戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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やっとここまで来ました。そしてお待たせしました!
ハーメルンよ、私は帰ってきた!!


戦女神ZERO編
—ノヒアの惨状—


 

俺達がセアール地方に来てから数年。俺はこの地方を離れる気が無かったので、ずっと滞在している。今いる場所の周辺が結構気に入ったからだ。

ブランシェはどうしているのか分からないが、ノワールは今、ディジェネール地方という所で絶賛活動中だ。

 

ディジェネール地方。確かあそこは、巨人族や多数の魔族がいた場所。ラウルバーシュ大陸中央のやや南方に位置する亜熱帯湿原領域で強力な種族が多数おり、人間にとっては、できる限り行きたくない道の地域だ。

 

………とまあ色々と考えていたわけだが、現実逃避もここまでにしよう。……うーん、どうしよう。いやほんと、どうしようかね、これ。……はぁ。

 

「身妖舞!」

 

今のは飛燕剣という剣舞の、技の一つだ。

俺はさ、出来るだけ目立たない様にと思って、ボロッボロに崩れかけているこの屋敷にいるんだよ。もう人がいないし、魔物はいるけど俺たちのことを襲わないし。

……イオはここに住むの反対してたけど。

 

だからここは結構気に入っていたのに……なのに、何で

 

「――幾重もの阻みも光の礫に開かれん! 嵐の神、バリハルトの輝き、今、この地に下らん!」

 

バリハルトの神官戦士がいるんだよ。

 

一人は神官衣を着ている女。杖を持っているから、近接戦闘は不得意な援護型だろう。

一人は大柄な体で双剣を持つ男。金色の髪と、チョビ髭が特徴的だ。

最後は優しそうな青年。青い髪をしていて、普通の大きさの……いわゆる中型剣を装備している。

 

その三人は仲が良く、連携も実に見事だ。人間にしてはかなりの技量。とはいえ、まだまだ未熟だけどな。

しかしあいつら、どこかで見たことあるような……

 

スライム状の魔物、緑プテテットや、狼のようなグレイハウンド。ここにいるのはそんな弱い魔物ばかりだが、数が多い。倒すのもめんどくさそう。しかも地下には火を吐く狼、レブルドルがいる。あいつ中々強いんだよなぁ、人間にとっては。あ、女が宝箱を開けて……ワームという地虫魔物が飛び出してきた。罠ですね、はい残念。

 

「ゼアノス様。あの人間達、殺さなくても?」

 

「んー、今はいい。だけどあいつら、どこに向かってるんだ?」

 

魔物を狩りに来たなら地下の洞窟に行けばいいのに。あそこ、ここのボスっぽい奴がいるぞ? 人間の女を攫って来てんの、何回も見てるんだが。

 

「……あいつに気付いてないのか?」

 

「恐らくはそうでしょう。そうでなければ、もう向かっているはずです」

 

たしか……ラジスラヴァ、とかいったっけ?

数多くのゴウモール(魔術によって改造されたゴブリン)を配下にして、俺がここに来た時に襲ってきた魔獣だ。あの時はリミッターを付けてたからしょうがないけど。

俺が魔神の力を解放したら、途端に頭を下げてきた奴でもある。まあ、一介の魔族が魔神に刃向うなんて、勇気を通り越して無謀でしかないからその判断は合っている。

俺としてはどうでもよかったので、ここに住む代わりに襲ってきたことを許したわけだ。

 

もちろん、あいつがピンチになっても助けるなんてことはしない。

 

「いやああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

……。

 

「今の悲鳴は?」

 

「人間の女が罠に嵌まって落ちました。どうやらあの洞窟に繋がっている模様です」

 

また罠かよ。

でもあそこは近くの湖が流れ込んでいる綺麗な場所だ。さっきも言った通り、今は多数の魔物がいて綺麗とは言えないけど。

 

「面白いことになりそうだな。イオ、あいつらより先に行くぞ」

 

「はい」

 

イオが頷くのを見て、歪の回廊を開く。洞窟まで移動してみると、丁度ラジスラヴァが目の前にいた。

 

「これはこれは魔神様! どうかしましたか?」

 

あれ以来、こいつはこのような態度で俺に話しかけてくる。

 

「特に大きな用事はないが……さっき人間の女がここに来なかったか?」

 

「えぇ、えぇ。落ちてきましたぜ、それも極上の女が」

 

