戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—戦力強化、むしろ増加—

 

 

あれから何年か経ち、俺はオウスト内海のはるか南、アヴァタール地方にいる。今では俺の使徒であるイオと合流している。

 

この世界には青い月と赤い月、鏡の月がある。

青い月はイオの妹神であり、現神であるリューシオン。赤い月は獣人族の先祖と言われる、中立神ベルーラが司っている。鏡の月は誰なのか知らない。

そして最近になって、今まで見られなかったもう一つの月が、たまに見られる日がある。

それは、黄色の月。俺が、すなわち凶腕が司っている。

 

彼女はどうやら力を取り戻したらしく、助けた頃と比べると魔力が跳ね上がっている。そしてそんな彼女は、かつては闇の月を司っていた。その力と、かつてのリューシオンとの約束で力を貸してもらい、俺が月を創って空へ上げたというわけだ。

 

その為に、夜になると黄色い月が現れるようになった。何故黄色なのかというと、黄色い太陽を司っているのが現神の主神、アークリオンだからだ。少し対抗してみた。

 

そんなイオと、つい最近再開した。魔力を捜したら見つかったのだ。

そして現在何をしているのかというと、とある日、イオが脈絡もなく言ってきたことを試そうとしている。ちなみにイオが言ったのは、

 

「ゼアノス様は、他の魔神のような複数の部下を必要としないのですか? 手足は少しでも多い方が得ですから、増やしてはどうでしょうか?」

 

というものだ。

今の所俺の部下と言えるのは、眷属の2人を初めとして使徒であるイオと使い魔であるラテンニール。そして同じく使い魔のアスタロトだけだ。だが、俺は弱者を自分の部下とするには(いささ)か不満がある。

 

……ブレアードのように、合成魔獣を創るか。

 

 

 

「俺たち人間の底力を思い知れ魔族め!」

 

そう言って斬りかかって来る人間の言葉を無視し、『腕』で掴む。

魔物や魔獣を創るのはいいが、それには材料が必要になる。だから俺は適当な地に住み、俺を殺そうとしてきた人間を捕まえて材料としている。魔物も襲ってくるので、そいつらも同じ運命をたどった。

 

「ぐ、ぐあああああああ!!」

 

悲鳴を上げながら闇に飲み込まれていく人間。その闇で人間や魔物を適当に融合させ、部下を増やしているというわけだ。俺に絶対遵守な魔物をな。

そして下す、いつもの命令。

 

「ここではない大陸で、何らかの生命体を捕まえてこい」

 

ただ単純な命令。だがそれだけで、簡単に俺の部下は多くなる。

 

ここはラウルバーシュ大陸。この世界の中で二番目に大きい大陸。つまりこれは、他の大陸があるということ。この大陸で何でもかんでも材料にしてしまっては、原作に関する人物がいなくなってしまうかもしれないので、このように違う大陸にしている。

 

俺が直接やっているのは、俺に喧嘩を売って来たやつらのみ。どちらにしろ殺すので、勿体ないと思ったからだ。

 

続々と増えてゆく魔物や魔獣。一日経って約半分を呼んでみると、その数は四桁台だった。これからも増やしてゆく予定なので、まだまだ増えるだろう。

とはいっても、過剰に増やす気はない。精々、一つの大国を相手にできるほどだ。ん、充分に多いって? なに、大丈夫さ。

 

呼び出していない残りの半数に、スピードを遅めにして一億の軍団を作れと命令しておいた。一気に増えても俺が困る。一億でも多すぎる気がするが、無視。

そして呼んだ奴を使って合成する、という訳だ。

 

最初に生み出したのは、キメラなどのメジャーな魔獣。それから、プテテットを暗黒魔術で闇に染めた紫プテテット。圧倒的な力を持つプテテットで、神官騎士が戦っても場合によっては負けるほどだ。これら以外にも他にも色々創ったが、それは割愛。出番が来たらその度に紹介するとしよう。

 

 

 

 

正義を司るミカエル。慈愛を司るラファエル。忍耐を司るガブリエル。節制を司るアブディエル。純潔を司るメタトロン。知恵を司るウリエル。希望を司るサリエル

 

【七つの大罪】を抱える魔王と相反する、【七つの美徳】を持つ熾天使。ただし神ではないので、神核は持っていない。そこは他の天使と同じだ。

その強さは大罪の七柱と互角で、何度もぶつかり合っているが拮抗し、決着が付くことは、ただの一度も無かった。

 

さて、何故いきなりこいつらの話をしているのか、疑問に思うことだろう。

何故かというと、俺はあいつらの力が欲しい。合成魔物以外の軍力を揃えるために。だから、そいつらのいる場所を探っている。

 

