戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—行き成り急展開—

 

 

 

俺がこの世界で誕生してから、約500年もの時間が経過した。

いきなり飛ばしすぎだけど、その間ずっと同じことしかやっていなかったから、おもしろくもなんともない。

 

何をしていたのかって? 修行です。まあ修行といっても、群がってくる雑魚共と戦うだけなんだけどね。いくらチートがあるからといって、戦ってみたら経験が足りないせいで死にました。なんて結末にはなりたくない。

 

いや、それはそれでいいかもしれない。あの死神、俺をとんでもない所に送りやがって。今度会ったら文句言ってやる。でもそのためには死ななくちゃいけないんだよなぁ。

 

「でも、いくらなんでも神の墓場はねーだろ」

 

そう。俺の意識が覚醒して周りを見渡せば、一面の荒野だった。最初の10年くらいは特に考えなく修行しながら彷徨っていたんだが、ふと気が付いたんだ。「紫色の地面と空、ここって神の墓場じゃね?」って。いやはや、気が付くのが遅すぎるだろうと、あの日は非常に落ち込んだ。

 

シェーラはどうやらちゃんと俺を魔神にしてくれたらしく、戦闘能力も半端じゃなかった。だけど神の墓場であれば、神の力を軽減させられてもっと弱いはずなんだ。他の魔神や神格者なら。

 

しかし俺は全く弱ってない。だから無意識に違うと思い込んでいたのだろう。でもVERITAに出てきたザハーニウの言うことが本当であれば、神の墓場で生まれた者はその影響を受けないらしい。俺はまさにそれだ。

 

そんなこんなで、俺はずっと放浪している。

でも暇だ。話せる相手はいねーし、人影を見つけたと思ったら死体だし、生きているのは魔獣だけだし、それも襲ってくるしさ。とはいっても即返り討ちだけどな。

 

そうそう。この前川の近くを通ったんだが、そこに自分の姿が映ったときは驚いた。何せ、顔が前世(?)と違っていたからだ。今の俺は、【姫狩りダンジョンマイスター】や【峰深き瀬にたゆたう唄】に登場する、『漂着した異界の姫』という美女だった。

 

知らない人のために補足すると、腰まである長い紫色の髪の毛が特徴な長身の女性だ。俺の目は緑色だが、原作で何色だったのかは覚えてない。

……別に考えなくてもいいか。だけどなんで女顔なんだよ。

 

話が変わるが、俺はとりあえずここから出たい。けど、そのためには【戦女神ZERO】にて出てくる狭間の宮殿から、魔神アムドシアスとゾノ・ジが落ちてくる瞬間を狙うしかない。もしくは、VERITAでセリカとルナ=クリアが転移させられた際に協力する。のどちらかだ。

 

ただ、前者はそれが何時になるかわからないから却下。あの死神が場所どころか時代すらもランダムにしたせいで、今がどの時期なのか見当がつかない。万が一原作が終わっていたらどうすればいいんだっつーの。

 

しかも後者の場合は、その二人が俺を信用してくれるかが問題だ。彼らは神殺しとマーズテリア神官。魔神の俺を信用するなど、よっぽどのことがない限りないだろう。だから了承しがたい。

 

となればどうするか……。いっそのこと、どこにでも転移ができるような魔術でもつかえれば良いのになぁ。

…………ん?

 

「あああああああああああああ!!!! 俺の馬鹿野郎ォォォオオオ!!!」

 

空間を操る能力貰ってんじゃんかよ、俺!

よし、早速使うぞ。さっさとこの地からおさらばするんだ。

 

「……」

 

前方に闇のような黒い穴をイメージして具現化させる。すると、アニメなどで見たことあるような“闇”が出現した。なぜ闇をイメージしたのかというと、想像しやすいからだ。

 

結構簡単にできてよかったと思う。これならば、これから気楽に転移ができる。特に愛着があるわけじゃないが、ここは一応500年間も過ごした故郷だ。たまには帰ってくるのもいいだろう。

 

「行ってきます」

 

後ろを向いてそう言い、目の前の黒い穴へ入る。

行き先はラウルバーシュ大陸。【戦女神】や、【幻燐の姫将軍】の舞台だ。

ラウルバーシュ大陸ということ以外は頭にいれず、俺は闇から外に出た。すると

 

「フンッ!」

 

という掛け声と共に、二つの大きな鎌が上から襲ってきた。俺は咄嗟に、前からよく使っていた二つの刀を使い、それを受け止めた。神の墓場でも不意打ちは当たり前だったので、反射神経が敏感になっていたのだ。やはり修行しておいてよかったと思う。っつか、いきなりバトルですか? 展開速すぎね?

