戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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更新です。

えー、【創刻のアテリアル】の事については、賛否両論あると思います。
反対の理由として、『世界観がおかしくなる』等があるでしょう。ですが出来るだけ違和感が無く、早く終わらせようと思いますので、どうか見てください。

正直な話、介入させた方がこれからを進めやすくて……。
ですがアンケートの結果によっては諦めるつもりでした。これは本当です。

長文失礼しました。それではどうぞ。


―狭間の宮殿・転―

 

 

【枢孔身妖舞】の構えから技を放つ瞬間、パリン、という音が聞こえた。

非常に小さく、俺以外は気が付いていないようだったが、俺は気付いた。その音の原因を理解して技を出すのを止めようとするが、振り下ろす直前で、もう間に合わない。

気合で止める、という考えも浮かぶが、無論却下。ならどうするか。

 

「ふんっ!」

 

幸いにも、振っている腕はまだ右腕のみ。だから左脚を使って、右手を蹴りつける。何も考えず咄嗟に足を上げたので、膝が右手首に命中した。

 

「っつ……痛ってぇ……」

 

高速剣とも呼ばれる程に速く斬撃を出すには、それ相応の速さで腕を振るう必要がある。そんな高速で動く腕を、動いている最中に止めるのは、とてもリスクが高かった。

丁度逆方向になる場所から止めたのだから、尚更だ。

おかげで血がダラッダラだよこんちくしょう。

 

「己の手を痛めてまで、何故攻撃を止めた?」

 

暗黒魔術の治癒術である【闇の息吹】で手首を治していると、完治とまではいかないが、傷が目立たない程度にまで回復した勇士が聞いてくる。

 

「お前らと戦う理由が無くなったからだよ、ほれ」

 

俺は後方に指を向ける。指し示す先にあるのを見れば、変異体の持っていた腕輪が地面に、それも真っ二つになって落ちていた。セリカが斬ったのだろう。

 

「そういうことか……待っておれ、セリカ。今行くぞ!」

 

「さて、アムド……シ、アス……?」

 

勇士たちがいなくなったので、俺と一緒に一時的に敵対していたアムドシアスに、もう戦う必要はない事を教えようと思い、顔を向ける。

そして見えたのは、召喚したのかケルベロスに乗りながら魔術を放つナベリウスと、俺があげた魔導鎧を身に付けながら戦うアムドシアスだった。

乗り気ではないとか言っていた気がするが、すごく激しく動きながら攻撃している。派手さで言えば一番だろう。

 

片方は番犬の爪牙やブレス、本人の暗黒魔術が目立ち、もう片方は弓矢や砲撃が飛び、時々電撃魔術で牽制している。実力差はあまりないようで、勝負がつく様子がない。

 

「しょうがないな……円舞斬!」

 

直線状に進む、威力を重視した斬撃。万が一のことを考えて最弱の技にしたけどそれは杞憂に終わり、二人の間を通った。

余所から攻撃されたことで二人がこちらを向くが、俺は何も言わずにセリカの方へ走る。こうすれば、俺が何で攻撃したのか理解するだろう。

 

 

 

―――――――――――――○

 

 

 

俺を含めた3柱の魔神が加勢しようとセリカの所へ向かったが、結果的に言えば意味が無かった。到着した頃には決着が着いており、変異体は消滅し始めていたのだ。

あいつはセリカの記憶と技を持っていたが、邪気によって身体を作っていた精神体に過ぎなかった。決意を持っていれば、過去の自分だろうが勝つのは難しくないだろう。

 

それに、あいつが持っていた影詠の腕輪。あれにはちょっとした副作用がある。

通常の召喚や使役なら、召喚もしくは使役の魔術を使った時だけ魔力を消費する。だがあの腕輪は、召喚・使役し続けている間、ずっと消費し続けるという効果があった。

仮にも俺を使うのだから、これくらいの副作用があってもいいだろう。

何でそんなことを言っているのかというと、

 

「なるほど。だから思っていた以上に弱かったのか」

 

戦い終わった後のセリカが、変異体が弱く感じたと言ったので種明かしをした訳だ。

そんでもって、今回俺が敵に利用されたのは俺が腕輪を渡したことが原因だから罰を受けろ、ということになった。

……何で?