多くの天使は三神戦争後、創造神が……天使の言葉を使えば『父』が封印されたので、現神に従う形になった。戦争の勝利者が、敗者の物を奪うのと同じ理由だろう。

そしてそれは、数の少ない熾天使も同じだった。これを裏切り行為だと思う者も、少なくはないと思う。

 

とはいえ、天使は文字通り『天の使い』。日本語では『御使い』と呼ばれるが、『天』や『御』というのは『神』のこと。対象が変わっても、神に従うのは当然の道理。そう思えば、しょうがないと言えるだろう。

それに、最初は全く聞き入れなかったようだし。

 

だが、調べによるとその美徳の七人は違った。最後まで忠義を貫いて、『父』とは別の場所に、別々に封印されたらしい。

創造神が封印された場所はわからなかったが、そいつらが封印された場所はわかった。

何処なのかというと、オウスト内海を囲むようにして、七カ所に分断されて封印されているのだとか。

 

それを聞き、俺は直行した……のが、大体一か月前の出来事。

今では六体の天使を封印から解放し、捕縛することに成功している。あとはミカエルを捕まえれば、アレを作ることができる。

 

特に目立つわけでもなく、山岳地帯ならどこにでもありそうな洞窟の最深部。そこにミカエルはいるらしい。特別怪しまれるような場所ではなく、あえてこのような所を封印の場に選んだのだろう。

 

数多くの瓦礫に隠れてしまっている、巨大な石で造られた扉。

木を隠すなら森の中。石を隠すなら岩の中、ということだろうか?

 

そんなことを考えながら、イオに封印を解いてもらう。

解く方法なんて俺は知らないので、彼女に頼んでやってもらっている。『腕』を使えば一発なのだが、違う方法があるのならそっちの方がいい。これに頼りすぎると、何もできなくなりそうだし。……今更だけど。

 

イオが最後の天使を解き放った。俺の後ろには、今までに捕らえた六体の熾天使。

皆既に意識は無く、半死状態となっている。

 

解印されたのは、神如き者(ミカエル)。神の次に強き者と謳われたどころか、天使という中で唯一、名の通りに神と同等の力を持つと言われた者。

もしかすれば、今は信仰無き古神よりも、ミカエルの方が上回っているかもしれない。

神は、信仰が無くなれば弱くなっていく存在だから。

 

「久しぶりだな、ミカエル。気分はどうだ?」

 

「……貴様はゼアノス、か。良くも悪くもないと言ったところだ」

 

「しっかし懐かしいな。最後に会ったのは、お前らがルシファー達にちょっかいして来た時だな。俺が追っ払ったあの日……覚えてるか?」

 

「ふん……」

 

今の言葉だけで、理解するのは簡単だろう。

ようするに、あの七柱を倒そうと攻めてきた彼らを、俺が追い払った、という訳だ。

 

「それで、わざわざ何用だ。私を復活させて、貴様に得があるとは……っ!? あれは!」

 

「やっと気づいた? そ、お前の仲間だ。みんな死にかけてるけどな」

 

「……目的は?」

 

「話が早くて助かる」

 

俺の後ろにいる仲間に気が付いたようで、目が見開いた。すぐに俺の言いたいことがわかったようだ。頭の回転が速いとマジで楽。

 

「少しは想像できると思うが、俺によってあいつらは半死状態にある。助けたいと思うのなら、お前の力を寄こせ」

 

そこまで言い、準備していた魔法陣を展開させる。

これは今までの天使を捕縛したものとは違う。捕縛用ではなく、生贄用だ。

詳細を説明すると、魔力を媒介にして神核を作り出すものだ。それには膨大の魔力が必要なのだが、神如き者(こいつ)であれば問題ないだろう。

 

「それは?」

 

「お前の魔力を媒介にして、神核を作るための魔法陣……とでも言っておこう。まあ、お前が嫌だと拒んだら、他の六人を使うまでだがな。こいつらを一度に使うより、お前だけで一発で終わらせれば俺の負担も減る」

 

「だから私を最後に解いたわけか……しかし、何をするつもりだ? 新たな神でも創る気か? いくら強いとはいえ、一介の魔神でしかない貴様が」

 

「それをお前が知る必要はない」

 

教えた所で意味が無いしな。

 

「……本当に、彼らは助かるのだな?」

 

「俺はこういう取引で嘘は吐かない。これはルシファー達に誓って言える」

 

「……ならば、信じよう。貴様が奴らと仲が良かったのは知っているからな。それに誓うのであれば、本当に嘘はないのだろう」

 

予想していたよりも簡単に信じてくれたらしい。ちょっと拍子抜け。とは言え俺も『嘘』は言ってないしな、うん。早く済むならそれに越したことはない。

 

