戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—決戦……の直前—

 

 

 

「……は? ディアーネ、今なんつった?」

 

「ゼフィラの馬鹿が封印された、と言ったのだ」

 

皆さん、おはこんにちばんは。ゼアノスです。

最近ラーシェナが敬語を使わなくなり、嬉しいと同時に悲しくなってきたゼアノスです。

いや、二人きりや一緒にいるのがパイモンだけなら敬語になるんだが、そこから口調を直すのに苦労しなくなったみたいだ。

 

しっかし、ゼフィラの奴は封印されちまったのか……ほとんど原作覚えてねえし、そのことも忘れてた。

 

「何故にあいつが封印されたんだ?」

 

「お前とラーシェナが任務でどこぞに出かけている際に、またしても戦があってだな。それ自体は我としても嬉しいのだが、エヴリーヌが独断で攻勢に出たせいで、拠点に籠っていた奴が逃げられずにやられた、ということだ」

 

……エヴリーヌ、お前か。

というか第二回戦、もう終わっちまったわけ? 兵力が少ない時に何やってんのさ。

 

しかし、いやいやスマンスマン。ラテンニールを調きょ……もとい懐柔するのに案外苦労したんだよ。おかげでラーシェナが暇そうでさ、ブランシェを呼んで模擬戦の相手にしてたんだ。あいつも剣で戦うのが主体だからな。

 

ラテンニールはどうなったかって? もち俺の使い魔になったよ。輪魔神喚石っていう、使い魔を呼び出す際に必要な召喚石も手に入れたしな。

これからも使い魔は増やすつもりだ。

 

「んで、そのエヴリーヌは?」

 

「先ほどラーシェナ、そしてカファルーと共に、迷宮を広げに行ったわ。ブレアードめ、今度こそあの忌々しい姫神を倒すらしい。それ関係だろう」

 

「あいつ自体は無事なわけね。……で、グラザ。お前は何の用だ?」

 

ここにいるのは、俺とディアーネだけではない。さっきからグラザもこの会話に参加している。まだ一回も口を開けてないが。

 

「なに、エヴリーヌ等のように、迷宮へ行く気はないかと思ってな。ゼフィラには悪いが、あいつのように封印されるのは御免だ。だから少しでも力を、とな。そこでお前を誘おうとしたら、ディアーネと途中で会っただけだ」

 

「ああ、そういうこと。……ゼフィラのこともあるし、気晴らしにもなるから俺は構わないけど。そうだ、お前も来ないか? ディアーネ」

 

「……ここにいても、我以外にいるのはザハーニウ、カフラマリア、パイモンだけ、か。……いいだろう、お前らと共に行った方が面白そうだ」

 

一応は決定。

 

というかこいつらを含め、深凌の楔魔って個性溢れてるよな。ザハーニウとラーシェナとパイモン。そして俺の四柱は、他所からブレアードに召喚された魔神だ。ところが他の六柱は、元々はブレアードに創られた魔神だと言うから驚きだ。

 

どのような方法を使ったのか定かではないが、魔神を創るというその知識と技術。もしかしたらあいつは、良くも悪くも創造神が唯一人間だけに与えし力、『運命を切り開く力』を開花させた人間の1人なのかもしれない。

 

話が逸れたが、同じ人間に創られたにも拘らず、性格が全く違うから面白い。人間でいう兄弟(姉妹)と、大して変わらないのかもしれない。

……ディアーネとゼフィラは仲が悪すぎだったが。

 

 

 

ということで俺らは今、雷嵐(らいらん)闇堂(あんどう)という大回廊にいる。

ここはブレアード迷宮や、海雪(かいせつ)の間という迷宮に繋がる回廊、そしてヴェルニアの楼を結んでいる大回廊である。

その構造は城のそれに近い。むしろ城の地下だと言われれば、信じられるほどの出来だ。

ここは様々な場所と繋がっているので便利なのだが、面倒なことに、ここでは数多くの魔族が棲み付いている。もちろん俺らの傘下ではない魔族だ。

 

「……こんな有象無象だろうと、暇潰しにはなる、か」

 

そんなディアーネの呟きを置いて、グラザが駆ける。ディアーネはそれに続き、俺は後ろでサポート。よく見る光景だ。

一番多いのは、俺とラーシェナとパイモンだけどな。

 

「……だがこれならば、ブレアードの命令を受けていた方が幾分かマシだぞ。つまらぬ」

 

「文句を垂れるな。ならば直々に言ってこい」

 

おぉ、ポケーっとしてたらいつの間にか終わってた。

というかディアーネだけじゃなくてグラザもかなりイラついてない? どうした?

って、あーあー、何か戦い始めた。あれ、喧嘩ってことでいいのか?

