戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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年内投稿できました!
年末年始(というか明日から)はネットできない場所に行くので、これで今年最後の投稿です。

それではみなさん、良いお年を!


―動き出す深淩の楔魔―

 

セリカとエクリアがノワールと出会う、数日前。メンフィル王国の城の中で、一組の男女が話し合いをしている。男女の話し合いといっても、色のある話ではない。

 

「何用だ、メンフィル国王。突然呼び出しおって、遠路飛んでくるのも楽ではないのだ」

 

「少々聞きたいことがある。『深淩の楔魔』について知ってることを教えてくれ」

 

反抗的な言葉を放つ女は、魔神ディアーネ。もう一方の質問した男は、リウイ・マーシルン。以前は敵対していた関係だが、今ではディアーネが嫌々ながらもリウイに下っている。

 

「……えらく懐かしい響きだ。我や御主の父だった亡きグラザが、元はどのような関係だったのかは知っておるな?」

 

リウイの質問に対して目を細め、遠くを見るような表情を見せ、確認するかのように尋ね返す。

無論リウイは知っており、また覚えていた。

 

「たしか姫神フェミリンスと戦うため、ブレアードという魔術師によって召喚されたのだったな」

 

「そうじゃ。ブレアードの呼び出した魔神は、我を含めて十柱。それらこそが、『深淩の楔魔』と呼ばれておった」

 

「千年もの昔、姫神フェミリンスと魔術師ブレアードは覇権を掛けて三度争ったと聞いた。その際にお前たち魔神を召喚し、レスペレント地方の地下に大迷宮を構築してフェミリンスに打ち勝った」

 

深淩の楔魔の、フェミリンス戦争と言われる戦争の歴史をリウイは軽く紡ぐ。

 

「それでだ。魔神の事をもっと聞きたいが、エヴリーヌとパイモンを知っているか」

 

「小娘と……賢しい男だな、知っておるぞ。ゼアノスが認めているあの男はともかく、あやつが我より上位で扱われていたことは今でも不愉快だ」

 

「どういうことだ? それにゼアノス、とは?」

 

己と他者の序列を思い出してイライラしているディアーネに、リウイは無遠慮に

再度問う。

 

「ブレアードは呼び出した我らの力を勝手に見定め、下らぬ序列を決めて扱ったのだ。ゼアノスというのは、『深淩の楔魔の』一人だ」

 

「あいつらとお前、ゼアノスという魔神と俺の父……グラザの序列は?」

 

「エヴリーヌが序列五位、パイモンが六位で、グラザは四位。我とゼアノスは……それぞれ、九位と十位だ」

 

所詮はブレアードが勝手に定めただけだが、と苦々しげに序列を語るディアーネにリウイは驚いた。先程ディアーネは、『ゼアノスが認めたパイモンならともかく』と言った。小娘と称したエヴリーヌが自分より上にいることが気に食わないのは分かったが、ゼアノスという十位の魔神が認めたからパイモンが六位でも納得しているというのは、かつて苦戦させられた魔神の発言とは思えなかったのだ。

 

彼女も言った通りに勝手に決められたものだとしても、己より下の序列であるはずの存在だ。

一体どのような魔神なのか。そう思ったのが分かったのかディアーネはフン、と鼻をついた。

 

「奴に関しては完全にブレアードの読み違いだ。ゼアノスは序列こそ十位だが、『深淩の楔魔』の中でも最強の実力者だ。何せこの我とグラザ。両方と同時に戦い、そして勝ったのだからな」

 

その闘争は、フェミリンス戦争が終わって数年後の事だった。偶然レスペレント地方に訪れていたゼアノスはグラザと再会し、更にはディアーネとも出会った。やることがなくて暇だったゼアノスはこれ幸いにと、魔神二柱を挑発した。グラザはその挑発に乗ってくれて、プライドが高くて沸点が低いディアーネは言うまでもない。

 

三つ巴にはならなかった。生意気を言った元同僚を懲らしめ、もとい殺そうとしてゼアノスと戦闘になった。だがその結果は、ゼアノスの勝利。連携が皆無だったとはいえども、魔神が2対1で負けるなど、普通ではない。

 

だからこそ、その時点でディアーネはゼアノスの認識を大きく改めた。同格の好敵手から、越えるべき目標に。フェミリンスへの恨みはあるが、そんなものは二の次だ。さもなければ王妃がフェミリンスの直系であるこの国に来るはずもない。

 

