戦女神~転生せし凶腕の魔神   作:暁の魔

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—凶腕と堕天使と輪廻神—

 

 

 

ブレアードの命令で、俺はベルゼビュート宮殿に来た。それと同時に溺れかけるというとてもマヌケなことをしたのは誰にも教えるつもりはない。

いや〜、水圧が凄かったわ。こりゃ人間なら死んでたね。海の中だということはわかってたのに、頭から抜けていた。まずは空中に浮かばせないとな。

 

「今なら誰も見てねえし、『腕』を使っても問題ないよな……?」

 

ということで、

 

―― モンスターカード、『凶腕のゼアノス』の効果発動!

フィールド魔法『沈没のベルゼビュート宮殿』を破壊して、『浮遊せしベルゼビュート宮殿』をセット!

さらに『大魔術師ブレアード』に魔法(マジック)カード、『魔力供給接続(マジカルコネクション)』を装備!

これにより、『大魔術師ブレアード』の効果発動!

『大魔術師ブレアード』と『浮遊せしベルゼビュート宮殿』がフィールド状に存在する限り、『多種の合成魔獣』及び『神の墓場の怪物』を、一ターンにそれぞれ一体ずつ特殊召喚できる! ――

 

よし、任務完了。

ふぅ、満足満足。

 

 

 

 

 

………………………………………………。

 

 

 

 

 

鬱だ。

 

「はぁ。俺、生きる価値が無ぇ……」

 

「突然何を仰っているのですか? このような大業(たいぎょう)を、御一人で成し遂げたというのに」

 

「……パイモン、何でいるんだ? それにラーシェナも」

 

俺が鬱っていると、パイモンとラーシェナが転移してきた。

ブレアードには、宮殿は海中にあると教えたからパイモンが来るのはわかる。浮上させるための魔術とか知ってそうだし。でもラーシェナがいる意味が分からん。

 

「私はゼアノス様の手伝いをするよう命令されたので来たのですが……必要なさそうですね。ラーシェナさんはゼアノス様に用があるそうです、詳しくは聞いていないので知りませんが。……私は先にヴェルニアの楼へ帰還します。ここにいても意味がなさそうなので」

 

一方的にそこまで言うと、闇に溶けるように消えていった。いつもの転移だ。

……というか、もう少しは俺にも何か喋らせろよ。

 

「それでお前は何の用だ、ラーシェナ?」

 

「ここならば、誰にも邪魔されずにゼアノスさm……ゼアノスと一対一で戦えると思ってな。我がどれだけ強くなったのか、早速見てほしい」

 

ここに来る直前に言ったあのことか。結構気が早いんだな、ラーシェナって。

つーかやっぱあれだな、わざわざ名前を言い直してさ、めっさ可愛いわ。

 

「そうだな……でもまずその前に、久しぶりなんだからここを散策しようぜ?」

 

「……そうですね」

 

「おい、口調」

 

「いえ。ここにいる間、我は深凌の楔魔としてではなく、貴方様に憧れた一柱の魔神です。ここは我にとって思い出深い場所ですから、大目に見てはくれませぬか?」

 

そう言われるとかなり気恥ずかしいんだよなぁ。だから様を付けられるのも嫌だったわけだし。でも、そこまで真剣に言われると断りにくい。

 

「わかった。ただ、これが終わったらその口調は……」

 

「重々承知しております。ですが」

 

「慌てるな、わかってるならいい。それにしばらくしたら、軽い模擬戦でもしてやる」

 

「はっ! よろしくお願いします!」

 

この会話の直後、俺らは隅々までこの宮殿にかつての生き残りがいないか調べた。親しくなった奴らはいなかったが、魔王達の部下らしき魔族を見つけた。

 

主に上級悪魔のグレーターデーモンや、火を吐く三つ首の蛇であるフレイムヒドラ。人狼という言葉が相応しいヴェアヴォルフ。スゥーティーという種類の褐色の睡魔族や、キマイラの上位種であるグロウ・キマイラなどがいた。

 

どうやら、宮殿が沈む頃は死ぬ直前だったそうだ。だが海に入って周りからの脅威もなくなり、徐々に体力をつけていったらしい。

俺、結構探したと思うんだけどなぁ。あの時はなんで見つからなかったんだろ。

 

それと他には、どこから来たのか悪霊が大勢いた。

オウスト内海付近には、亡霊が大量に(たたず)んでいる海峡があった。おそらくそこから流れ着いたのだろうが、特に気にしない。俺に逆らう気はなさそうだし。

 

そして、現在は最深部。すなわち玉座の間に、俺達はいる。

 

「……懐かしいな。初めてここに来たとき、ベルゼブブと戦ったんだっけ」

 

