戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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新年早々パソコンが壊れて投稿できませんでしたが、ようやくできました。


—冥き途にて—

 

 

 

 

あの転移門を使用するのは、どうやらかなり無理があったらしい。それが分かったのは、ここ”冥き途”へ繋がっていたことから判明した。

 

冥き途は冥府への入口。本来なら死んだ者しか来ることができない場所。いくら転移門が多い魔術城砦でも、ここに繋がっているというのは些かおかしい。

 

「……ものの見事に不死体だらけだ。あの群れに飲み込まれないように注意しろ」

 

「言われなくても、あんな所へ行こうなんて思わないわよ!」

 

シャマーラに軽く注意すると、彼女は魔神である俺に普通に接してきた。相当適応力があるようだ。その精神力は感心できる。

 

「霊体も数多くいるが……ここではあのように漂っているのが正常なのか?」

 

「いいや、違う。俺は来たことはないが、知り合いが来たことがある。その際に聞いたが、それと比べるとあの霊たちは迷っているように見える」

 

正面を向くと、霊は視界いっぱいに入ってくる。様々な方向へ、規則性なく彷徨っている。番人がしっかりしていれば、このような事態にはなるはずがない。となれば、ナベリウスに何か異常が起きているのかもしれない。

 

「とにかく、先に進まないことには何もわからないな。行くぞ」

 

「ね、ねえセリカ。本当にこの先に行くつもり? 魔神もいるんだし、あの人に任せておけばいいんじゃないの?」

 

「……誰かが、俺を呼んでいる気がするんだ」

 

進むことに否定的な意見を言ったシャマーラに、セリカはそう言った。誰かに呼ばれている。それが”誰”なのかまでは推理できる。三通りしかない。

魔神ナベリウスか、”得体の知れないモノ”。もしくはその両方。

 

瞬間、凄まじい重圧が俺達を襲う。それはまるで、全てを憎み恨むかのような圧力。

魔神である俺と女神の身体を持つセリカには大した問題にはならないのだが、人間であるシャマーラとレクシュミには大問題だ。最悪の場合、精神を持っていかれる。

 

この感覚を俺は知っている。精神を……感情を、心を奪われるかのような、この感覚を。

 

「きゃあ!」

 

「シャマーラ!」

 

やはりあいつは、近くまで来ていたらしい。俺が奥へ続く扉を開けたと当時に、一番後ろにいたシャマーラが宙吊りになっている。”あいつ”の触手によって。

 

「はぁ……」

 

触手に女が吊れられているこの光景ってエロくね? とかいうふざけたものは心の隅に追いやって(追いやるだけで消しはしない)、左手に魔力を溜める。そして放とうとしたが、思いもしなかったことが起こった。俺ではない違う誰かが、魔弾を放ったのだ。それも、シャマーラを助けることが目的で。

誰が助けてくれたのかと俺以外の三人は困惑しているが、そうしている内にも、アレは再生している。

 

「お前たちは先に行け。俺はこいつを何とかしておく」

 

「だが、大丈夫なのか? 今も再生しているが……倒せる、のか?」

 

「完全に倒すのは無理だろうが、足止めならできる。また捕まらない内に早く行け」

 

「……分かった。行くぞ」

 

「え、セリカ!? ちょっと待ってよ!」

 

誰よりも早くセリカが駆け出し、シャマーラがそれを追いかける。大方、使い魔達の誰かに何か言われたんだろう。

 

「で、お前は行かないのか?」

 

「……健闘を祈る」

 

最後まで残っていたレクシュミが、そう言って去った。だけどさ、それ、死亡フラグ建たせてねえか? まあそれくらいで死ぬ俺じゃないけどさ。ところで、

 

「いつまで隠れているつもりだ、ハイシェラ? ふんっ!」

 

近くにいるであろうハイシェラに呼びかけ、すぐさま襲いかかって来る触手をぶった切る。斬っても斬っても死なない敵ってのは、本当に面倒だ。本気を出せば殺せるだろうが……それでは何の意味もない。

 

「ふむ、やはり気付いておったか。助けはいるか?」

 

「いるように見えたのなら、目を取り換えることをお勧めする」

 

斬っていた間に溜めていた魔力を解き放ち、再生が追いつく前に、バラバラになった肉塊を歪の回廊で転移させる。どうせここにいたのは分身体だろう。仮にも古神に属しているだろうあいつが、あんなに弱い訳がない。

 

ついでに、周囲に湧いている不死体や霊体を屠る。目障りだ。

 

「流石だのゼアノス。それでこそ我の宿敵よ」

 