だがその戦闘により疲労しているところを運悪くブレアードに見つかり、ゼアノスとグラザを除いた他の深淩の楔魔と同じように封印されてしまったというのは、完全な蛇足である。

 

「恐るべき驚異的な戦闘力だな……そのゼアノスは今どこにいる」

 

「知らぬ」

 

「そうか……しかし何故、今頃になって奴らは現われたのだ?」

 

「先の大戦でフェミリンスの力が弱まったせいであろう。裏切ったブレアードの魔力だけでなく、フェミリンスも封印の媒介にしていたからな」

 

先の大戦。すなわち幻燐戦争の最後は、フェミリンスの力を宿したエクリアとの戦いだった。それの勝利によって今度は魔神を起してしまったらしい。リウイはそう思考しながら、質問を続ける。

 

「奴らの目的は何だ。エヴリーヌとパイモンは共に行動しているようだったが」

 

「我が知っているわけが無かろう。これはゼアノスにも言える事じゃが、召喚された時は契約によって縛られていた。だが今となっては勝手に動いていよう」

 

「かつてのお前のように、か」

 

ディアーネはグルーノ魔族国という国を建て、様々な国を脅かしていた時がある。リウイの言った『かつて』とは、その時の話だ。それが分かったらしいディアーネは肯定した。

 

「領土を魔神に好き勝手されてはたまらん。連中の目的を知る必要があるな……」

 

「目的のぅ……パイモンは何を企んでいるか常に分からぬ男。エヴリーヌは気分のままで大して考えておらぬ。が、もし奴が目覚めているなら、何かを目指して動いているかもしれぬ」

 

「誰のことだ」

 

「名をザハーニウ。序列は一位……『深淩の楔魔』を束ねし魔神だ」

 

恐ろしげに魔神の名前を紡ぐディアーネだったが、その声に震えはない。

 

「敵対するのであれば精々気をつけるがいい。奴はゼアノスに次いで格が違うぞ」

 

「憶えておこう。さし当たっては拠点や居場所を突き止めるため、動きを掴みたいところだが……」

 

「ならばフェミリンス直系の……いや、フェミリンスに憎しみを抱いているのは性格的にゼフィラくらいか」

 

何か提案を出そうとしていたディアーネだったが、言い切る前に自分で否定した。今でこそフェミリンスをどうでもいい存在だと割り切っているディアーネだが、それは前にゼアノスと戦ったからである。もし戦わずにいたら、自分もフェミリンスを憎んでいたままはずだ。

 

故にこそこの提案だが、よく考えれば己以外でフェミリンスを憎むといったらゼフィラしか思いつかない。エヴリーヌは微妙だが、アレはフェミリンスではなく光側を嫌っているだけだ。

 

「ゼアノスに感謝せねば。奴がおらんだったら、ゼフィラと同程度になっていたのか……」

 

「……ゼフィラとやらも、『深淩の楔魔』か?」

 

感謝という単語を暴虐の女魔神(ディアーネ)が使ったことに驚きながら新しく出た名前について聞くと……その魔神は肩を震わせ始めた。

 

「奴の序列は八位じゃが……エヴリーヌ以上に、こやつよりも我が下位であることが何よりも気に食わん!」

 

怒声が発せられた途端、ディアーネから威圧と魔力が嵐の如く周囲に放たれる。リウイは間近でそれを受けて一瞬だけ怯み、思った。

 

このディアーネをして『格が違う』と言わしめた、ゼアノスとザハーニウ。敵になるとしたらどれほどの障害となるのだろうか――と。

 

「……そのゼフィラじゃが、警戒はしておくのだな。運が悪ければフェミリンス求めてこの城まですっ飛んでくるぞ」

 

「なるほど……では当面は放っておく。ゼフィラとゼアノスについては不明だが、他の魔神はザハーニウとやらが目覚めているのであれば、しばらくは動かないだろうしな」

 

苛立ちも少しは収まって冷静になったディアーネから警告を聞くも、深淩の楔魔に対しては動かないという態勢を取った。

 

「ほう、何故そう思う」

 

「少し聞いただけでも、『深淩の楔魔』が個性的な魔神の集まりだというのは理解できる。自分を除いて九柱であり、自分以上の強者もいる。そんな連中を束ねていた者が慎重ではないはずがない」

 

「……」

 

リウイの答えにディアーネは何も言わないが、その表情で正解だと分かる。

 

「そう思うのならば、御主の好きにするのだな。では我はそろそろ帰るぞ。これ以上ここにいては、嫌な『匂い』が鼻に染みついてかなわぬ」

 