 

二つの大きな剣を、X字型にしてそのまま振る。結果それは交差斬りとなり、鎌をはじくことになった。それと同時に周囲から複数の、それも敵意や殺意を持った魔の気配。うわ、めんど。

俺は焦らずに再び攻撃。

 

「はぁ!」

 

自分の両足を軸にして、独楽のように回転して敵を斬る。これによって、周囲に満ちていた気配は弱まった。

 

話がしたいので、殺すのはよくないと思って手加減したから一体とて死んでいない。

次いで来るのは無数の魔力の塊と、先ほどの鎌の斬撃。それを見た俺は、目前に魔力を結集させた。

 

「捻じ曲がれ!」

 

その言葉で、一瞬にして俺の目の前の空間が曲がる。空間自体が歪曲し、無数の魔弾と斬撃、その他諸々の攻撃を防ぐ。

 

攻撃を防ぎながら雷の速度、すなわち光速で動いて魔弾を撃ってくる人物の後ろに回り込み、身の丈程もある刀の刃を首に付きつけた。

 

「……はい、これで終わり。攻撃を止めろ」

 

後ろから声が聞こえて驚いたらしく、その人物は固まった。止まったではなく、固まった。他の奴らも同じだ。

首に剣を付きつけられている人物以外は、俺を見て忌々しげに睨んできた。っていうか少し前にいるあの骸骨、あれ、ネルガルじゃね? それじゃあ、まさかこいつは……

 

「一つ聞きたいことがある。………お前の名は何だ?」

 

 

 

Side・???

 

 

 

戦争の準備をしていたら、突然に魔力の動きを感じた。霧散していた魔力が、一か所に集まっていく。それも、今まで我が感じたことがないほどの膨大な魔力が。

一か所に集まった魔力は奈落を思わせるほどの黒い球体となり、佇んだ。この場にいる魔族や魔獣、冥界監察軍・軍団長のネルガル、そして我。つまり全員がそこに注目していた。

 

その深淵から出てきたのは、頭から足までの全てを黒い布で包んだ人型のナニカだった。その雰囲気に、我は思わず恐怖にのまれそうになった。

だがそれも一瞬。姿勢を整えて、攻撃される前にしてしまおうと思った。指示を出そうとするが、そこはさすが百戦錬磨のネルガル。既に自慢の双鎌、キル・ドレパノンを振りかざしていた。

 

決まった。これは、この場にいるもの全員の総意だった。ネルガルは我ら古神にも匹敵する力の持ち主。現れると同時に繰り出される不意打ちは、受け止めることができても完全に防ぐことは不可能だ。それこそ現神の第一級神並みの力量がなければ。

 

そして再び走る恐怖。

 

奴は見事に、かつて刀と呼ばれていた二つの物体……双剣で受け止めていた。しかもそれだけではなく、ネルガルの武器をはじいた。さらに、ネルガルに後れを取るまいと進撃して行った我の部下すらも、一撃で伸してしまった。

突然現れた侵入者。こいつは間違いなく第一級神と同等、もしくはそれ以上の力の持ち主だ。本気で戦っても勝てるかどうかは定かではない。だが、勝たなくてはならない。なぜなら我は、魔界王子なのだから。

 

勇気を奮い起こし、出せる全ての力を使って魔弾を放つ。残っている配下の者共も一斉に攻撃していく。

 

当たる。そうは思っても、これで勝てるとは考えなかった。先ほどはそう油断していたからあのような事態になったのだ。もう二度はしまい。

 

だが、それすらも甘かった。彼奴は我々の決死の攻撃を、全て防いでいたのだ。

駄目なのかと思ったが、諦めるという言葉はありえない。それは皆同じらしく、心なしか攻撃の威力が上がっている。そして……

 

「はい、これで終わり。攻撃を止めろ」

 

という声が後ろから聞こえ、首に刃が構えられた。

気配を探れば、そいつは先ほどまで目の前にいたやつと同じだった。速すぎる、いつの間に後ろへ移った?

 

絶望感が自分を襲い、ふと、『魔王に戦いを挑み負けていった人間は、このような心境だったのかもしれぬ』と思った。もしそうなのだとしたら、正直同情する。これは……酷い。

 

こやつは現神の刺客か? いやしかしそれにしては闇の波動が大きすぎるし多すぎる。王子である我や、あの“真なる龍”、もしくは“強欲”と謳われた堕天使以上だ。となれば、暗黒神か機工女神か?

そう考えていたが、

 

「一つ聞きたいことがある。………お前の名は何だ?」

 

と名を聞かれた。それは、ほぼ確信している声色だった。特に偽名を使う理由もないので、正直に答えるとする。

 

「我が名はベルゼブブだ」

 

名乗った途端、刃が花のように散った。即座に後ろを向けば、何も持っていない黒衣を着た者がいる。

 

「そうか、やはり魔界の王子か。これは失礼をした」

 

そう言ったきり何もしてこない。なんだ、我を滅ぼすために来たのではないのか?こやつは一体どんな目的でここに来たのだ?