 

……タイミングよくブレアードから心話が来たし。つーかあいつら、心話に気が付いてねぇ。どうしよう。

 

1、今から声に出して教える。

2、戦いを中断させてから教える。

3、俺も戦いに参加する。

 

3は無いな。というかそれはおかしい。

となると俺の答えは………

 

……。

 

「4、知らぬ振りをして俺だけで帰る」

 

これだな。これしかないだろ。

歪の回廊で転移。あいつらがいつまで戦うのかは知らんが、どちらも原作に出てきた気がするし、大丈夫だろ。

……あれ、どっちも出てたっけ? 少し不安。

 

 

 

—————————————☆

 

 

 

ここは地下100階まである火炎の迷宮、野望の間。ブレアードが二番目によくいる場所でもある。一番いるのはヴェルニアの楼。

 

「こんな場所に呼び出して、何の用だ?」

 

「貴様に命じた宮殿と我の接続に関することだ。あの宮殿は目立ち過ぎる故に、いつか必ず姫神に気付かれる。そうなる前にあの宮殿を再び海の中へ戻せ。我との魔力の接続は維持したままでな」

 

「随分と面倒なことを。……この水晶か?」

 

玉座のような椅子に座り、淡々と俺に命令してくる。いやはや、誰かに命令されるのは別にどうでもいいが、ここまで高圧的だとさすがにイライラする。

というか、今まで気が付かれていないというのに驚きだ。

 

水晶とは、その玉座の近くにある柱の上に置かれている物だ。どうやらブレアードは、この水晶を使って宮殿の魔力を供給しているらしい。

 

「その通りだ。決戦の日は近いが、勝つ確率を上げるためだ。早急にやれ」

 

「了解だ」

 

この戦争も、もう少しで終わりを迎える。

一回戦目は敗退し、二回戦目はいい所まで行ったものの、ゼフィラが封印された。そして、今度は第三回戦。

二度あることは三度ある、になるか、三度目の正直になるか。それは誰にもわからない。

……俺は知ってるけど。

 

で、そんな任務も終わって現在。

 

「それでは、宮殿はまたしても海中へ?」

 

「そうだ。ブレアードによれば、姫神フェミリンスに気が付かれる前に対処しておきたかったらしい。その判断は間違ってはいないと思うが、折角俺が浮上させたのにさ、まったく。……んで、あの馬鹿共は見つかったのか? ラーシェナ、パイモン」

 

「……それが、まだ見つかりません。カファルーも配下の魔獣と共に探しているようなのですが、未だ何も発展がありません」

 

「あはは、私もそれは同じです。一向に見当たりません。人間に倒された、というのは無いと思いますが……本当にどうしたのでしょうね、グラザさんとディアーネさんは」

 

グラザとディアーネ。そう、俺があそこに置いて行った魔神×2が、現在行方不明となっている。もう少し経ったら決戦だというのに、あいつらはあれ以来、姿を見せるどころか気配すらない。

迷子なんてありえないし、まさか今もずっと喧嘩しているのか、とすら思ってしまう。というか何も音沙汰ないので、実際にどうしているのかなんてわからないが。

 

「はぁ……」

 

「そ、そのゼアノス様。仲の良かった者が同時にいなくなり、落ち込んでしまうのもわかりますが……」

 

「ん、ああ大丈夫だ。落ち込んではいない。……一応、心配はしているけどな」

 

ラーシェナの言った通り、俺は特にあいつらとは(すこぶ)る仲が良かった。

グラザでいえば、男同士ならば初の親友だと言っても過言ではないと思う。ディアーネとも、結構仲がよかったりする。

 

「これであいつら、今までずっと殺し合い(ケンカ)してた、なんて言いやがったらどうしてくれようか」

 

「それは……ないと思いますけどね。ディアーネさんとゼフィラさんなら在り得ますが、あの剛毅なグラザさんがそのような行動に出るとは」

 

「我もパイモンに同意です。グラザは芯のある男。ディアーネが下手に挑発しても、それに乗るとは思えませぬ」

 

いや、むしろあの時はグラザが挑発したような……あ“〜

 

「そうかもしれないが、一応それも考慮しておいてほしい。あいつらが暴れたとなると被害は甚大だ。戦争にも悪影響になりかねない」

 

「はっ。了解です」

 

「かしこまりました」

 

なんかこうしてると、本当にこいつらが俺の部下みたいになっているよな? 実際は違う……はず。

 

— コツン、コツン —

 

と、誰かが近づいてくる気配。

敵意はないので、今まで特に気にしてなかったが……

 

「あ、お兄ちゃん見つけた」

 

「ん? エヴリーヌだったのか、どうした?」

 