カラカラと笑いながら近づいてくるハイシェラ。命のやり取りを滅多にしてはいないが、そえでも宿敵と言えるのか……まあ本人がそう言ってるんだし、別にいっか。

にしても、確かに俺は二柱の魔神をケレースに転移させた。だけど、まさかここでまた会うとは思わなかった。

 

ハイシェラはここにいるであろうナベリウスの古い知り合いだと言っていたし、一緒にいるアムドシアスは、ナベリウスと同じソロモン72柱。異変を感じて心配になったのかもしれない。

 

とりあえずセリカに追いつくため、二柱の魔神と一緒に奥へ進む。すると予想通りに、そこには先に行った三人の他に、対峙している小柄な少女がいる。

 

「アムドシアス、あれがナベリウスか?」

 

「そうだ。我と同じく、ソロモン72柱が一柱だ」

 

俺は直接会ったことは無いので、同門だったはずのアムドシアスに聞く。答えは分かりきっているが、顔は覚えていなかったので丁度良かった。

 

「あの見た目に反して、ものすごい魔力だな……魔力だけなら、お前ら以上にあるな」

 

「その通りじゃが、その分、見た目通りにナベリウスは膂力がない。それを補っているのが……ほれ、出てきたぞ」

 

ハイシェラが指さすと、さらに三つ首の大型の犬が現れた。地獄の番犬とも言われる、犬型の魔獣ケルベロスだ。

それとハイシェラが『ナベリウスは膂力がない』と言っていたが、それはあくまで魔力に比べて、だ。そこらの人間よりは遥かに強い。

 

「……女神の身体だとはいえ、目覚めたばかりのセリカに人間が二人。対する相手は、古神に連なる魔神にケルベロス。使い魔がいても分が悪いな」

 

セリカなら大丈夫だと思うが……念には念を入れる。つい最近ディストピアの仲間になったあいつを、転移魔術を使って転移させるように、ノワールに命じる。

 

答が返ってくるよりも早く、こいつは転移されて来た。誰なのかというと、

 

「な!? き、貴様はハルファス!」

 

「ん? おお! 久しぶりだな一角の! かっかっか!」

 

魔神ハルファス。四つの腕を持つ巨大な鴉姿の魔神。アムドシアスやナベリウスと同じく、ソロモン72柱だ。

特徴:声が非常に大きくて喧しい。

 

「それじゃハルファス、あの人間達を助けてやってくれないか? 殺さずに戦闘不能にしてくれればいい」

 

「お安い御用じゃわい!」

 

コケーッ! と、まるで鶏のような奇声を上げて、魔神は突撃していく。俺が助けに行っても良かったのだが、俺はハイシェラとアムドシアスに聞きたいことがあった。ハイシェラは助ける気はなさそうなので、俺もここに残ったって訳だ。

 

……奥の方から『何なのよこのでっかい鳥は!?』とか、『その姿は魔族だな。貴様も我らの敵となるか!?』とか、『またしても懐かしい顔を見た! 久しぶりじゃのぉちっこいの! かっかっか!』とか、『……アムドシアスより……うるさいのが……来た』など、セリカ以外の声が聞こえてくるが、無視。

 

「……ゼアノス、あれは何だの」

 

「ソロモン72柱。つまりはアムドシアスの仲間だ」

 

「この我をあの醜い鴉と一括りにするな!」

 

ハイシェラの疑問に正しい答で返すが、アムドシアスに泣きそうな目で睨まれる。確かに、あいつはお世辞にも美しくも綺麗にも見えないが……醜い鴉は言い過ぎだと思う。涎が垂れ流しだけど。一応奥さんと子供がいるみたいだぞ? 詳しくは知らんが。

 

「まあそれは置いといて。ハイシェラ、少し話がある」

 

「置くな!」

 

アムドシアスを無視し、話すのは”得体の知れないモノ”のこと。あれはアイドスの精神に負の感情が集まり、生まれてしまったモノ。

あれは女神アストライアの妹神が変容したものだった、ということ。

 

ハイシェラはその情報に対し、どこか納得したように頷いた。聞いてみると、セリカが封印されていたオメールの遺跡に何回か現れたらしい。何故なのか不思議に思っていたが、今のを聞いて納得できたようだ。

配下の堕天使からの連絡で、”得体の知れないモノ”の代わりにハイシェラを何回か見たと聞かされていたが、そう言う訳かと俺も納得した。

 

そして今の情報の対価という訳でもないが、”得体の知れないモノ”の詳細を教えてもらう。ここ百年で最もアレと関わったのは、ハイシェラだろうから。

アレのことを詳しく聞き、自分の知識に当てはめていく。この世界の知識と、前世の知識を合わせて。

 