返事を聞かずにそのまま飛び立とうと翼を広げるが、何かを思い出したかのように振り返った。

それを見て、リウイは嫌な予感がした。ディアーネがニヤニヤと笑っているからだ。

 

「ゼフィラの件じゃが、襲撃してきたのなら手篭めてみればよかろう。奴はグラザに惚れておったからな」

 

 

 

―――――――――――――○

 

 

 

マータ砂漠にある、『粛鎖の岩塩坑』。そこは知る者こそ少ないがブレアード迷宮と呼ばれる大迷宮の一つで、『深淩の楔魔』が一柱、流砂の魔神ゼフィラが本拠地として扱い、その結果封印されてしまった場所でもある。

 

そこの最深部たる砂鏡の間には、三柱の魔神が集っていた。

 

「私だけでなく、ザハーニウやエヴリーヌにラーシェナさんも復活しましたので、彼女にも合流してもらおうと思っていたのですが……」

 

「来てみればこうなっていた、と?」

 

「いえ、先客がいたようでして。フェミリンスの子孫を捕らえて力を取り込もうとしていたらしいのですが、その望みは叶うことなく、その者にゼフィラさんは負けてしまったようです」

 

三つの影の内、話しているのは二つのみ。もう一人の魔神(ゼフィラ)は、地面に突っ伏して気絶している。

 

「『ようです』って……どうせお前、その戦闘は見てたんだろ?」

 

「あ、さすがはゼアノス様。やはり分かりましたか」

 

「俺じゃなくても分かるぞ、パイモン」

 

それしてもようやく見つけたと思ったらこれかよ、と、苦笑するパイモンに向き合う。

ゼアノスはゼフィラを探してこの迷宮を何日も訪れたのに、何故か毎回ゼフィラは外出しており、一度も会えなかったのだ。

 

「で? ゼフィラを倒したのは、どんなのだった?」

 

「赤毛の凄腕剣士でした。魔術も使うようでしたが、その魔力は神に匹敵どころか神に並ぶほど。常に無表情であったものの、まさしく女神のような顔立ち……以上が、私が見た特徴です」

 

(……あぁ、セリカか。となると、捕まったのはエクリアかな?)

 

パイモンが口にする情報に、ゼアノスは心の中で答えを出した。パイモンは封印から解かれた直後なため、『神殺し』という存在をまだ知らないのだ。

 

「だけどそんなやつに、何でゼフィラは攻撃したわけ? 魔神としてのプライド、なんて言ったらそれまでだけど」

 

「それもあるでしょうし、フェミリンスの娘を捕らえていたので高揚していました。そして何よりも……相手が人間だから、でしょうね。魔力の感知もしていなかったようですし」

 

「ハッ、なるほどねぇ……『人間だから』と侮ったか」

 

クツクツと軽く笑い、しかし目は笑っていないゼアノスを見て、パイモンは寒気を感じた。

『笑う』という行動は、威嚇から派生している。つまり『目が笑っていない笑顔』は、威嚇という行動と大差ない。

 

凶腕の威嚇。これで恐れない存在は、果たしてどれほどいるのだろうか。

怒りの感情で魔族の本能が表に出た、なんてこともありえるが、それはそれで恐ろしい。

 

「まあ、この件は置いとこう。パイモン、お前は何でゼフィラを探してたんだっけか

?」

 

「ええ、『ヴェルニアの楼』にて合流してもらいたかったのですが……どうしましょう」

 

「放っておけ。このまま助けても、ゼフィラを倒した剣士とフェミリンスのことしか頭に残らないだろうよ」

 

「それもそうですね。ゼアノス様はどうしますか?」

 

「俺もやることがあってな。後で行く、と皆には知らせておいてくれるか?」

 

「はい、分かりました。それでは……」

 

頭を下げたパイモンが、闇に溶けるように転移する。その場に残ったゼアノスは、相変わらず横たわっているゼフィラを見下ろした。

 

彼女の経緯を辿ると、こうなる。

1、 封印から目覚める

2、 外の世界を見に行く

3、 帰ってきたところに偶然にもセリカとエクリアが訪れる

4、 エクリアを攫う

5、 追いかけてきたセリカに倒される

 

それを思い出してゼアノスは、不憫だなぁと頭を振った。

そもそも、ゼフィラを探していたのはグラザが死んでしまった事と、息子がいる事を教えるためだったのだ。これがディアーネなら嫌がらせになるが、ゼアノスはかつての仲間として善意で教えようと思っていた。

 