トテトテと歩みながらこちらに来たのは、俺の妹分と言ってもいい唯一の魔神、エヴリーヌ。戦いの時と今を比べると、それこそ天と地ほどの差がある。戦ってる時は、そんな歩き方などせず、鋭く、そして素早く縦横無尽に動いて相手を翻弄している。

このトテトテ歩きが見れるのは、俺とラーシェナとパイモン、そしてザハーニウ限定だ。

 

エヴリーヌから言わせれば、

俺→お兄ちゃん

ラーシェナ→呼び捨てだけどお姉ちゃん的存在

パイモン→もう一人のお兄ちゃん

ザハーニウ→お爺ちゃん

らしい。

ラーシェナも、エヴリーヌのことを妹のように思っているようだし、互いに良好な関係と言えるだろう。

 

ん? 年齢的に考えると……

祖父=ザハーニウ

長兄=パイモン

長女=ラーシェナ

次男=俺

次女=エヴリーヌ

になるな、面白い。

 

……今考えると、俺って年上に様付けで呼ばれてるんだな。

 

それにしても、見事に全員召喚された魔神だ。ブレアードに創られた魔神が、この中に誰もいない。むしろ召喚された魔神全員がここにいる。あれか、年の差か?

とはいえ、こいつらも被創造種。つまり創られた側だが、生まれてから最低百年は経過しているはずだ。さもなければ、こんなに早く戦いに対応できるわけがない。

 

「なんか、(じじい)が呼んでる。ラーシェナとパイモンお兄ちゃんも」

 

ちなみに、『爺=ブレアード』である。どうやら見た目からこの渾名が決まったらしい。

同じ文字を使っているが、ザハーニウは『お爺ちゃん』。ブレアードは『爺』。実際に孫にそう言われたら、祖父にあたる者は相当ショックを受けるだろう。

 

哀れ。昔はブレアードも、見た目(・・・)は好青年だったろうに。……性格? 知るか。

 

「ふむ、ブレアードが我らを呼んでいる、と。もしや、またしても戦か?」

 

「まあ、彼が我々を召集するとなれば、内容は大体そのようなものでしょう」

 

そして堕天使達も、その呼び方で誰のことなのかわかってしまう。というか深凌の楔魔の皆に通用してしまうから不思議だ。明らかに俺達の方がブレアードよりも年上なのに。

 

 

 

そしてヴェルニアの楼の最奥へ言ってみると、封印されたゼフィラ。行方不明のグラザとディアーネ。そいつらを探しに行ったカファルー。この四柱以外が集まった。

 

「……何で魔神が五分の三しかいないんだよ」

 

「ゼアノスさん、それはですね「理解してるから言わなくていい」……わかりました」

 

深凌の楔魔として、ラーシェナが俺に敬語を使わずに話をするように、パイモンは俺のことを『ゼアノスさん』と呼んでいる。理由はラーシェナと同じだ。ただこいつは誰にでも敬語だから、ここまで譲歩してもらった。

 

「それで、これから儂らはどうすれば?」

 

ザハーニウがブレアードに問う。

 

「今までと変わりない。迷宮を駆使し、姫神とその下におる天使を蹂躙するまで。……いくつか魔神が減ったようだが、それは神の墓場より生まれしこいつらで補充できるだろう。我が迷宮もさらに広大となり、勝てる要素は充分ある。そして終いには、あの力をも我が物に……!」

 

人間を優遇し、庇護し、溺愛し、魔族を虐げた姫神フェミリンス。そんな女神を嘆いた、時空の女神エリュア。その嘆きの声を聞き、闇夜の眷属を創り上げし者。それが大魔術師、もしくは魔人ブレアードと呼ばれる、今俺の目の前にいる元人間。

 

憶測に過ぎないが、かつては『闇夜の眷属(魔族)を救いたい』。恐らくそれだけの思いでいたのだろう。

だが闇の神の力を借り、授かり、貰い、彼は変わっていった。

彼の願いが、『闇夜の眷属(魔族)を虐げる者への反逆』から『人から神へ』というものに変容したのだ。その、人間には出来過ぎた力に溺れて。

 

だが俺はそれを非難するつもりはない。哀れむつもりもない。所詮それはそいつの人生なのだから、それを馬鹿にするのは、本人以外はしてはいけない。

たとえ願いが変容しようとも、彼は自分のやり方で、自分の考えでここまできたのだから、褒めはしても非難はしない。

 

どんなに卑怯でも、どんなに外道であっても、自分の道を自分で決め、その道を進もうと努力している奴は好感が持てる。道の先に、誰かの破滅があろうとも。

 

だから俺は凶腕ではなく、深凌の楔魔としてここにいる。

 

しかし凶腕としてはフェミリンスとは戦いたくない。『彼女』との約束があるわけだし。

 

さて、とうとう最終決戦の始まりだ。どうしようか……?

 

 

 

 

 

 


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