ラジスラヴァは甲殻類のような顔と身体で、巨体だ。顔の中心部に、普通のとは違う黄色い眼があってかなり気持ち悪い。種族関係なく、多くの女性は嫌悪感が走るだろう。

実際、イオはこいつが嫌いらしい。

 

「……またですか、盛んですね」

 

イオが呟く。その視線の先を見てみると、ヤられた後であろう女がいた。

 

「……で、さっき落ちてきたっていう女は?」

 

近くにいたゴウモールに聞くと、指で示して教えてくれた。

洞窟の影になるところで気絶して……あ、起きた。

 

――と、そこにゴウモールが逃げ腰で走ってきた。報告を聞いてみるに、二人の剣士に負けたらしい。

 

「屋敷に乗り込んできた剣士だぁ? そんな奴らは蹴散らしちまえ」

 

「ですが……やつら、めちゃくちゃ強ぇえんですぜ」

 

「けっ、今ここに来られると面倒だ。おめぇら、どうにか足止めしやがれ!」

 

ラジスラヴァは顎でしゃくるように追い立てて、暗く嗤う。

 

「くくくくくくくっ……くあーはっはっはっ!」

 

……この笑い声、キモイ。魔神の俺や古神のイオですら、鳥肌が立つほどに気持ち悪い。

虫唾が走る。

 

「セリカ、ダルノス……お願い、早く来て……」

 

儚げに震えながら言葉を紡ぐ声が聞こえた。先ほど起きた女だ。

だがそんなことより、俺はその女が言った名前に驚いた。

 

 

【セリカ】

 

 

それは、【戦女神】の主人公の名前だ。どうやら、原作の時期に入ったらしい。

ヤバイ、やっと、やっとこの時が来た。嬉しすぎる。

 

俺がずっと見ていることに気が付いたのか、俺の方を向いて驚きを露わにする。

俺の見た目は人間だし、しょうがないか。

 

「あぁん? 何で人間の雌がここに突っ立ってんだ?」

 

突然の声に横を見ると、そこには一匹のゴウモール。どうやら俺のことを知らないらしい。つーか俺は男だ(忘れているかもしれませんが、彼の見た目は超美人な女です)。

 

奥でラジスラヴァが何か言っているが、こいつには聞こえていない。

どうやら俺を襲う気満々のようだ。

 

「……ふん」

 

飛び掛かってきたので、一閃。特別なことは何もしていない。普通に腕を薙いだだけ。

それも『腕』じゃなくて、ただの腕。

それだけで、俺を襲おうとしたゴウモールは砕け散る。

 

今の俺は『深凌の楔魔』だったころの魔力だが、それでもこんな雑魚とは圧倒的な力の差がある。その力を間近で見たためか、捕らわれていた複数の女が恐怖に陥る。それはさっきの女も例外ではないはずだが、少しでも落ち着かせようとしている。

 

ラジスラヴァが謝ってきているが、気にしていないので止めさせる。

んでもって、

 

「そこの女」

 

「……な、何?」

 

「お前の名前は?」

 

「……カヤ、よ」

 

ふむ、カヤか。セリカの姉がカヤだったかな? そういえば。

 

「そうか。俺はゼアノス。魔神ゼアノスだ」

 

「魔神……やっぱりね。その膨大な魔力、ただの魔族にしてはおかしいと思ったわ」

 

俺ってばいつもオープンにしてるしな、魔力。普通に気付くよなそりゃ。

……ん? 何でさっきの馬鹿は俺に気が付かなかった? あれか、馬鹿だからか? それとも魔力感知が出来ないからか? まあいい。

 

「先ほどお前が口走っていた、セリカとダルノス……だったか? その二人が、さっき報告にあった剣士か?」

 

「……」

 

無言。

当たり前と言っちゃ当たり前だ。女だとは言え、仮にも神官戦士。仲間のことを、少しでも喋るやつはいないだろう。

 

「くっくっく、魔神様。この女、どうやら喋らないようですし、ここは俺に楽しみの時間をくれないっすかね」

 

ラジスラヴァがそう聞いてくるが、俺としてはどうでもいい。

 

「……勝手にしろ」

 

それと同時に、カヤは鎖で縛られ、布切れを口に押し込められた。

……なぜ縛る。縛りプレイか?