 

「待て待て待て、待ちたまえ。確かに悪いとは思うが、もしセリカに渡してなかったら、セリカはもう死んでいたのかも知れないんだぞ!?」

 

「ふむ、そうか……なら、先程受けた貴様の攻撃のお返しを儂がするとしよう。悪いと思っておるのなら、甘んじて受けるがいい」

 

いくら俺でも罰を受けるのは嫌だ。俺はM(マゾ)じゃない。だから反論するが、勇士が違うことを理由に殴らせろと言ってきた。

 

「いや、お前に関しては悪いなんて欠片も思って」

 

ない。そう言おうとする俺の言葉を遮る者がいた。

 

「超ねこぱんち!」

 

「へぶぁ!!」

 

技名で分かるだろうが、ペルルだ。横から顔を殴ってきた。

というか見事にクリーンヒットしたんだが。2回連続で大当たりとかふざけんな。

 

「おいこら、何しやが……」

 

「延髄砕き!」

 

「ぐぁぶっ!!」

 

今度は空の勇士だ。こいつは顔面にパンチしてきた。今のは延髄じゃなくて【顔面砕き】の間違いだろ。砕けてないけど。

 

「さて、行くか」

 

「………うん…」

 

セリカとナベリウスを初め、俺を全く気にしないで先に進もうとする面々。

 

「えっと、大丈夫……ですか?」

 

「ゼアノス、無事か?」

 

「……ああ、大事ない」

 

リタとアムドシアスだけは気にかけてくれた。優しいね二人とも。

アムドシアスは元とはいえ同門と戦わせちまったし、リタとはさっきまで殺し合いとは言っても過言ではない程の戦闘をしてたのに……って、だから他の奴らは気にしないで先に進んだのか。殴られたことも納得はしてないけど、まあいいや。

 

それにしても今のがギャグ補正か。不意打ちとはいえ俺が避けられないとは……。

とりま、回復が先か。

 

「闇の息吹、っと。……待たせた、行こう」

 

言うと、二人とも返事をしてくれた。

アムドシアスはともかく、リタは別にいいのに、と言ったら笑顔で『主をずっと守ってくれていた方ですから』という返しを貰った。

何て優しいんだ。アカン、惚れてまうやろぉぉぉーーー!!

 

 

 

―――――――――――――○

 

 

 

そんな笑えない冗談はさておき、奈落に落ちないように注意しながら走ると、セリカ達にはすぐに追いついた。何故か動きが止まっている。

 

「ゼアノスか、速かったな」

 

「急いだからな。で、どういう状況だ?」

 

「それがだな……」

 

話しを聞けば、もうすぐで宮殿の最深部に着くのだが、その入口に下半身が蛇のような天使がいて、セリカ達と話している、という事だった。

天使とはこの場所に来る途中にも、何度か遭遇している。第九位のリエトに第八位のグラキエルや、第七位タージエル。そして、第六位のヘルテ等に。

 

そして下半身が蛇みたいな天使といえば、第六位天使のヘルテかミカーニアが思い当たる。

迷宮にいる神聖種は、こいつらが最強の座を占めているからだ。

 

ふと前を見ると、たしかにそんな姿の天使がいる。見た目、そして感じる魔力からして、やはり、第六の位を冠する能天使だろう。だがあれは、ヘルテやミカーニアではない。

 

神聖を表す頭上の光輪に、神官が着る物よりも神々しさのある法衣。そしてピンク色の長い髪と天使特有の翼は、動くたびに靡いている。たとえ蛇のような尾があっても、【綺麗】という言葉がとてもよく当て嵌まる容姿だ。

 

そいつと、視線が交差した。一瞬だけ驚いたような表情になり、俺の所に飛んで来る。

 

「久しぶりね、ゼアノス。それとも、始めましての方が合ってるかしら?」

 

小さく笑いながら言うその顔は、悪戯が成功したお姉さんのような雰囲気を出している。

ただの俺の想像に過ぎないが。

俺はこの能天使に会ったことはない。なのに、どうして『久しぶり』なのか。

 

「……誰だ?」

 

「やはり覚えてないのね。貴方達と別れた時に『次に会う時があるとしても、お前らのことを俺は恐らく忘れてる』と言っていたけれど……本当に忘れてるなんて。私の名前は……私のことを思い出したら、答え合わせで教えるわ」

 

微笑むその顔からは、企み等は一切感じない。本心しか語ってないのか?