想い人が既に子供がおり、しかも死んでいるという事を、今後ゼフィラは知るだろう。

人間(セリカ)に負けてプライド的に精神が弱っている彼女に、この悲報を起きてすぐに教えるのはキツ過ぎる。

 

さてどうするか……と少し考え、何かを思いついたのか、ポンッと手を合わせた。

そして指先に魔力を込めて空中に滑らせると……その軌跡に魔力が残り、文字となった。すなわち、メッセージを魔力で空中に書いたのである。

 

書き終わってからゼフィラを一瞥すると、ゼアノスは『歪みの回廊』を展開し、去って行った。

 

 

 

 

 

その数十分後。

セリカによって気絶させられていたゼフィラは、ようやく起き上った。何故気絶していたのか思考を巡らせると、原因を思い出して怒り狂った。

 

ふと顔を斜め上に向けて魔力による文字を見つけ、それが旧知のものだと知り、すぐに読み始めた。

 

『ゼアノスだ。久しぶりだな、ゼフィラ。

お前を探していたら、ここで倒れていたから焦ったぞ。一応、簡易な治癒術を掛けておいた』

 

激怒した今の頭では、余計な事を! と思ってしまう。ここは感謝するとこだ、と難しいが心を落ち着かせる。戦争の時も、ゼアノスの治癒には世話になっていたからだ。

 

『本題というか、何故お前を探していたのかの説明だな。

お前にとっては悲報だが、それを2つ伝えるためだ。

まず1つ目だが……お前が封印されている間に、グラザが死んだ』

 

頭を殴られたような衝撃がゼフィラを襲う。助けられてから惚れた、あの剛毅な男が死んだ。

驚愕で頭が回らなくなるが、悲報が2つと書いてある。これと同格の悲しみがあるのか、と読み進めると……

 

『2つ目。粛鎖の岩塩坑(ここ)から東へ向かうと、メンフィルという国がある。

そこはリウイという男が王なのだが、その男は……グラザの息子だ』

 

ある意味、先の衝撃を超えた。愛した男が、仲間(ゼフィラ)が封印されている間に他の女と関係を持ち、しかも子供もいたとは!

 

ゼアノスの思った通り、セリカ(人間)に負けてプライドがズタボロになったゼフィラには、これは酷すぎるほどの悲報だった。

崩れ落ちそうになった彼女は、最後の最後に、メッセージの一番下の一文を読んだ。

 

『ちなみに王妃はフェミリンス本筋の三女で、お前が攫った娘の妹だ』

 

瞬間、ゼフィラは風になった。

 

彼女の頭には、『フェミリンスの娘=王妃』『王妃=王の妻』『王の妻=グラザの息子の妻』。これしかなかった。何故ゼアノスが、ゼフィラがエクリアを攫った事を知っているのか。そう考える余裕もなかった。

 

ゼアノスがこれを狙っていたのか、善意で教えたのか。それは本人しか知らない。

 

 

 

ただ……

 

 

 

遠方から『粛鎖の岩塩坑』を見ていた魔神が、彗星の如く飛んでいる物体を見つけて大笑いしていた事を記しておく。

 

 

 

 




>ディアーネ
>ゼアノスVSディアーネ&グラザ
>フェミリンスをどうでもいい存在だと割り切っている
ゼアノスと戦ったことにより、ディアーネは少々性格が変わってます。
実は三つ巴を狙ったのに挑発が失敗して相手側が組んじゃって、しかも二人が本気だったのでちょい焦って何割か本気になってました。
深淩の楔魔の皆が封印されたのに、ディアーネがグラザと喧嘩して偶然にも封印から逃げられたのはこのためです。じゃないと生き残ったイリーナが……。

>深淩の楔魔
>個性的な魔神の集まり
むしろ個性的じゃない魔神っているんですかね? 小物臭のする魔神なら結構いますけど。
……グレゴールとか、ゼフィラとか。ファンの方にはすみません。嫌いではないんですけどね

>ゼフィラ
待遇が悪い? アンチに見える?
そんなことない(と思う)よ! 彼女にはこれからも盛大に『活躍』してもらうよ!

>ゼフィラとメンフィルに対する悪戯
イリーナが死ぬかも、なんて欠片も思ってません。可能性すら考えてません。
何故なら自分が強化したイリーナが殺されるとは思ってないから……ではなく、『未来の危機 < 面白い事』だから。
前回書いた通り、相手が魔神なら強化型イリーナでも死ぬ可能性はあります。


あと今更ですが、別に神様転生じゃなくて『特別な能力を持った歪魔』のオリ主でも良かったような気がしてきました……。


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