 

俺はイオと共に離れて姿を消し、事の顛末を見よう……とは思はないが、どうなるのか傍観していた。すると、奥から聞こえてくる断末魔、及び剣戟の音。どうやらセリカが来たらしい。

 

「ふんっ! 消えろ屑ども!」

 

「ガハッ!」

 

「グッ!」

 

「ゲエェ!」

 

金髪の男、たぶん名前はダルノス。そいつの二振りの白刃の技が繰り広げられ、反撃を許されるまでもなく地に伏す数多のゴウモール。

 

青髪の優しそうな青年、セリカはキョロキョロと何かを探している。カヤを探しているのだろう。

丁度その頃、カヤはゴウモールとラジスラヴァにのしかかられようとしている。

 

— ヒュン —

 

「ぎゃぁあああああああああっ!」

 

即座に斬られ、魔物が転がり飛び退く。

ダルノスはセリカの背後に立ち、彼の後ろを守っている。うん、見事だ。

 

セリカはカヤを拘束していた鎖を断ち切り、口の中の布切れを取る。

 

「おそい! 何をぐずぐずしてたのよ!」

 

助けられたというのに、激昂を飛ばすカヤ。手厳しいな、最近の姉は。

 

「文句は後で聞く。今は、他の子たちも救わないと。それにあいつ――」

 

「ああ、やっこさん、やっとこっちに気付いたぞ」

 

二人の視線の先にいるのは、言うまでもなくラジスラヴァ。

昆虫型の身体をうまく使い、俊敏に動く。

 

「お前たちか? 俺様の邪魔をするのは」

 

「攫った者たちは皆、返して貰う」

 

「ここの女は俺のものだ。俺の子供を産ませる。そこの女も同じだ。ゲゲゲゲゲゲッ!」

 

……その笑い方、キモイ。

というか今あいつ、ここの女って言ったよな? イオもその範疇に入っているなら殺すだけじゃすまないぞコラ。俺は結構独占欲強いんだぞ。

 

「いやよ、魔物の子供なんて冗談じゃない!」

 

「そんなことさせるかよ」

 

カヤの言葉にダルノスが続ける。だが、

 

「ゲケケケケ、バカか、てめぇ」

 

またしてもキモイ笑い声の後に、ラジスラヴァの邪眼が強烈に光る。

そして光のせいで目が働かない三人に、爪で斬るように振るう。……避けられたが。

 

その三人はそのままラジスラヴァに向かって、構えを取る。

 

「俺様と殺りあうってのか? そんな軟弱な体でよ……ゲッゲッゲッ! それに俺様はまだ一人じゃねぇえ!! 出てこい! ”相棒”!」

 

その言葉に反応し、水の中から水竜が出てきた。水の中に落ちたカヤを、ラジスラヴァの所へ運んだのもこの水竜なのだろう。

相変わらず笑い声はキ(ry

 

「ゲーゲゲゲゲゲッ、いくぜ相棒! 男どもは好きに喰っちまいな!」

 

もはや笑い声については何も言うまい。諦めた。

ラジスラヴァの後ろには水竜。前にはゴウモールと、ゴウモールの強化版であるハイゴウモールが武器を構える。

 

しかしセリカの電撃魔術の【旋刃】と、ダルノスの技である【円舞剣】により、前方にいたゴウモール達は、あっという間に事切れた。

ダルノスはラジスラヴァの鋭い鉤爪によって、中々に大きい傷を負う。しかし、

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

— 癒しの息吹 —

 

カヤの治癒魔術により、すぐに回復。しかもそれだけではなく、

 

— 代謝促進 —

 

時間が経つに連れ、傷が治っていく補助魔術だ。簡単な負傷ならこれによる自然治癒で、一瞬で治る。

 

配下を無くしたラジスラヴァが猛攻するも、素早い動きによって避けられ、カヤの魔術を受けて転び、そこに男二人の飛燕剣が放たれる。

水竜もそれを邪魔するかのように、噛みついたり湖の水を利用したりして洪水を起こす。

 

ラジスラヴァがそれを避けるが、その動きのせいで隙だらけ。セリカの飛燕剣、【身妖舞】が命中。水竜もまた、カヤの魔術とダルノスの剣技によって伏した。

 

「ギャギャギャギャ……貴様! 貴様らぁああ! 覚えていやがれぇえ!」

 