だとしても俺は会った覚えはないし、かつて会ったことがあるのかも知れないが、どれだけ考えても思い出せない。しっくりしないが答えが出ないので、何故こんな所にいるのかを聞いてみると、邪神を討ちに来たそうだ。たぶん、俺達は橋を落とすために柱を壊していたから、その間にここまで来たのだろう。

 

だがどう見ても自分よりも強いセリカとその仲間を見て、邪神を倒せる確率の低い自分ではなく、セリカ達がやると言いだしてきたので、話をしていたらとのこと。

それで結局、セリカに譲ったらしい。

 

「なるほどね。んで、これからどうするんだ?」

 

「そこはまだ決めていなかったのだけれど……貴方に会って、ディストピアに移住しようかと考えているのよ。あそこには天使もいると、聞いたことがあるしね」

 

こいつには俺がディストピアと関係があることは教えていないはずだが……昔に俺が話したのか? あ、服装で分かったのか?

 

「……それはそれは、何で俺と会ってディストピアに行こうと思ったんだ?」

 

「ふふっ、何故かしらね?」

 

睨めつけて聞いてみるが、そんな言葉で流される。

 

「ゼアノス、話は済んだか?」

 

いい加減待ちくたびれたのか、セリカが聞いてきた。そう言えばあと少しだったか。

 

「聞きたいことはまだあるが……時間が無い。またいつか俺が思い出したら。もしくは……そうだな、ディストピアで会えたら、その時に話そう」

 

暗に、俺はディストピアと関係あると伝える。分かっているのだろうが敢えて教えた。

案の定、目の前の能天使は頷く。俺の言葉に対する肯定と、『分かっている』と言う意味を含めた首肯だろう。

 

宙を飛んで今度はセリカの所へ行き、頭を下げた。

 

「どんな理由があったとしても、私がしようとしていたことを、貴方に押し付けてしまう形になってしまったわね。ごめんなさい」

 

「構わない。これは元々、俺が片を付ける問題だからな」

 

セリカの言葉に『ありがとう』と言い、彼女はこちら側に再び飛翔する。このまま出口まで行くのだろうと思い、俺は前に進む。

 

互いにすれ違う際、この能天使は、俺だけに聞こえるような小さい声で、言った。

 

「お願いね、凶腕さん?」

 

その言葉に反応し、思わず振り返る。俺から言わせれば、天使は別段速く飛ぶわけではない。それにあいつは見るからに魔術型だったから、特別速い個体でもないだろう。

現に、まだ近くにいる。だから勇士と戦った時と同じ速さで追えば、すぐに追いつける。

 

……そう考えたが、これから彼女はディストピアへ行くと言っていた。ならば今は気にせず、終わってから詳しく聞くことにしよう。

俺が凶腕だと知ってたから、ディストピアに行くことを考え付いたのかもしれない。

 

「ねえねえ」

 

思考の海から帰ると、俺の少し前にいるペルルが俺を呼んでいることに気付く。

 

「何だ?」

 

「ディストピア、僕も行っていい?」

 

「……何で俺に聞くんだ?」

 

「今の天使と会話しているのを見て思い出したんだけど、ゼアノスはディストピアの魔神なんでしょ? 僕、闇夜の眷属が住める場所を探しているから丁度良いと思ったんだ。これは僕だけじゃなくて、お師範様の願いでもあったから……」

 

アビルースの事を思い出したのか、少し涙目になりながらもそう語った。

無論、断る理由はない。基本的に、来るものは拒まないからな。

 

「そうだな。じゃあ、この戦いが終わったら案内しよう」

 

「ほんと!? やったぁ!」

 

これから邪神との死闘が始まるとは思えない程に、ペルルがはしゃいでいる。

さっき殴られた腹いせに意地悪でもしてやろうかと思ったが、アレは俺に非があるから止めた。

仲間内には優しいんだよ、俺は。

 

 

 

 