「そのようですね。そしてそれからは、ルシファー様やサタン様。全ての魔王様方とも戦い、ゼアノス様は勝利。一対七という不利な状況においてもそれは変わらず、勝利を収めました。我は、貴方様のその強さに憧れていました。無論、それは今も変わりありません」

 

その声に振り向けば、はっきりと、まるで臣下のような態度をとりながら俺にそう言ってくるラーシェナ。その目は相も変わらず綺麗で、嘘偽りのないことがわかる。これは、彼女の本心なのだろう。

 

「パイモンが言ったことですが、我も同意したことが一つございます。……ゼアノス様。この戦争が終わり次第、どうか、我らが王になってはいただけませんか?」

 

「……王?」

 

「はっ。……今この世は現神により、闇夜の眷属にとって非常に生きにくいものとなってしまいました。ですから、それを導く御方が必要なのです」

 

それは確か、原作でも言ってたな。……イレギュラーである俺がいるせいなのか、王を求める態勢が少しばかり早い気がする。

 

闇夜の眷属というのは、簡単に言えば魔族のことだ。ただし、他の魔族と比べて理知的であったり、秩序を重んじていたりしているのが特徴だ。

闇夜の眷属を名乗っている者にとっては、魔族という言葉は蔑称にあたるらしい。俺はその辺を全く気にしないからわからないけど。

 

「だったらブレアードにでも頼め。あいつならやってくれるだろう。何せ、今まさにそのことで戦争をしているのだからな。それに、俺は王になるつもりはない。……少なくとも今はな」

 

「あの魔術師より、我はゼアノス様の方が明らかに向いておられると思うのですが……了解しました。気が向いたらお教えください。我等にとって新しく主となる御方は、貴方様以外は考えられませぬので」

 

「……考えておく」

 

王、か。

さっき言った通り、今はなるつもりはない。だが、原作が終わった後……もしくは、ある程度進んだあたりなら、なってもいいかもしれない。俺をこのように慕ってくれる者がいるのなら。

 

……単に俺が乗せられてるだけか? いや、パイモンならまだしも、ラーシェナがそんなことをするとは思えないな……。

 

「はい、今は考えてくださるだけでも僥倖です」

 

心底ほっとしたような、安心したような顔。俺が完全に断ったわけではないので、脈はあると思ったのだろう。

 

……まぁいい。

 

「突然で悪いが、その話は終わりでいいか? 終わりなら……」

 

言葉を切り、双大剣を出現させる。

 

「終わりなら、そろそろ稽古をつけてやる」

 

「っ! はっ!」

 

驚きはしたものの、即座に柄に手を置いて抜刀の構えを取るラーシェナ。かつて俺が居合を教えてから使っているようだが、中々に早い。

彼女の剣は片側にしか刃がなく、切れ味をよくするために反りがついている。剣と言うよりは、刀と言った方が正しい形状だ。

 

刀ならば普通は柔剣のはずだが、意外にも彼女が扱うのは剛の剣だ。まあ、刀以外にも大剣を使う時もあるみたいだし、そっちの方がやりやすいのかもな。

 

「ラーシェナ。それではなく、本来のお前の得意な構えを取れ。確か……【十六夜剣舞】と言ったか?」

 

「覚えていてくださったのですか? ……光栄の極みです」

 

「んな大げさな……まあいい。来い」

 

「……はっ!」

 

返事と同時に頷き、剣を横に()いだ。

 

— 十六夜“斬” —

 

横一直線を薙ぎ払う、豪快な斬撃。

だが所詮は直線なので、攻撃を防ぐのは簡単だ。剣を盾代わりにして受け止める。

 

— 十六夜“突” —

 

防がれたのを見て、瞬時に攻撃手段を変えた。それは良い。だがこの技は、縦一閃を貫き通す精密な突撃技だ。受け止めるまでもなく、横にずれればいいだけ。

 

— 十六夜“破” —

 

縦に攻めて来る斬撃を横に避けた俺を見、ラーシェナが次に放ったのは、一点集中で繰り返し斬撃を放つ技だった。一ヶ所に無数の斬撃が放たれる。

手加減のためにリミッターを付けている今の俺では、回避するには間に合わない。かといって受け止められる自信もない。

 

だが、問題ない。

回避も守りもできないのなら、相殺すればいい

 

— フルブラッシュ —

 

かつて三神戦争の際、マーズテリアに向けて放った斬撃とはまた違った技。

具体的に言えば以前のブラッシュよりも、飛距離・威力が増加した技だ。

 

あの時はリミッターなど付けていなかったので、今の方が威力は低い。だが、それでも相殺するには充分だったようだ。

ラーシェナと俺の技がぶつかり合い、その衝撃で軽い余波が生まれる。

 

「手加減をしてるとはいえ、俺の攻撃と同等か……強くなったな」

 