俺はそこで、アレのことで一つの仮説を立ててみる。アイドスの精神から剥がれ落ちた、負の感情の集合体の、その正体を。原作のままならば『邪神アイドス』なのだが、アレは……。

 

「む? おい、ゼアノス」

 

「……これまた面倒な」

 

考え事をしているときに俺達が見たのは、霊体に不死体などの亡者の群れ。それも、俺達に向かってくるのではなく、その先いるのはセリカ達。

 

「しょうがない、俺も行く。またな」

 

どうせ戦いに参加しない二人の女魔神に手を振り、駆けた。

アムドシアスはナベリウスを救うために動きたいだろうが、主であるハイシェラがそれを許可しないだろう。あいつは、今回は基本的に傍観するようだから。

 

「せいっ!」

 

勢いづけ、ハルファスが翻弄させている犬に目掛けて、とび蹴りを喰らわす。ケルベロスは非常にデカいが、見事に横っ腹に命中し、吹っ飛んだ。

ぞろぞろと這ってくる亡者の群れをハルファスに任せ、今度は俺がケルベロスの相手をしようと、魔力を手中に溜める。理性と本能を併せ持つこの番犬ならば、刃向うようなことはしないだろう。恐ろしくて、動くに動けないはずだ。

 

しばらく睨み合いをしていると、近くから聞こえていた戦闘音が消えた。ナベリウスを負かしたようだ。主を守るために奮闘していたケルベロスは、安心したかのような表情で倒れ込んだ。まあ、あのハルファスと戦ったのだからしょうがない。気絶はしていないようだが、それだけでも充分にすごい。

 

セリカとナベリウスが少し話し合っていたが、突如、かなりの邪気を持った人間が現れた。呪術を用いてナベリウスを無理矢理使い魔にし、セリカを呼び寄せた張本人である魔術師だった。

 

その魔術師を見て真っ先に頭に思い浮かんだのは、ブレアード・カッサレ。あの人間の魂はブレアードと酷似している。恐らく彼がアビルース・カッサレだろう。以前、ペルルがカッサレ家のアビルースの使い魔だったことを、ターペ=エトフで聞いていたことは記憶に新しい。話を聞いたのは100年以上前だが。

 

アビルースはセリカのことを『女神』と呼び、その身体と力を欲している。

彼の身を纏っているのは邪気だけでなく、異常な狂気までもが漂っている。感じ取ってみれば、それは”アレ”と同質のものだった。

……アレに魅入られたのか?

 

アビルースは爛々とした表情で、セリカを褒め称える。そしてその身体と力を私に与えよ、などの狂言を吐き、喚いている。

ナベリウスが反抗するも、アビルースは彼女の主。仇を成せば、それはそのまま跳ね返る。そのあまりにも非道な仕打ちに、セリカ、シャマーラ、レクシュミの三人は戦闘態勢に入る。

だが、腐海の大魔術師と名乗るアビルースは、

 

「ふふふ……ふははははははっ! 貴女の怒った顔も美しい……私の女神よ。その顔を見ただけで、今日は満足するとしましょう。ですが、いずれ貴女は私と1つに。ふふふふふ……」

 

そう言い残して、言葉が終わるよりも早くに姿を消した。特殊な転移術でも使ったのだろう。まったく。相変わらずカッサレ家の人間は、俺を楽しませるのが得意らしい。

 

 

 

—————————————◇

 

 

 

あの後の事を簡単に結果だけ説明するなら、ナベリウスはセリカの使い魔となった。

ナベリウスはアビルースの呪いに縛られ、しかし逆らった。戒めとして苦しんだナベリウスを、セリカは性魔術を行使し、呪縛から解放した。つまり、『主』という存在の上書きで呪縛を断ったということだ。

 

ナベリウスは今回の件で助けてくれた人に、俺を含めて全員にお礼の言葉を口にした。

ま、俺はお礼とは別に、『……もう………ハルファスは………呼ばないで』と言われてしまったが。アムドシアスなどの、うるさい輩は基本的に嫌いなのだそうだ。

……アムドシアス、【煩い魔神】としてハルファスと一括りにされているぞ。ちなみにそのハルファスは、アビルースが出てきた時点でディストピアへ転移させてある。

 

そしてこれは監視を頼んでいたアスタロトから聞いたことだが、セリカはレウィニアの周辺を巡り、メルキア王国へ向かったらしい。俺が水の巫女に今回のことを伝えている間に行ってしまったそうだ。

 

何故アスタロトが気付かれていなかったのかというと、魔術で姿を隠していたからだ。あいつは魔術も得意なタイプだから大丈夫だと思っていたのだが、やはりその通りだったので安心した。

 

 

 


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