 

「………一つ問いたい。侵入者よ、貴様は現神の暗黒神、もしくは機工女神か?」

 

 

 

Side・玲也

 

 

 

「一つ問いたい。侵入者よ、貴様は現神の暗黒神、もしくは機工女神か?」

 

暗黒神か機工女神って……俺、そんなに高位な生物じゃないし、それに女じゃないし。

 

「違う、俺はただの魔神だ」

 

「魔神だと!?」

 

俺の言葉にネルガルが過剰に反応する。そういえばこいつも魔神だったっけ? たしか原作の設定では、古神ベルゼブブにベルゼビュート宮殿を任されていたんだよな?

 

「ただの魔神がそこまで強いわけがないだろう。いつごろ生を受けたのだ?」

 

疑惑の目でベルゼブブが聞いてくる。まぁ、あれだけ圧倒したらそうなるわな。何せ古神と、古神と同等の力をもつ古き魔神。そしてそいつらの配下を、俺はたった一人で打ち負かした。これは現神でも難しいだろうな。

 

「俺は生まれてから500年しか経っていないぞ?」

 

「500!? そんな若造に我らは負けたのか!?」

 

驚愕の面々。嘆きや己に対する怒りなどの声が聞こえてくる。でも500で若いって……俺は元人間だから三桁は長寿すぎるんだが、やはり感じ方は違うんだな。

 

「ところで、ここはどこなんだ? 考えなく転移したから、場所がわからないんだ」

 

「は? 貴様、ベルゼブブ公がここにいると知って来たのではないのか?」

 

「いいや。そもそも俺は神の墓場出身者だから、何が起きているかなんて知らない。地名すらわからないから、適当に転移したんだ」

 

「な!?」

 

再び驚愕する一同。なんかさっきからそれしか見てない気がする。

 

「神の墓場だと? そのような場所で魔神が生まれるとは……いや、ならばこれほどの力を持っているのにも関わらず、貴様のことを今まで誰も知らなかったこと、そしてこの場所を知らぬということにも納得がいく。あの地に落ちて帰って来た者は皆無だからな」

 

流石はベルゼブブ。王子なだけあって、頭の回転が速い。どうやら周りも驚いてはいる

が、一応納得してくれたみたいだ。地名がわからないってのは嘘だけどな。

 

「そういうことだ。それであんたは七つの大罪が一柱、暴食のベルゼブブか?」

 

「そうだ。しかし随分と博識なのだな、何故そのことを知っている?」

 

「この前、はぐれ魔神と化しているアスタロトとかいう魔神に会ってな。襲ってきたから返り討ちにしたんだ。その時に聞いた」

 

いやほんと、あれはマジでビビった。原作のゲームでもそうだけどさ、何で神の墓場にはぐれ魔神がでるんだろうね? でも俺的にはラテンニールに会いたかったよ。

ま、一応使い魔にしたけど。だってあいつソロモン72柱だし。

 

「そうか……あやつめ、姿を見せぬと思ったら神の墓場なんぞにおったのか」

 

なんかブツクサ言ってるけど、聞きたいことがあるから聞いてみるか。

 

「なあ、それで俺はどうすればいいんだ? それに侵入してしまったことは謝るが、ここがどこなのか教えてもらえるとありがたい」

 

「あぁ、そうであったな。まずこの地についてだが、ここは我が宮殿だ。我以外の者はベルゼビュート宮殿と呼称している。大陸の内海上に浮上している」

 

うん、ここは予想通り。

 

「そして貴様についてだが……我と同盟を組まぬか?」

 

おや、これは予想以上だ。見逃してくれればそれでもいいと思っていたんだがな。

 

「同盟の内容は、『住む場所を与える代わりに力を貸し、互いに助け合う』というものだ。最近は人間の信仰がなくなってきてな、現神の勢力が増大していてこちらは劣勢しているのだ。だから戦力はあればあるほど欲しい。ネルガル、お前もそれでいいな?」

 

「もちろんでございます、ベルゼブブ公」

 

頭を垂れるネルガル。骸骨が頭を下げるって結構面白いな。

 

「単刀直入に言えば、俺の力をお前に使わせろ。住む場所は提供してやるってことだよな? それなら別にいいよ、こちらとしても暇つぶしになるしな」

 

「そうかそうか。ならば貴様の……いや、御主の名は何という? 御主の名だけ知らぬというのは些か不公平だし、同盟者の名くらい知っておきたい」

 

そういえば名乗ってなかったな。でも玲也は前の世界の名前だから使いたくないな……

だったら……

 

「ゼアノス。それが俺の名前だ」

 

 

 

 

 


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