、次から次へと際限なくベルデーモンが現れる。それだけでなく、いつの間にか下級悪魔の群れも現れていた。

 

「くふふ、そろそろ死んじゃえば? どんどん出てくるよ?」

 

「誰が!」

 

「諦めるわけないでしょ!」

 

いくら幼くとも魔神は魔神。エヴリーヌの多彩な攻撃に、リウイ達は苦戦する。エヴリーヌの精神が不安定であったならまだ楽だっただろうが、ゼアノスがいることで安定しながらも激しく動くという行動を可能にしている。だがその動きが原因で、多数の悪魔を召喚するなど出来はしない。

 

では、ベルデーモンや下級悪魔の群れはどこから出現しているのか。それを発見したのは、遠距離から補助と攻撃を同時に行っていた木精(ユイチリ)のテトリだった。

 

「ご主人様! あの魔神の足元を見てください!」

 

テトリが示すのは、巨大な竜型の魔神(ゼアノス)の両前足。両足の真下には、それぞれ魔法陣が描かれている。片方からはベルデーモンが少しずつ出現し、もう片方からはレッサーデーモンが次々に湧き出ていた。

 

「あいつを倒すしかない、か。」

 

群がる悪魔を幾重もの剣圧で斬り倒したセリカが呟く。倒すことによってハイシェラを通して魔力を補充できるので肉体的には常に万全だが、他の皆はそうはいかない。

 

「セリカ様、ご無事ですか?」

 

呼ぶ声が聞こえてセリカがふと横を見れば、そこにはエクリアとルナ=クリアがいた。

 

「ほぼ無傷のようですね……セリカ、頼みがあります。あの魔神を倒す協力をお願いしたいのです。エヴリーヌという魔神はリウイ陛下が引き受けてくださいました。湧水のように現れる魔族を討ち、何もかもが分からない魔神と対峙することになりますが……」

 

ルナ=クリアはゼアノスのことを、『何もかもが分からない魔神』と称した。何故ならその姿と、深稜の楔魔であること以外が本当に分からないからだ。

 

エヴリーヌが『お兄ちゃん』と言っていたので、名前は不明。

何故か攻撃してこないので、どんな攻撃をしてくるのか不明。

そもそも攻撃してこない理由が不明。

どんな能力を持っているか不明。

など、挙げればキリがない。しかし良く見れば、落ちてきた直後と比べて魔力量が上昇している。待機して休むことで、少なくなった魔力を増やしていたのかもしれない。

 

だがセリカは、リウイと協定を結んだ時と同じように了承した。どの道やろうとしていた事なので、拒否する理由も見つからなかったからだ。それに未知なる敵と戦うのは、神殺したるセリカにとっては珍しくないことであった。

 

「ありがとうございます」

 

「気にするな。……ハイシェラ」

 

(うむ、我も御主と共に行こうぞ! 『神殺し』と『地の魔神』、初の共闘ぞ!)

 

ルナ=クリアの礼に対して無愛想に返し、持っている魔剣に話しかける。ハイシェラがそれに応えると同時に魔剣が光り、光が治まると、そこには青く長い髪と膨大な魔力を持つ美女が――ハイシェラが、肉体を得て現世に実体化した。

 

ハイシェラはまるで眠っていた獣のように手足を伸ばし、確かめるように指先を動かした。そして瞬き一つののち、巨竜を見つめる。

 

「血肉を得たのは久々だ……手加減できぬが、あっさり死ぬでないぞ!」

 

セリカの横に並んだハイシェラがセリカと同じ――飛燕剣を放つ構えになる。

突然の事にエクリアとルナ=クリアは驚いたが、エクリアはハイシェラの事を僅かながら聞いており、ルナ=クリアは既に知っていたのですぐに落ち着きを取り戻し、ゼアノスに対峙する。遅れてテトリも到着し、セリカ一行全員が揃った。リウイ一行は、既にエヴリーヌと戦闘を始めている。

 

他のマーズテリア戦士やメンフィル軍は、遥か後方にて悪魔の駆除をしている。レッサーデーモンはともかくベルデーモンなんて強敵が数多くいるので、重傷の怪我人が続出しているが、気にしている暇はない。

 

ゼアノスも、内心で笑いながら戦闘態勢になる。セリカと本気で戦ってみたかった彼としても、遠慮なく戦えるこの機会を嬉しがっていたのだ。

 

「まずはあの召喚魔法陣を壊しましょう。魔神は二の次です」

 

「分かっている!」

 

「不満はあるが、従ってやるだの!」

 

飛び出すセリカとハイシェラに、ゼアノスも今度ばかりは動いた。両前足で押し潰そうと、その四つん這いの巨体の上半身を大きく起こして……

 

「雷光――」

 

「地龍――」

 

「「滅綱斬!!」」

 

セリカとハイシェラも負けじと、電撃属性と地脈属性をそれぞれ組み合わせた一列に飛ぶ、威力重視の斬撃を放った。

 

 

 




>カーリアンとセリカ
>終わった後に剣の打ち合いの約束を取り付けるくらいには。
……フラグじゃないっすよ?

>光分子砲
前話で説明してなかったので、一応。
一部の巨大な魔神や怪物、生物兵器が口から放つレーザービーム。
直線状の敵にしか命中せず、範囲は広くない。だが超・高威力で、遠方まで届く。

>ディオルブレス
【戦女神VERITA】の、たった一体の敵しか使わない技。当たれば【猛毒】になる。横に広いが、遠くには届かない。
ちなみにこの技を使う唯一の敵は、【蒼塔の幻獣】。【デェネヴァの蒼塔】にしか出現しないレア敵にして強敵。

>デェネヴァの蒼塔
【戦女神VERITA】のEXダンジョン。ザコ敵の最低ラインがラスボス並みに強いのが複数出てきて、中盤以降はザコ敵がラスボス以上に強い。最奥で待ち構えるボスの脅威は異常。
作者は初見プレイにて、中盤どころか三回目のエンカウントで死にました。

>過保護な神殺し
>敵として見た事は蛇足だろうか
誰か教えてください(笑)

>雷光滅綱斬
>地龍滅綱斬
雷光滅綱斬は原作のまま:電撃属性
地龍滅綱斬は『雷光』を『地龍』に変えただけのオリジナル技:地脈属性
ハイシェラも飛燕剣を使えるという設定を思い出して考えただけの技です。


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