戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—古神と現神と……死神—

 

 

 

ベルゼブブと同盟を結んでから、さらに100年の歳月が経った。この期間、とてつもなく面倒だった。というのも、ベルゼブブが七つの大罪仲間であるルシファー、レヴィアタン、サタン、ベルフェゴール、そしてアスモデウスに俺を紹介したのが始まりだった。

 

みんなバトルジャンキーだったらしく、それからというものルシファーと模擬戦して、レヴィアタンと模擬戦して、サタンと模擬戦して、ベルフェゴールと模擬戦して、ベルゼブブと模擬戦して、さらにアスモデウスとも模擬戦をしていた。

………あれ、おかしいな。模擬戦しかしてなくね? まぁ全部勝ったからいいけど。

 

「ゼアノス様、大丈夫ですか? ……凄いですね、ルシファー様に勝つだけでなく、他の魔王様すら倒してしまうなんて」

 

「そうですね。古神の中でも、特に強大な魔王様であるこの方々と休みなく連続で、それも一対一で戦って生き残るなど、現神といえども不可能でしょう。たとえそれが黄の太陽神、アークリオンだとしても」

 

アークリオンとは、光側に属している神々の王。つまり最も権威のある主神だ。

 

「つまりそれは、ゼアノス様がアークリオンよりも強いということを示しているわけだな、パイモン?」

 

「えぇ。そういうことになりますね、ラーシェナさん」

 

気が付いたであろうか? 今俺のことを話しているのは、将来ブレアードに招喚され、姫神フェミリンスと共に封印されてしまう深凌の楔魔、魔神ラーシェナと魔神パイモンである。

 

ルシファーが来た時に、忠実な部下だと紹介してくれたのが始まりだ。

様を付けて俺を呼んでいるのは、彼女らの目の前で、主である魔王ルシファーを倒したら、尊敬の目で見られたためである。

 

「大丈夫だ。ありがとな、ラーシェナにパイモン。お前らも、しっかりとルシファーを支えてやってくれよ?」

 

「はい、もちろんです。しかし我々ごときが、あの方の支えになれるでしょうか?」

 

「なれるさ、お前らにはそれほどの器がある。そうでなければ、ルシファーがお前らをわざわざ連れてくるわけがないだろ?」

 

そう言って、ラーシェナの頭を撫でる。ラーシェナの身長は、成人と呼ぶにはまだ低く、子供と呼ぶには大きいくらいだった。

 

魔神にも子供の時代ってあるんだな、と思った瞬間でもある。

それとは別に、ラーシェナやパイモンはとてつもない年齢であることもわかった。何せルシファーと共に堕天したというのだから、軽く千年は超えているのではないだろうか。千年は生きているのに子供って、なんだろうね? 怖いから詳しく聞く気はないが。

 

「あ、頭を撫でないでください!!」

 

「ん? 嫌だったか?」

 

なんか拒否られたので撫でるのをやめて、近くでへばっている七柱の古神のもとへ行くことにした。

 

「え、あ………はぁ」

 

「……後悔するのでしたら、言わなければよかったのでは?」

 

「しょうがないだろう。恥ずかしかったのだ」

 

なんか原作よりもあいつらの仲がいい気がするけど、何かあったのか? ラーシェナが落ち込んでるところを、パイモンが呆れながら慰めているといった感じだが。……ま、いっか。

 

「大丈夫か? 七つの大罪(バカ)共」

 

「……誰がバカだ、誰が」

 

「お前らだよ、戦時中なのに俺に挑みに来てるお前ら」

 

そう。今現在は古神と現神、そして機工女神の間では戦争が起きている。

 

——大昔より機械などを与えて人間を支配してきた古神——

——魔法を教えることを条件に信仰を移させようとする現神——

——人類がより良い生活を送るために造られた機工女神——

 

この三種の神が、覇権を巡って戦争をしているのだ。これは恐らく、後に三神戦争と呼ばれるものだろう。そんな非常時に、古神の中でもトップの実力を持つこいつらが戦場にいなくていいのか?

 

「なに、問題はない。今は我々の精鋭が攻勢に出ている。余程のことがない限り、我らに負けはない」

 

「だが最近は、何故だか古神の力が弱まってきているんだろ? お前らを含めて」

 

「そうなのだ、最近は我も少しずつ弱くなってきておる。……どうだ凶腕(きょうわん)のゼアノスよ、今晩こそ我とすごさぬか? お主の精気を貰えれば、我も大分回復するのだが」

 

「お前を抱く気はもうないよ、アスモデウス。やるんだったらお前の部下とでもやっていろ」

 

前に一度、一度だけアスモデウスと夜を過ごしたことがあった。紫色の長い髪と青い瞳が似合うとてつもない美人で、これほど美しい女性は見たことがないくらいであった。そして、つい誘いに乗ってしまったのだ。