古典的なセリフを残して、最後の攻撃を受けて吹き飛んだラジスラヴァは水中に沈んでいった。浮き上がる気配はない。というかあいつ、俺のこと忘れてねぇ? 別に助けを求められても助けねぇけどさ。

 

水竜も、床に倒れて止めどもなく血が流れ出す。その流血が、水面を染めている。痙攣を繰り返しているので、もう命は助からないだろう。

 

彼らもそれを見ていたが、突然カヤが声を上げた。

 

「女の子たちを避難させよう! 私たちも早くここを出ないと……」

 

そこまで言いかけると、入り口付近から駆け付ける複数の足音が響いた。

また人間が来るのかよ。

 

彼らは新たに来た神官である、スフィーダとカミーヌという男女と話をしている。

どうやら、今の戦闘でここがさらに崩れてきて長くは持たないらしい。

俺の新居……orz

 

「っ! そうよ! 皆、大変なの!」

 

神官らが女の子たちを避難させようとしているときに、カヤが悲鳴のような声を発した。

 

「どうしたんだ、カヤ?」

 

セリカが静かに聞くが、カヤは悪い意味で興奮している。

 

「ここ、さっきの魔獣や水竜だけじゃなくて……魔神もいたの! さっきまで、ここにいたの!」

 

どうやら俺のことを、今更ながら思い出したらしい。その告白に、ここにいる全員の息が止まった。

魔神と言えば、人間の騎士団体一個分に相当する力を持つと言われているので、恐怖の対象ではあるだろう。しかも原作と違って、凶腕という伝説もいるのでさらに恐れられているらしい。なんかごめんなさい。

 

「それが本当なら、早く逃げないと! その魔神が来る前に、早く!」

 

カミーヌとかいう女神官がまくしたてるけど、もういるんだよね、俺。姿が見えてないだけで。

 

動けない娘はスフィーダという男神官戦士に運ばれ、意識のある娘は互いに肩を貸し合って歩こうとしている。感動的な光景だ。

原作では大丈夫だったけど、ちょっと力貸してやろうかね。

 

「その魔神って、俺のことか?」

 

『っ!?』

 

俺が姿を現したことによって、戦闘の構えになる戦士たち。うわーかっこいーねー。

ちなみにイオはもう外に行ってる。

 

んん? ボソボソと何か言ってるが……ああなるほど、逃げる算段か。自己犠牲精神を持つ人が多いですね皆さん。

 

「そこの青髪」

 

「っ! 俺のことか?」

 

「そうだ。お前、名前は?」

 

「……セリカ」

 

知ってるけどね。一応聞いとかないと。

 

「そうか……ならばセリカ。お前らは随分と面白いものを俺に見せてくれた。その褒美をやる」

 

「……見せてくれたって……ということは、俺たちが戦ってる時もここにいたのか!?」

 

「お前鋭いな、その通りだ。もし俺があいつを助けてたら、お前らとあの虫型魔獣は逆の立場だっただろうな」

 

その言葉に、顔を青くするセリカとその他。

 

「それで褒美だが……うん、これでいいだろ」

 

— パチン —

 

指を鳴らして、この洞窟と屋敷にいる全ての人間を対象に、付近の森へと繋がっている歪の回廊を展開。いつも使っているのとは違う、対象の足元に現れるやつだ。

底なし沼に落ちるような感覚があるので、俺はあまり使わない。でもこれを使うと、使われた側は逃げられないので、こういう時にはよく使う。

 

「くっそ! おい! 褒美じゃねえのかよ!」

 

どんどん沈みながらダルノスが悪態を言ってくるが、俺はただ手を振るだけ。

一瞬、セリカの視線が俺の後方に向かったのでそちらを見ると、死んだ水竜のすぐ近くに幼い水竜がいた。

 

視線を戻すとバリハルトの神官戦士が全員いなくなっていたので、俺もここから脱出する。あの幼い水竜は……多分平気だろ。水の中潜って行ったし。ただ水位が上がっていたし、地面も揺れていたな……大丈夫か? 何か罪悪感。

 

外でイオと合流して、近くの街へ(おもむ)く。おそらくセリカが住んでいる街と同じ街になるだろうが、家が崩壊してしまったので、とりあえずはそこの宿で寝ることにした。

 

もう原作は始まっている。さて、これから俺はどう動こう……?

 

 

 

 


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