ミカエルが陣の上にまで移動し、俺は即座に詠唱にかかる。覚悟を決めたのか、静かに目を閉じて突っ立っている。ただそれだけの動作でも、背中にある三対六枚の翼が神々しく輝く。その姿には、最も神に近き天使。そんな言葉が似合いそうだ。

 

「先に言っておくが、痛みはない。一瞬で終わる」

 

「………」

 

もはや話す言葉はないのか、無言。それはそれでいいので、儀式を開始した。

ミカエルの身体は一瞬で分解される。霊的光子変換体である天使は構造が特殊なので、この魔術の式を創るのには苦労した。

 

時間を掛けて肉体を核に変化させ、精神と魔力をそれに吸収させるようにする。そうすることによって、完全に純粋な光の神核の出来上がりだ。

さて、次は……

 

「イオ。六体の天使(そいつら)をここに、バランスよく並べろ」

 

そう言って俺は新たな魔法陣を出す。さっきのは円形だが、今度のは六角形だ。

 

「はい、わかりました」

 

俺に言われた通りに動いて、几帳面に浮かばせて運んでいる。それぞれが魔法陣の線の上に置かれ、最後の一体が運ばれ終わった。陣の中心に、先程創った核を置く。すると天使の身体が分解され、六つの肉体と魔力と精神が一つの核に集まり、融合していく。

 

此処で言い訳をするが、俺は助けるなんて言ってない。俺は『助けたいと思うのなら』とは言ったが、『助けてやる』なんて一言も言ってない。

そう、『嘘は吐かない』。俺は確かにそう言った。だが実際、言わなかっただけで嘘は吐いてない。俺が助けると、あいつが勝手に勘違いしただけだからな。

 

「ありがとうな、イオ」

 

「礼を言われるまでのことはしていませんよ?」

 

「してくれたから礼を言ったんだよ、素直に受け取れ」

 

「わかりました」

 

イオに感謝の言葉を告げ、出来上がった神核を拾う。

 

「ゼアノス様、それは何に使うのですか? ミカエルにも教えていませんでしたが」

 

「こうするんだよ」

 

イオからの質問の答えの代わりとして、最近は出番が少ないブランシェとノワールを呼び出す。メタ? 気にしたら負けだ。

 

「どうしましたか? 主様」

 

「何か用?」

 

「あぁ。これを使って、お前らを強化する」

 

『これ』というのは、さっきの天使達で創った神核と、ずっと前から持っている七柱の魔王達の神核だ。

 

「お前ら、これ食え」

 

有無を言わせない口調で、ずいっと差し出す。

 

「……へ? あ、あの、主様?」

 

「あの、こんなグロいのはちょっと……」

 

『神核』。言葉だけ聞けば神聖な響きがあるが、言うなれば人間の心臓と同じようなもの。見た目もこの二つは特に心臓に似ている。

これを美味そうだと言って食べる奴はいないだろう。いたとしたら頭がおかしい奴か、食人嗜好(カニバリズム)だけだ。

 

「遠慮せんと食え! せいやっ!」

 

「「がふっ!」」

 

いつまで待っても食べなさそうなので、両手と双手を使って無理矢理食べさせる。

最も神に近い力を持つ魔王×7と天使×7。それを融合して創った神核を食えば、莫大な強化を望めるだろう。実際、原作でもアビ……アビ何とかって人間が、先祖のを食っていた気がしたし。

普通ならこんな強化方法は不可能だが、そこは俺の眷属。常識なんか通用しません。

 

途中経過は書くのがメンドイので、結果だけぶっちゃけることにする。それぞれに変化が起きた。当たり前だけど。

 

ブランシェの変化は一言で済む。熾天使になった。少なくとも見た目だけは。

ノワールもまた、今まで無かった黒い翼が生えた。しかも六枚。まるで、堕天した熾天使だ。それと、前々から考えていた魔導鎧を与えた。適当に遺跡探索していたら見つけた物だから、性能は知らない。

 

ま、ノワールとブランシェは見た目も似ているから、黒と白の熾天使と言った感じだろう。片方は堕天状態だけど。

 

そこで、二人に任務を与えた。

二人とも天使としては最高位なので、ノワールには堕天使の、ブランシェには天使達の頂点に立つように命令した。

 

原作にも何回か天使が出てきたから、その頂点が俺の眷属なら色々と面白そうだ。

熾天使は天使の序列の第一位。深凌の楔魔の序列とは違い、これは絶対的な順位。言うことを聞かない天使は、同列以外ではいないだろう。

 

堕天使にしても、強い者が指揮をとればある程度は従ってくれるだろう。ラーシェナやパイモンのように。だからまずは、その役をノワールにやってもらう事にする。

 

そんなこんなで楽しみがさらに増えた俺は、セアール地方という場所で過ごすことにした。理由? 直感だ。

 

これからどうなるのやら……楽しみでしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 


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