 

だがもう二度とすることはないだろう。こいつは色欲を司る魔王だ。最強のステータスを持つ俺でも、そちらはあまり関係なかったらしい。剣や魔術での戦闘では圧勝だが、夜の戦闘は引き分けで、翌日に精力が足りなくなるのだ。睡魔族の最上位種といえるのかもしれない。

 

他の魔王から言わせれば、引き分けられるだけでも規格外らしいが。

 

それ以降毎日誘いを受けているが、一回も了承したことはない。俺は負けず嫌いなので、一回乗ってしまえばまた前回と同じになる。それは嫌だ。精力がないのは、結構つらいものがある。

 

ちなみに凶腕というのは俺の二つ名で、いつの間にかそう呼ばれていた。

……厨二か?

 

「何を言っておるか。あ奴らでは我が満足せぬ。というよりもお主以外では皆すぐに死んでしまうだろうが」

 

「ならばお前が我慢しろ」

 

「ねぇねぇ、なら私としない?」

 

俺らの会話に乗り込んできたのは、アスモデウスと同じく七つの大罪が一柱の魔王。

嫉妬を司る女魔神、レヴィアタンだ。

 

彼女もまた美しく、肩まである青い髪と黄色い目をした美少女だ。断じて美女ではない。美少女、もしくは美幼女だ。見た目が精々小学生程度の大きさしかない。それなのに数千年、もしくは万年は生きているというのだから恐ろしい(見た目的な意味で)。

 

「んー? 何か失礼なこと考えなかった?」

 

「考えてない。それにお前とはやる気にすらならん」

 

「あー! そんなに酷いこと言うなー!」

 

精神的にも見た目通りなところがまたメンドクサイ。とはいっても、これでも魔王だ。それ相応の実力はある。それこそ、そこらの魔神では比べものにならないほどに。

……それにしても

 

「はぁ、これでもし現神勢力が攻めて来たら、対抗できるのって俺しかいなくないか?」

 

七柱のバカは、喋ることはできるが戦いはできない状態。彼らの配下はどこかに配置されているために此処にはいない。ラーシェナとパイモンも訓練していたために疲れて戦えない。

 

「そうだろうな、だが大丈夫であろう。確かに今は我ら全員が戦えぬが、このようなタイミングで来るなんてことは…「ゼアノス殿! 現神の軍勢が攻めてきましたぞ!」……」

 

そう言ってきたのはネルガル。最初は呼び捨てにされていたのだが、10年くらい経ってから敬われるようになった。それからは殿と付けて呼ばれている。

 

「…………」

 

「で、俺に出撃しろと?」

 

無言でこちらを見てくる古神×7に、呆れた声で言う俺。『問題ない』と言われたと同時に攻めてきたとなれば、呆れても文句は言われないだろう。

……皆同時に頷くな、重なって気持ち悪い。

 

「まあいい、他ならぬお前らの頼みだ。やってやる。ネルガル、ここの守衛はまかせた」

 

「承りました」

 

恭しく頭を下げるネルガルを尻目に、俺は外に出ようとする。そこへ、この世界で初めてというべき友人である古神が、俺を呼んだ。

 

「ゼアノス」

 

「なんだ?」

 

「「「「「「「絶対に勝て!」」」」」」」

 

七柱全員がハモって言った。かなり驚いたが、顔に出さないようにして言葉を返す。

 

「俺が負けるかよ」

 

 

 

————————————◇

 

 

 

ベルゼビュート宮殿から外に出てみれば、そこは現神の配下、そして現神であろう強大な存在がいた。その姿は、人型の上半身と猛禽類の下半身と翼を持つ男だ。

 

「……俺は魔神ゼアノス。古神や他の魔神からは凶腕と呼ばれている。お前は?」

 

「我は狩人の神マーズテリア! 等級は持ち得ていない!」

 

自己紹介をすると、律儀にも返してきた。それにしても、マーズテリアって第一級神だった気がするんだが……気のせいか?

 

「そうか、ではマーズテリア。どうせお前はここを落としに来たんだろ? それならまずは俺を倒してからにしろ」

 

「もちろんそのつもりだ。行くぞ!」

 

掛け声と共に剣を振り下ろしてくる。とりあえず、いつも使っている二つの刀で応戦。

豪傑のような見た目に反して、ヒット&アウェイの戦法で攻撃してくる。斬ろうとこちらから近づけば、光の魔術、それも神罰クラスのものをぶっ放してくる。等級を得ていないとか言っていたが、威力や戦術は二級神以上だ。全力の魔王と同等かそれ以上の力を持っている。

 

それに加えて神格者やマーズテリアの部下、天使や信徒が遠距離から地味に攻撃してくるためにやりづらい。でもまぁ。

 

「七つの大罪全員を一度に相手にしたのと比べれば、問題ないっ!!」

 

常時普通の左腕に巻きつけることで隠している第三の腕。それを突如出現させ、剣を振り下ろすと同時にマーズテリアが避けた方へ突き出す!