大きな入口を潜った、その先は宮殿の最深部。

狭間の宮殿の、その本殿にあたる神の処刑台がある場所。

その最奥に、奴は……邪神アンリ・マユは、いた。

 

「我の、身体を……新たな器をぉぉ……怨、ぉぉぉぉおおおお怨……」

 

生きとし生ける物の心を吸い取り、憎しみを己の糧とし、邪気をばらまく邪神。

かつて、慈悲の大女神は邪悪な心を集めていた。人々が争わぬように、必死になって。

だがそれはうまくいかず、その邪悪な心に蝕まれ、自身が邪気を放つ存在へとなってしまった。

 

本来なら慈悲の大女神、アイドスが邪神化して、ここで戦うはずだったのだろう。

だがそれは俺のエゴによって変わり、より強大な邪神となった。

そのことに後悔は皆無だ。俺は正義の味方ではないし、英雄や勇者でもない。その逆の存在だ。

 

とまあ長々とシリアス感を出した訳だが、今回ばかりは結構真面目にやる。本当に危なくなったら、凶腕になるのも考えてるくらいの相手だ。

 

「死ぬつもりはないが、命を賭して戦う」

 

決意の表情で、俺の隣にいるセリカが言う。自分に言い聞かせているのかもしれない。

 

(我は死ぬつもりなんぞないが、セリカ、御主とは運命共同体じゃ。この世が面白くなくないことになるのあれば、未来に懸けようぞ)

 

この二人に続き、他の皆も己の決意を言葉にした。たった一言にも意志が宿り、それがそれぞれの力となってゆく。

 

(くくくっ、ゼアノスを見てみるがよい、この状況でも笑っておるぞ)

 

ハイシェラの言葉で、セリカが俺を見た。俺も気付かなかったが、笑っていたらしい。

 

「今この時にでも笑うのだな、ゼアノス」

 

「ああ、これが終わった後の事を考えるだけで楽しいし、面白くなっていく。何よりも、この戦いが楽しみだ!」

 

会話をしている間に、アンリ・マユは姿を変えていく。形を持った邪気が無数の触手に、牙に、尾に、腕に、手に変化する。

明らかに戦闘態勢に入ったのであろうその姿は、今までに見たどんなモノよりも汚れて邪悪なモノに見えた。

 

「思えば、サティアとゼアノス。この二人と出会ってから、この旅は始まった」

 

着々と変容する邪神を見ながらセリカが呟き、自身の胸に手を置いた。

 

「俺とゼアノスが手を組み、サティアは……ここに。そして、今は仲間がいる。だから、負けはしない」

 

「……良いこと言うじゃねーか」

 

俺はそう言ってニヤリと笑い、愛用の双剣――【エルサレム】の片方をセリカへ向ける。意味を理解できたのか、セリカは僅かに笑った。

そして、地の魔神が封印されている剣――【ルン・ハイシェラ】を振り、剣と剣を合わせ、キンッという音を響かせる。

 

そして同時に、剣を構えて戦闘態勢に入る。それに少し遅れて、後方の仲間が構える。

アンリ・マユは、完全に変化し終わっていた。窪んだ双眸から、鈍い光が見える。

 

(ここまで高揚するのは、もしやすれば初めてかもしれぬ。行くぞ、セリカッ!!)

 

「ああ……これで、終わらせる!」

 

「泣いても笑ってもこれで最後だ。お前ら死ぬなよ!!」

 

先頭にいる俺達二人の言葉に、『応!!』という声が遅れて聞こえる。

さて。打ち合わせ通り、最初はこれで行きますか。

 

「ゼアノス、行くぞ!」

 

「ああ、合わせろ!」

 

セリカと同時に飛燕剣を放つ、何気に初めての複合飛燕剣。

飛燕剣の中でも全体高速剣と呼ばれる紅燐剣の最上位技、全体高速剣最大の奥義とされる、枢孔紅燐剣。それのタイミングを合わせて、同時に放つ。その名も……

 

「「紅燐剣舞連ッ!!」」

 

 




空の勇士達との戦いですが、どうやって終わらせようか迷った結果、こうなりました。
中途半端ですみません……。

>紅燐剣舞連
戦女神ZEROの【ハイシェラ招聘】という技を参考にしました。
ネーミングは適当です。



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