「それは恐悦至極です。……はぁっ!」

 

無駄な会話は直ぐに終わり、再開される剣劇。

 

今度は互いに技は使わず、純粋な剣での打ち合い。

俺の柔とラーシェナの剛。場合によっては先程の技のように、俺はこれに剛剣を加えることも出来る。だが今は思いっ切り柔剣の気分だったのでそうした。

 

ガキン! キン! と、金属同士でぶつかった音が響く。それは永遠に続くかと思われるほど綺麗な音だが、それでも終わりは必ず来るものだった。

 

俺はラーシェナの剣を弾き、首に剣を置く。

 

「やはり、お強い。我が手も足も出ないとは……自分では、強くなったと思っていたのですが」

 

「お前は強くなったさ。それに俺らは互いに飛んでないし、魔術も使ってないからな。戦略の幅をもう少し上げとけ。俺が使ってないからといって、お前がそれに合わせる必要はない」

 

ちなみに、俺がこの模擬戦を止めたのには理由がある。打ち合っていた最中に、気配を感じたからだ。突然この宮殿に、魔神のような気配が。

 

「ゼアノス様、これは……?」

 

「気付いたか? ああ、これは……はぐれ魔神、だな」

 

はぐれ魔神。それは秩序など関係なく、自分の思うがままに、まるで獣のように世界を徘徊している魔神達のことだ。

決してド○クエに登場する、溶けかけているメタルっぽいスライムの一種ではない。

 

そう考えると俺ってつい最近まで、はぐれ化してなかったか?

 

「まったく、一体どんな馬鹿だ? こんなところに来るの……は……」

 

「ゼアノス様?」

 

この部屋に来たはぐれ魔神を見て、ついつい言葉を失ってしまう俺。

しかたないだろう、だって、こいつは……

 

「ゼアノス様? 先程から如何なさいましたか?」

 

俺を気遣ってくれるラーシェナ。だが今はそれよりも、目の前にいるこいつ。

肌が青く、銀色っぽい白色の長い髪。目元には貴族が付けてそうな、目を隠す形をした金色の仮面。下半身の大半は触手であり、足が見えないほどに覆っている。

 

それは神核が破壊されようが、時間が経てば蘇る能力を持つ魔神、ラテンニール。

別名『輪廻神』。何度殺しても蘇るその様から、そう名付けられた。

ある意味、どの神よりも神らしい能力だ。

 

「俺の……」

 

長年追い求めていたその魔神が今、俺の目の前に!

はは、この急展開! 運命の女神がいるのならば祈ってもいいぞ! それがたとえ現神だろうとな!

 

「俺の使い魔になれやぁぁぁあああ!!!!!!!」

 

ラーシェナが困惑しているのも知らず、勢いよく斬りつける。無論、死なない程度に。

瀕死の状態になるように。そして回復させ、またしても斬る。

 

斬って回復して斬って回復して斬って回復を何度も繰り返す。

 

「………ゼア、ノス……様」

 

周囲の魔族に命令し、(なぶ)る。

俺が下がればそいつらが攻撃し、俺が前に出ればそいつらが下がる。

 

「ふはははははははは! 粉砕! 玉砕!! 大喝采!!!」

 

粉砕と玉砕は今俺がしていることそのもの。大喝采は周囲にいる魔族の声。

約一名の堕天使がポツンと立っているが、それは気にしない。俺のすべき事は、ラテンニール(こいつ)を肉体的にも精神的にも負けを認めさせることだ。

 

現神ですら完全に殺せないことから、精神力は魔神の中でも最上だろう。何度も殺されているのにもかかわらず、人を襲っているのだから。

 

つまり、殺されることに慣れているということだ(たぶん)。だから、必要以上に力の差を教えなければ意味がない。自分から服従するようにしなければだめだ。

その為に、もっと、もっとだぁぁああ!!

 

 

 

Side・第三者

 

 

 

それから数時間後。魔族の攻撃が弱いので不参加にし、ゼアノスは一人で嬲り続けた。

内海付近に住む村人の話によれば、海の奥からは女の悲鳴のような音が聞こえ、しばらくしてから止み、その後どうなったのかは誰も知らないとのこと。

 

ゼアノスと一緒にいた女の堕天使は、

 

「あの御方の、あのような姿は見たくなかった」

 

と言ったが、それを聞いた堕天使仲間(パイモン)はより一層、かの者に自らの闇の王になって欲しくなったらしい。

 

ちなみに、

 

「あのことは反省してないし、後悔もしていない」(キリッ

 

というのは、それをやらかした本人の談である。

 

そしてその後、深凌の楔魔として行動している際、ラーシェナからの敬語が一気に無くなったというのは、割とどうでもいい余談である。

 

 

 

 

 


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