 

「グッ!」

 

見事にそれは命中。マーズテリアの腹に風穴を開けた。

それをくらった本人(本神?)はもちろん、彼が連れてきた者達も、突然のことに驚愕している。神格者だと思える人物が飛んで来ようとしたが、俺が一睨みすれば殺気に圧されて下がっていった。

 

「……それが、凶腕と呼ばれし所以(ゆえん)か……」

 

「そういうことだ。この勝負は俺の勝ちだな、マーズテリア」

 

「ふふ、それはどうだろうな?」

 

「あん? 何を言って……」

 

俺の言葉はそこで途切れる。はるか後方で非常に大きい爆発音がしたためだ。振り向いて爆発した場所を見る。そこは……

 

「何故……ベルゼビュート宮殿が…?」

 

ベルゼビュート宮殿だった。

俺が100年ほど過ごした、『家』とも言える場所。バカだったが一緒にいて楽しいと思えた『家族』がいる場所。

 

呆けていると、宮殿から五つの強大な力が出てきた。最初はルシファー達かと思ったが、感じる威圧は光の現神のもの。特に一番前にいる厳格な老人、それが最も強い波動を発していた。

 

「マ、マーズテリア!?」

 

人型の上半身と狼や熊の四肢に猛禽類の翼を持つ男の現神が、竜巻のような雲を纏って突っ込んでくる。その手には巨大な朱い槍があり、邪魔をするなら突き刺そうとしている。

 

それをヒョイと避け、1+5で合計六柱となった現神と対峙する。

一柱目は黄の太陽神と言われ、主神ともされるアークリオン。

二柱目は大地の女神にしてアークリオンの妻、アーファ・ネイ。

三柱目はアークリオンの息子にして赤の太陽神、アークパリス。

四柱目はアークリオンの娘で青の太陽女神、パルシ・ネイ。

五柱目は嵐の神とされるバリハルト。

最後に、先ほどまで戦っていたマーズテリア。

これで合っているだろう。むしろそれ以外の神ならば、これほどの威圧感は出せない。何しろマーズテリア以外が全員一級神だ。間違えるわけがない。

 

「大丈夫かマーズテリア!?」

 

「一応は……」

 

「まさか、魔王以外に貴男に勝てる魔神がいるなんて……はい、傷は治したわ。完治は出来なかったから、後でイーリュンに再度治してもらいなさい」

 

「わかりました。ありがとうございます、アーファ・ネイ様」

 

バリハルトがマーズテリアの心配をし、アーファ・ネイが簡単な治療をしている間、俺は他の現神を見ていた。向こうも向こうで思うことがあったらしく、ジッとこちらを窺っている。

と、そこへマーズテリアが話しかけていった。

 

「皆様、お怪我はございませんか? それと、成果の程は?」

 

「流石に魔王だ、無傷とはいかぬかった。二体ほど堕天使に逃げられてしまったが、七柱の魔王と古神並みの力を持つ魔神を滅することには成功した」

 

堕天使というのは、恐らくラーシェナとパイモンのことだろう。よかった、どうやら逃げることに成功したらしい。いや、案外ルシファーが無理矢理逃がしたのかもな。

でも、ネルガルがやられたというのは意外だった。あいつは原作でも出てきたはずなのだが……ヤバいな、もうそこらへんをあまり思い出せなくなってきてる。

 

「魔神よ、そなたの名はなんという?」

 

「……狭間の魔神、凶腕のゼアノスだ」

 

「そうか……ゼアノスよ、そなたの力は危険だ。故に、我ら全員で相手をしよう。恨むなら、力を付け過ぎた……魔神に生まれた自身を恨むがよい」

 

アークリオンの言葉が終わると同時に、その場にいる現神勢が詠唱を開始した。さすがに一気に受けるのはマズすぎるので離れようとして……できなかった。

いつのまにか俺の真下に六人の神格者がおり、それぞれが部下や天使と共に、結界を作っていた。

くっそ、マズイ、逃げられねぇ!

 

「「「「「「受けろ、神罰!!!!」」」」」」

 

その六つの声が響いた時、その場に六つの光の柱が上空に現れた。それは一つとなり、遥か上から凄まじい勢いで落下してくる。

俺はそれを受け、そして……

 

 

 

 

 

 

 

『あ、ヤッホー! 元気? ちょっと用があって呼んじゃったけど都合悪くなかった?もし悪いのなら後でもいいんだけd「今でいいです!! ありがとうございます!!!」うわ! な、なに!?』

 

死神に助けられた。殺された相手に命を助けられるとは……皮肉な。

 

 

 

 


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